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#019 課金をしよう ~②VS『スケルトン』


 【ゴスト・オブ・ヴルド】


 ソウルの読み通り、杖を振り(かざ)したスケルトン達は一斉に【地】の魔術を発動させた。単一行動しかできないスケルトン達が魔術を扱えるのは武器のおかげだった。(あらかじ)め武器に魔術を付与しておけば、攻撃の意思に呼応して使用者のマナを吸い取り発動する仕組みになっているためスケルトンでも魔術使用が可能となるのだ。

 

 その技術は【エンチャント】と呼ばれている──先程課金をしてソウルが得た能力だ。

 【エンチャント】技術は遥か昔に失われた記号めいた文字……【ルーン文字】というものを使用する。この【ルーン文字】がくせ者で余程の知力を有していない限り理解することができない。それ故に【エンチャント】技術を修得した者はどこへ行っても重宝され、名工となったり学者として一生を安泰して暮らせる程だ。


(かくいう俺も今までそれを扱えた人物を一人しか知らない……だが)


 ソウルは思わず笑みを(こぼ)した──何故ならこのルーン文字を彼は今『完全に理解できたから』である。


(ま、今は後回しだ。エンチャントをするにはまだ素材が足りない、できる事から極めていくとするか)


 スケルトン達の発動した魔術が四方八方飛来する。その魔術は【(ヴルド)】の初級魔術で、石つぶてを砂煙と共に対象へと飛ばすものだ。初級魔術ではあるが発動者が多いと砂煙によって視覚が(さえぎ)られたり石つぶてが無数に飛来してきたり厄介なものになる。

 まさにそんな現況であり、多大な砂塵がソウルに向かって飛来する。

 だが────


「───【マナクラフト】」


ストン……


 ソウルの右手は、そんな状況を夢幻(ゆめまぼろし)であったかのように変化させた。魔術は土気色の無機質な箱に変わり……砂煙が起こす騒音すらも瞬時に無くした。

 その光景を見たスケルトン達は身を(ひる)ませるような挙動をする──瞬間、ソウルは一気に間合いを詰めて黒耀剣を抜いた。


「【黒耀一閃】」


ザンッ!

 

 踏み込んだソウルによる閃撃──仮に名前をつけるならばこんな技名だろう、ハコザキこれを聞いていたら大笑いしていることだろうな、と少し苦笑いする。

 柄から覗かせた漆黒の刃はスケルトン達の視線が彼に向く前に、両断された。ソウルは剣を単純に剣を横に()いだだけなのだが、それだけで研ぎ澄まされた黒剣は横一列に並んでいた魔術スケルトンを『全て』両断した。

 まさに、一刀両断と表すのが相応しいだろう。


ガチャン……カラカラカラカラカラカラ……


 杖と骨が虚しく転がる音が炭鉱に響く。

 ソウルは箱化された『地の魔術』をインベントリに収め、マインを呼ぼうとするが……呼ぶまでもなく既に音もなく彼の隣で目を輝かせていた。


「流石です、ラインさん。もはや低級魔獣では実験にすらなりませんね」

「そうだな、せめてネザー要塞クラスの魔獣じゃなきゃあ強くなった実感が湧いてこないな。だが……そんな魔獣の棲み処のダンジョンへ入るにはギルド内ランクを金レベルまであげなきゃあならねぇ」

「ギルド内ランクをあげるにはどうしたらよいのですか?」

「戦闘系ギルドじゃあコツコツと仕事(クエスト)をこなすか、大型魔獣を討伐して素材をいくつか集める。それで初めて昇格審査を得てマスターに認められればランクが上がる」

「強さやステータスには左右されず実績を積む他ないのですね」

「下手に悪人に権限を与えない措置だな、ランクが上がれば当然優遇されるし入れる領地も増える。だから強さだけじゃあなく確かな実績が必要なわけだ」


 ソウルは会話をしながら慣れた様子でインベントリとアイテムスロットを整理していた──すると、視界の端に何かの光を視認する。


「……? マイン、あれが見えるか?」


 ソウルは光源を視界の正面に捉えてマインに問う。だが、マインは首をかしげるだけで何も見えていないようだった。


 『明るく光る無数の緑色の球体』

 初めて目にするそれは特に動くこともなくフワフワとその場に浮遊していた。何かの罠や魔術の類いかと考えたが、直感的にそれには害がないと判断する。

 更によく見ると倒れた魔獣達の少し上にそれは浮かんでいた。


「申し訳ありませんラインさん、マインにはなにも……」


 マインの言葉を聞き終わる前に、ソウルは球体に一歩近づく。

 すると緑色の球体は一斉にソウルへと向かってきた。戸惑う暇もなく、それらは彼の体内に吸収される。まるで彼に力を分け与えている何者かが存在するような不思議な感覚に陥っていた。


--------------『経験値を取得しました』--------------


 そんなアナウンスめいたものがソウルの思考を(よぎ)った。

 その瞬間──彼の視界に緑色のバーが表示された。どうやら……これが以前にハコザキが言っていた『経験値』のようだ、と本能で理解する。

 

「………成程、魔獣を倒せば経験値が手に入る。これを使えば更に合成の幅が広がるらしい」


 先述した『エンチャント』にもどうやらこの経験値が必要なようであることも、彼は自動的に把握できた。


「当面の間はこの『エンチャント』を使用可能にするために魔獣と素材を狩りつつ、『白銀の羽根』の情報を探さなきゃならねえようだ」

「はい、では先へ進みますか?」

「ああ、確かめたい事が色々と増えちまった。イルナや他の冒険者はここを終わった狩場だと思ってるようだが……それにしちゃあスケルトンの数が多すぎる。いや、終わった狩場だからこそか……ここには何かある」

「……まさか……【スポナー】ですか?」


 オーバーワールドにおいて魔獣が産まれるパターンは3つ定義されている。

 一つは『魔獣同士の交配によるもの』、一つはゾンビやスケルトンなどの『かつてヒトだったもの』、そしてマインが言った【スポナー】と呼ばれる魔獣を産み出す謎めいた空間だ。大抵のダンジョンと呼ばれているものに存在しているのがこの【スポナー】で無尽蔵に魔獣を呼び寄せている。歪みのようなもので人の目に映る事はなく、魔術を使っても位置の特定すらできない空間。

 【スポナー】とは『地獄の使者』という意味でそんなものがこの世界には無数に存在する。今、ギルドが乱立しているのもこの正体不明で終わりの無い『地獄の使者』との戦いの系譜といえた。


「その可能性もあるが……調査隊がそれを見逃してるとは思えない。だっらとっくに『結界』を張っているだろう。だとしたら……可能性は他にもある。……ちょうどそこにもある」

「……? なにがあるのですか……………ひっ……!?」


 ソウルの視線を追ってマインは声にならない声をあげた。

 彼の視線の先に無造作に転がっていたのは、(むご)たらしく傷だらけにされた死体だった。

 


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