第三章、ゆらりと佇む亡霊屋敷 ②
【第二話、どんな者にも届く刀】
あの後、紫に帰してくれたら何でも好きなものを作ってあげると
言ったときはだいぶ迷っていたが結果は変わらなかった。
それと薄々感づいてはいたが、やはりここは四つの勢力の一つである【白玉楼】らしい。
だが、紫が言うには白玉楼は四つの勢力の中でも幻想郷に最も危害を加えずにいる勢力だから気にしないで妖夢を鍛えてあげてと言われた。
なんでも危険なのは幽々子や妖夢ではなくあの桜、【西行妖】によって幻想郷が崩壊しかけたことがあったから、らしいが幽々子や紫がなんとか封印し今はほとんど危険ではないけど僕には一応知っておいて欲しかったらしく四つの勢力の一つに加えたんだそうだ。
さて、幽々子から白玉楼の説明や妖夢のことを教えてもらったが妖夢は今13歳だそうだ。
13歳、しかも女の子となるとできることはだいぶ絞られてくる。
あと、妖夢はどうやら人間らしい……でも幽々子は亡霊だそうだ。
………………そういうことは逃げることができる場所で言ってほしい。
まぁ、とりあえず幽々子も僕の魂を取ったりはしないと約束してくれたから大丈夫だろう。
そして妖夢を鍛える方法だが、やはり武器を使うのが一番手っ取り早いと思い、幽々子に武器は置いてないか聞いてみたところどうやら【楼観剣】という刀があるらしい。
だが、この刀を使うにはまだ妖夢は幼すぎるとも言われた。
ならもうやることは決まったも同じだ。
【ドキドキ! 刀を扱うための修行!】を始めよう。
「じゃあよろしくね。妖夢」
「はい。よろしくお願いします」
来てすぐは流石に急ぎ過ぎだと思い、一晩開けて今は朝の八時ぐらい、僕と妖夢はお互いに木刀を左に置き白玉楼にある道場で正座をしている。
妖夢は人間、しかも女の子ではあるが戦いの場ではいつかは生き物を殺すときがやってくる。
その命を奪うという罪に押しつぶされないようにしなければいけない。鬼と仲良しな人間として。
「さて、妖夢。 君は何のために戦いたい?」
「何のため...ですか?」
「あぁ、そうだ。
もし妖夢が戦いで死にそうなとき、守りたいものや譲れないものがあれば人間は死なないんだ。
だから、妖夢に決めておいてほしい。
何のために戦い、何のために傷つけるのかをね」
「........私の使命は幽々子様を守ることです。
そのために命を捧げられるのなら【それじゃあだめだ】...」
「それじゃあ明日には死んでるぞ?」
「...理由を聞いても?」
「あぁ、いいよ。 戦いの場では誰しもが生きたいと願っていて誰もが殺す覚悟をしている。
そんな戦場にもし今の妖夢が迷い込んだら例え強くても決して生きて帰ることはできないよ。
僕は妖夢に使命を聞いたんじゃない、君が何のために戦えるかを聞いたんだ」
「私は使命のために戦えます」
「戦えるのと勝つことは違うよ。
妖夢、僕の言葉が正しいと思わなくていい。
僕も今日まで迷いながら戦ってきた。
だからこそ何のために戦うかは決めてほしいんだ」
「それが鬼怒さんの教えなら、分かりました」
妖夢はまだ幼い、そんな妖夢に何のために戦うかなんて問う方がどうかしてると僕も思う。 でも幽々子と紫に頼られた以上僕も生半可な気持ちでは教えられない。
それに妖夢が使おうとしてるのは刀だ。
それはどんな形でも相手を傷つける。
だからこそ、その罪に心が潰されないように僕は妖夢を鍛えなければいけない。
それこそ、僕なんかを軽く圧倒できるくらいには。
「よし、じゃあ早速木刀を持って構えてみてくれ」
「はい。 こんな感じでしょうか?」
「うん。基本はいいよ、じゃあ刀の振り方を教えるよ
まずは........」
「お疲れ様〜妖夢、あと鬼怒先生も」
「幽々子、先生なんてよしてくれ。
妖夢だって望まないだろうし」
「あら、そう〜?
以外と似合ってるのに〜」
「....幽々子様、私はお食事の用意をしてきます」
「今日も期待してるわ〜妖夢」
「もったいないお言葉です。 では」
一日目の稽古が終わり今は夜だ。
といってもここは一日中暗いみたいでこのままじゃあ幻想郷に戻ったとき生活リズムが大変なことになってるかもな。
妖夢は俗に言う天才肌というやつなのか今日のうちに基本の構え方は覚えてしまった。
それと、紫はもう帰ったらしい。
...挨拶ぐらいしてけばいいのに。
紫はときたま冷たくなる時がある。
「それで鬼怒、妖夢はどうだった〜?」
「素直な意見は覚えがいい。
ただ、自分が何のために戦うのかが分かってない。
そこを理解するまでが大変ってとこかな。
刀の扱い方もうまいからね」
「あら、それなら鬼怒に任しておけば大丈夫そうね〜」
「僕じゃなくて妖夢を褒めてやってくれ。
それに明日からはよりキツくなるからな」
「うふふ、鬼怒はいい先生ね〜」
「だから、そんなことないって」
妖夢には才能があると思う、それも刀の才能だ。
教えてる時でもまるでその構え方を知ってるように構え始め、最初は驚いた......ただまだまだ未熟。
これからが楽しみで仕方がない。
「それにしても鬼怒は刀を扱えたのね〜。
見た感じはそんなことできなそうなのに、見かけによらないわね〜」
「いやいや僕は刀なんて持ったこともないよ?」
「「ガシャン!」」
「...え?」
「...なんだ?」
「...どうしたの〜【妖夢】?
お盆を落としちゃって」
「......先生、貴方は刀を持ったこともないくせに私に教えを説いたのですか?」
「いや、それには訳が...」
「言い訳ですか、聞きたくありませんよ、そんなの。
幽々子様、私は刀を持ったこともないような者に刀を教えることなどできないと思います。
この者を私の師として認めることはできません。」
「...うーん....妖夢は鬼怒の言うことを黙って聞くのよ?」
「はい。」
「鬼怒言いたいことがあるでしょう?」
「あぁ、ありがとう幽々子。
妖夢、僕を師として認められないのなら実力で僕を追い出せばいいじゃないか。
それをわざわざ幽々子に頼み込むなんて...妖夢は戦場であの人を殺したいと誰かにお願いするのか?
そんな余裕なのか? 妖夢は」
「...分かりました。
貴方がそういうのなら.....」
「幽々子、楼観剣を出してきてくれるか?」
「...いいの?」
「あぁ、妖夢もそっちの方が本気になるし、
なによりこれはもう戦いだ。
妖夢、幽々子が刀を持ってきたら庭に出てきてくれ。
それまで待ってる」
「...分かりました」
妖夢が言った【刀を持たない者には刀を教えることなどできない】というのは大正解だろう。
僕の言葉が矛盾しているのも分かってる。
じゃあ、何故僕は刀を教えることを拒否しなかったのか。
それは簡単だ、例えどんなに多彩な技を使える剣士でも出会った相手が反応もできない速度で刀を振るってきたら勝つことはできない。
例えどんなに守りができる剣士でも戦う相手が鬼なら意味を為さないだろう。
要するに既存の刀の構え方を教えたところで所詮それは人間用、凄まじい力と防御力を持つ鬼や力と速さが桁違いな幽香のような妖怪が相手じゃ勝ち目はない。
そのため僕が妖夢に教えるのはどんな相手でも勝つことのできる刀の扱い方。
それが例え遥かに自分より上の存在の相手でも僕の教える刀を極めた妖夢の刀なら届くことができる。
まだ、そんなレベルになるにはまだまだだし、やはり基本的な部分は大事だからしばらくは基本の往復になるだろう。
だがたとえそうだとしても今日、【どんな相手にも届く刀】への一歩を進み出したのにまさか今日妖夢と戦うとは思わなかった。でも、これもいい経験にしなければいけない。
僕は妖夢の先生であると同時に良き挑戦相手でもある必要がある、良き師と良きライバル、この二つは人間を信じられないほどに成長させてくれるんだ。
さぁ、妖夢。 僕に君の可能性を見してくれ。
「はい、妖夢〜これが楼観剣よ」
「はい、確かに受けとりました」
私は幽々子様を守るためなら命を捨てる覚悟がある。
でも、今の私では幽々子様を守るために戦うことはできない。だからこそあの男に刀を教わった。
不満だった。 何故あんな男に教わらなくてはいけないのか。 でもあの男は言った、【これはもう戦いだ】と。
だから私はあの男を帰さない。
私は今日初めて人を殺す。
「...妖夢〜顔が怖いわ〜」
「え?...は! 申し訳ありません! 幽々子様!
不快な真似をしたことどうかお許しを!」
しまった! ついあの男のこと考えていて幽々子様を不快にさせてしまった。 これではいけない、あの男程度私は殺すことができるはず......でも震えがさっきから止まらない。
.....何故かはわからない。
「...妖夢、私は信じてるわ」
「...私をですか?」
「えぇ、もちろん。
妖夢が私を守ってくれるって信じてる。
だけど...鬼怒は強いわ。
でも妖夢は負けない。
そう...信じてるわ〜」
「...必ず、必ずお守りいたします!!
なので幽々子様はどうかご安心を」
「やっぱり妖夢は頼りになるわ〜」
「では行ってきます」
「えぇ...頑張るのよ」
楼観剣を腰にさし、庭の中央にいる男の方へ向かう。
木刀より遥かに重いこの刀は人を殺す道具なのだと改めて実感する...だが迷いはない。
幽々子様を守るために私は刀を鞘から引き抜く。
「さて、もう一度だけ聞くが妖夢は何のために戦うんだ?
「...私は幽々子様を守るために。
そのためなら刀も人生も私の心臓だって握って見せます」
「そうか...僕の心配は無駄だったな。
妖夢! さっきも言ったがこれは戦いだ。
戦いがどういうものなのかは今日教えた。
……手加減はしないぞ?」
「無用です」
……………あの男の雰囲気が変わった。
でも、そんなこと関係ない。
私は幽々子様を守るために刀を振るう!




