#051 SSS迷宮【黒耀石の尖塔】へ入ろう⑨
〈-昨夜- 地下宿にて〉
「──選出ギルドが決まってる?」
地下宿にて明日の対策や方針を練るために、ネレイス達が言っていた『自分たちがいれば必ず審査に通る』の内容を聞いたところ……リンがそう言い放ち、思わず聞き返す。
「せや、考えてもみいな。自分らに都合良く事を運んでもらうなら完全な管理下に置いた方がええに決まっとるやろ? それは先遣隊に於いても一緒や……つまりは、選ばれるギルドは前もってもう決まっとる、審査は単なる各方面への体裁やっちゅーことや」
「そんな……」
マインが嘆く──まぁ、あり得ない話ではない。
よくよく考えればイルナみたいな不確かな奴だって連盟に所属してる。乱立し、自治されるギルドを全て管理するというのは想像以上に手間であり、現在では放任されるケースも多いと聞く。
塔の魔獣がどれ程の強さかはわからないが……少なくとも準備さえ怠らなければイルナが魔獣に遅れをとるなんて姿は想像できない……それは貴族達にとって不利益に働くだろう。塔を攻略されれば、貴族等お抱えの後発隊の面子も丸潰れだからだ。
そういう事態を防ぐためにギルドですらお膳立てされてる可能性は大いにあり得る話だった。
「要するに搭に入れるんは……『魔獣の餌にうってつけの弱小ギルド』か『事前に約定を交わした狡い奴等』の二通りっちゅーわけや」
「……お前らもそのクチか?」
「ちゃうちゃう。うちらは審査する人間側に間者を忍ばせとるんや、王族のコネを使うてな。せやから最初から入るんは確定しとるっちゅーわけやで」
「……なるほど、お偉方の考えそうな事だ」
だとするなら、最初から忍び込む算段の俺達は別として……知らずに一攫千金を夢見てやってきた連中には同情する。挑戦権すら与えられず権力者の掌の上で転がされているだけなのだから。
「……まぁ、そんな話はどうでもいいさ。要するに二人はその間者を使って架空のギルドを創り、先遣隊のメンバーとして正統に参加する手筈ってわけだな?」
「せやで、ライン君達はうちらのギルド員として書類上は手続きしといたる。あくまで極秘裏にやけどな。せやから審査が始まったらライン君達のギルドは一旦辞退してもろて……」
「……俺達は審査を受けて入るつもりはない。連中の目を盗み、結界が解けると同時に侵入するつもりだ、お前らはどうする?」
「は……はぁ?! 何言うとんねん!? そんなんっ無理に決まっとるやろ! 腐っても精鋭って呼ばれとる連中が結界を解いとる間の魔獣対策のために警戒監視しとるんや! そんな中をっ……」
「………忍び込めるという目算はおありなのですね? でしたら無論──ライン様に従います。私らは内部に入れさえすれば他の事柄には目を瞑りますので」
「ちょっ……姫様!?」
驚嘆し、慌てふためくリンとは対称的に、ネレイスはある程度の予想はついていたようで極めて冷静に賛同した。謹厳実直そうでいて意外と清濁併せ持つ王女なのかもしれない。
「なら、一つ教えて欲しい魔術がある。町から砂漠まで俺達を尾けていたやつだ」
「あれは【水】と【光】の事象の複合魔術で──」
「………はぁ……姫様~……」
「ふふふ、その強気な姿勢……やはり【お父上】の血をひいているようだ」
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………
-再び、時は現在-
〈結界前線〉→→→→→〈???〉
「………ん」
「気がついたか?」
目を覚ました女に、俺は声をかける。女は暫くの間……現実と夢の境目を彷徨う様にうつろいでいたが、やがて見慣れぬ景色を視界に捉え飛び起きた。
「こっ……ここは……!? し、審査はどうなって……」
「安心しな、予定通りあんたらのギルドは不合格だったよ」
女はまるで状況を理解できていないようだ、無理もない。最後の景色を見たであろう時刻から既に一時間は経過しているし──目を覚ましたら土の中だったなんてのは自分の身に起きたらあまりにもゾッとしない光景だ。
「こ……ここはっ……それに貴方はっ……!?」
「リーダー、落ち着いて下さい。ここは彼の土魔術で創った地下空間……らしいです」
「レイア……私達は一体……」
「彼に連れられてここへ運ばれたんです、傷はネイアさんが治してくれました。彼らは皆『エレクトロ・ブレイブ』というギルドの一員です……なんでも私達に話がしたい、と……私にもなにがなんだか理解できていないんです……審査が終わって急に景色が歪んだと思ったら全員ここに……」
状況を理解すべく、女の視線は周囲へ移動する──この箱庭で創った空間には現在、俺達を除く17名が同様に狼狽えた様子を見せながら説明を待っている。
「これで全員揃ったでしょ? 一体どういう事か説明して!!」
その全員の視線が俺に集まる。
万全の体調で挑めば試験で喰らいつく位はできそうだったであろうギルドの連中だ──俺は簡潔に説明を始める。
「なはは、さっき聞いてただろ。お前らは予定調和で試験を通過できなかった。だから俺がチャンスを与えてやろうってわけさ……時間がねぇから端折るが、塔に入る抜け道を俺ぁ知ってる。ここはその地下空洞だ、ちょうど試験を受けた場所の真下になるな」
「……抜け道……ですか?」
「あぁ、要は塔へ入れてやろうと思ってお前らを連れてきた事だけ理解すりゃあいい」
辺りがざわざわと騒がしくなる。
俺は更に簡潔に……ここにいる連中は初めから塔へ入る事はできなかったであろう事を告げた。
それを聞いても殆どが状況を呑み込んではいない様子だったが……その中で、ギルドのリーダーであろうエメラルドの勲章をつけた者2名だけは動じずに俺に返答した。
「………つまり、アタシらギルド連中は全員が道化師だったってわけ……おかしいと思ったんだ」
「……ああ、そして……利権に貪欲なギルドと魔獣の餌役だけが塔へ入れられた……そいつらもきっと自分が掌の上で転がされていると気づいていない、と……」
「なはは、さすがリーダー達は理解が速くて助かる。だから鼻を明かしてやろうと思ってな、その為にお前らを連れてきたわけだ……さて、こっからが本題だ。お前らはどうする?」
その言葉に、未だに狼狽える者達も固唾を飲んだ。
「上の連中はお前らを弾いたが……塔の魔獣が未知数であり、ほぼ100%お前らが死ぬだろうって点では同意だ。塔に入ればお前らは殆どが死ぬだろう。俺らはお前らとは別行動するから一々守ってなんかいられねぇ。こっからは自己責任だ、逃げんなら大人しく引き返して地上に帰れ。『入らなきゃよかった』なんて怨み節を言われたらたまったもんじゃねえからな」
「「「……………」」」
「ライン、そろそろ結界が解かれそうや」
俺の問いに全員が押し黙る。
動かない連中を他所に、俺はマインとイルナ、ネレイスとリンに声をかけて準備を整えた。
目前に張られていた紋様の描かれた結界が徐々に薄まっていく──そして、いざ侵入しようと足を踏み出さんとしたその時……後方から声がかかった。
「──待ってください! 私達もっ……行きますっ!」
声をあげたのは最後に目を覚ましたエメラルドランクの女だった。
「………なはは、勝手にしろ。死んでも構わねえんだったらな」
「……ここで逃げ出せば、その時点で私達は死んだものと同義です。困難や恐怖に立ち向かう者達……それが、ギルドの意義なのですからっ……!!」
「………まだ聞いてなかったな、お前……名前は?」
「魔術師ギルド『セラヴィクロニクス』筆頭【ラスティーユ・クラージュ】と申します。貴方は?」
「ラインだ」
「ラインさん、チャンスを与えて頂き……ありがとうございます」
「気にしなくていい。ラスティーユ、精々息災でな」
「……ラインさんも」
ラスティーユに鼓舞されたのか、尻込みしていた連中も次々と声を挙げた。17名全員が決意の瞳でこれからの方策を話し合う。
その様子を見て、リンが疑問の表情を浮かべた。
「……なぁ、ライン君。なんであの連中を助けて塔に入れたろって思ったん? そんなん予定になかったやん……目立ちたくない言うてたのに審査に横入りまでしてびっくりしたわ」
「なはは、あいつらに魔獣達の目を惹く囮になってもらおうと考えついただけさ」
すると、これまでずっとにやけて静観していたイルナが更ににやけた表情をしながら言った。
「ふふふ……下手な理屈づけなんてしないで少しは素直になっても罰は当たらないよライン。『チャンスにさえ恵まれない彼らを不憫に思ったから手助けした』と言えばいい」
「……お前は本当に余計な一言を言わせたら随一だな」
「くすくす……マインはラインさんの行動の意味を初めから理解していましたよ」
やり取りにマインとネレイスが微笑った。俺は少し熱を持った体を隠すように──塔への道に足を踏み入れた。
「さぁ──行くとしようか」
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□ラインら『エレクトロブレイブ』及び三連盟17名……地下より【黒耀石の尖塔】へ潜入開始──
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