#040 防衛戦番外編 裏側
※神視点になります。
男は木陰で嘲笑う。
今、その男の目論見通りにある一つの町が窮地に立たされているのだから男にとっては当然の感情だろう。
男は率いた手駒を巧妙に使い、外周を巡回していた衛兵達を手にかけ、闇夜に柵や鐘楼を破壊し、呪いをかけた者を忍び込ませた。
その呪いは町に入ると効力を発揮し、魔獣を誘き寄せるというもの。オーバーワールドに於いては常識且つ忌避しなければならないものではあったが……その『解呪』の手軽さにあってか──長い歴史の中で怠慢や隙が産まれていったのも事実だろう。小さな村や町では手間を省くために厳しい検閲をせず、いつしか各々各自で処理する事も多くなったのだ。
当然、この町は他の宿場町と比較して住人の数や利用者が多いため徹底をしている筈だったが……町を滅ぼさんとする明確な『悪意』の前には対策が甘かったのもまた事実だった。
「へへ……衛兵どもは殺してあのハイエルフは交易都市に……町に残ってんのは有象無象の雑魚だ。恥をかかされた分はきっちり返さねぇとなぁ……?」
男の名は【ブルドク・ハザーマン】
かつてカルデアに入り浸り、魔術師ギルドを酒場として利用していたが粗相が過ぎたために町への出入りを禁止された帝国配下の戦士ギルドに所属する戦士だ。
「野郎ども、略奪者の第一波は町へ入った。出てきて平気だぜ、冒険者や男どもは皆殺しにしてやれ。女は犯して首輪でもして連れ回せ。そして全てが【ライン】とかいう男のせいだと触れ回ってやれや!」
怒号を合図に隠れていたギルドの同僚達が数十名、一斉に姿を見せる。この男達もかつて魔術師ギルドにてラインとイルナの二人に恥をかかされた人物達。
帝国へ戻り、頭領に経緯を暴かれ降格と謹慎処分を言い渡された彼らは当然のように復讐を決意していた。
一件は帝国内に瞬く間に拡がり、『場末のギルド』に面子を潰されたなどと噂が広まっては当然の成り行きであった。たとえ、それが真実であり、彼らの自業自得であったとしても。短絡的且つ粗暴な男達が逆恨みで仕返しを選ぶのは明白だった。
「制圧したらハイエルフを待って女達を人質にあの女も犯しつくしてやれ。綺麗な顔がどう歪むのか見物だ……」
「まず先にてめぇの顔を歪めてやるよ」
ブルドクが指示を終える瞬間──突如として現れた声の主は、発声の前に、既に攻撃を終えていた。
つい今の今まで町を襲わんとしていた同僚達が既に事切れて地に伏していた光景により異変にかろうじて気付く。
瞬きの間の刹那の出来事、腐っても戦士ギルド金ランクの称号と見合う実力を持つブルドクではあったが……現れた男の前には無力同然だった。
「俺にはどうしても許せない事が二つある、一つは罪を犯す悪人どもが裁かれずにのうのうと生きているこの世界の現状」
男はブルドクの背後に立ち、呟く。
振り向く事はできない──在りし日のように、首元に突き付けられた漆黒の剣と……男の威圧感に圧倒されてしまったから。
いつかの日と決定的に違うのは……あの時は怒りながらも笑っていた男が明らかに激昂していること。振り向かずとも背中に感じる──男の怒りを。
「もう一つは……自分のものが他人に傷つけられることだ。貸した玩具、お下がりになった服、奪われた銘打ちの剣。それらが勝手に壊されると……哀しみとどうしようもない怒りがこみ上げてきたもんだ」
男の名は──【ソウル・サンド】
真名を知る者は少なく、今は名をラインと変えたその男はブルドクの反応を待たずして言葉を紡いだ。
「だからどうしようもない、本当はお前らをけしかけた黒幕の方に用があったんだが……どうやら姿を隠しちまったらしい。だから代わりにてめぇが罪を被れ、そして牢屋でそいつに伝えとけ。『次にマインとこの町を傷つけたら死んだ方がマシと思える地獄を味わせてやる』ってな」
紡いだ言葉が終わる刹那──地と天がどちらかわからなくなるような器官の混濁、通り抜ける風と、通り抜けずに残る体への痛みが同時に起きた事を数秒の間を置いて脳が理解し、ブルドクは気絶した。
風魔による支援効果により速さを増したラインの拳が──合計にして57発、ブルドクの体へとめり込んだからだ。
「イルナを真似てイメージした技だ、あいつもさぞかしてめえを殴りたいだろうからな。俺が代わりにやってやった、感謝しとけ」
大木に叩きつけられ、意識を失ったブルドクを確認して縛ったのちにラインは町の入口へと向かった。
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〈宿場町カルデア 入口〉
入口では第一波の略奪者を仕留めた新米冒険者達が第二波を相手取っていた。
ラインの指示を守り、徹底した防衛策を敷いていたおかげで一切の怪我をせずにいたが……次々とやってくる魔獣を前に疲弊しきっていた。
「はぁ……はぁ……もう駄目……マナが枯渇する……」
「こっちも矢がもうないわ!」
「はぁ……はぁ……盾もそろそろもたないぞ! くそっ……いつまで続くんだよっ……はぁ……はぁ……」
実際のところ、新米冒険者達は少数にしてはあり得ないほどの戦果を遂げている。推奨討伐ランク『金』の魔獣相手に数十分もの間、防衛を成功させているのだから。ラインによる的確な指示と鼓舞が効いた証左だ。
だが、流石に限界を迎え倒れそうになったその時──侵入していた魔獣は両断された。
中には死の間際の幻覚と見間違えた者もいたとか。だが、黒剣を手にしたラインを目の当たりにして現実だと気づく。
「よく耐えたな、あとは俺に任せろ」
そう言って、ラインは魔獣達の群れに飛び込んだ。
その後──たった一人で魔獣の残党達をいとも簡単に退け、町を守護したラインの姿を新米冒険者達が忘れることはないだろう。
ある者は畏敬の念を抱き、ある者はラインに恋慕を向け、ある者は従者になる事を望み、またある者はその勇姿を唄にする。
その後──【町の英雄】の称号を得たラインは計らずも更にその名を広める事となるが……それはまだ先の話。
そしてこの時、空からその光景を見下ろす姿があった事を……誰も気づいていなかった。
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