第二.五章、あぁ 日常 ⑤
【第五話、幽霊の昔話】
家に入ると雫は珍しく椅子に座っていた。
雫の秘密………………仮にも僕は取り憑かれてるわけだし、
聞く権利はあると思う。
それに雫には今までの威様やさとりのようにどこか苦しんでるように見える。
まぁ、何はともあれ今は幽霊の昔話に耳を傾けよう。
「………………それで昔話っていうのは?」
『………………うん……昔々、もうどれほど前だったのかも思い出せないほどの長い時間を遡るとそこには一人の幼い少女と恐ろしい妖怪の少女がいました』
『出会うはずのない………………もし、出会ったとしても語られるような物語にはならないでしょう。
でも彼女達は違った………………一人の幼い少女は傷だらけの妖怪の少女を見つけ、それは好奇心だったのか同情心だったのか……幼い少女には分かりませんでしたが、妖怪の少女を助けました』
『幼い少女には友達がいませんでした……………だからなのか、幼い少女は妖怪の少女と長い時間を過ごしはじめ、次第に最初は口もきくことのなかった妖怪の少女は幼い少女に心を開いていき…………一年が経つ頃にはまるで家族のような関係に変わっていました』
『ですが………………仲良くなればなるほど……一緒にいればいるほど………………幼い少女は妖怪の少女を苦しめました………………決定的に違う妖怪と人間……幼い少女はそんなことを考えられないほど幼かった………………でも、妖怪の少女は本能で分かっていました』
『………二年が過ぎても彼女達の関係に変わりはありませんでした………ですが、ある朝幼い少女はいつもと同じように妖怪の少女と遊んでいました………そんな時、ふらりと飛んできたちょうちょに幼い少女は夢中になって……妖怪の少女を置いてちょうちょを追いかけました』
『………綺麗な青いちょうちょに魅入られ、幼い少女はどんどん森の深い場所に進んでいきました…………飢えた妖怪が食べた人間の死体には気づかずに………………』
『幼い少女は不安になりました……自分がどこにいるのかも分からず、青いちょうちょも見失ってしまいました………………そんな時、近くの草陰から音がしました…………幼い少女は妖怪の少女が迎えに来てくれたのだと思い、音がした方へ向かいました………………』
『………………幼い少女は不思議に思いました…………さっきまで森の中にいて妖怪の少女が迎えに来てくれたはずなのに気づいたら白い空間に女の人が一人いる空間にいたのです』
『幼い少女は訪ねました、【あなたは誰?】と………女の人は言いました、【ごめんなさい、まだここはあなたの様な人たちが来れるようになってないの】と』
『幼い少女は訪ねました、【僕はどうすればいいの?】と………女の人は言いました、【そうねぇ……あなたは未練があるから転生もできないのよねぇ……もう一回この世に戻ってもらうしかないわね】と』
『幼い少女は喜び、女の人に戻してと頼みました………それはあの妖怪の少女にまた会えると思ったからです………女の人はその願いを叶え幼い少女は確かにこの世に戻ってきましたが………………それは幼い少女が望まないものでした』
『………………はい、これでおしまい。
どう? 知りたいことは分かった?』
「……一つ聞きたいんだが、今の昔話の幼い少女って…………雫、君のことか?」
『どうしてそう思うの?』
「…………物語としてこの話が伝わってるならこんなに具体的には話せないはずだ。
…………まるで自分が体験したことを話してるような…昔のことを思い出しながら話してるような、そんな気がしたんだけど合ってるか?」
『…………うん、そうだよ。
今話したことは僕が生きてるときの話。
それとそこまで分かるなら言わなくてもいいかもだけど、
妖怪の少女っていうのは昔の幽香のことだよ。
あの時は小っちゃくてかわいかったんだけどね』
………………なるほど。
要するに雫は昔に死んだ今は幽霊の少女で、幽香とは知り合いだったということか。
……でもそれなら何で僕に取り憑いたりするんだろう?
「雫。もう一つ聞きたいんだが、雫は昔に死んだ幽霊なんだろ?
なら何で今僕に取り憑いたりするんだ?」
『………鬼怒君、僕はね死んでからずっと長い間一人で過ごしてたんだ。
幽霊だから誰にも気づかれないし触れない。
それが辛くなかったわけじゃないけど、少し経てば慣れ始めたよ。
でも何十年か経ったときに幽香が僕のお墓を建てていて、
僕の好きだった向日葵を育ててるのを知ったんだ。
………………僕を覚えてくれていたのはすごく、すごくうれしかった。
でも、それと同じくらい僕の死が幽香を過去に縛り付けてるんじゃないかと思った。
だから、僕はなんとかして幽香に僕の気持ちを伝えようとした。
でも、そのときの僕は力が無くてなにもできなかったんだ。
でも、僕も幽霊として長く生きてんだろうね。
最近、人に取り憑くことが出来るようになったんだ。
でも妖怪に取り憑けば強い、弱い関係なく僕の方が気持ち悪くなるし、
普通の人間に取り憑いても心が弱すぎて僕のことをはっきりと認識できなかったんだ。
そんな時、鬼怒君を見つけたんだ…………すぐ取り憑いたよ。
後は、分かるでしょ?』
「……あぁ、分かるよ。
僕の心臓を止めて仲間にするつもりだったんだろう?」
『…あはは! 確かにそうかもね?
…………ねぇ、鬼怒君…………幽香に伝えてもらえないかな?
僕はもうぐっすり眠ってるから幽香は自由に生きてって』
…………僕が幽香に伝えるのは簡単だ。
でもそれで幽香は納得するのだろうか?
ずっと想ってきた亡き友達からの言葉を本人からではなく、
僕なんかから伝えられて納得できるとは思わないよなぁ。
だが、こいしの時とは違い雫はそもそも器を持っていない。
生きてるものはどんなものでも器を持ち、その中に器の力が入っている。
それは生きている証であり、だが裏を返せば器を持たないものは死んだものということになる。
そして、雫には器の力を感じない。
それはまさしく雫が幽霊だからだろう。
………………さて、どうしたもんかなぁ。




