第三章、ゆらりと佇む亡霊屋敷 灯雷伝 ⑧
【第八話、灯雷伝】
……気分がとても良い。
どんな風に復讐をするかとか、今から何年ぶりに外に出るとか……そういうことを考えれば考えるほど……俺は……自分が別の何かに変わっていくようで…………とても心地いい。
「灯雷、とうとうこの日が来たのう。
お主……初めて会ったときとは見違えるほど男前になりおって…………わしがもう少し若かったら惚れておったぞ」
「あんたなんてこっちから願い下げだ。
今まで何回、あんたのよく分からない訓練でこの体が焼かれたと思ってる」
「昔のことより今と明日のことを意識せい。
……さて、そろそろ出発するとするかの……灯雷!」
「あぁ、外に連れてってやるよ!!!!」
この女と過ごして何年だかなんて数えてないが、この女が俺の体を無遠慮に燃やすたびに、俺は確かに小さな黒い炎が自分の中に灯り、次第に大きく熱くなって俺の力になるのを感じた……そして数日前にこの女が指示した通りに腕を振るったとき、この女と同等の力を持った黒い炎を出せるようになっていた。
生み出した自分の黒い炎を俺は理解し、使いこなすことができるようになったと確信した後、俺はあの女にこの穴を抜け出す方法を提案した。 その方法は【この穴の真上を全て焼き尽くし、地面と直接繋げる】というものだ。
この女と俺の黒い炎ならそれは可能だということはこの女も理解していたみたいだが、その為には俺の中の炎をもっと強力なものにする必要があると言われ、今日まで力を溜めていた。
……俺は今日、この穴を抜け出す。
……ははは、気分が良いなぁ。
とても、素敵な気分だ。
「灯雷! もっと集中しろ!
このままじゃわしらは土の下敷きになるぞ!」
「そんなこと分かってる!!
だから今、燃やしてんだろうが!!!」
もうかなり、力を消耗している。
それでもまだ地上まで、燃やすことはできないか…なら……。
「このままやってもだめだ!!
確か、地上の下に大きな空洞があったはずだ!
そこまで燃やせれば十分だろ!?」
「なら、そこまで燃やすまで踏ん張れ!
わしも長くはもたんぞ!」
「くそ! あああああああああああ!!!!
あああああああああああああああ!!!
…………………………はぁ、はぁ、終わったか?」
「そのようじゃな。
まぁ、地上までは繋がらなかったがの。
お主の言う通り大きな空洞があった…この空洞から地上に出られる出口を探せばよい…ほれ、早く行くぞ」
「おい、少し待ってくれよ。
こっちは……かなり力を消耗したんだ」
「なんじゃ、貧弱じゃのう。
甘やかし過ぎたか?」
「頭まで自分の炎で焼かれてんのか。
……はぁ、はぁ……ふぅ…よし、もう大丈夫だ。
…………ずいぶん広いな。
しかもあれは明かりじゃないか?」
剥き出しの岩肌に囲まれた空洞が広がってる。
……この光景…どこか覚えがある。
たしか……あそこに血が広がってて俺が………だめだ、思い出せない。
そもそも、今の俺にとってはもう過去なんてどうでもいいことじゃないか………復讐さえできればそれでいい。
……………そのはずだ。
「そのようじゃな。 じゃがわしらのような者が急に現れたら相手は警戒するじゃろうし、攻撃してくるかもしれぬ。
それにわしもお主も今は力をほとんど消耗してる、ここは見つからずに動くぞ」
「あぁ、賛成だ」
「…………ん? 灯雷、風が吹いておる。
それも前や後ろからじゃなく……真上からじゃ」
「…あぁ、確かに感じるな。
ということは………ここが出口か」
この空洞にはどうやら言葉を話せる生き物が住む村があるらしく、さっき見えた明かりに近づいて確認したところ、かなりの数の角の生えた人型や奇妙な生き物が住み着いていた。
俺達は村をある程度観察した後、見つからないようにそこから離れこの空洞の出口を探していたが、どうやら見つけることができたみたいだな。
「……この穴はいったいどれだけ深いんだ?
ここからじゃ風だけで外の明かりが見えやしない」
「まぁ、今が夜ということも考えられんわけではないが……そうとうこの穴が深いのには違いないのう。
………よし、灯雷。 わしの肩に捕まるんじゃ」
「おいおい、捕まるって言ったって俺があんたの肩に捕まれば穴の外に出られるようになるとでも言うのか?」
「いちいちうるさい奴じゃのう、いいから黙って早く捕まるんじゃ……黒焦げにされたいのか?」
「もう何度も黒焦げにしたくせに今更じゃないか?
……ほら、捕まったぞ」
「よし、しっかり掴んでおれ………じゃないと……振り落とされるぞ?」
「……は? それどういう……うおおおおお!!!!????」
「ははは! わしもまだまだやれるではないか!
空を飛ぶのはやはりいいものじゃのう!」
この女、黒い炎を下向きに放つことで空に飛びやがった……
風が上から体を強く叩いて来て、今にも振り落とされそうだ………。
「はははははは! 楽しいのう……ん? 灯雷、まずいぞ……力がなくなりそうじゃ……」
「はぁ!? あんた!
本気で言ってんのかよ!?」
「本気も本気じゃよ……灯雷、交代じゃ。
わしが合図したら下向きに炎を放て「
「おい、ちょっと待てよ!
俺の力も、もうすっからかんなんだぞ!?」
「それでもじゃ……もしお主が失敗したなら……わしらは仲良く逆戻りじゃのう………灯雷、準備はよいか?」
「………くそ! 分かったよ!
いつでもいい! 合図しろ!!」
「よし……………今じゃ!!」
「くっ……ああああああああ!!!!!」
………あの穴に戻るわけには行かないんだ。
俺は………復讐を果たすためにこの穴から抜け出さないといけないんだ………こんな所で………。
「……………こんな所で……諦めてたまるか!!!!!!!」
「……………はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
「おぉ、久しいのう。
これが今の地上の景色か」
「………………ふぅー、ついに…………」
「あぁ…………わしらはついに自由じゃ!!」
長い時間、暗く光のない穴にいたのに太陽の日差しは俺を優しく照らし、外の空気は少しずつ淀んだ穴の空気が詰まった俺の肺を綺麗にしていく。
……………穴を俺は抜け出した。
………この日をどれだけ待ち望んだことか。
……………俺は……………自由だ。
「ふふふ………はははは………………待っていろよ、魂魄妖夢。
必ず見つけ出し………………殺してやる」
「おー、おー、怖いのう…………灯雷、話がある。
お主にやることがあるようにわしにもやらねばならないことがあるんじゃ。 じゃから………………わしとお主はここでお別れじゃ」
「………………そうかよ…………まぁ、出会いは最悪だったが……なんだかんだ俺はあんたに感謝している。 いままでありがとうな」
「…………わしとここまで長く一緒にいたのはお主が初めてだったんじゃ。
大戦での殺しは何よりも楽しかったが………………お主のような者があの時、わしのそばにおったら………………わしは、救われていたのかもな。
……………さて、もう行け。
わしも暇ではないのだぞ」
「あぁ……じゃあ、【またな】」
まずは人の居る場所に向かって妖夢が今どこにいるか調べよう。
そうだな…………こっちの道に沿って行くか。
「………………【またな】………………か。
………………また………………会えるといいのう………灯雷………。
………………さて、わしももう行くかの」
…………あぁ、いい気分だ。
砕けた骨、散らかる臓物、真っ赤な血液……………
…ははは………………ははっ………………ははははははははは!!!!
楽しみだなぁ!!!!!!
楽しみだなぁ!!!!!!
あいつは今何してるんだろうなぁ!!
………………むかつく。
「た、頼む…………助けてくれ……」
「………………お前、【魂魄妖夢】をしってるか?」
「こ、魂魄?…………わ、分からない…………」
「そうか…………あぁ、むかつくなぁ!!!!!」
「ひぃ!…………だ、だれか!助けてくれ!」
「むかつくむかつくむかつくんだよ!!!」
「や、やめてくれ たの【むかつく!!】………………」
「あぁ、また分からなかった。
………………どこにいるんだ?
魂魄妖夢………………」
この村でも手掛かりはなし。
朧䵷道と別れてから、数十人程度の群れを何度も回ったが………………妖夢の居場所以前に妖夢を知っている人間さえいない………………もう小さな村を回っても意味はないか。
あぁ、むかつくなぁ………………いったいどこにいるんだよ。
「……俺はこんなにお前を探しているのに…………お前は俺を穴に落としたくせに!!!
どこだ!! どこにいるんだ!!!!」
……くそっ、冷静になれ…………。
俺にはこんなことをしている時間はないだろう。
俺は昔、妖夢にあの穴に落とされた………………でも、俺にだって生まれた場所があるはずだ。
俺の故郷が見使えれば何か分かるかもしれない。
俺の故郷………………俺の故郷は………………。
「………………やっぱりだめだ、どうしても思い出せな【ひ、灯雷……か?】………!?」
誰だ? こいつ。
見た目はボロボロだし体は傷だらけだ。
それに、片方の腕も折れてる。
だが、こいつ…………どこか見覚えがある。
「ひ、灯雷……生きてたのか…………本当に良かった……いや、先にお前に話すことがあるんだ…………
いいか、灯雷………………今、俺達の村は妖怪が襲われているんだ…………村のみんなは………………残念だがもう助からないんだ………………でも、お前は何としてでも俺が助けてやる!
ここの道を道沿いに進んだところにある大きな岩の陰に俺の新しい鍛冶屋がある。
いいか? 昔の場所じゃなくてこの道を進んだところの大きな岩の陰だぞ?
………………さぁ、行くんだ………俺は大切な人を助けないといけないからな………………」
「………………うん、分かった。
でも、おじさん…………妖夢について何か知らない?」
「………………そうか、灯雷は知らないよな………………今、お前にそのことを話すのは俺も辛いけど………………俺がいなくなったらお前しか妖夢を覚えていてやれる奴がいなくなるしな………………よく聞け、灯雷」
「うん」
「三年ぐらい前だ………妖夢が村に泣きながら帰ってきたとき、お前があの穴に落ちたということを俺たちは妖夢から聞いた………………お前が穴に落ちたことを知ったお前の両親が穴の中に入って助けに向かおうとするのを止めるのに苦労したよ………………助けに行かなかったのは本当にすまんと思ってる。
だけどな………………あの穴は本当に危険なんだ………そんなところに、働き盛りのお前の父と母を向かわすわけには行けなかったんだ。
それからの毎日、妖夢は笑うことも、泣くこともしないで………正直、俺達は見るに堪えなかった。
………………お前を無くした両親と妖夢を正面から向き合うことが出来なかったんだ。
………………………………お前の両親は………………その二ヶ月後に自殺した。
………………朝に首を括ってな………………遺書にはお前への謝罪が書かれてたよ………………そして、せめてお前と一緒の場所に居たいからって書かれてたんだ。
………………………………すまんな、灯雷……本当に」
「………………大丈夫、俺は大丈夫だよ。
それで………………妖夢は?」
「あ、あぁ………………妖夢はな、ずっと無気力に見えた。
毎日……静かでな…………俺は妖夢がどんな声だったかすらも忘れかけてた。
俺達は本当に最低だ……………お前を失ったお前の両親を自殺に追い込んで………………本当に、本当に俺達は……最低だ…………俺達は一人残らず、お前とお前の両親を失った罪悪感で眠れなかっ た………皆、疲弊していた…………そんな俺達が…………妖夢が見当たらないことに気が付いたときには
…………もう、手遅れだった…………どれだけ探しても妖夢が見つからなかったんだ。
眠らず、何日も探し続けた…………何日もな。
でも………………妖夢は見つからず……………俺たちは妖夢さえも守ることが出来なかったんだ………。
………………だから、せめてお前だけは………………お前だけは何としても生きてくれ………………こうして帰ってきたお前を生かすことが………………お前の両親と妖夢への………今の俺にできる唯一の償いなんだ……………さぁ………早く行くんだ」
「分かったよ。 おじさん」
「よし、いい子だ…………俺が戻るまではじっとしてるんだぞ。
それと………………もし、俺が戻らなかったら…………家の中にあるものを金に変えてどこか遠くへ行くんだ………………それがお前のためだ、灯雷……」
「うん…………じゃあね」
「………………じゃあな、灯雷……」
………………あいつの言うことが正しいとするなら妖夢は死んだのか?
……………それだけは許せねぇ……………それだけは………いや、妖夢がどこに居ようが関係なかったな。 たとえ、あの世に居ようが見つけ出すだけだ……………そして、復讐を。
「…………あの世………あの世に行く方法か………………死ぬのが手っ取り早いんだろうが………………俺も死にたいわけじゃないしな………………はぁ、また調べ直しか」
とりあえず、大きな村に行ってみるか。
そういえば前の村で、東に発達している村があるって話を聞いたことがある。
確か、東は………………こっちか。
「………………ここが…………あの世。
………………【冥界】か……」
………………長かった。
もう朧䵷道の顔もあまり思い出せない。
………………あの穴から抜け出し…………復讐のために………ここまで来た。
冥界に繋がる階段……………まさか、その階段へと行く方法が………あんな小さな村の祠の中にある【刀】で自分の首を斬ることとはなぁ………………夢にも思わなかったぜ。
ここにたどり着くまでに三年も時間を無駄にしちまったが………………それも、もうどうだっていい。
「………………魂魄妖夢。
………………久しぶりの再会だ…………俺を忘れてるだろうな。
だけど………………もう全てどうだっていいんだ。
………………お前を殺せれば………………どうだってな」
手が震える………黒い炎がにじみ出てくる。
早く………………探し出さないとな。
「この階段を超えた先に………………妖夢はいるのか。
………………楽しみだなぁ………………」
「の一人! 花堂威様が開始の合図を切らせてもらう!!
……鬼怒! それに妖夢! 用意はいいか?」
「あぁ」
「はい」
「それじゃあ最終試験………始め!!!!」
………はは………はははは………………。
………………居たな、妖夢。
やっと見つけたぞ………………。




