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リスティリア救世譚  作者: ともざわ きよあき
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清廉たるティタニエラ・第一話② 王女の手紙

 カイオディウム首都・ディフェーレス。


 壮大なる聖都にして、女神教の総本山たるかの街は、かなり離れた丘から眺めてもあまりにも巨大で、凄まじい威容を誇っていた。


 点々とする村の間、どこまでも広がっているような錯覚を受ける大草原の最中で首都を見やり、総司とリシアはほとんど同時にため息をつく。


「最悪の場合は、アレから盗んで、逃げるってか。おー、きっついぞこれは」


 山一つが空に浮かんでいるかのようなディフェーレスの迫力は、総司とリシアの心を早くも折りそうである。盗みは最後の手段だとしても、そもそもそれが成功するのかも怪しい。


 大聖堂デミエル・ダリアだけでも、中を駆け回るだけで相当な時間を要する。周囲に浮かぶ衛星のような都市まで含めたら何日かかるやらわかったものではない。しかもそれらの都市と大聖堂は、他国の者が自由に出入りできるような警備状況ではないと来た。


「久々に見たが……こんなに大きかったのか……」

「おい」


 総司とリシアが何とも言えない表情で顔を見合わせ、途方に暮れていると、大きな鳥が一声鳴いた。


 リシアがぱっと見上げるが少し遅かった。大きな鳥は低空飛行に入り、凄まじい速度で総司の顔に、平べったい何かを叩きつけた。ただの鳥と思って油断していた総司はしっかりと顔面で受け止めることとなる。


「いたぁい!」

「レブレーベントの……?」


 総司の顔に叩きつけられたのは、レブレーベントの紋章で封が押された便箋だった。リシアが手に取り、封を開けると、そこにはアレインからの返書が入っていた。


「アレイン様からだ!」

「……マジで?」


 リシアが送った手紙に対する返書だろうとは予想がついたが、まさかアレインから送られてくるとは思わず、総司が驚愕する。リシアは便箋を開き、読み上げた。


 アレインらしい、冒頭のあいさつも何もない、淡々とした内容だった。


『リシアへ

 まず、騎士団の除籍については却下。そもそも首都ディフェーレスに入る時にレブレーベント魔法騎士団の称号が役立つでしょうし、無かったら入れもしない可能性がある。もっと落ち着いて考えなさい。冷静に見えて割と直情的なところは、あなたの良いところでもあり悪いところでもある。利用できるものは全て利用する狡猾さを持ちなさい。国へ戻ったら私がそのあたりのことを叩き込んであげるから、覚悟するように』


リシアは自分の愚かさ加減に嫌気が差した。全くもってアレインの言う通りで、単なる旅人が簡単にこの大地から上へあがれるほど、カイオディウムの体制は簡単ではない。


 アレインはリシアのことなどお見通しというわけだ。


『持ち得る全てを使って、最大限の努力をして、それでもあなたがそうするしかないと判断したのならその時は、やるべきことをやりなさい。ただし、決めたのなら躊躇ってはダメ。レブレーベントがどうとか、余計な気は回さないように。それと隣にいる馬鹿に裏を読ませて』


「……申し訳ありません、アレイン様……むしろあなたに、余計な気を遣わせてしまいました……」


 リシアは一瞬、ぎゅっと目を閉じ、今は遠きシルヴェンスの主君を想う。たとえ悪行に手を染めてでもオリジンを手に入れる、その決意を固めていても、生真面目なリシアは心のどこかに引っかかるものを感じているだろうと、アレインは見透かしていたのだ。心根は優しく、しかし甘いわけではなく、そして素直でもない。しかし確かにアレインは、自分の部下でもあるリシアのことをちゃんと考えている。


 リシアはちらっと裏面を見てみた。総司が怒りかねない、アレインらしいが辛辣な文章がもし書いてあったら、総司をなだめる準備をしなければと思ったからだ。


 しかしリシアは首を傾げることになる。リシアの目には、裏面には何も書いていないように見えるからだ。


「裏面はお前宛だそうだが……何も書いていない」

「俺に? アイツが? それこそマジかよって」


 総司にとってはあり得ないと思っていた、アレインから総司に宛てたメッセージがあるらしく、総司は便箋を受け取る。リシアに宛てた文章は総司にも読むことが出来た。その最後の文言通り、便箋の裏を見てみると、総司には確かに、総司に宛てた文章が見えた。


 アレインは魔法道具を使って、「読ませようと思う相手にしか読めない」文章として、総司へのメッセージを書き記したのだ。リシアに宛てた文章とは比較にならない、短い文章だった。


『騎士見習いへ

 死力を尽くしてリシアを護れ。ついでにお前も死ぬな。以上』


「……了解だ、ボス。改めて言われるまでもねえ」

「何と書いてあるんだ?」

「死ぬなってさ」


 総司は苦笑して、手紙をリシアに渡す。リシアは腰のポーチへ大事そうに手紙をしまった。


「俺達はどうやら、レブレーベント騎士団を離れることは出来ないらしい。多分死ぬまでな」

「不服か?」

「まさか」


 厳然と佇むディフェーレスを前に、総司は決然と言った。


「レブレーベントもルディラントも、素晴らしい国だった。カイオディウムだってそうかもしれない。まだ何も知らないんだから」

「そうだな。ひとまずは王家へ向かう。そちらへは、ビスティーク宰相閣下の書状が届いているはずだ」

「多少はマシになるかね? 王様が味方してくれれば」

「そうなるように祈るしかないな」


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