第二.五章、あぁ 日常 ⑥
【第六話、約束】
「待たせたわね」
「え? あぁ、いや大丈夫だ」
……………雫は幽香が過去に縛られてると言ってたけどそれは本当なのか?
少なくとも目の前の幽香からそんな雰囲気は感じないんだよなぁ。
………………雫は嫌がるだろうが幽香にそれとなく聞いてみるか。
「はい、………この茶葉は私のお気に入りなの。
きっとあなたも気に入るわ」
「………………ん、確かにおいしいよ。
……………ところで少し話があるんだが、
古戸枝雫という人物を知ってるか?」
『………鬼怒君、どういうつもり?』
「…………」
雫にジェスチャーで黙っていてほしいように伝える。
雫は嫌がるだろう………………僕に頼んだのは【幽香に自分のことを忘れてほしい】というのに僕は幽香に雫のことを思い出させようとしている。
だが、幽香の本当の気持ちも聞かないで自分のことだけ伝えるのは………………なんかダメだと思う。
「………その名前をいまさら聞くことになるとは思わなかったわ。
それに、何故貴方がその名前を知ってるのか……………。
とりあえず、貴方の質問に答えるなら知ってるわよ。
昔に死んだ人間の女の子…………懐かしいわねぇ」
………………やはり、幽香は雫が思うほど苦しんではないんじゃないか?
まぁ、それはそれで少し雫がかわいそうな気もするが。
………………ここは僕の出番かな。
「…幽香、信じられないかもしれないけど僕は雫の幽霊に取り憑かれてるんだ。
それに雫は今この場所にいる………一応聞くが見えたりするか?」
幽香ほどの力があればもしかしたら、
誰かに教えてもらうことで見えるようになったりするかもしれない。
そう思ったのは僕が幽香と雫を会わせてあげたかったからだ。
雫の話を聞いて、いくら時間が過ぎようと消えない傷はあるし解決できない問題はある。
それに…………これは僕の旅だしな。
「………………貴方の言うことをまだ信じてるわけじゃないけど、
雫がもし私の記憶のままの子なら…………………、
こういうときは難しい顔をするんじゃなくて笑うはずよ?」
『!? 幽香、見えるの? 私が』
「見えないわよ。 見えないけど花たちには貴方が見えるみたい。
鬼怒を信じた花たちが貴方を見えるようになって、その声を私は聞いてるだけよ」
…幽香は見えてないと言ってるが、幽香が喋っている方向は雫を正確にとらえている。
………………ん? 待てよ。
花たちが信じたってどういうことだ?
「幽香、花たちが信じたってどういうなんだ?」
「………あまり語るのは苦手なんだけど……まぁ、いいわ。
雫は花が好きだったのよ、この家には雫の栄養を吸って成長した花たちがいるわ。
その子たちは時が経つにつれ感情を持つようになってね………………ほら、あの花よ」
『…………悪趣味』
「…………あぁ、そうだな」
「この良さが分からないの?
花を見た目だけで見るのは三流よ」
「「「いや、あれはおかしい」」」
「………………おかしいわねぇ………」
床が指さしたのはこの家の窓側に咲いていた花だった。
動物は飼ってる飼い主に似るというがあの花はまさに幽香を表しているんだろう。
…………青くまるでちょうちょのような形をしたあの花の周りには多くの枯れた花がある。
確かに悪趣味だし………………実際に感情をもってるらしいからなおさら怖い。
だが、幽香を表すあの花に美しさを感じるのも事実だ。
『……………はぁ、なんか心配してた僕が馬鹿みたいだよ』
「懐かしいわね、貴方と私は考え方が違ったからよくケンカしたわ」
『………僕を幽香が痛めつけることをケンカというの?』
「あら、そんな昔のことは忘れたわ」
『……………鬼怒君、助けて』
「ごめん、雫。 このお茶が美味すぎて助けらんない」
『………………もう、やだ………』
………ごめんな、雫。
僕よりよっぽど歳上だと思うんだが………………なんというか可愛い妹…………みたいな………………幽香が雫をからかうのは今はよく分かる。
『……でも、こういう日がまた来るとは思わなかった。
………………昔とは僕も幽香も変わったけど、こうして話せるのが夢みたいだよ』
「…………それは本当のことじゃないでしょ?
あなたは昔から本心とは違うことを言うわ。
それに、久しぶりに会ったからって親友の頼みを断るわけないでしょ」
『あはは。 やっぱり覚えてたんだね』
「………ん? どういうことだ?」
『さっき鬼怒君には僕の過去を話したよね?
僕が幽香を置いて森に向かうとき実は幽香にあることを言ってたんだ』
「【待ってて】……………そう言われたから私はここでずっと待ってるのよ」
『うん、昔の遊び場が花畑になったと知ったときはびっくりしたよ』
「無責任な約束をしたまま、消えた親友との遊び場なんて喜んで壊すわよ」
『……そうだね、それでいいんだよ。
もうここは僕たちには必要ないからね』
………………幽香と雫は強い。
何がこの二人をそうさせたのかは分からないが、彼女達の精神力は並大抵のものではないだろう。
雫は幽霊になりながらも幽香のために長い間取り憑ける人を探し、
幽香はもう死んだはずの友との古い約束にもならないような約束を言い訳にし、
ずっと雫が帰ってくるのを待っていたのかもしれない。
まぁ、なにはともあれ二人はまた出会って自分の思いを伝えられたのだから一件落着だろう。
「そうだ、鬼怒。少し手伝ってほしいことがあるんだけど」
「あぁ、いいよ。 なにをするんだ?」
「私はね、戦いが好きなのよ。
自分で言うのもあれだけどね。
そんな私があんな決着で満足すると思う?」
「………………まさか」
「もう、日も暮れ始めてるけどまぁいいでしょう。
それにあなたが飲んだお茶には疲労回復の効果があるの。
そんな状態で戦えないなんて言わせないわよ」
『…………鬼怒君、運が尽きたね………』
「………あぁ、どっかの可愛い悪霊に奪われたみたいだ」
そんなことを椅子から立ち上がり、もう太陽が隠れ暗くなり始めた花畑に
向かう幽香の後ろ姿を見ながらそう思った。




