清廉たるティタニエラ・第二話④ 強制転移
「チッ――――!」
何が起こるのか、その魔力の気配で察知した総司の左目に、時計の文字盤のような模様が浮かぶ。
誇り高き国ルディラントで授かった無敵の護り“ルディラント・リスティリオス”。ルディラント王ランセムが、“オリジン”の力を用いて発動した千年の神秘を内包する魔法すらも消し去った反逆の輝き。転移の魔法も消し去るのは容易い。
だが、リシアがばっと手を挙げてその挙動を押さえた。
「なん――――!」
「お前の左目で消し去れる魔法がこれ一つで済むかわからないんだ……! 首都ディフェーレスは何らかの魔力によって浮いている、下手をすれば『下』の民の上に街が落ちる!」
「でもよ!」
「ここで残ったところで、話は平行線だ……情けない話だが、いったん国へ戻ろう……」
「くそっ……! 何が礼儀だ、形だけにも足りてねえ!」
総司が叫ぶと、フロルはまた下らなさそうに彼を一瞥し、首を振る。
「あなたと私は相当、そりが合わぬようです。二度と会わぬことを祈っていますよ、詐欺師殿」
カラン、と。
何かが床に落ち、転がった。
総司とリシアの目が――――フロルとクレアの目が、音の鳴る方向を追いかけた。
総司とリシアも含めて、そこにいる全員が見覚えのある耳飾りである。十字架型の、耳飾り。
「ぎゃあああ! あたしのお宝がぁぁぁ!!」
「おい馬鹿やめろ何を考えているんだスティンゴルドォ!!」
クレアが手を伸ばすのも遅かった。既に発動した魔法の陣の上に、転がった耳飾りを追いかけてベルが飛び込む。
十字架の耳飾りを見事にキャッチし、ずざーっとベルが滑り込んだのは、総司とリシアの足元。
総司の反応は早かった。ベルの腕を掴んで、クレアのところへ放り投げようとぐいっと助け起こし――――その動きが、止まる。ベルの小さな声によって、止められる。
「待った。このまま」
「ッ……お前ッ……!」
転移魔法の準備が完了し、礼拝の間が淡い光に包まれる。眩い輝きが礼拝の間を満たし、一瞬の間が開いて――――総司とリシア、そしてベルの体が、礼拝の間から消え失せた。
沈黙が広がった。あまりにも静かで、あまりにも間抜けな沈黙が。
「……クレア」
「ハッ」
クレアの体が強張った。呆れと怒りとあきらめが入り混じるフロルの声が、ずっしりと体の芯から響いてくるような感覚。近衛騎士としてそれなりに修羅場をくぐっているクレアが震え上がった。
「五分で親書を書きますので、レブレーベント王家へあなた手ずから届けていただけますか」
「仰せのままに」
「礼を欠かぬようお願いしますね。それと……多少は、もてなしの準備を」
「……ハッ……」
「ベルを返してもらおうと思えば……場を設けぬわけには、いかなくなるでしょうから」
「……その……不始末の罰は……」
「もちろん受けてもらいます、ベルにね。……今度はお説教では済ませません。そろそろ……甘やかすのもやめにしなければ……」
ベルが戻ってきたら、一体どんな悲劇が待っているのか。それを想うと、クレアは自分が責められているわけでもないのに、身震いする思いだった。