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無間の開拓者たち  作者: 紫水晶号
番外編
19/22

(番外編)甘美なる衆合の日々

イチャラヴ回です……

一応、本編最終話の少し前程度の、過去世に目覚めていない時の二人になります。

後書きにちょっとしたネタバレがありますのでご注意ください。

それはありきたりな朝の一幕


「おはようございます!」


通いなれた幼馴染宅の玄関を合鍵で開け、気合を入れて挨拶をする。

あけ放たれた戸口から香る彼の生活臭に思わずにやけてしまいそうになりながら、玄関で靴を脱ぎ、スリッパに履き替えて奥へと進む。なんだかこそばゆい……


幼馴染の彼は割とだらしない所があって、だけどとっても優しい。

面倒くさがりなのに頼まれごとは断らずになんとか実現しようと、いつも四苦八苦している。

そのせいで自分の事が尚更おざなりになってしまうのだから、こちらとしては困ってしまう。

キッチンに手荷物を置くと、廊下の奥へと足を進める。


「……起きてますかー?」


玄関の時とは打って変わって、彼の部屋の戸をそっと開け、うっかり彼を起こしてしまわない様に注意しながら部屋に滑り込む……っ!?

密閉された寝室に満ちる彼の香りは、毎朝堪能し続けても空気の様に飽きる事が無い。

我ながら変態的な嗜好だという自覚はあるものの、コレ無しでは私の精神が持たないのだからしょうがない。何せ1日彼断ちをしただけで窒息しかけたほどだ!

勿論、罪悪感はかなりある……というか、ありすぎる。こんな変態が幼馴染でごめんなさい……


「…………っ」


こんな風に彼の寝顔を見るだけで満たされ、思わず彼の額に浮かんだ寝汗を舐めとりたくなってしまうのに、寝室への侵入を止められない、そんな自制心の働かない自分を好きにはなれない。

正直に言えば、私に彼の居ない生活なんてものは存在しない。彼が居ないならすぐにでも死ぬつもりだし、彼が命じてくれるならこの身体を好きに蹂躙してくれて構わない、それくらい彼の事が大好きだ。

だが、そんな変態な私に無理に彼を付き合わせるのはいけない、それでは()だ……


「が、我慢、我慢だよ私……んっ、あ、朝だよー、おはよー、朝だよー」


まずは、窓を覆うカーテンを開き、うっかり飛びついてしまわない様に、一旦彼の身体に対して垂直に向き合う。そうして、そっと彼の身体を左右に揺すった。

強い不快感などを与えない様に最新の注意を払いながら、そしてうっかり毛布をはだけてしまい、生理現象により元気になっている彼の分身を見てしまわない様に……二度と無断でしない様に彼からきつく命令されてしまったのだから。


「んぅ……んー……ああ、おはよぅ……」


今だに夢見心地な彼の無防備な姿と、彼が半身を起こした事で巻き上げられた濃密な香りに思わず飛びつきそうになるのを欲望で押さえつける……理性で抑えようとして何度失敗したか解らないからだ。

思い浮かべるのはただ一度だけ、彼が『朝くらい清々しい気分で起きたい』と命令してくれた時のことだ。命令じゃないと本人は言っているので誰にも言わないが、私の中ではやっと言ってもらえた命令という事にしている。

自分でもおかしいとは思うのだが、私は彼に対してだけは全てを捧げたいと、そして道具の様に雑に使って欲しいという隷属欲の様なものが際限なく働くのだ。

彼自身があまり怠惰になりたくないと言っているから堪えているだけで、彼が望むなら一生をかけて養うつもりで居る。

そんな私の飛びぬけた隷属欲と彼への愛という二つの強い欲望によって、私自身を満足させようという低俗な本能的欲求を跳ね除ける。


「はい、おはようございます。ご飯にしますか? シャワーを浴びますか? それとも私をご所望ですか?」


うん、今日もしっかり朝の挨拶が出来た。

最後の選択肢を彼が選んだ事は今のところないのだが、それはそれだ。

悲しいかな、彼から求められたこと自体が片手で数えるほどしかない上に大本命の本番だけはまだだったりする……学生の身分で責任を取れない事をするわけにはいかないと、最後の一線だけは死守されてしまっているからだ……

まぁ、代わりに私の事を貰ってくれる約束はしてくれているので、将来に向かって精進する事にしている。


「……それ、朝にする挨拶じゃないよね? 顔を洗ってくるよ」


今日もやっぱり私を使ってはくれない、いつでも準備万端なだけにちょっと残念だ。

しかし、何時までも残念がっては居られない、彼の部屋の空気を満喫したがる我が欲求を抑え込み、彼の健康な生活の為にキッチンへと向かう。

冷蔵庫を開けると、昨晩作り置きしておいた唐揚げとサラダの残りを取り出し、唐揚げを軽く油を引いたフライパンに落とす。

油の撥ねる音を聞きながら唐揚げの表面から湿気を飛ばしながら加熱する。

サラダはボウルの中でひっくり返して底の方に溜まったドレッシングを全体に循環させてやる。

鍋を火に掛けていると、足音が近づいてきた。


「毎日すまん……それとありがとう」


彼が顔を洗ってさっぱりした出で立ちでキッチンに顔を出す。

最初に出てくるのが、早起きできなかったことへの謝罪と私への感謝だ。

毎度のことながら、そんな事言わなくて大丈夫だと言いたい……まぁ、言ったら拗ねてしまうから言わないが。

彼なりに私に気を使ってくれての事なので、内心どう思っていようとも笑顔で受け取らねばならない。

……出来れば調理器具を奪い取って殴り倒して色々強引にしてくれると嬉しいんだけれど、彼の価値観的にそういう事は駄目らしいので諦めるしかない。残念だ。


「良いんですよ、好きでやってる事ですから」


役得ですから、という本音は流石に自重する。

正直、私は彼の匂いが無ければ呼吸もままならないし、何なら彼の声が聞こえないままでいるとつい自殺したくなる、我ながら厄介な性癖の持ち主だ。

こんな変態な私を、彼は拒まず好きにさせてくれている……本当に優しい人だ。


「……解ったけど、無理はしないでね」


情けない事に、私のこの嗜好自体については彼に既に知られてしまっている。

早朝に洗濯籠から拝借した彼のハンカチを嗅いでいる姿が彼に見られ、没収されてしまった時の事だ、小学校の昼休みに、私は呼吸不全を起こして倒れた。

噂を聞きつけて別なクラスから駆け付けてくれた彼に抱きしめられ、その匂いを吸ってようやく呼吸が安定し、無事に生還を果たしたという事件があった。

その時に、正直に彼の匂いがしないと息苦しくなることを伝えたら、ため息交じりに『次からは無断で持って行かないで』とハンカチを手渡してくれた。

……流石の私も反省し、自室に持ち帰っていた彼の下着をこっそり返却したりもした。

それからだろうか、休み時間になると必ず彼は私の前に姿を現してくれた。

次の年のクラス替えで同じクラスになってからも、それどころか高校に通う今でも変わらず、休み時間の訪問は継続している。


「はい、大丈夫です、早朝から一つ屋根の下でお料理まで任せてもらっているんですから、私はもう最高に幸せな気分ですよ?」


何せ、私のイカレタ趣味嗜好についてはバレているのだ。

その上で、彼は私の好きにやらせてくれているのだから、むしろお世話になっているのは私の方だろう。

こうして彼の為に料理が出来る、その幸せを毎朝噛みしめながら、彼の前に朝食を並べていくのだ。

昨日の残りから2品、彼の許可の下で床下にストックしてある自家製の漬物からいい具合の物を1品、手作りの味噌に煮干し出汁の豆腐の味噌汁を付け、白米をお茶碗の8分目によそって手際よく並べていく。

そうして、彼の食事が見えるよう、正面に彼の半分ほどの量を並べ終えると、彼が席に着く。


「今日もありがとう、いただきます」


「はい、お召し上がり下さい」


彼が私に手を合わせてくれる。

なんだか物凄く申し訳ない、何せ私の方が完全に甘えている状態なのだから。

むず痒さというべきか、シックリ来ない感覚にモヤモヤしながらも、努めて顔に出さない様にして私も朝食をいただく。

……よし、唐揚げ復活作戦は大成功です。


「ふぅ……ご馳走様」


「はい、お粗末さまです」


私の倍の量の食事を、彼はあっと言う間に平らげてしまう。

別に、ちゃんと噛んでいないとかではない。彼の癖の様なものだ。

感想を聞いたりすると味わってくれているのが解るし、見ていてもよく噛んでも居るのに、とにかく食べるペースが速い。

飲み込むのが早いというか、素早く食べられる量だけを口に入れるのが上手い感じだろうか?

無理はせず、ごくごく自然に凄まじい速度で消えていく朝食達を見て、思わず嫉妬してしまう程だ。

……私の体も、あんな風に食べられたらどんなに痛いのだろうか、そう考えるだけで身体の芯が熱を持ってしまう。

彼に対して限定の隷属欲に加えて被虐欲まで抱いているのだから、やっぱり私は変態だ。


「さて……」


そう言って、彼は二人分の食器を手早くまとめる。

それくらい私が、と言いたいのをぐっとこらえて、この瞬間だけは彼の作業を見守る。

……何から何までやらせるのは無責任だ、と言われて、食器の片付けと重い物の運搬は未だに彼が行ってくれている。

……彼の箸を隠れて嘗めているのを見られたからではないと信じたい。

正直に言えば、物凄く名残惜しい、出来る事なら0から10まで彼の全てをお世話したいと思っている。

だけど、他でもない彼がそうしたいと言っているのだ、どうして邪魔できるだろうか?


「……今日の1時限目は何だっけ?」


食器を洗いながら、彼が話しかけてくる。

こんな時まで私なんかを気にかけてくれる彼の優しさに腰が砕けそうになり、思わず目の前のテーブルに体重を預ける。

……危なかった、気付かれてないかな?

万が一気づかれた場合、貴重な会話の機会を喪失してしまうだろう、それだけは避けなければならない。

なので、ごく自然な風を装って彼の問いに答える。確か……


「1時限目は植通学ですから、余裕ですね」


彼も私も、この世界を覆う様に張り巡らされている植物の通信網との相性が非常に良いらしい。

下手な教師では私たちの処理速度に付いてこれないため、一流企業から派遣された専属の講師が週替わりで色々な技術について教えてくれている。

実のところ私たちが教える部分の方が多いくらいで、最近ではこの講師派遣に熱心な企業も増えているという有様だ。何故か謝礼まで定期的に振り込まれているし。

特に彼の深度は凄まじく、私の知る限り当代唯一の惑星級だ。

海洋級の私ですら世界に片手で数えられる程度しか居ないというのに、それですらやっと影が見えるかどうかという凄まじい速さと精密性で情報を処理できて、その上で処理する量まで段違い……


「あー、また変な事を聞かれなきゃ良いんだが……」


だから、彼こそが当代の『ニニギさま』なのでは無いかと予想している。

『ニニギさま』……正式にはオオニニギノクニヌシ様と言い、この世界に生命を齎し、また妻であるコノハナスセリヒメ様の助けを借りながらこの世界を開拓した古の神様だ。

技術や工業を司るという彼は不定期的に記憶を封じて人に生まれ変わり、その度に革命的な発明や革新的な技術を開拓したり、世紀の大災害に挑んだりしていると言われている。

凄いのは、考古学の研究でよく語られる『支配者が崇める神に従えた部族の神を集合した』とかではないという点だろう。

現在世界中に張り巡らされている植物の通信網、その創始者こそがこの夫婦だと、他でもない植物の通信網の中にしっかり『記録』が残っているという事だろう。

一般で閲覧できる範囲だけでも読んでいるだけで甘くとろけてしまいそうな2柱の熱愛ぶりに、思春期女子の必読項と言われるほど一般的な代物で、有史以来語り継がれ、世界中の古美術にその姿が散見されるほどなのだ、存在を疑う方が難しい。


「そんな事言って、質問されたら楽しそうに答えてあげているじゃないですか?」


彼の何より凄いところは、そんな神々を思わせるほどの適性を持ちながら、恐ろしい程に()()()()な事だ。相手の癖を一瞬で見抜き、どうすれば効率よく理解できるかを予め知っていたかのように的確に教える事が出来る。

どんな質問にも的確に答えるその姿は、見ているだけで腰砕けになりそうなほど格好良い。

私に出来るのは、そんな彼の雄姿を保存して加工し、教材として一般向けに販売するくらいしかない。もちろん本人に確認してもらってからだ。

なのに、私は売り上げは全額彼のもので良いと言っているのに半分しか受け取ってくれない、彼の功績だというのに……


「……そんなつもりはない、ただ、知識をすり合わせて知っていることを伝えているだけだ」


あぁ、照れさせてしまったらしい。顔を背けて赤くなったのを隠そうとしている。

こういうところは、本当に可愛い人だと思う。

例えば、実は嬉しいのにそれを表現するのが壊滅的に下手で、どうしても眼つきが悪うなる癖がある。

本当は普通に笑いたいのに、どうしても周囲を委縮させてしまう迫力が出てしまうのが彼の悩みだ。

そんな不器用さを発揮しながら、世界の技術の最先端を切り開くのだからたまらない!


「それが凄い事なんですって、もうっ、愛してますよ!」


私の幼馴染がこんなに可愛いなんて、我慢しきれなくなってしまうじゃないか! いざ涅槃!!


「待てだよ、そういうのは学校が終わって帰宅して宿題が終わって時間が出来てから、約束でしょ」


……冷たい視線と共にバッサリ切り捨てられてしまった。

とはいえ、禁欲的でありながらもちゃんと受け入れてくれるのだから本当にありがたい。

もういっそ私の心拍数まで管理してもらえないかな等と邪な気持ちが湧き上がってしまう程だ。

まぁ、彼の手間を増やしたくないので今は自重するけれど……時間を作れば、今日こそ本番は無理でも後ろとか……


「……エロス禁止(接触禁止)にしようか?」


「すいませんごめんなさいマジほんとすいませんでしたごめんなさいごめんなさいそれだけはどうかごかんべんをおねがいしますほんとそれだけがいきがいなんですいきるいみなんですそんざいいぎなんですどうかおゆるしくださいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいすてないでごめんなさいほんとうにすいませんでしたいきててすいませんこきゅうしててすいませんそんざいしていてすいませんやくたたずですいませんへんたいですいませんごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」


「……はぁ、解った解った、でも一緒に遊んだり旅行計画を立てたり、そういう二人の思い出作りもさせてよ?」


……はっ!

一瞬あまりの恐怖に意識が飛んでいたらしい。

エロス禁止(おさわり禁止)とか、なんて恐ろしい……そんな事になったら私は常に3歩後ろで彼の痕跡を収集するだけの変態ストーカーになるしかなくなってしまうだろう。嫌がられたら止めてから彼不足で自殺するけど。

でも、まあ確かに思い出作りは魅力的だ。べたべたしたい気持ちも当然あるが、彼と一緒に遊んで笑い合って、というのも素晴らしい。一生のメモリアルとして記念館を作る勢いで素晴らしい、よし計画書を作って明日にでも後見人に提出しよう。


「つまりデートですね! やったー! 良い宿を選んでおきます!」


「はいはい顔を拭いて……まぁ決まったら教えて、周囲の観光スポットは調べておくから」


とと、彼が差し出してくれた手ぬぐいで顔を拭いてみる……ふむ、なんか凄まじくぐちゃぐちゃです。

不思議ですが、彼が手をぬぐった布に顔面を押し付けることが出来たので良しとしましょう。

心の充実を感じながら、手早く化粧を直す。

まぁ、まだ若い身なので彼の斜め後ろに立っても彼の評判を落とさない程度の軽いものだが。


「ありがとうございます! ふふ、私はどんな場所でも嬉しいですよ」


彼に心からの感謝を伝えると、目をそらされてしまう……ああ、照れてるっ!

もうこれだけで今日1日元気にやっていけそう!


「……ほら、こっちは終わったから学校行くぞ」


そっけない風を装いながら、私の襟首を掴んで釣り上げるようにして立たせてくれる、首が軽く締まって思わず彼を引き倒したくなってしまった……が、我慢、我慢だ私、今晩沢山可愛がってもらう為に我慢して!


「あ、あの……」


必死に衝動に抗いながら、何とか声を掛ける。


「通信網の中だけで良いので先にシてもらぇっ!?」


し、締まる、締まっちゃう、首が、呼吸が……


あっ……


ふぅ……


「……すまん、ちょっとタオル取ってくる」


って、やってしまったー!!!


思わず私は足元の生暖かい水たまりに座り込む……

ちょと粘り気を感じる気がするそれの中で、思わず頭を抱え込んでしまう……

彼に首を絞められるとかいう幸せな出来事に思わず身体が反応してしまったのだ、私が全面的に悪い!


「あ、そんな所に座り込まないで、ほら、辛いなら椅子に座って、これで拭いて……えっと後は……」


ああ、しかも彼に世話を焼かせてしまっているっ!

不覚です、こんな恥ずかしい事はありません。

お世話をするべき私がお世話されるなんて……っ!!


「も、申し訳ありません」


今度は私が恥じ入る番だ、ああ、何てことだろう、大好きな彼にお世話されてしまうだなんて、申し訳が立たない、立たないのだが、自分の出してしまったものを片付ける彼の姿に強い背徳感と底知れない罪悪感を感じてしまい、身体が言う事を聞いてくれない……


「いや、無理やり立たせようとしたせいだろうし謝らなくていいよ……あと、こういう事を言うのもアレだけど、気にせずトイレは使ってくれていいから変に我慢しなくて良いよ」


……なんかほんとすいません……こんなエロエロ女ですいません、汚れた私ですいません……

清い彼の言葉に思わず賢者の時間に入ってしまった私は、冷静に自分の行いを振り返る。

よくこれで嫌われない、というかドン引きされないものだと思ってしまう。

少なくとも私が彼の立場なら無理だ、迷わず病院に通報して厳重に隔離させるくらいアレだ。

なのに彼はと言えば、心配そうにこちらの顔をのぞき込んだり、着替えを用意してくれたりしている……着替えですって?


「えっと、ほらこれ、着替えられるか?」


そうって差し出されたモノを両手でしっかり受け取る。

それは下半身を覆う履きなれた制服のスカートとお気に入りの柄の下着だった。

実は、正式に就職したらいつでも住んで良いと言って、彼の家にもいろいろ私物を置かせてもらっている。流石に夜には家まで送られてしまうのだが、その気になれば住める程度には準備が出来ている。学生という身分が恨めしい……

等と考えている場合ではない、彼に感謝しなくては……


「ありがとう……本当にありがとうっ!」


これはただの下着ではない、彼の手でつかんで貰った下着だ!

もう、そんなの国宝でも良いんじゃないだろうか、畏れ多くて履くのを躊躇してしまう程だ。


「あ、ごめん、男の手で触った下着とかやっぱり嫌だよね……」


よし履きました!

このお宝は誰にも渡しません!


「そんな事ありません、私って情けないなぁ~ってなっちゃってただけですから、ありがとうございます!」


あはは~と誤魔化しながら、スカートも履く、出来れば彼の手で脱がしやすいように、彼から構造が見える角度でだ。

……はぁ、我ながらどうしてこう、変態な方向に思考が向かってしまうんだろう。

優しい彼に甘えてばかりで何も返せていないじゃないか……うう、自己嫌悪……


「本当に大丈夫? ほら、立てる?」


こんな変態に優しく手を差し伸べてくれる彼が神々しくて、神々しすぎて……

っていけないけない、何で迷惑を重ねようとしているんだ私は、そういうのは無し無しっ!


「んっ、ありがとうございます」


結局、彼に手を引いてもらって立ち上がる。

ああ、彼の手が私のせいで汚れてしまってはいないだろうか、心配だからすぐ洗ってほしい……

私の方は問題無い、彼に触ってもらったのだから、今後洗わなくても問題ないだろう。


「ほら、こっち着て……手も洗っておこう」


……くっ! 何という究極の二択っ!

私の手は洗いたくないけど彼の手は洗ってほしいので一緒に洗わざるを得ないなんて!?


「重ね重ねすいません、私なんかのせいで……」


「こらっ」


あう、頭を軽く小突かれてしまった……で、できればもっと強く、 拳骨とかで……

ってそうじゃない!

彼に叱られているのに喜んじゃ駄目、駄目だ私!


「なんか、じゃないよ、可愛い幼馴染さん?」


ぐはぁっ!? な、なんという破壊力……

やっぱり私には彼が必要だ、彼が居ない世界なんてお断りだ、彼が世界の全てで問題無い。

こんなに尊いお方が私の幼馴染だなんて、幸せ過ぎて神に祈りたい気分です!


「……はい、ありがとうございます……」


ああぁあぁあっ、顔が、顔が熱い、きっと今私の顔真っ赤ですよ、もう、何でこんなに幸せなの……

……しあわせ、なの……に……

何で、もっと酷い事をされたかったなんて思ってしまうんだろう。

いつもそうだ、気持ちが昂ると同時にどうしようもないくらいに自分が汚く思えて、罪深く思えて、大好きな彼に触れるべきではないと心の奥で何かが叫ぶ……

でも、そんな曖昧な気持ちで彼から離れるなんて、ただの自殺だ。

満たされない空虚な感覚からどんどん強い刺激を求めてしまいがちだが、いざとなれば優しい彼に止められてしまう、愛されていると感じながらもどこまでも飢え続ける。


「ほら……何だか知らないけど悩みとかあるなら聞くよ?」


こうやって、私が苦しんでいるといつも包み込んでくれる。

頭を抱えられるようにして私を抱きしめてくれる彼の手は優しい。

そんな彼に溺れるように頭を埋めながら、思ってしまう。

胸いっぱいに満たされるような愛情を感じながら、もっと、もっとと求めてしまう。

いけないのに、今度こそ本気で首を絞めて欲しいだなんて考えてはいけないのに……彼の手首をそっと掴んで私の首に誘導を……


「む、こらっ」


……バレてしまったようだ、残念。


「どうしてそう、自分を大事にしないんだ?」


どうしてそう、()()()()()()()()()()()()()()

等と、問い返したくなってしまう。

彼を傷つけてしまいそうで、言いたくても言えないけれど、でも、だからせめて、といつものようにこれだけは伝えておこう。


「だって、私なんか大事にする必要ないです」


出来る事ならもっとこう、雑に顎でこき使われるくらいの方が絶対に嬉しい。

命令に失敗したら、プレイ用じゃなく乗馬用とかの鞭で、皮が避けるくらい叩いてほしい。

命令に成功しても、決して褒めずに出来て当然って態度で踏みにじって欲しい。

ありとあらゆる欲望の履け口にして、最後はボロボロになってゴミ捨て場に遺棄されたら最高だ。

……本当に、こんな事ばかり考えてる変態が、彼に愛されるなんて身の程知らずにも程がある。


「私は……汚いです、気持ち悪いんです、本当に、私なんかが……」


だから、さあ、こんな薄汚い娘、もっともっと……

そう考えた瞬間、目の前で火花が散った。


「このバカ、なんかじゃないって何度も言ってるだろ? 身体だってもうきれいに拭いたから大丈夫だよ?」


改めて現実に目を向けると、彼の目がとても悲し気に見下ろしてきている。

肩から伸びる腕が私の頭上に伸びていて……ああそっか、拳骨を戴けたんだ。


「ありがとうございます」


こんな私を叱ってくれた、その事実が嬉しくて、嬉しくてっ、嬉しくてっ!

ああ、いけない、いけないのに、いけないのにもっともっと求めてしまうっ!


「……はぁ、どっちの意味なんだか知りたくも無いけど、これでも大事な幼馴染だと思ってるんだよ?」


彼の残念なものを見る目がたまらなく心地よいと思う反面、彼の悲し気な目が心に突き刺さる。

視線に混じる二つの感情、ただそれだけで心が乱れてしまう。

その上で、大事な幼馴染なんて身に余る言葉まで貰ってしまっては……っ、いけないいけない、また立ったまま色々駄目にしてしまうところだった、自重しなさいこの変態(わたし)め、彼の優しさに甘える事しかできない役立たず、彼無しに生きていけないくせに、愛しの彼をこれ以上汚すな!


「っとに、どうしてこう残念なんだか」


あ、ちょ、ま、まって、まってまって、そんなに強く抱きしめられたら、や、やばい、抑えきれ……?

そう思った瞬間、私が自分を抑えきれなくなる寸前に、すっと彼が離れてしまう……


「ほら、()()は夜って約束だろ?」


あ~あ、解放されちゃった……

嬉しいような寂しいような、そんな空しい気持ちが湧き上がる。

でも……続きをしてもらえると念押しまでしてもらったのだから堪えるしかない。

これ以上は甘えすぎ、私の我儘でしかないのだから。


「はい、今晩も宜しくお願いいたします」


これ以上彼にがっかりされない様に、こんな薄汚れた私なんかを大事に思ってくれる彼の為に、どうにか今日もがんばれそうだ。

衆合地獄:殺人、窃盗、邪淫の罪を犯すと落ちると言われる地獄で、鬼に追い立てられ巨大な岩や山にプレスされる事を繰り返します。実は全部犯してるので迷わず落ちてもらっています。

ええ、常に鬼(無自覚な彼)に追い立てられ、岩(依存心)や山(罪悪感)に押しつぶされ続ける地獄です。

あるいは、刃のだらけの樹木の上に美しい人の姿を見て全身切り刻まれながら昇り、今度は下に美しい人の姿を……を繰り返すなんて話もあって、ホント彼女にはぴったりですね。


彼女は本編の時点から『こんなに愛されている自分は幸せだ』と常に自己暗示を掛けています。


だけど永遠に満たされないし永遠に自分を許せない。

だからもっとと求め、罪悪感を無限に積み重ねた岩山に押しつぶされる。

これでも前世の因果とかに目覚める前なのでこの程度で済んでいますが、目覚めると過去の転生全ての分の罪悪感まで上乗せされてしまい……けど、安易に死ぬことは彼が許してくれません。

刑期はたったの2000年(※地獄の時間で換算)ですが、まぁ元の人格なんて欠片も残りません。

この地獄を終わらせる手段はたった一つだけ、主人公が『お前はもう罰尾を受けた』と真実を明かすことで罪悪感を昇華させる事だけです……

まぁ一応、累計1600年ほど頑張れば釈放するつもりだったりしますが、むしろ罪悪感が抜けて自重が無くなり彼どころか夫婦両方が猛アタックを受けたりしますが、それはまた別の話(未定)です


そういうわけで、前座のいちゃいちゃシーン(これでもマイルドな時代)でした。

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