第三章、ゆらりと佇む亡霊屋敷 灯雷伝 ⑦
【第七話、神の時代を終わらせた者】
「神の時代?……なんだそれ?
それに封印されたって…………どういうことだ?」
「そうじゃなぁ………後々、聞かれるのも面倒だから今話しとくかの。
じゃが、話せば長くなる………わしは喋りが上手くないからのぅ。
灯雷、こっちに来れるか?」
「あぁ、心配いらない」
さっきまで俺の足はぐちゃぐちゃになっていて、
とても歩けるような状態じゃなかったのに………今はすっかり治ってしまってる。
………………俺は、いったい何者なんだ?………………だめだ、思い出そうとすると何か嫌なことまで思い出してしまいそうな気がしてくる。
だが………………自分が何者か分からないのは気持ち悪いし、さっき朧䵷道が言っていた【混ざってる】というのもどこか納得している自分がいる。
俺は何を忘れてるんだ?………………
「灯雷、何をしているのじゃ。
こっちへ来い」
「あ、あぁ、少し考え事をしてたんだ………………。
………………………………なるほど、いい壁だな」
「阿保。 これはわしが長年愛用している【椅子】じゃ。
まぁ、よい………………そこに座れ、話してやる」
「どこに座ったって変わらないと思うが…………。
…………それで? 神の時代を終わらせたってどういうことなんだ?」
「それを理解するにはまずわしを知ることが必要じゃ」
「はぁ? あんたを知らないといけないのか?
俺を黒焦げにしようとした女の話なんて聞きたくないんだが」
「わしが黒焦げで済むわけなかろう。
いいから黙って聞いとれ」
「………………」
「よし、上出来じゃ。
じゃあまずは………………」
………………右腕から黒い炎を出して、俺を強制的に喋らせないようにしといて何が上出来だ。
『お主がどういった世界で生まれ、生きてきたか、わしは分からんが…………少なくともわしが生まれた時代は神と呼ばれる個々が様々な力や姿を持ってどこからともなく生まれてくる生き物だけがいたんじゃ。
神の中には風を、水を、炎を、大地を思うがままに操れる奴もいれば、命を大切に思い自分より弱い神々を必死に守ろうとする奴もいた。
そんな時代にわしは不完全な神として生まれたんじゃ。
わしは本来、純粋な炎の神として生まれる予定だった。
じゃが………わしが実際に生まれ落ち、自分の手を見たとき………………わしの両腕はとても純粋とは呼べない【黒い炎】を生み出していたんじゃ。
この黒い炎の力が相当神々には危険に見えたんじゃろうなぁ………………生まれて間もない………………まだ自分が誰かも分かってないようなわしを奴らは殺そうとしたんじゃ。
………………じゃが、わしが殺されまいと黒き両腕を神どもに振るったとき………………奴らは跡形もなく消えていて………………わしはその時………………この黒い炎の使い方を知ったんじゃ。
じゃが、わしも生まれたばかりの身で力を使った………………ゆえに一人だけ………………小さな小さな神を逃がしてしまったんじゃ。
………………生まれてから数日経てば、この力がどれだけ強力なものなのかに気づいた。
この力で神を楽に殺す方法も、残酷に殺すやり方も、わしは…………自分の力に酔っていた…………もっと、もっと………神どもを焼き尽くしてやりたいと思った。
………………生まれて間もない罪のないわしを奴らは殺そうとしたんじゃ……………この世の全ての神を殺し尽くしたいと思うようになった理由はそれで十分じゃった。
そしてわしが、わしの生まれた場所にいた他の神どもを殺し尽くした頃、わし一人と日の本で最強と謳われる【火神 ひしん】を大将にした…【東西南北大戦 とうざいなんぼくおおいくさ】が始まった。 …わしは最初、奴らを燃やす快感を長く味わいたくて一人ずつ丁寧に殺していたんじゃがな…あまりに多く湧いて出てくるから途中からわしも己を忘れて暴れまくってやったわ。
…それから多くの神を殺し…この戦で初めて、殺した神の顔が見えたときには…わしの周りには山のように塵が盛り上がり、大地はわしの炎で黒く染まっておった。
その時じゃ…奴が…火神が現れたんじゃ。
その真っ赤な炎はわしのように黒く淀んでいなく…初めてわしは炎が本来こいつのように純粋なものなんだと知ったんじゃ……わしは生まれて生きていく中でどこか自分の力を嫌っていたんじゃ…火神の炎はわしの穢れやわしに必要のないこの黒いの炎をも燃やし尽くしてくれると思った。
……わしはその時、死にたいと火神に願った…。
………わしの体は間違いなく火神の偉大な炎で焼かれ、神を殺す感覚も…神を殺したい衝動も燃やされ…斬られ、裂かれ、突かれる痛みからも解放されたと…わしの願いは叶ったと……思っていたんじゃ……。
じゃがな、わしの願いは少しも叶っていなかった。
わしの体は確かに存在し、受けた傷の数々もそのままじゃった……わしは失望した……死というものに…火神に……生まれ落ち、間違いを信じ…正しさを黒く燃やし尽くしたわし自身に!…………それからはわしの黒き炎と火神の偉大な赤き炎が日の本を長く、長く焼き尽くした。
わしと火神の戦いは長く続き、どちらが勝ってもおかしくはなかったじゃろう……それほど火神の純粋な炎の力は、わしを追い詰めていたのじゃ………じゃが、わしは自分の身に確かに死を感じ始めたとき……死ぬことを恐れてしまったんじゃ。
わしの体はもう既に戦える状態ではなかったわ。
じゃが、それは火神とて同じことであった。
わしらは互いにこの一撃で長き戦が終わることを感じ取って………最後の炎を放った。
その時、わしは自分の右腕を犠牲に火神にわしの黒い炎をぶつけてやったんじゃ……おかげでわしの右腕は焼け落ちてしまったがの…………火神をわしは殺したんじゃ。
じゃがわしも火神との戦いを終えた後は、もう動ける状態ではなくてな……わずかに生き残っていた弱い神どもにも勝つことはできず、神どもはわしに鎖を施した後この穴の中に封印されて今の今まで退屈してたってわけじゃ……そしてそこにお主が落っこちてきたんじゃよ。
……理解は出来たかの?』
『……要するに、あんたは昔の神様だったけど変な力を持っていたから他の神と戦うことになってその戦の中で力尽きてこの穴の中に封印されたってことだろ?』
『…簡潔に言えばそうなるかの……。
そこでじゃ、灯雷。 わしはいい加減この穴から出たいと思っておる……じゃが情けないことにわし一人ではどうしてもこの穴から出ることは叶わなかったんじゃ。
そこでお主に頼みがある。
……わしをここから出してくれぬか?』
『もし、俺があんたの頼みを聞きたくても……俺に何が出来るというんだ?……俺は力なんてこれぽっちもないただの……ただの…………えっと……なんだっけ…………』
『安心しろ。 わしも無計画に言ってるわけではない。
灯雷、お主がわしの頼みを聞くのならわしのこの黒い炎の力……お主に分けてやろう。』
『は? 分けるって……どういうことだ?』
『そのままの意味じゃよ。
お主にわしの力を混ぜ合わせ順応させる。
そうすればお主もわしと同じ力が使えるんじゃ…………お主……復讐したいんじゃろ?』
『……復讐?』
『そうじゃ。 お主はさっき【魂魄妖夢に落とされた】と言っておったが………わしにはお主がその魂魄妖夢とやらに復讐をしたいように見えるがの。
どういう経緯でお主がその魂魄妖夢に落とされたかは分からんがお主の中にはのう…………わしと同じ憎しみと絶望があるんじゃよ』
『自分は悪くないのに……落とされたんじゃろ?
この穴の中でお主が受けた傷の数々は全部その魂魄妖夢に落とされたからなんじゃないのかの?
もし……わしの言ってることが当たっているのなら……復讐のためにわしの力を受けとれ。
黒き炎はお主の復讐を必ず果たすと約束しよう』
『…………』
この女を信用してるわけじゃない。
この穴に落ちて何があったのかはあまり覚えてないし、自分が元々何だったのかももう分からない。
……だが、【魂魄妖夢】。 そいつのせいで俺はこの穴に落ちた…………それだけは忘れていない。
……癪に触るがこの女の言う通りだ……俺は妖夢が憎いんだ…………復讐…………したいんだ。
その役に立つのがこいつの力だと言うのなら……
『……外、連れてってやるよ
忘れ物しないようにな』
『…ははは! 失えるものはもう全て失った後じゃよ』
……俺は……受け入れよう。




