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無間の開拓者たち  作者: 紫水晶号
本編
15/22

安寧の日々へ

本編最終話です。

『いつもありがとうございます、次のレポートも期待してくださいね!』


初めて会った頃からは想像もできないような活き活きとした笑顔で、通信機の向こう側でチルヤヒメが笑いかけてくる。

最初のうちは、私に触れられるだけで失禁し、声を掛けられるたびに青ざめていたというのに、人は変わるものだと実感させられる。


「無理はしなくて良い、ただでさえ君は……いや、今更か、次回のレポートも期待しているよ」


そういって通神を切る。

良くも悪くも変わり果てた彼女は、私に対して晴れやかな笑顔を見せるほどになった。

忌々しいあの男を日々拷問し、惨殺し、蹂躙する事で自分を慰めながら、だが。

実際問題として、私が彼女のレポートを読むだけで気分が軽くなるのは事実だ。

その上、試験段階の様々な器具、薬品を実に効率よく試してくれて、今日も世界の発展に役立ってくれている。

だから、彼女の贖罪は、確かにここに成ったと言えるだろう。

耐用年数8千万年として設計されたあの施設で、今後も頑張ってほしい。


対するあの男はと言えば、何とも救いようが無かった。

せいぜい、隣の芝が青いと騒いでいる所を魔王軍の残党とやらに付け込まれただけだろうと予想していたが、本人から聞き出させてみた内容は論外だった。

自分を主人公と信じて疑わず、与えられた仕事は一切こなさずに味方陣営に対する略奪行為を繰り返し、ハーレムと称して既婚女性の夫を爆破してはその奥方を恐怖で縛って弄ぶ鬼畜外道だった。

おそらくは、最後のチャンスとして駆り出された戦場で自軍を壊滅に追い込み、多数の犠牲を生み出したのだから本気で笑えない。

むしろ、そんな爆弾を抱えながら魔王軍を壊滅まで追い込んだあちらの国家や軍人達、そして私とは異なる私、()()()()()()()()()()()()()()()()と思わざるを得ない。


だというのに、勝手に不満を爆発させて魔王軍の残党に取り憑かれた挙句、過去に戻るために戦勝国をまるごと生贄にして過去へ戻り、今度は私が得るはずだった力と成果を奪うために転生の管理者と思しき女神ごと地獄に落とそうとした……まったく、存在するだけで周囲を害するマイナスだけの生物が存在した事実に驚愕を禁じ得ない。

……と、そんな事を考えていると、コツコツと背後から足音が迫ってくる。


「通信お疲れさまですニニギ様、お障りないでしょうか?」


声を掛けてきたのは私の可愛い第二夫人であり、あちらで血みどろの日々を送っているチルヤヒメの半身と言って良い存在のイワナガヒメだ。

常に私の下へと転生を繰り返し、産まれるたびに幼馴染の地位を確保している強かな面もある。

現人神等と呼ばれる私も、まだまだ人間だ。

最愛の妻であるコノハナスセリヒメの庇護の下、定期的に記憶を封じて一般人へと転生し、人の世を学んでいる。

現人神としての自覚を得て神殿に昇るまでの間、必ず私と縁を結び、常に一歩引いた立ち位置から私を支えてくれるのがイワナガヒメだ。正直とても助かっている。

その上、常に第二夫人の地位に納まりながらも、決してコノハナスセリヒメの不興を買うような行動はせず、私たち夫婦に尽くす事を第一としてくれている。

もっとも、その趣味だけは思わず閉口してしまうのだが……欠点の無い者は居ないという事なのだろう。


「ああ、問題無いよ、今回も迫真のレポートだったのでついつい見入ってしまったくらいだ」


私がそう言って、先ほど送られてきたレポートを印刷したものを差し出すと、受け取った彼女は何処か()()とした表情でその内容を指でなぞる。

そして、毎回私に絶対に実現しないおねだりを始めるのだ……


「ああ、何て素晴らしいんでしょう……ニニギ様、これ、()()()()()()()()()()()?」


満面の笑みで、第二夫人が拷問死したいと願ってくる日常というのもシュールな光景だ。

どうも完全に罪悪感を拗らせた彼女は、何度転生し、何度記憶を消されてもこうなってしまう。

常に私から虐げられることを望み、叶うならばそのまま殺しきって欲しいと切望する、これさえ無ければ器量よしの完璧美人なのにと、私の中の幼馴染として育った部分が嘆いている。

私が前世の力と記憶に覚醒してからこうなった、とかではない。

託児所に入った時、公園で出会った時、何なら生まれて間もない赤ん坊の時点で……彼女は転生するたびに、私から加害されようとしてくるのだ。


「毎回言っているが、私にそういう趣味は無い、レポートを読むのも前世の憎悪を慰めているに過ぎないんだ……愛する相手を殺すなんてするわけないだろう? ()()()()……」


毎回そうしているように、今回もそう言って、イワナガヒメの頭を軽く小突く。

私に対しては際限なく被虐性を発揮する彼女だが、立場はちゃんと弁えている。

このやり取りだって、たんなる幼馴染の冗談……と、自己暗示を掛けている。

幸いなことに、彼女は自分の趣味をこちらに押し付けることはしないため、それで誤魔化せている……と、思いたい。


「ちぇ、残念です……あ、でも気が変わったらいつでも言ってください、出来るだけ残酷に、出来るだけ長く苦しめた上で殺して頂けるとなお嬉しいです」


頬を染めながら語る言葉がこれなのが、とにかく残念な奥さんだ。


「頼むから、子供たちにそういう面を見せないでくれよ?」


こんなノリで1児の母であり、更には正妻であるコノハナスセリヒメとの間の子の世話までしてくれているのだから、困ったものだ。


「……はーい、それとコノハナスセリヒメ様が寂しそうになさっていましたので、今晩あたり可愛がってあげてください。

あ、でも仕事のストレスとかは私がいつでも受け止めますよ!」


こちらも変わったと言えば変わったのだと思う、少なくとも、オオニニギノクニヌシとしての記憶の中の彼女はもうすこし控えめだったとあるし。

……まあ、今でも人前ではこういう面を出したことは殆ど無くて、基本的に私の前でしか見せない一面なのだが。


「ああ、解っているよ、ちょうど新作のアクセサリーが完成したからね、似合うと良いんだけれど」


そう言いながら、手荷物を纏める。

頑張りすぎるきらいのある我が正妻様は、私が声を掛けない限り働き続けるワーカーホリックな所がある。適度に息抜きできるように様々なシステムを工業化して補助しているが、中々どうして彼女のそういうところは変わらなかった。

まぁ、私が声を掛けさえすれば仕事をAIに投げて甘えてくれるのだが。


「ふふ、どうぞご随意に、私の方はついでで良いですから、何ならもっと()に使っちゃってくださいね」


そんな会話を楽しみながら、準備を終える。

実のところ、自動化を推し進めてきた昨今、私が直接手掛ける仕事は実は多くない。

ここまで来るまでの間に何世代にもわたる私なりの苦労もあったが、どれも充実した日々だったように思う。


何せ目覚める前の時点から、毎回の様に最愛の女神様がお忍びで私に会いに着たり、ちょっと趣味のおかしな幼馴染がいつの間にか実家の台所を勝ち取って居ついてしまったりと楽しい日々を送っていた。

それが現人神に目覚めてなお、こうして継続されているのだから悪い気はしない。

この充実した日々、幸せに満ちる毎日を守っていきたいと思っている。


「さて、それじゃそろそろ愛を確かめ合いに行くとするよ、たぶん三日くらいは出てこないから、君の相手はその後になるけど構わないかな?」


……我ながら、中々に酷い事を言っている自覚はある。

少なくとも、現人神に目覚める前はここまで酷い言い回しはしてこなかった。

問題があるとすれば、こういう扱いをされる方がイワナガヒメが喜ぶという事だろうか。


「はい、いつでもお待ちしております」


はにかんだ笑顔でそう告げられながら、部屋を出る。

本当に、趣味以外は私の第二夫人になんて勿体ないくらいのいい子なのにと思ってしまう。

じゃあ誰かに渡すかと言えばそんな事は絶対にしないし、一生愛しぬく覚悟はあるのだが。


そうして、しばらく歩いて行くと、窓から外の様子が伺える。

INARI176としての最愛の妻の身体である白い塔、惑星開拓用宇宙船であったそこから見えるのは、周囲を埋め尽くす様々な植物の姿だった。

最初に世話になった果樹園は世代を重ねながら今でも残っている。

ある種の聖地として多くの人の手を借りながら、毎年の様に多くの果物を提供してくれているのだ。

他にも、最初のころに住んでいた洞窟や石室は大切に保護され、今なお当時の姿を偲ばせている。


「ふぅ、こういう事を考えるなんて、私も歳かなぁ……」


感傷的になりそうな自分を戒め、首を振ってから足を進める。

向かう先はこの塔の中心部にある、コノハナスセリヒメの対人用生態インターフェイスの部屋だ。

本体が宇宙船である彼女は、普段はネットワークの海を泳ぎまわって働いている。

私も、現人神としての仕事をするときには同じようにしているが、やはり彼女ほど上手にネットワークを使いこなしているとは言えない。

そんな事もあって、彼女が頑張りすぎてしまっている事が悩みだったりする。


「ただいま、コノハナスセリヒメ」


そう声を掛けながら、ドアを潜る。

薄暗い部屋の中で、沢山のコードに繋がれた一人用のベッドの上で彼女は眠っている。

いや、正確に言うなら、眠っているのは彼女ではなく、彼女の対人用生態インターフェイスの部分という事になるだろうか。

正直に言えば、私も早々に肉体を捨て、ネットワーク上で彼女と愛し合いたいと思っているのだが、それはまだ許されていない。

肉体が新鮮なうちは、肉体でしか味わえない色々な事を味わってほしいと言われてしまっている。

中々に遺誡な表現だと褒めたら、冗談だったのにと顔を赤くするコノハナスセリヒメに思わず笑いが零れたものだ。


「……んゅ、おはよーなのじゃ旦那様、仕事は落ち着いたようじゃの」


思い出に浸りながらベッドの生態端末を撫でていると、彼女が目を覚ました。

ネットワークの海から小さな身体へと主体を移動させ、私と愛し合うために起き上がろうとする。

そんな愛おしい彼女を、私はそっと抱き上げた。


「ええ、おはようございます。今日も可愛いですよ」


声を掛けながら、彼女の身体を人間用のマットレスに移動させる。

そのまま隣に腰かけると、未だに寝ぼけ眼の奥さんの頭を撫でてやる。


「んっ……もっとぉ~」


とたんに蕩けるようにして寄りかかってくるコノハナスセリヒメの、小さなインターフェイスの重さを膝に感じながら撫で続ける。


「んふふ~、わしは幸せ者なのじゃ……旦那様はどうなのじゃ?」


不意に、そんな事を質問された。

まぁ、答えは最初から決まり切っているのだが。


「勿論幸せですよ、こんなに可愛い奥さんが居て、復讐は成ったし仕事も充実しているし、子供たちも毎日元気に遊んだり学んだりしてくれている。こんな日々を、転生の度に感じられるんだから、幸せ以外の何物でもないさ」


満ち足りた充実した日々、様々な変化を感じながら繰り返される掛け替えのない日常、地獄に落ちる前の自分には想像もできないような形だけれど、私は今に満足していた。


「それなら良かったのじゃ……前回はすまなかったのじゃ、開拓機構本部からの要請とはいえ、遠方に魂を送る羽目になるなんて……わしは寂しかったのじゃ」


前回、というのはこの世界における一つ前の人生の事だ。

コノハナスセリヒメはこの惑星の開拓を通じて「不確定な力」のサンプルを含む数々の発見を称えられ、かなり高い地位を貰っている。

その分厄介毎が舞い込んでくることもあり、前回、私は現人神として目覚める前にそんな厄介毎に協力したというわけだ。


「それは本当に申し訳ない、私もあの頃は寂しかったよ。……とはいえあっちの神様からは盛大に感謝されたし、それは君も同じだろう?」


私としてもコノハナスセリヒメの力になれた、という意味では良い出来事だったと思っている。

二十年ほど最愛の妻に会えくなり、イワナガヒメにもずいぶんと苦労をかけてしまったりもした。

当時は何度嘆いたか分からなほどだったが、二人そろって神格に目覚め、神としての力と記憶を呼び戻した事で帰還に至った。

……魂魄だけの長距離通神による移動等という無茶を提案してくれやがった通称サド神さんに対して思うところは有るのだが、それはそれだ。

おかげでイワナガヒメが負荷の重さを一人で受け止めよう等という無茶をしてしまい、帰還後も治療に5年の日々を要したほどだ。

当の本人は私をかばって死ねるなら等と喜んでいたが、こっちとしてはたまったものではなかった。


「もう良いのじゃ、最近は落ち着いて居るし……そろそろ次のややこを授かりたいのじゃが?」


そう言いながら起き上がったコノハナスセリヒメと唇を重ねる。


こんな充実した日々を、最愛の伴侶たちと歩めるのは、他でもないコノハナスセリヒメのお陰だ。

だから、精一杯、彼女と愛を伝えあっていこうと思っている。

これにて完結です。

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