#010 ギルドに入ろう ~④レベル0
「「「「……………………………………え?」」」」
ギルド内に、大勢の気の抜けたような、それでいて天地が逆さになったかのような矛盾を孕む表情が溢れ返る。
かくいうソウルもその中の一人だった。
当事者でありながら何が起きたか理解できないでいた。
唯一、こうなる事を知っていたかのように……このギルドの頭領であるイルナは不敵な笑みを雫す。
ソウル、マイン、イルナ、ルルリラ、酔っぱらい達はそれぞれがそれぞれ違った意味で、違った場所に視線を傾けていた。
「……え……うそ……?……ラ……ラインさんが手を入れたら……こっ……壊れちゃいました……『EX古代遺物』が……!!」
ソウルとルルリラの視線の先は同じだった。
ランクEX(国宝級)の価値を持つ古代遺物、【真実の咆口】。
それがソウルがステータスを計ろうと手を挿入た瞬間、まるで生命を宿したかのように震え……間もなく魔法陣を展開して粉々に砕け散ってしまった。
正確に言えば、爆散したのだ。
獅子を象ったレリーフは最早、何の生物であったのかわからない程に跡形もなくただの破片となり室内に散らばっている。
(……一体何が起きた……!? 攻撃でも受けたのか!?)
そう思い、ソウル周囲を見回す。
呆け、唖然としていた酔っぱらい達の中に古代の特殊な造りである古代遺物を壊すほどの実力者がいるとは思えなかった。
警戒は怠っていなかった、こちらへ悪意が向けばすぐにわかる。そもそもが古代遺物を破壊するなんて芸当ができそうなのはこの場では自身を除けばイルナくらいしかいなかったが……彼女がそんな事をする必要性はないと混乱の一途を辿る。
「ど……ど……どうしましょう!? イルナ様っ! レジェンダリアイテムを壊したなんて知れたら……」
ルルリラは慌てふためいて半泣きで破片を集めている。しかし、責任者であるはずのイルナはギルド室内の一点……カウンター横にある吹き抜けの二階通路へ続く中央階段のステンドグラスをただ見つめていた。
マインも、そして集まった酔っぱらい達の視線も同じ箇所に注がれている。
「……ふっ……ふふふふっ! どうやら君の勝ちのようだ。ようこそ、魔術師と冒険者連盟『エレクトロ・ブレイブ』へ。歓迎するよ、ライン、マイン」
イルナは笑いながらソウルとマインに向かってそう高らかに言い放った。
すぐにソウルはステンドグラスの更に上方を視界に捉えた。
そこには測定された彼のステータスがギルドの壁に刻まれていた。
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【ライン・ハコザキ】
・LV 0
・称号『魔術師連盟 魔術師』『冒険者連盟 冒険者』
・階級 『石』
・体力 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆『EX』
・腕力 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆『EX』
・知力 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆『SSS』
・防力 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆『SSS』
・マナ総量 測定不能
・魔想導力 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆『EX』
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「………………………は?」
色々とおかしな事だらけで何から突っ込んでいいのかわからないソウルは言葉を失った。
何故、古代遺物は突然壊れてあのような場所に人のステータスを投影したのか。
そして今まで見た事も聞いた事もない『LV』や『マナ総量』の値……【0】や【測定不能】とは一体どういう事なのか。
何よりも疑問だったのは……ステータスの値。ソウルの記憶にある【白銀の羽根】幹部メンバーと遜色のない値……それが彼の能力値として算出されていこと。
数々押し寄せる疑問をよそに、マインは驚いた表情を首を振って払い、微笑みながら言った。
「マインは驚きません、何故なら」
「ラインさんっ!! やはり貴方は高名なる魔術師様だったのですねっ!! 凄いですっ!! イルナ様より能力値が高い方を初めて見ました私っ!!」
マインの言葉を遮り、ルルリラは大げさに目を輝かせながらソウルの腕に絡み付いた。
さっきまでは半泣きで破片をかき集めていたというのに一転して憧憬の眼差しを向け、柔らかい身体をソウルに押し付けた。
すると、マインから殺気が放たれる。
「ルルリラさんラインさんが勝ったら何でもするって言いましたよね? 早速権限を行使しますラインさんに必要以上に近付かないでくださいマインが許しません離れてくださいそして二度と同じ事をしないでください次やったらあなたは死にます」
「ええっ!? 死ぬんですかぁっ!? ごめんなさいっ!」
マインにまくし立てられてルルリラはソウルから離れた。
きっと必要以上に俺に近付く者を警戒してくれたのだろう、まぁ何はともあれ……これでギルド『エレクトロ・ブレイブ』の一員となり身分が確立されたわけだ──とひとまずソウルは安堵する。
「さぁ、勝負は終わりだ。貴様達はとっとと去るがいい、尚、今回の反省を踏まえてここを酒場として部外者の貴様らに開放するのはもう止めにしよう。もともと素行の悪い貴様らのような輩を私の管理下に置くために町長と講じた策だった。だが、私にも我慢の限界がある。貴様ら帝国ギルド【斧銀】は今後この町への一切の利用を禁ずる、頭領【ハドナー】にもそう言っておけ」
イルナは酔っぱらい達に、悠然と構えて言い放った──まるで挑発するかのように。
そのような態度を見せれば、酔っぱらい達がどんな行動を取るか、わかっていながら敢えてそうしたかのように。
そして予想通りに、酔っぱらい達は苦虫を噛み潰したような表情を滲ませながら武器を手に取った。
「うるせえっ!! ここでてめえらを力尽くで従わせちまえばいいだけの話だろうが!! 野郎共!! 出入口を塞いで取り囲んじまえ!!」
先程ステータス判定をした大男が声を荒げると、周囲の男達が一斉にソウル達四人を取り囲んだ。そんな状況と化して尚、イルナはまたしても不敵に笑い、挑発する。
「ふむ、その勇気だけは賞賛しよう。まさかあのステータスを見て私とラインに戦闘を仕掛けようとは……いや、単に実力差を理解していないだけか。ラインの言う通り……魔獣ほどの知性しか持ち合わせていないようだ」
「はっ!! あんな虚偽のステータスなんか信じるわけねえだろ!! それにこの狭い空間ならどんな魔術師だろうが一捻りだぜ!!? 」
酔っぱらい達はソウルのステータス結果を偽装か何かだと思っているようだった。
確かに気持ちはわからなくもない、俺自身あんな能力値が宿っているとは信じ難い──とソウルも苦笑いを浮かべる。
「ふ、では仕方あるまい。能力値に裏打ちされたその力を披露して魅せようか。ライン、君の力も是非見せて欲しい」
「…………なはは、お前こうなる事を初めから知ってたな? そして誘導した」
「ふふ、終わったら全て話すよ。勿論、礼もする」
「当然だ。まぁ、これからこのギルドを利用させてもらうんだ。お互い様に利用されてやる。よろしくなイルナ」
「こちらこそ、ライン」
ソウル達は不敵に笑い合い、並び、剣を構えた。




