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#032【楽園計画】


〈宿場町 裏通り〉


 俺は華やかに人々の行き交う宿や酒場の裏手に向かった。この町には宿場町というだけあって冒険者を癒す宿が数多くある。それと密接に関わっているのが商(娼)館と奴隷商。冒険の疲れを癒す酒や食事同様に娼婦の存在は重要であるために必然的に宿の多い町には商館が配置される。〈酒〉ー〈娼婦〉ー〈宿〉ー〈戦闘者〉ー〈狩場〉というのは切っても切れない関係性が成立している。

 そして商館と主に商売をするのが娼婦を売る奴隷商だ。中には商人自体が館の経営すら手掛けているケースもあるくらいに密接している。ワヲンの話ではこの町の夜はほぼ娼婦達の領域(かせぎどころ)となるらしい。


(夜は普通に寝てたから知らなかったな……そもそも興味もない)


 別に女性に興味が無いというわけではないし、娼婦という存在を嫌いなわけでもない。男である以上、溜まるものは溜まるものだし鬱憤を晴らす場というのも必要だろう。それに国が公にではないにせよ認可している以上、娼婦という存在が求められているものというのもそれを買うのも恥ずかしいものではない事も理解している。

 だが、昔から娼婦というものはどうも苦手だった。


 裏通りはもう冒険者の男達と話す女達とで溢れかえっている。

 歩くだけであちらこちらから値踏みするような女達の視線を感じる、時刻は夕暮れ──既に商売は始まっているのだ。商人と同じようにカネの匂いに貪欲で良い身形(みなり)をしているやつには自然と声がかかる、そういった奴は決まって心付(チップ)を弾んでくれるからだろう。

 当時、かつてEXギルドにいながら(わび)しい給金しか稼いでいなかった俺には娼婦達も寄り付きはしなかった。

 だが────


「ねぇお兄さん、変わった服装してらっしゃるのね。魔術師様かしら? 今夜はわたしと一緒に過ごさない?」

「ちょっと、その方はあたしが目をつけていたのよ」

「邪魔しないで、あんた達はお得意様がいるじゃん。今夜はアタシに新規顧客を譲るって言ってたじゃん」

「あの気持ちの悪い戦士よりイイ男だからね、あんたにあっちは譲ってあげるわ」

「なにそれズルい! アタシだってこの人の方がいい!」


 ──俺の目の前で薄着の女達が言い争いを始める。

 少しカネを持っただけでこの有り様だ。これこそが俺が娼婦を苦手とする所以。


(商売であり生活がかかっているんだからカネに群がるのは当然だ……この女達が悪いわけではないし、こちらも悪い気がするわけもない。そして目のやりどころに困る、だから対応に困るんだ……)


 女達に用があるわけではない俺は小競り合いを無視して目的の場所へ進んだ。


----------------------------


〈奴隷商館〉


 大層な造りの館の地下に目的地は存在した。上部の立派な建物は貴族か何かの別荘にでもしているのか……生活感の欠片もないような家具がわざとらしく置かれていた。何かあった時のために隠蔽し、言い逃れするための虚像(ハリボテ)なのだろう。


「きししし……少し長い階段デスからねぇ~……申し訳ないデスが我慢してください」


 奇妙としか言い様のない仮面と格好、話し方をする男が薄暗い螺旋の階段を先導する。この男がこの町の奴隷商売を一手に担う奴らしい。名前は【F】。勿論、仮名であり偽名だろう。

 ワヲンを通じて事前に話がついていたため、裏通りのさらに路地で直ぐに落ち合う事ができ──現在、商売場所に案内されているというわけだ。


「きしししし……お噂によると途方もナイ財産を保有してらっしゃるトカ……わたくしもあやかりたいものデスねぇ~」

「なはは、喋ったのはワヲンか? いや、んなわけねぇな。カマをかけたんだろうが……あやかれるかどうかはお前さんの態度と俺の気分次第だ。わかったら黙って足を動かしな」

「きしししし……これは失礼しまシタ。商売相手を見極めるのもわたくしの仕事なモンで…………さぁ、ここデスよ」


 重厚な扉の先には広い闇が存在していた。Fが空間内に設置された照明を灯す。灯りが点るよりも前に何とも言えない悪臭が鼻につく。

そこには大小様々な『箱』が無数に存在していた、と言っても俺が使うような『箱庭』の箱ではなく──単なる『檻』だ。

 囚われ、首輪に繋がれた……性別や種族や年齢や容姿などまるで区別も差別もしていないかのような様々な奴隷がいる。ここは商売場所でもあり、いわゆる倉庫のような場所でもあるのだろうか。檻の数から言っても中にいる奴隷の数は百を越えるだろう。


「ニンゲン族の女児からケモノ族、半ケモノ族、エルフ、ダークエルフ、ドワーフ、魔人族、竜族、人魚……果ては妖精なんてのもありマスよ旦那……きししし」

「この奴隷達はどうやって手に入れたんだ? 別に勘繰ってるわけじゃねぇ。経緯を知りたい」

「……きししし、それは喩えお客様でも教えるわけにはいかナイんですよ……デスが、わたくしは決して人拐いなどはシテおりません。ここにいるのは自ら身売りをした者だけデス、それは誓いマス」

「なはは、なら結構」


 Fは変わらぬ調子で質問を受け流す。それを額面通りに受けとるわけはなかったが……現段階で真相を知る方法もないと同じく受け流した。Fは檻の前へ行き、身振り手振りに種族の違いや使用用途の説明に躍起になっている。

 俺は興味あるふりをして適当に相槌を打ちながら言った。


「………成程、だが別に半端なキワモノが欲しいわけじゃねえんだ」


 奴隷商売を初めて目にするものではあるが──やはり見ていて気分の良くなるものではない。早々にここを立ち去るためにFに話をつける。


「きししし、はて。デハ、どのような人物をご所望で……?」

「『問題児』が欲しい。訳ありで手付かずになっている奴を見せてくれ、成人してないガキなら尚更だ」

「…………きしししし♪ どうやら変わったご趣味をお持ちのようで……えぇ勿論いマスとも。こちらでございマス」


 何故か上機嫌となったFは奥へとゆっくり進む。カネの匂いを感じたのか、はたまた俺の趣味とやらを勘違いして気に入ったのか。


「──こちらデス、一方は半ケモノ族の女、そして一方はダークエルフ族の女……年齢は共に15デス」


 そこにいたのは鋭い眼で俺達を睨む半獣の女と興味無さそうに他所を向く褐色肌のエルフだった。


「……なんだよ奴隷商? アタシはアタシが認めたやつにしか買われねぇっつっただろ。まぁアタシを満足させる奴なんざこの世界にいやしねぇだろーけどな」

「私はここが生き延びるのに最適と判断したからいるだけ……贅沢な暮らしなんかいらない。故に、私も買われる事はない」


 まるで買われる気などないといった態度でそいつらは俺をを見ようともしない。買い手市場にしてこの態度──完全なるキワモノだった。


「なはは、こーいうのがいいんだよ。てめーら俺の手足になれ」


 

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