表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
無間の開拓者たち  作者: 紫水晶号
番外編
20/22

(番外編)愛

ふたりがあいしあうだけの時間です。

二人ともワーカーホリックの気があるので、体感時間を大幅に引き延ばして逆竜宮城状態にしてたりします……もっと休んで良いんだぞお前ら……

暗闇の中を、光が駆け巡る。

それは夜空の星々の様に無数に瞬きながら、人々の思いを繋げている。

惑星全体に張り巡らされた、地表を覆いつくす程の植物達を繋ぐネットワーク、その深層に彼女の姿はあった。

他の輝きを隠さないよう、外角をなぞる薄い光の線で形成されたその姿は、しかしどのような星よりも力強かった。

ゆったりとした小袖と袴の出で立ちで、光の海を漂う様に闇に輝いている。

左右にピンと尖った耳で、風に揺られるように短い体毛が揺られていた。

髪は腰まで伸ばされ、極光を思わせる輝きを放ちながら表層の瞬きを照らしている。

眠っているのか両目は閉じられており、安らかな笑顔を浮かべている。

その姿を見て、彼女こそがこのネットワークの主たる女神である事を疑う者は居ないだろう。


「……待ち合わせまであと5年もあるのじゃ、慌てなくてもわしはここに居るのじゃよ?」


不意に、女神が言葉を放つ。

水や空気ではない、光そのものを伝って紡がれたその言葉は、一つの影を浮かび上がらせる。

それは女神と同じく光で輪郭を形作った、細身の男性のようだった。

女神のそれと似た服装に身を包み、女神を見下ろしながら真っ逆さまに深層へと降りていく。

髪は短く切りそろえられており、両目はしっかりと女神を見据えるように見開かれている。


「つれない事を言わないでください、寂しくなってしまいますから」


女神の下へと降下しながら、男もまた光を震わせて女神に応える。

その声は嬉しさと優しさに満ち溢れ、そして女神に焦がれていた。


「ふふっ、冗談なのじゃ……わしも早く会いたくて会いたくて、とっても寂しかったのじゃ」


焦がれていたのは女神も同じ、降下してくる男を前に目を開き、微笑みながらその姿を見守っている。

先ほどまでと討って変わって、その表情は想い人に恋焦がれる乙女のそれとなっていた。


「解っていますよ我が愛しの女神、例え天翔けて黄泉下ろうと、必ず貴女の下へ馳せ参じましょう」


言葉が女神に届く前に、男は女神の下へと降りたった。

遅れて届いた言葉が波となって周囲を照らし、そして再び互いの輪郭だけを光でなぞる闇の底へと帰結する。

二つの輪郭は互いに笑顔で歩み寄り、互いを優しく抱きしめ合う。


「んふっ、旦那様はいつもいつもわしを喜ばせてくれるのじゃ」


男に抱き上げられるようにしながら、女神は嬉しそうに男の顔へとその愛らしい手を伸ばす。

対する男は嫌がるそぶりも見せず、そのまま女神を抱き寄せてその手を受け入れる。


「そういう奥様は、私の頭を撫でるのが相変わらずお上手ですね」


そう言って顔を見合わせるようにし、二人で笑い合う。

途端に二柱の輪郭をなぞる線が虹色に輝き、色とりどりの星々を逆に照らし出してしまう。

ひとしきり笑い合って、そのまま互いに求め合う様に唇を重ねながら抱きしめ合う。

そうして互いの存在を確かめ合うと、名残惜しそうに唇を放し、見つめ合う。


「……それで、無理はしてないのじゃな?」


「もちろん、想定より仕事が順調に進んだだけだよ」


言葉と共に、周囲を無数の板状の輝きが取り囲む。

そこには、情報の海の外へと転生し、人の一生を掛けて世界の安定に尽くす一人の男の姿が描き出されていた。

ほら、と男が言えば、女神もうむ、と返事をする。

そうしてまた、二人で笑い合うと、互いを抱きしめ合った。


「……こうしていると落ち着くのじゃ~」


外見からは想像もつかないような、脱力しきった声を女神が漏らす。


「普段は頑張り過ぎているくらいなんだから、こういう時は好きなだけ羽を伸ばして良いんだよ」


腕の中でとろける様に甘える女神を優しく撫でながら、男が答える。


「それは……お互い様……なのじゃぁ~」


安心しきってか、今にも眠りに落ちてしまいそうな様子で女神が答える。


「私は大丈夫だよ、知っているだろう?」


女神を撫でながら、男はどこか誇らしげに語る。


「だって、こんなに愛おしい妻の為なのだから」


「……っ!? ふ、不意打ちは無しなのじゃ……」


男の言葉に、思わずと言った様子で目を見開き、輪郭を薄桃色に輝かせながら腕を伸ばして男の頭を抱きしめる。

怒っています、と言わんばかりの口調とは裏腹に、輪郭を彩る輝きは変わらず春の花の色をしていた。


「そんな事を言う意地悪な旦那様には、わしの顔は見せてあげないのじゃ」


頬を膨らませ、両眼を強く閉じて男の耳元へと、そんな事を呟いた。

対する男は女神の髪を手櫛で梳きながら、そんな愛らしい女神の様子にご満悦な様子だ。


「それは残念、世界一可愛い奥さんの顔が見せてくれないなんて、申し訳ない事をしてしまったようだ」


おどけた様子で女神の髪の感触を楽しむようにしながら、また抱きしめる。


「……本当に、寂しい思いばかりさせてすまない」


囁くように、だけどしっかりとそう告げる。


「……大丈夫なのじゃ、こうして一緒の時間を作ってくれるだけでも、わしは頑張れるのじゃ」


悲し気に健気な言葉を告げながら、顔を背ける。

両の目から零れる涙の輝きが、男の目に映らないように。

しかし、そんな優しい抵抗を、イジワルな男は決して見逃さない。


「駄目ですよ、可愛い奥さんにこんなに寂しい思いをさせてしまったんだから、奥さんが本当に元気いっぱいになるまで尽くさなくちゃ……それが、夫の務めであり、何よりも……」


そこで一端言葉を切り、まだ涙を浮かべる女神と顔を見合わせる。

そして、息を合わせるように二人で続きを紡ぎ出した。


「「貴方の事が大好きだから」」


二人の偽らざる気持ちが重なり合い、言葉の輝きがネットワークの海に太陽が生まれる。


「やっぱり寂しかったのじゃ~」


ついに堪えきれなくなった女神が男へと泣きつく。

そんな女神の背中をさすりながら、男もまた、心情を吐露する。


「普段はストレスの捌け口があるだけ私の方がマシなんだ、好きなだけ甘えてほしい」


しかし、そんな男の言葉に女神は頬をふくらませる。


「今はわしだけを見てほしいのじゃ、アレの話しはしないで欲しいのじゃ」


女神の抗議に、男もまた笑みを浮かべながら答える。


「はは、すまないすまない、唯一私の愛の全てを捧ぐ女神様に聞かせる話じゃ無かったね」


「と、当然なのじゃ……」


男の返しに、再び輪郭を薄桃色に輝かせながら女神が胸を張ろうとするが、抱きしめ合う格好のままであるが故に、腹部を男に押し付ける形になってしまう。

男はそんな女神の行いには何も言わず、ただ強くその腰を抱きしめる。


「はわっ、ちょ、なんでそんな場所を……」


急な感覚に女神が慌てると、男は努めて冷静な口調で返した。


「なんでって、そっちが押し付けてきたんだろう?」


言われてから気付いたのか、女神の輪郭がどんどん赤みを増していく。


「……ずるい……」


赤みが限界を超え、赤より赤くなった頃に女神の口から言葉が漏れる。


「……ずるいのじゃ、まったくもってずるいのじゃ!」


しかし男は特に動じたようでもなく、女神に笑いかける。


「ずるいって、何が?」


すると、遂に限界を迎えた赤が周囲を塗りつぶした。


「そういう所がずるいのじゃ、大好き過ぎて何をされても許してしまうのじゃ、我慢しきれないのじゃ!」


それは、羞恥の色だった。

言葉のみならず、周囲の空間全てを染め上げる程のその色は、しかし女神の本音だった。


「やっと言ってくれた、我慢しなくて良いんだから、もっと色々言ってほしい」


男は優しく微笑みながら、女神の赤裸々な告白を受け止める。


「う~、わしだってオオニニギノクニヌシ様と一緒に居たいのじゃ、どうしても一緒に行けないからアレに任せているだけなのじゃ、でもずるいと思ってしまう、羨ましいと思ってしまう、何でわしじゃないのかと思ってしまう、そんな事解り切っているのに思ってしまうのじゃ!」


うわーん、と子供の様に泣き叫びながら、力のこもらない拳を男のからだ中に叩きつける。


「もっと愛し合いたい、ずっと一緒に居たい、仮初でも誰にも渡したくないのじゃぁぁぁぁぁっ!」


そうして感極まったのか、男の胸元で泣き声を上げる。


「ええ、当然です。私は何時までも貴女の物ですよ」


男がそう答えると女神は嗚咽を漏らしながら、男の顔を睨みつけるようにして言葉をぶつける。


「物なんかじゃないのじゃ! わしの大好きな大好きな旦那様を物なんて言っちゃ嫌なのじゃ!」


女神の嘆きに思わず面食らった様子の男は、徐々に意味を理解すると目を閉じ、首を振る。

そうしてから、女神に微笑みかけながら言葉を差し替える。


「まさしくコノハナスセリヒメの言う通りだ、訂正するよ……私は何時までも、貴方を愛している」


「……うん」


男の言葉を聞き届け、誰にも聞こえない程小さな声で女神が頷く。

しかし男は決して聞き逃すことなく、女神に応える。


「だから、私が居ない間に溜め込ませてしまったモノは、全部受け止めたいんだよ」


愛するが故に、女神の苦悩を受け止めたい。自分の為に苦しめてしまった女神の支えとなりたい。

そんな男の言葉に、女神は輪郭を赤く染めながら、だけど嬉しそうに答える。


「……だったら、しばらくこうして居たい……のじゃ」


「はい、喜んで」


そうして気持ちを確かめ合うと、二人を浮かび上がらせていた光が薄らいで行く。

そんなものが無くても、互いの気持ちは伝わっているのだから。

闇の中で溶けあう様に姿を隠しながら、それでも決して見失い事の無い互いを想い合って。

二人の体感時間では、この後100年分抱きしめ合ってピュアなデートを3000年分決行し、満喫しきってから次の段階の話題を900年分ほどかけて何とか切り出し、1000年分ほど深く愛し合います。

体感時間5000年分! 実は1年しかない休日を経て100年程度働き続けます……

そんなんだからどっかのサド神に満面の笑顔で祝福されるんだぞお前ら……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ