もう一つの無間地獄
今回はグロ成分やや多目ですのでご注意ください。
俺は最低の未来から帰ってきた。
俺の未来を最低にしやがったクズと碌な力を寄こさなかった女神を地獄に落とし、俺が最高の英雄として褒めたたえられるためだ。
クズの目を盗んで接触してきた魔王軍の残党共を使って、あのクズと俺を認めなかった国の連中全部を生贄にしてだ。
ざまぁみろって奴だ。俺を認めないあの連中が全て悪い。
間抜けな女神は魔王軍の残党共から貰った力で言いなりにしてやった、そのままクズ諸共地獄に落ちたからいい気味だ。
これで俺を邪魔する奴はいない。
あのクズが手に入れるはずだった力を手に、俺は勝利を確信した。
実は地獄がどんな感じか漠然としか知らなかったが、そこは賢い俺の閃きによって、あのクズ自身に最悪の地獄を語らせることで事なきを得た。
「しっかし、地獄ってやべーんだな、酸素もねーし水も飲めねぇ、生物が生きて居られねぇ時代だったとはなぁ……ぜんっぜん想像できねぇ、やっぱあいつ頭おかしいっての」
けど、あのクズが地獄に落ちるのは当然の事だ。
例えば盗賊団に襲われている町があるって聞いて、俺が城の兵士たちと一緒に町に護衛として住み着いて、女どもをキャーキャー言わせながら楽しんでいたってのによ、あのクズは一人でさっさと盗賊団を壊滅させて、捕まっていたガキや女どもを掻っ攫って町に来て、俺たちのお楽しみを邪魔する男どもと一緒になって俺たちを町からたたき出しやがった!
あの時だってそうだ、下らない法律で取り巻きの兵士共がどんどん処刑されちまってイライラしてたってのに、急に魔王軍の基地を攻撃するとかぬかしやがって、クズは正規軍の連中と一緒になって出て行っちまった。
何で俺がそんな面倒なことに関わらなきゃならねえんだよ、そういうのはクズとクズの信者共が勝手にやってろっての、でもうるさい連中が居なくなったから、町のは向かう連中を殺して女どもをキャーキャー言わせる事が出来たのだけは良かったことだな、女たちもきっと俺のガキを宿して満足だったはずだぜ。
だってのに、あのクズめ、帰ってきて早々に俺様のハーレムをぶち壊しやがった!
俺のかわいこちゃん達を勝手に連れて行って、挙句の果てにガキは降ろしただぁ?
役立たず共の来たねぇ種ならいざ知らず、最強の俺様のガキを勝手に降ろすなんて犯罪だろ!
絶対に許せねえ、そう思ってあのクズの無様な背中に全力の力を叩きこんでやったんだ。
なのにあのヤロー、びくともしやがらねー
ふざけんな、俺のパワーを受けたんだから町に居たゴミ共宜しく汚ねえ花火になるのが筋だろうが!
世界の主人公である俺を戦場に引っ張り出して散々な目にあわされもした!
何が英雄の責任だ、そんなものはクズと兵士共が勝手にやってろ!
俺は女の子たちの為にゴミ男共を殺して新しいハーレムを作らなきゃならねえんだよ!
なのに戦場に引っ張り出して正規兵のゴミ共の為に敵を薙ぎ払えだぁ?
ふざけんなつって兵士共を花火にしてやったぜ、あの時は清々したな!
なのにあんにゃろー、俺を魔王軍のど真ん中にぶん投げやがった、魔王軍のゴミがクッションになって死にはしなかったけど、世界の至宝である俺の体中に擦り傷を作りやがったんだ!
もうそれだけで死刑だろって言ってやったんだ、なのに裁判官も、ハーレムの候補も、町に住まわせてやってるだけのゴミ男共もこぞって俺が悪いとほざきやがる!
ムカついて全員爆発させてやろうとしたのに、クズが立ちふさがって全部受けきっちまう
あのクズのムカつくところは、どんだけ爆発させようとしても爆発しやがらねえ所だ!
あのゴミ女神め、なんで俺の力を無効化するような力をあのクズに与えやがったんだ!!
……まあ、その無敵になる力も今や俺の……あん?
何だこりゃ? ただ単に水を操作する能力だぁ?
こんなゴミみたいな能力で俺の爆発を耐えられるわけがないだろ、きっとあのゴミ女神が後からあのクズにだけ力を多く与えたに違いない! エコ贔屓なんてしやがって、マジふざけんな!
こんなゴミ要らねぇ、捨ててやる!
……ふん、ゴミはゴミらしく消えちまえってんだ。
でも、そんな不幸まっしぐらな俺にやっと運が廻ってきやがった。
忌々しい現在を捨てて過去に戻らないかって、魔王軍の残党のヤローが誘ってきやがったんだ。
ざまぁ無いぜ、方法を聞き出してから魔王軍の残党連中に準備をさせて、準備が終わったら皆殺しにしてやった!
経験値が一気に入ったのか、一気にすげーパワーが流れ込んでくるのを感じて興奮したぜ。
それであのクズ共の町を丸ごと生贄にして儀式は完了、まんまと過去に帰還したってわけだ。
世界の主人公である俺に相応しくないクズ共の世界なんぞ、いくらでも生贄にしてやるぜ!
そしてあのクズは女神ごと地獄の底、今度こそ世界は俺のハーレムだ!
……さて、そろそろハーレムにご主人様が向かわなくちゃな、えっとあの時はこの辺から……くそっ、どこからあの世界に入れば良いんだよ、入り口を隠すとかマジであのゴミ女神使えねぇ!
くそっ、くそっ、くそ共が、俺こそ主人公だろうが、さっさと入り口を開けやがれ!!
……ん? なんだ?
奥の方で何かが光って……お、これは入り口じゃねぇじゃ!
やっぱ俺って主人公様だもんな、ちゃんと入り口だって見つけてやったぜ!
あとはこれを潜って……
ーーー
偉大な神々との対談からどれ程の時間が経過しただろうか、私は今、月の裏に建造された隔離施設の中に居る。
既に千年以上の時間が過ぎ去り、その間何度も何度も転生を繰り返し、ようやく準備が整った。
私の名前はチルヤヒメ、最愛の『彼』を待ち望み、私たちだけの愛の巣を守るために日々刃を研いでいる。
神々は、はっきり言って私を恨んでいた。
なのに、二度と姿を見せないなんて簡単な代償と引き換えに、私たちだけが愛し合えるこの施設を作ってくれて、更には彼を惑わした外道の力から彼を救う道具まで用意してくれた。
その上で、彼が転生する時に現れる場所をこの隔離施設に固定し、何百年だって生活できるように、施設内に植物園や食品の生産プラントまで作ってくれた。
二度と会わなくて良いのならと、身を焦がす程の憎悪を私の半身とでも言うべきイワナガヒメに叩きつける事で解消しながら、これ程の用意をしてくれたのだ。
とてもじゃないけど、足を向けて群れない。毎日お祈りだって欠かさない。それくらい感謝している。
もちろん、施設の中に独りぼっちなのは凄く心細い、寂しい、苦しい。
だけど、それももうおしまい。
今日、『彼』が転生を果たす。
手の中で、神様が作ってくれた道具を握りしめながら、その瞬間を待ち続けている。
彼の為に用意した器のストックは万全だ、万が一の失敗もあり得ない。
そうして、待ち望んだ『彼』の姿を見た瞬間……私は、手にした刃を彼の心臓に差し入れた。
「お待ちしておりました」
ーーー
「お待ちしておりました」
そんな言葉と共に、胸に冷たい何かが入り込んで来る。
あまりの激痛に叫ぼうとするのに、身体の自由が利かない。
何が起こっているのか解らないまま、目の前の変な女が笑っている。
くそっ! 何なんだよ! 何で変な女に待ち伏せされてるんだよ!
「さあ、これでもう大丈夫、絶対に守りますからね」
完全にイった目の女が、変な事を呟きながら何かを引き抜く……
俺に目に写ったのは、バカみたいな大きさの剣だった。
そいつが引き抜かれていくのに従って身体から力が抜け、酷い痛みに襲われる。
ふざけるな! 俺は主人公なんだぞ! それが何でこんな目に遭うんだ!
「ふぅ、これで大丈夫なはず……っ!」
くそ、なんだ!?
女が剣を引き抜き切ると、急に剣が灰になって消えちまった……
そして女が急に後ろに振り返って……おいおいおいおい、ふざけるな、なんでテメェがここに居る!?
なんで地獄に落としたはずのあのクズが居やがるんだ!?
『やあ、チルヤヒメ、作業は上手くいったようだね』
クズは親し気にイった目の女に話しかけてやがる、くそ、こいつらグルかよ!
「はい、オオニニギノクニヌシ様に頂いた剣が役に立ちました、これでもう、『彼』が過去に飛ぶことは有りません!」
はぁぁぁぁぁぁっ!!?
ふ、ふざけんな! 俺が手に入れた、俺が史上最強の主人公である証の巻き戻しの力を奪っただぁ!?
くそ、何だ、マジで力が入らねぇ、それどころか、魔族共をぶち殺して手に入れた経験値まで抜けて行ってやがる……何でだよ!
俺が異世界転生して爆裂の魔法でハーレム作って楽しくエンジョイする主人公様のはずだろうが!!
……っ! そうだ、俺にはまだ爆裂の魔法があるじゃねぇか、ここで連中をまとめて爆発させれば!
『ああすまない、視界に入った』
そんな言葉と一緒に、激痛が全身を襲った。
相変わらず声は出ないのに、目だけが俺の状態を写し込む。
身体がズタズタに引き裂かれ、バカみたいな数の剣が突き刺さってやがる。
ふざけんな、こんな終わり方なんて……くそ、何ももう、見えなく……
「お帰りなさいませ」
イった目の女が、目の前に居た。
急な出来事に、思考が追い付かない。
何が起こった? 何をされた?
相変わらず体が思う様に動かない。ただ、夢にしては鮮明過ぎる死の記憶だけがあった。
『ふむ、転生の方も上手く制御出来ているようで良かったよ。それとすまない、遠隔だというのに視界にアレが入ったとたん、反射的に殺してしまって』
あのクズがイッた目の女に意味不明な事を謝っている。
くそ、今度こそこいつらを爆発させて……ああくそ、力が発動しやがらねぇ!
それどころか、俺がどうやってゴミ共を爆破していたのか思い出せねぇ!?
俺に、俺に何をしやがったんだこいつら……
「いいえ、オオニニギノクニヌシ様とのお約束があるのに不安で仕方が無くて、こうして映像とはいえご参列いただくようお願いした私の責任です、オオニニギノクニヌシ様は何も悪くありません!」
くそっ、状況が分からねぇ……解るのは、イッた目の女とあのクズがグルだって事と、俺にとって最悪のピンチだってことだっ!
くそっ、くそっ、くそっ、どうしてこんな目に遭うんだよ、俺は主人公なんだぞ!
『それにしても、ずいぶん良い器を作ったものだ……おっと、いかんいかん、また反射的に殺してしまうところだったよ、申し訳ない』
一瞬、すげぇ寒気が襲い掛かってきやがった。
な、何なんだよあのクズ、これじゃまるで前より、いいやそんな訳ねぇ、主人公である俺の踏み台に過ぎないあのクズが、身の程をわきまえずに嚙みついてきたクズごときがこんな、こんな……
「いえ、私はやっぱりダメな子です、出来るだけ『彼』の管理を頑張りますけれど、どうしても寂しくなったら、通神を繋いでもよろしいでしょうか?」
あぁん?
くそ、そういう事かよあのクズめ、俺が怖くてテメェの女に俺を始末させるつもりだな……
だったらあの女を寝取ってやれば……いや待て、なんであの女、俺を見ているんだ?
その鋏は何だよ、なんでテメェの身体よりデカイペンチなんて持ってやがるんだ!?
く、来るな、来るなぁぁぁぁぁっ!
「あら、いけません、ちゃんといい子にしてください」
ズドンって重たい音が聞こえて、俺の首を挟みこむようにアホみたいな大きさのペンチが突き立てられた。首にバカでかい犬が噛みついたみたいに痛い、何なんだよ、何なんだよこれは!?
「ふふ、ひょっとして私を見てくれたんですか? こんなに硬くなっちゃって……オオニニギノクニヌシ様から気持ちよくなる方法は沢山教えていただきましたから、二人で楽しみましょう?」
ふざけるな!
何が気持ちよくなる方法だ、寝取ろうかと思ったけどこんなキモい女は願い下げだ!
第一、何でオレがあのクズの女なんかとっ!
『はっはっは、それじゃ通神は切っておくよ、末永く楽しむと良い』
あ、くそ、あのクズやろうが消えて……ん?
「……うごける?」
くそ、間抜けな声が出ちまった……だが、あのクズが消えたとたんに、身体が軽くなった!
よし! 爆裂の魔法も思い出せるぞ!
首を挟みこんでるヤベェ鋏は健在だが、動ければ問題ねぇ!
「死ね、クソ女」
女の頭を爆破してやった!
そうだよ、これでこそ俺のちか……なんだ、急に頭が割れるように痛い痛い痛いいだだだっ!?
ーーー
「もう、いきなり何をするんですか?」
気が付けば、目の前に無傷のあの女が居やがった。
さっきのペンチは持ってねぇが、やはり雰囲気がおかしい。
「もしかして、初めてでしたか? 怖くなっちゃいました? しょうがないですねぇ」
くねくねと気持ち悪い動きをしながら、女は俺の襟首を掴んで引き寄せっ?!
……っ、なんだ、何をされた、なんでこんなに腰がガクガクしやがるんだ、何で、なんで身体が痺れて、くそ、考えがまとまらねぇ、やべぇヤクでもぶたれちまったのかよ!?
「ふふ、このキスもオオニニギノクニヌシ様に教わったんです、とっても気持ち良いでしょう?」
ふざけんな、何であんなクズ仕込みのテクでこんな、こんな、こんな……
俺は主人公だぞ! 俺が一番偉いんだ! 俺が、俺が支配するんだ!
その俺が、何でこんな変な女のキスごときでこんな!?
「さあ、たっぷり愛してあげる……うふふっ」
必死に手足に力を込めると、何とか身体が動かせるようになった。
「……っ、く、来るんじゃねぇクソ女がぁ!」
全力で拳を振りぬき、クソ女の顔面から血が流れる。
「きゃっ」
「なにがきゃっ、だ気持ち悪いんだよ! とっとと死にやがれ!」
そして女を押し倒してマウントを採ると、その顔面が原型をとどめなくなるまで拳を叩きこんでやった。
「はぁ、はぁ、ざまぁみやがれクソビッチが、てめぇ見たいなキモイ女、こっちから願い下げなんだよ!」
もうピクリとも動かない女の身体を見下ろしながら言ってやった。
見れば、女の身体は小さくて胸も無いし全体的に貧相な感じだった。
こんなんじゃ寝取る旨味も無いなと鼻で笑った時だった。
「そんなっ、何でそんな酷い事を言うんですか!」
真後ろから、あの女の声が聞こえて、あと、何か硬いもので後ろから殴られたのを感じた。
ーーー
ああ、どうしてだろう、私は『彼』をこんなにも愛しているのに、どうして彼は受け入れてくれないんだろう。
酷い事ばかりを言う彼は、私の前の身体に座り込んで、顔面の原型が無くなるまで殴り続けた。
折角オオニニギノクニヌシ様に教えてもらった通りに気持ちよくしてあげたのに、何で酷い事をするんだろう?
悲しい、とても悲しい、こんなに悲しいのはいつ以来だろうか?
「……っ、くそっ、どうなってやがる!?」
『彼』が眼を覚ましたようだ。
既に、前の彼の身体と、そして私の身体は資源回収装置に入れてある。
次の私たちの身体を作る材料にするためだ。
折角、最高の相性になるように互いの身体を調整して、前の世界の魔王軍なんていう不純物もきれいに取り除いてあげたのに、どうしてこんなに拒絶されるんだろう?
特別にオオニニギノクニヌシ様ご考案の技術で私の受けた全てを自動的に転写する事で何倍も気持ちよくなってもらえるはずなのに……
「ねぇ、何でそんなに嫌がるの? 折角オオニニギノクニヌシ様と一緒に、地獄だったこの世界を作り変えて待っていたのに」
私のそんな問いかけに、彼は目を見開いて、そして言った。
「……てめぇ、まさかあの時の女神だってのか?」
女神などと畏れ多い、自分の小ささを理解した今となっては、そんな風に呼ばれていた事こそ恥でしかない。
だけど一つ納得した、そっか、『彼』は私が誰か気づいていなかったんだね。
それじゃ、おしえてあげなくちゃ!
「そうだよ、私は貴方を愛する唯一の存在、貴方と永遠にここで二人きりで暮らすのです」
そういって手を伸ばすと、何故か彼は怯えたような顔になって……私の頭が爆発した。
それに連動して、時間差で彼の頭が爆発する。
……私たちは装置に回収され、少しだけ早く私が次の身体で目を覚ます。
そうして、彼を転生させるために準備を整え……彼は、ひょっとして爆発の力を制御出来ていないのではないかと思い至った。
なるほど、確かに『彼』は転生の領域で力を受け取ったばかりのはずだ。
それじゃ制御に失敗して暴発させてしまっても不思議ではない。
そんな危険な力で大事な『彼』を死なせるわけにはいかない、彼を転生させる前に、道具を用意する。
「くそ、何がどうなって……」
状況を確認しようとする『彼』の目に、道具を突き刺した。
これも剣と同じ、人間の部分を傷つけずに体内の不確定な力やその制御機構だけを抜き取る道具だ。
神経との接続だってきれいに切り離せるし、身体に痕一つ残さない優れもので、ちょっと痛いだけで済む素晴らしい道具だった。
「ふふふ、これも、オオニニギノクニヌシ様が作ってくれたんです、素敵でしょう?」
痛みに叫ぶ彼を励ますために、信頼と実績のオオニニギノクニヌシ様の作品だとアピールする。
これで少しでも安心して、実をゆだねてほしい。
「これで貴方の爆発の力を除去してあげます、それが終わったら沢山愛し合いましょう?」
痛みを抑えるために、『彼』の首筋に鎮静用のアンプルを居れた装置を巻き付けながら教えてあげる。
何をするのか解らないから怖いのかもしれない、けれど、『彼』なら乗り越えられるはず。
「ふふふ、これくらいならオオニニギノクニヌシ様は痛み止めすら使わないんですよ? だから……」
言い終わる前に、彼が手にした機材で頭を殴られた。
「ふぅ、ふぅ、ふざけんな! 俺はお前みたいな役立たずなんて要らねえんだよ!! 何であのクズと一緒に地獄の底に埋まってねえんだこのゴミ女神が!!!」
……え?
今、彼は何て?
私が驚いていると、私に向けて鋏を振り上げた彼が語ってくれた。
「てめぇなんぞ初めっからあのクズと地獄で拷問されてるのがお似合いなんだよこのビッチが、さっさと死ねぇ!!!」
嘘、嘘、嘘だ、そんなの、嘘だ、だって、だって私は、私はっ……貴方に恋する様に、貴方を愛する様に、そんな風に貴方が作ったんじゃない!
激情と共に、新しい体で目を覚ます。
気分は最悪だ、こんなの知りたくなかった。
悲しいよ、辛いよ、今でも私の心は彼に焦がれて居るのに、この気持ちを抱えたまま、地獄のそこで苦しめだなんて、何でそんな酷い事を言うの?
何かの間違いだって、そう信じたくて彼を転生させる。
今度は変な誤解が無いように、誤解されても暴れない様にちゃんと拘束して、それで話しを聞くことにする。
「くそぉっ、俺を解放しろ! 死ねこのアバズレ! 俺の女が、俺の女どもが待ってるんだ、テメェみたいなキモイ女はさっさと死にやがれぇぇぇぇっ!!」
だけど、目を覚ました彼の口から出てくるのは聞くに堪えない罵倒ばかりだった。
それでも、どうしても彼を求める心が無くならない、満たされずに胸が裂けるほど苦しい。
だから、彼の口を器具で塞いで愛してあげた。そうすれば、少しは良くなると思ったから。
道具についても、どういう事をするのかも丁寧に丁寧に教えてあげた。
全部、ちゃんとオオニニギノクニヌシ様が試した方法だって、全部、オオニニギノクニヌシ様が作ってくれた道具だって……だって、それが世界一安全って事の証明なんだから。
なのに、『彼』の口を自由にしたら出てくるのは罵詈雑言ばかり、嫌でももう理解してしまった。
結局『彼』は、最初から私なんて要らなかったんだ、命令を聞くだけの都合の良い道具が欲しくて、しかも、そんな道具にした私を地獄に捨てた気で居た……
悲しくて悲しくて、沢山泣いた、泣いて泣いて、そして、世界で一番信頼できる神様に助けを求めた。
『なるほど……それは許せないね』
オオニニギノクニヌシ様はとても親身に話を聞いてくれて、私の為に怒ってくれる。
こんなに素晴らしい方を苦しめるための道具として生み出されたと思うと、それだけで死にたくなる。
『だが、チルヤヒメ、君の魂の根底に『彼』を求める本能が刻まれてしまっている。私の力でそれを取り除くことは出来ない、それは君の魂を破壊する事になるからだ……だから、出来ることはアドバイスだけだ……』
辛そうな顔で、残酷な真実を告げられる。
オオニニギノクニヌシ様は私を守ろうとしてくれている。私の魂を壊さないように気を使ってくれている。
だからこそ、私を救う手段が無いだなんて、何て皮肉な話だろう。
『みー55ロッカーに、緊急用の道具を用意してある、君専用の小舟だ……そこから近隣のステーションに飛べるように設定してある』
ああ、やっぱりオオニニギノクニヌシ様はお優しい、どうして、どうして私はあんな男に生み出されてしまったんだろう……
『だが、一つだけ注意だ、あの小舟は万が一のトラブルが発生した時の為に用意したものだ、君専用に調整してあるし、1艘しか存在しない……つまり『彼』を乗せた場合、制御を失って宇宙を彷徨うだけの棺桶になってしまう、くれぐれも注意してほしい』
はい、と泣きながら振り返ると、何故か『彼』の姿が無かった。
まさかと思い、部屋を出る。
駆け足でロッカールームへと足を進めると、何故かドアが開いていた。
今朝、間違えなくドアを閉めた、ちゃんと確認したはずなのにドアが開いている。
その事実に不安を覚えて、急いで部屋を除くと、みー55のロッカーから施錠音が響いた。
急に聞こえるエアロックの音に、私は全てを察した。
『彼』にオオニニギノクニヌシ様が用意してくださった船を盗まれたのだと。
……許せなかった。
勝手に生みだし、勝手に捨て、私を大事にしてくれた人にまで迷惑を掛けようとしている。
そんな『彼』が飛び立つのと同時に、私は『彼』を転生させる。
オオニニギノクニヌシ様はおっしゃっていた、あの船は私専用だから、私以外が乗ればただの棺桶になるって……なるほど、素晴らしいセキュリティだ。
目覚めた彼は、全く状況が理解できていない様子だった。
だけど、もう良い。
ーーー
わけが解らねぇ、どうして俺がこんな目に遭うんだ!
この世界の主人公であるはずの俺が、意味も解らねぇまま殺されるわけがねぇ……
クソッ、何で目が覚めたら身体が何かに固定されてやがるんだ!
周囲を見回すと、そこら中血まみれのだだっ広い部屋だ、俺が何度もあのイかれた女神に殺された空間で間違いない。最初はもっと殺風景な部屋だったから気付くのに時間が掛かったが、部屋に染みついた血痕がさっき目を覚ました時と変わってねぇ、ならそういう事としか思えねぇ……
あのクソ女神、俺が動けないのをいいことに好き勝手しやがって……事あるごとに俺の前であのクズを褒めまくり、あのクズが如何に凄ぇかと自慢しやがる!
それだけでも許せねぇのに、俺の身体でさんざんオタノシミしやがった、それも事あるごとにあのクズならどうのこうのと俺をサゲやがる、気に入らねぇ、気に食わねぇ、マジで許せねぇ……
そういえば、今回はあのイかれた女神の奴がすり寄ってこねぇ……
前までは俺の魅力にヤられたのか目を覚ますたびにウゼェ姿を見せていたはずなのに……
「……申し訳ございませんオオニニギノクニヌシ様、こんな事になってしまって……」
っち、あのイかれた女神の声がしやがる、見えねぇだけであのクズと何か話しているらしい……
『なるほど……それは許せないね』
何が許せないだぁ?
それは俺のセリフだろうが!
この世界で一番偉いのは主人公である俺なんだよ!
なのに何で踏み台ごときが偉そうにしてやがる……気に入らねぇ、気に入らねぇ、気に入らねぇ……
『だが、チルヤヒメ、君の魂の根底に『彼』を求める本能が刻まれてしまっている。私の力でそれを取り除くことは出来ない、それは君の魂を破壊する事になるからだ……だから、出来ることはアドバイスだけだ、本当にすまない……』
クズが気持ち悪りぃ事をほざきやがった。
あのクソ役に立たねぇ女神が偉大な主人公である俺を求めるだぁ?
そんなもん、この世の全ての女がそうなるに決まってんだろうが!
何を知ったかぶって語ってやがる、意味わかんねぇんだよ気持ち悪りぃ……
『みー55ロッカーに、緊急用の道具を用意してある、君専用の小舟だ……そこから近隣のステーションに飛べるように設定してある』
……っ!!
ははっ、しょせん踏み台は踏み台か、あるいは俺が主人公である証か、あのクズめ、この地獄からの脱出方法なんて用意していやがった、きっとこれを聞く為に俺はここに押さえつけられていたに違い無ぇ……
っしゃ、身体が動かせる……足元には俺を縛っていたベルトが転がっている、ああクソッ、身体に痕が付いちまってるじゃねぇか!
思わず叫びそうになった俺だが、半透明のクズに向かって泣きついてるイかれた女神に気取られちゃならねぇと堪え、周囲を見まわす。
すると、あのイかれた女神から見えねぇ方向にドアが見えた。
(……っしゃァ! さすが主人公だ俺、ツいて来やがった!)
思わずガッツポーズしながら、イかれた女神に気づかれない様にそっと部屋から抜け出した。
ドアを静かに閉めてから思わず壁によりかかる。
クソッ、まさかこの世界が脱出ゲーになってるなんて聞いてねぇってのに!
この落とし前は必ずつけさせてやるが、今はとにかく脱出だ……
何故かあのイかれた女神を爆破すると頭が痛くなって、気が付くと最初に目を覚ましたあの場所に戻されてやがった、考えたくないが、身体に何か仕掛けを施されている可能性が高い。
だからこれは戦略的撤退って奴だ、一端イかれた女神から離れて奴らの小細工を取り除かねえと身動きが取れねぇし、たぶん無線か何か仕込まれているに違いない、一端ここから脱出してから女どもにでも調べさせるしかねぇ……
(確か、保管庫つってたよな……)
あのクズが漏らした情報を思い出し、周囲を見回す。
間抜けな事に、天井に案内標識なんてものが飾ってあるのが見えた。
保管庫までのルートがバレバレだ、こんなに簡単にゴールが判明するとか、やっぱり俺が主人公に違いない。
無駄に白い廊下を進み、案内標識の示す通りに進むと遂にゴールが見つかった。
遠くからパタパタと間抜けな足音が聞こえてくるが、もう遅せぇ……
部屋に滑り込むと、あのクズが言ってた番号を探す。
苦戦するかと思ったが、目的の番号はすぐに目に付いた。
(ハハッ、間抜けが……番号が光ってるとかバレバレ過ぎるだろっ!)
しょせん踏み台だからだろう、クズが漏らした脱出艇とやらの番号がチカチカ光ってやがる。
開けて見るとSF映画にでも出てきそうな、メタリックなカヌーもどきが鎮座していた。
近寄ると、プシュっと音がしてガラスの窓が口を開ける。
(ミッションコンプリートってなぁ!)
喜び勇んで飛び込むと、中はやはりSF映画にでも出てきそうなシートがあった。
左右にあったそれっぽいハンドルを握ると窓が閉まる。
外の光景がスライドして行き、周囲の空気が抜ける音が響いてくる。
壁が開いて夜空に星が輝いていた。
(ははっ、やっぱ脱出ゲーの最後はこうじゃなくっちゃなぁ?)
そのまま外へ放り出される感覚を感じながら、俺は勝利に酔いしれていた。
『さて、隔離施設から出たな?』
不意に聞こえたあのクズの声と共に、全身に痛みが走る。
……一体何が、と見下ろしてみると、全身から真っ赤に染まったトゲが生えていた。
いや違う、これ、俺を貫抜いて……
ーーー
……こんなクズに生み出され、クズに惹かれるように作られた私だけど、一つだけ分かった事がある。
クズをズタズタに引き裂いたり、初めて見た時の地面みたいな溶けた鉄を流し込んだり、生きたまま資源回収装置で資源に還元したり……この最低最悪のクズを殺すと心の渇きが癒されるんだ。
きっと、私が持っているのが『彼』みたいなクズが作った偽物の愛だからだろう。
本当に愛し合っているなら、半身であるイワナガヒメみたいに互いを思い合い愛し合えるはずなんだから。
相手の全ての憎悪を受け入れて、その身を差し出せるはずなんだから。
だから偽物の愛しかない私は、今日も『彼』を苦しめて殺す。
そうする事くらいしか、こんな愚かな私のために頑張ってくださったオオニニギノクニヌシ様やコノハナスセリヒメ様、イワナガヒメに顔向けできない。
きっと皆、私の愛がこんなに歪んだ偽物だって、気付いていたんだと思う。
それでも、皆優しく、普通の人みたいに接してくれた。
愛し合う事がどういうことか、イワナガヒメを通じて体験させてくれた。
きっとあれも、私の愛が偽物だって暗に教えてくれていたんだと思う。
残念だなぁ……それに気づいていれば、こんな風にならずに本物の愛に目覚めていたのかもしれないのに……こんな事をでしか自分を満たせなくなるなんて、本当に残念。
ああ、どうしても涙が出てしまう……偽物でしか無いくせに……
こんな悲しい気分は、責任を持って『彼』に解消してもらおう。
定期的なオオニニギノクニヌシ様との通信で、施設内の設備を応用して最新鋭の拷問器具を作らせてもらっている。
人体実験なんて非道な事は、人間ですらないクズで行うべきなんだ。
それでオオニニギノクニヌシ様のお役に立てるなら、すごくうれしいと思う。
だって、こんな偽物の愛しかない私が、大好きなオオニニギノクニヌシ様のお役に立てるんだから。
本当に、今更過だ……
今更、私から好きだなんて言えるわけがない。
こんな薄汚い愛もどきしかない女なんてきっと迷惑だから。
大好きな人たちをこんな汚い私が汚すなんて絶対に許せないから。
だから私は、今日も明日も明後日も未来永劫、この施設が朽ちてなくなるまで『彼』を殺し続ける。
どうせ、そんな行為でしか自分を慰められない壊れた存在なんだから。
「ひゃははっははあ、今日はど~んな風に殺しましょうか!!?」
だから最後まで、責任もって『彼』を殺し続けよう……
地獄の脱出ゲーム(ルール)
1.チルヤヒメへのあらゆる行為は『彼』の身体に転写されます。快楽も苦痛も全てです。
2.チルヤヒメは『彼』を施設に備え付けのクローニングマシンで作った体に何度でも転生させられます。
3.施設内に居る限り、チルヤヒメは好きなタイミングでクローン身体に転生できますし、死ねば自動的にクローンに転生します。
4.施設を完全に制御できるのはオオニニギノクニヌシだけです。
5.脱出するとオオニニギノクニヌシの手で抹殺されます。
6.施設の物資は一部例外を除き全てリサイクルされています。
7.施設の耐用年数は8000万年です。
8.チルヤヒメの感情は愛憎に変化していますが、『彼』への執着心は絶対に失いません。
9.『彼』の身体は常に最高の状態を保つため10年程で次の身体に強制的に転生します。
10.『彼』の精神は最初の転生時の状態で固定されており、記憶だけを引き継ぎます。
果たして彼は脱出できるのでしょうか!
(※なお脱出した瞬間にオオニニギノクニヌシに抹殺されます)




