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#039 防衛戦番外編『マインside』

防衛戦における、マイン寄りの三人称視点になります。


 少女であるマインは今より更に幼き頃、一冊の絵本が宝物だった。

 それは一言でいってしまえば……よくあるありふれた物語。か弱き少女が心優しい青年に危機を助けられて恋をするお話。こことは別世界を舞台としたその物語では国家同士に巻き起こる戦争を主軸として、それに巻き込まれ波乱が起こるものの見事に少女が恋を成就させるお話だ。

 女の子であるならば、幼い時分であれば尚更に誰もが一度は夢見るーー危機に颯爽と駆けつけてくれ救ってくれる王子様という存在。多分に漏れず、幼かったマインも憧憬の念を抱かざるを得なかった。ましてや、不遇の幼少期を過ごしてきたマインがその物語を宝物とするのは自然の摂理でもあった。

 

「皆さん! なるべく遮蔽物に隠れて移動してください! 次の波状攻撃がどこから始まるかはわかりません!」


 町にいた数十という住人をマインとフォグは守るように避難誘導する。運悪く、町に残っていたのはそのほとんどが非戦闘経験者。

 多くの冒険者や魔術師が狩場へ行き、商会の主であるワヲンやその護衛である傭兵達は早朝から王都に、奴隷商であるFや護衛達は地下に籠り、町を守護していた数少ない衛兵達は姿を見せない。

 この町を防衛する者が異様に少ない理由には、イルナとフォグによる町の創設に関わる背景が絡んでいたが……それらと『呪いを持ち込んだ者』の悪意が重なった結果としての現状ーー住人達は窮地に立たされていた。


「おい! どこに逃げようってんだ!? 外にも魔獣がいるかもしれないだろ!! それに商売道具を置いてきたんだ! 家に籠ってた方が安全だろ!」

「駄目です! 略奪者(ピリジャー)の位置を特定できる町の鐘楼が何者かに壊されていました! 既に町の中にいるかもしれません!」


 ピリジャーの対策として『鐘』を使用するのは周知の事実。鐘の音を聞くと隠れるのを得意とするピリジャーの体は発光し、位置の特定が容易となる。

 当然、悪意ある敵はそれをさせないために町の鐘楼を破壊していた。つまり、ラインのように土魔術を使える者がいない今……どこから飛んでくるやもしれないクロスボウの矢に怯えた住人達の不安と怒りは自然と町長であるフォグに向けられた。


「イルナ様が不在なんて……今までこんな事なかったのにどうして!?」

「皆落ち着くのじゃ! ラインとギルド員が防衛に努めてくれておる! きゃつならばすぐに事を治めてくれるじゃろう!」

「私達はどうするの!? ピリジャーはどこにいるのかわからないんでしょう!? ライン君を呼んできてよ! 」

「そうよ! 護衛が先でしょ!? あんな小さな女の子に何ができるのよ!?」


 そして、護衛であるマインにも矛先は向けられる。この町において、名をあまり知られていない故に向けられた住人達の不信は当然といえば当然だった。

 

 マインにとって、主人であるライン以外の言葉は大した意味をなさない。ただただ主人の命を遵守するのみ。周囲からの非難や不信などとるに足らないこと。

 そう思ってはいたものの……そこは僅か14歳の少女。自身は信頼されていないーーそれは僅かな傷となり、果たして本当に事態を収集できるのかという不安に陥る。


「ま……まってくだ……さい……マインさんは……ラインさんの相棒で……」

「おう! あのラインが護衛を任せてんだ! ごちゃごちゃ言わねえで言う通りにしろ!」


 鍛治師のアドオンや司書のラティクルといったマインを知る者の声も、届く事なく多数派に掻き消される。

 そんな迷いの最中に、悪戯に不運は訪れる。


「ーーっ!!? 【ディルク・バル・リア……あっ!」


 いち早く『それ』に気付き、氷の魔術を放とうとしたマインだったが遅かった。詠唱を防ぐかのように、クロスボウの矢が飛来し……その華奢な右肩に突き刺さる。

 

「くっ……ぅうっ!!」


 通り過ぎようとした建物の影から略奪者が姿を見せた。それを合図としたかのように、四方から住民を囲うように法螺貝の音が鳴り響き、一斉に矢が襲来した。


「ーー【ディルク・バル・リアス(空を覆う氷)】!!」

 

 瞬間、矢は住人達に届くこと無く弾かれた。住人達を覆うようにかまくら造りで作られた氷により難を退けたのだ。無論、術者は傷を負い(うずくま)ってしまったマインだ。


「はぁ……はぁ……はぁ……」


 この魔術が続く限り、攻撃の脅威に晒されることはないだろう。

 だが、この場から動く事はできないーーいわゆるこの場しのぎであることは明白だった。


 マインの脳裏に封印したはずの物語が(よみがえ)る。先に述べたーー宝物であったはずの絵本の物語。

 ライン……いや、ソウル・サンドという自身にとっての王子様に出会い、物語をなぞらえたような体験を実際にしたマインにとってはその物語は過去のものとなった。

 そして、封印したーーいや、封印しなければならなかった。自分はもう助けを待つだけの少女ではないと、主人と肩を並べ、時には主人を守る存在にならなければいけないと自分を奮いたたせるために。


 だが、自分はこんなにも弱い。強くなろうと決めたばかりなのに、と心に影を落とす。

 そして、自然に涙が溢れた。自分は従者失格だと身に沁みて感じてしまったから。


『いいか、マイン。そんなに気を張る必要なんかない。俺だって一人で出来る事は限られてる、甘えたっていいんだ。遠慮しないでいつでも俺を呼べ、必ず助ける。俺が苦しい時もマインを呼ぶから助けてほしい。それがーー相棒ってやつだからな』

「…………………ソウル様っ………」


 かつてソウルに言われた言葉が走馬灯のように脳裏に駆け巡った。

 誰にも聞こえず、届かない位の小声でマインは主人の名を呟く。

 にじり寄る略奪者達の足音にすら掻き消される程に小さな声で。


【エンテンス・カタストロフ】


 刹那ーー略奪者達は宙に浮いた。

 せりあがった大地により貫かれ、その生命を終えたのだ。

 

 呆気に取られた住人達はその光景が誰により創り出されたものなのか解らず、怯える者もいた。

 その中でただ一人ーーマインだけは理解していた。その姿を視認する前から。

 救いを求める声の先は、窮地を救ってくれる存在はーー自分の求める王子様は、いつだって(ただ)一人なのだから。

 

(ごめんなさい、ソウル様……少し……ほんの少しだけ、まだ甘えさせてもらってよろしいですか……?)


「ーー済まない、待たせたな。マイン」

「ーーはい、この世に生を受けた時から……貴方だけをお待ちしておりました」

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 評価ありがとうございます。

 昨夜から徐々にポイントが上がってきました。

 もし宜しければ評価していただければどんどん書きますので宜しくお願いします(*´∀`*)

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