#023 課金をしよう~⑥『演技』
「あはははははっ! 引っ掛かったーっ! 快感ーっ!! あたしって天才っ!! 御姉様っ!! 待っててくださいねっ!! 絶対あたしがかつての地位を取り戻させてみせますからっ!!」
リゼと名乗っていた少女は立ち昇る黒煙を目にし、歓喜し、叫ぶ。
鉱石により増幅された彼女の魔術は目前の広い空間全てを呑み込む程の雷撃を発生させた。
本来であれば魔法陣上に立つ者を雷撃により麻痺させ、一時的に身体の自由を奪う程度の威力の魔術なのだ──とその光景を目の当たりにした者は想像すらできないだろう。スパーク音と共に迸る放電は火種といえる火種が無かったにも関わらず火災すら空間に発生させている程だ。
「不運だねーあたしに見つかっちゃって。まぁあんた達がバカで助かったよ、ちょっと悲運の少女演じただけでのこのこついてきちゃうんだから。全部あたしのデ・タ・ラ・メなのに」
リゼは目に涙を浮かべながら通路からゆっくりと歩を進める、黒煙は徐々に晴れ──砕けた鉱石が散乱する地面を少しずつ映し出す。
そこには少女の思惑通りに罠にかかり、雷撃をその身に受けたソウルとマインの姿があった。二人の身体は黒煙によるすすと舞い上がる土埃にまみれていた。
「あら、あんた凄いね。あれだけの雷を浴びて生きてるなんて……満身創痍って感じだけど。そっちの女の子はもう駄目ね」
ソウルは地に膝をつき呼吸を荒くしている。辛うじて剣の鞘を地面に立て掴まり倒れないようにしてはいるが……誰の目から見ても少女の言う通りに息も絶え絶えであった。その横にはマインが倒れておりピクリとも動かない。
「……はは、まんまと罠にかかっちまったか……」
「そういう事♪ 良かったね、この廃坑に他に人はいないし……勿論、廃坑で男達に犯された憐れな少女も存在しない。あたしの創り話よ。完璧な演技にまんまと騙されたわね」
「リゼ……いや、お前さん一体何者で何が目的なんだ……?」
「あはは、そんな事話す必要ある? まぁいいわ、教えてあげる。たまには話し相手も必要だしね、この廃坑はあたしの実験場──ここであたしは『ある研究』をしてるの。レベル上げや依頼のためにここに来た冒険者達を使ってね」
「………実験……?」
「そう、【ヒトを魔獣に変えて操る】。その実験のために」
「……ヒトを……魔獣に変える……?」
怪訝な表情をするソウルを見てリゼは気分を良くしたのか、更に興奮した様子で話を続ける。
「そ、マナが枯渇した原型を留めた死体はいずれ魔獣と化すのは周知の事実よね……そのヒトと魔獣における生態っていう定義は遥か昔から研究者達には魅力的な題材だった。マナを通ずれば全てのヒトは魔獣になる可能性がある──っていうね」
「……ああ、だが……」
「そう、だからそれを調べるのは【禁忌】とされた。王政と賢智人……それに老害達にね。まったく……何百年も魔獣の謎を追いながらこの題材には触れさせないなんてナンセンスだと思わない?」
「………」
「だからこんな風にこそこそ研究するしかないのよ、異端審問会に見つかったらコトだしね」
「……新米冒険者が行方不明になってるっつーのは……お前の仕業か」
「そうだけど? 実験に使ってあげたの。けどやっぱり死体にしてから【腐者】か【スケルトン】にする以上の成果は得られないんだよね~……操るのも予想以上に難しいし……器官が無くなると操傀系魔術も意味を成さないしさ~……」
「……それで? お前さんは一体誰のためにんな事してるんだ? そこまで人類のための研究の発展にご執心には見えねえが……」
ソウルのその言葉を聞き、リゼは一瞬考え込むようにして会話を途切れさせ恍惚に浸る時と似たような笑みを浮かべた。その表情が何を意味しているのか──その時点ではソウルには判然とはしなかったが……その真相はすぐにリゼ自身の口から告げられた。
「勿論、御姉様のため……【白銀の羽根】幹部──愛しの【ミランダ】様のためよ」
「……【白銀の羽根】……?」
「そう、あたしはミランダ様の信奉者の一人、【エリーゼ・アルステッド】。御姉様の剣となり盾となり指となりて動く者……オーバーワールドにはミランダ様の手足が各地に点在してるの。この実験も全ては御姉様のため……ってこれ以上は話す必要もないわね。あんた達も御姉様の栄光を取り戻す礎になるんだから御姉様に感謝しながら死になさい」
だが、エリーゼがそう口にしてソウルへと歩み寄った瞬間──視界からラインと呼ばれていた男の姿は消えた。正確に言うならば、それは単なる比喩表現であると同時に……そうでもないとも言える。
少女の視界からソウルが消えたのではなく、『少女自身の視線が動かされたから』だ。
(─────ッ!!???? 体が──ッ動かな──っ!!???)
エリーゼがそう心で感じた時には既に遅かった。
『少女は地雷を踏んでしまった』
これも、比喩表現であると同時に二つの意味を含んでいた。
「──なはは、それを聞けりゃあ充分だ」
一つ目の意味はエリーゼが歩み寄り踏んでしまった……煙に隠れた地面が『黄色い地面』だった事。現時点でエリーゼが知る由もない──これはソウルが少し前に得た能力によるもの。マナを箱に変える力……それによりソウルはこの空間内に発生した雷撃を全て収縮させ地面に埋めていたのだ。
この男──ソウルや【箱庭】の事を何も知らないエリーゼには防ぎようもない、まさに『地雷』であった。自身の雷撃による魔術を一身に受けたエリーゼの身体は硬直し、視線は反動により宙を舞う。
まるで操り人形のように立ったまま──硬直して動けないエリーゼは途切れそうな意識の中で自分に歩み寄る男をなんとか視界に捉える。
これまで、数多くの冒険者達を手にかけながらそれを隠し通せる位に狡猾であり知略を持ったエリーゼの今回の最大の誤算は『知らなかったこと』──これに尽きた。
知らなかった──目前の男の目的が最初から自分であり、自身の主君でもあるミランダであった事。
知らなかった──軽々しく口走ってしまったその主君の名がこの男に於いての『地雷』であった事を。
「あ………あんたっ………なにもっ……のっ………!?」
知らなかった……悪魔がこの世界に甦った事を。目の前にいる男はもはや先程出会った男『ソウル』ではなく……全くの別人──悪魔であったことを。
「なははははは! 単なる復讐者さ、覚えておきな!」
知らなかった──そう言って自分よりも高らかに、自分よりも狡猾に嘘を演じ、自分よりも卑屈に笑うその悪魔は全てにおいて……自分よりも上にいる存在だということを。




