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リスティリア救世譚  作者: ともざわ きよあき
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清廉たるティタニエラ・序章④ 未だ知らぬ相棒

「……リシアは、カイオディウムの情勢にやたらと詳しいな?」


 総司は鋭く言った。リシアの顔がこわばる。


「騎士団長として他国と多少のかかわりがあったからか? それだけじゃない気がするんだが」

「……それは……」

「ヘイ、隠し事はなしだぜ。さもなきゃ俺はお前のことをお嬢さんって呼ぶぞ、これから」

「むっ……」


 総司がおどけた口調で言うと、リシアが眉根を寄せた。軽薄で飄々としているが、キメる時はそれなりにキメる男がかつてリシアを指してそう呼んだ、リシアの嫌いな呼び方。リシアは「それはごめんだな」と苦笑する。


 一度目は、レブレーベントの田舎町、総司にとっての始まりの街シエルダで総司が誓った。そして二度目、ルディラントで互いに確認した。総司とリシアは隠し事をしないという、単純だが実は難しい取り決めだ。リシアはふーっと息をつくと、


「隠していたわけではないが、聞かれたからには答えなければ」

「おう」

「私はレブレーベントの出身ではない。出生の地はカイオディウム、一般信徒の村の出だ」


 総司がガタン、と態勢を崩した。


「……マジで?」

「幼少の頃レブレーベントに移った。幼少期をメルズベルムで過ごし、そののち、女王陛下に拾っていただいたんだ」

「思えば、俺はお前のこと何も知らねえなぁ……」


 総司がしみじみと言う。リシアのことは心から信頼しているが、身の上話をしたことがあるのは総司だけ。当たり前の情報を今の今まで知ろうともしていなかった。


 逆を言えば、この世界に来てから実際に見たリシアの行動だけで、総司は驚くほどの信頼をリシアに寄せていることになる。それだけの価値を、リシアは常に示し続けてきたのだ。


「語る機会もそうなかったしな。カイオディウムは上位の聖職者と一般信徒の間で貧富の格差が激しい。それ故に暴動もたびたび起こるが、教団の要する聖騎士団にはとても勝てない……我が両親は、その暴動に巻き込まれて死んだんだ」

「そこまででいい」


 総司が慌てて言った。だがリシアは笑顔で首を振った。


「遠い昔のことだ、気を遣わず聞いてくれ。私はその事件がきっかけでカイオディウムの在り方に従えなくなり、幼い身で出奔した。当時からそれなりに魔法は使えたのでな、何とかメルズベルムに辿り着き、しばらくそこで暮らした。数年が経ち、傀儡の賢者マキナ様の助言もあって、レブレーベントの騎士として奉公することになったんだ」


 ルディラントに行く前、レブレーベント最西端の街メルズベルムで、二人は何でも知っている傀儡の賢者・マキナと邂逅し、総司の旅路に関する助言を受けた。


 あの時、リシアはマキナと会うのが二度目だったらしく、マキナもそれを覚えていた。リシアはメルズベルムで育ち、その時にマキナと会っていたのだ。


「でも、カイオディウムにいたのは小さい頃の話なんだろ?」

「十年ほど前になる」

「だって言うのによく覚えてるな……」

「それほど強烈な印象だったからだ」


 リシアが言う。


「フロル・ウェルゼミット枢機卿は確かに二十代半ば……非常にお若いが、十年前も既に枢機卿の地位にいらっしゃった」

「15かそこらの年齢でもう最高峰の権力者だったってのか!?」

「そうだ。あの御方もアレイン様と同じように時代の傑物。あの冷たい目、一度見たら忘れられん」

「……十年の時を経て、丸くなってたりは?」

「女王陛下やビスティーク宰相閣下の話を小耳にはさんだ限りでは、むしろ逆だな」

「マジかよ……」


 まだ首都近辺に辿り着いてすらいないのだが、総司は今から、首都ディフェーレスに行くのが嫌になってきた。


 一筋縄ではいかない、それは間違いない。ルディラント王ランセムの助言に相違なし、恐らくこれまでの二か国とは別種の大変さが待ち構えている。


 かと言って盗み出すとか、力で制圧して奪い取るというのは、総司としても何とかして避けたい結末だ。良心の呵責に苛まれることになるのはまず間違いない。


それに枢機卿が他国嫌いであったとしても、王家を窓口として他国との交流を続けており、完全にそのつながりが断ち切られているわけではないのだ。


 カイオディウムを除き、残る三か国――――一切の接触を断つティタニエラはまた別として、エメリフィムとローグタリアに「指名手配」の触れでも出されてしまったら、それは総司の旅路にとって大きなマイナスである。良心の呵責も併せて、総司はその結末に耐えられない気がしてならない。


「まあ、挑戦する前から諦めるのもな」

「……もちろん、交渉は行う。あいさつ代わりに突撃するような真似はせんよ」


 それから、リシアは思い出したように言った。


「そういえば、メルズベルムで手紙を出しておいたんだ」

「手紙?」

「女王陛下に。レブレーベントには迷惑をかけるかもしれないから、私とお前を騎士団から除籍するようにお願い申し上げた」

「なるほどなぁ、さすがリシアだ、その辺はしっかり――――は?」


 総司が納得しかけてから、目を丸くした。


「な……何をしてんだ!? 俺はともかくお前まで除籍してくれって頼んだのか!?」

「当たり前だろう。むしろ私の方が必要だ。お前は所詮一般の騎士、私はかつての騎士団長の一人だぞ」

「だからってお前そんなことしたら、お前の今後はどうなるんだ! いや、そうだ、簡単に言ってたが、国宝を盗んだなんて知れたらお前の立場は……!」

「捨てたよ、そんなもの」


 リシアは決然とした表情で言った。動揺する総司とは対照的に、リシアは極めて冷静で、覚悟を決めた顔をしていた。


「王ランセムの亡骸の前でお前に誓った。私はこれからも全力でお前を助ける。お前のためというだけではない、私がそうしたいからだ」

「……後悔するかもしれない」

「あり得ない」


 総司は何とか説得したかったが、リシアの決意の固さを見れば、何を言っても無駄だとわかっていた。そもそもリシアは生真面目で頑固な女だ。決めてしまえば、止まる女ではない。


「何とか……盗まなくてもいいように、事が運ぶと良いんだけどな……」

「さて……どうなることやら、だな」


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