#022 課金をしよう ~⑤『罠』
〈第8採掘場〉→→→
死体のあった採掘場へと戻ったソウル達はリゼが襲われたという現場へと向かうために通路を歩いていた。何処か遠くの方から不思議な機械的なような音がソウルの耳に届く。暗さを増す闇から漏れ出るようなその音は、この先に何が待ち受けているかわからないという冒険者の好奇心を煽りも尻込みもさせるような相反する旋律を含んでいるように聞こえた。
「何か聞こえてきますが……何の音でしょうか? ラインさん」
「レッドストーンを基として造られた回路の作動する音だろう。採掘場のトロッコはその『電気』の力を取り入れてほとんどがオートメーション化している。鉱石に含まれるマナが消費されるまで半永久的に動き続ける」
「廃棄された鉱山で……人がいなくても動き続ける……何か物悲しい音に聞こえてきました……」
マインはそれに聞き入って更に表情を暗くさせた、リゼを同行させた時からその表情は晴れないままだ。
「どうかしたのか? マイン」
「……いえ、何でもありませ……」
「いいから言うんだ」
「……………復讐する事を決めたリゼさんを同行させる……それが正しいか事なのかどうかマインには判断がつかないのです……喩え本人がそれを望んでいるとしても……」
「……そうか」
リゼは怯えた表情をしながらも二人の少し後ろをふらふらと歩いていた。ソウル達の会話を耳にする余裕も無さそうに見えた。
「けど、マインが気にしているのはそうじゃないのです」
「ん?」
「かつてのラインさん……マインが復讐を手伝いたいと申し上げた時のラインさんもこんな心境だったとようやく知って……如何にマインがラインさんを困らせたのかと……それに気付いて申し訳ない気持ちでいっぱいなのです……真っ当な道を外れようとしている方を闇へと導く……とても傷つくかもしれない茨の道へ……それがとても心苦しいものなんだということを……」
「………」
「マインは微塵も後悔などしていませんし、この先もする事はありません。ただ……喩え本人がそう言っていようと……ラインさんの心にはその責が重く残ってしまうのですね……ごめんなさい……」
「気にしすぎだ、俺はそんな風に思っちゃいないよ」
「ですが……」
「俺は救われたんだ、マインがついてきてくれた事に。だから気に病む必要はない。それにマインはまだ道を外しちゃいない、無数ある未来の道を探してる最中だ。その中で一番いい道をきっと二人で探し出してやる。リゼの事だってそうさ、どうなるかなんて未来はまだ決まっちゃいないんだ。ちゃんと導くさ、だから安心しろ」
そう言って、ソウルはマインの頭を撫でる──安心させるために。
(もっと自分に関心を持たせなきゃならないな……時期が来たら学院に通わせてみようか)
すると、マインは顔を真っ赤にさせながら壁の方を向き、両手を頬に当てながら何かを小声で呟き始めた。
「~~……好……~~~……き、好き……大好……~~~大好……~~~嗚呼ソウル様ソウル様ソウル様ソウル様ソウル様ソウル様愛……~~」
「ど……どうした? 大丈夫か……?」
「ひゃい、少し頭を魔術で冷やしただけです。問題ありません。では行きましょうラインさん」
真っ赤だった顔をすぐに元に戻し、マインは平然と答えた。女の子の感情の切り換えの速さに少し戦慄したソウルだったが、見習い、自身も気持ちを切り換えて目先の問題と向き合う。
「……まぁ、今回はそうはならなそうだからな」
「? 何か仰いましたか? ラインさん」
「何でもねぇさ、行くとしよう」
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〈通路〉→→→〈第9採掘場〉→→→〈最奥採掘場〉
長い通路を経て、これまでよりも更に広い空間へと一行は辿り着いた。そこは空気さえも赤く染め上げられたような……まるで地獄への入口に見えた。辺り一面に敷き詰められるように棄てられていたレッドストーンが原因だった。
「ラインさん……レッドストーンがこんなに……何故でしょうか?」
「なはは、さあな。誰かが何かに利用でもしてるんじゃねえか?」
軽口を叩きながらもソウルは不審に思う──いくら廃坑とはいえど、冒険者や調査隊がこれを見逃すとは思えない。レッドストーンがこれだけあれば如何様にも利用できるのだからと。
「リゼ、本当に道はこっちでいいの──」
──そう聞こうとしたその時、ソウルは魔術が発動される時の空気感を肌で感じた。
【フロータリア・オン・バグス(併る雷)】
それは間違いなく、彼等へと向けられた魔術。
瞬間──レッドストーンが一斉に光り出した。いや、正確に言えばレッドストーンは『目隠し』と単なる媒介。赤い鉱石の下にある『それ』を隠すためのものだと理解する。
ソウル達を捕らえるかのように描かれたその『魔法陣』を。
いわゆる【罠】──事前に発動準備を済ませ、それに術者が触れることで発動する罠。レッドストーンは電気のマナを含んでいるために雷の魔術はその威力を何倍にも高めた。
魔法陣上にいるソウルとマインを足下から弾け飛ばすように、雷鳴と共に──電撃が襲いかかった。




