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#008 ギルドに入ろう ~②【イリュリョナー】登場


「不快な思いをさせて済まない、ここの長として非礼を詫びる」


 現れた美人のハイエルフ、【イリュリョナー】はそう言ってソウル達に頭を下げた。


 エルフという種族はかなり昔からオーバーワールドに住む種族で一見すると普通の人間と変わりはないが、定住地のほとんどが森林であり【自然と共に生きる】という慣習により他種族と馴れ合いはせずに独自の文明や言語を扱い生き抜く者達だ。

 今でもその排他的な性質は変わらないが、魔獣の増加や神々を信仰する宗教などの通念化、様々な要因と人間の文明開化の働きにより数百年前から徐々にエルフ達も新たな境地に踏み込む事を決意してこの人間社会に迎合する動きを見せている。


 自然と共に生きる者の特性であるのか狩猟業を得意としたり、長寿であるために色々な生命に触れる事により多属性の魔術に関する知識が多い。

 そして男性女性共に透き通るような髪や肌の色をしていて美男美女が多い事で有名だ。


 ハイエルフとはエルフの上位的な存在で、マナの扱いに長けるエルフよりも更に魔術に精通しており、種族の中でも抜きん出た才能を持つ者だけがハイエルフと成り得る。大抵が一国の主であったり、各分野の権威であったりと人間社会でも名が知られる程の高名な人物が多い。


「イルん……イリん……? イルル……」

「イリュリョナーだマイン。ゆっくりと区切って発音すればいい」


 マインはイリュリョナーの名を上手く発音できず、唇を噛んでいた。

 無理もないだろう、エルフの言語というのは独特で人間が普段使わないような発音で命名されている者も多い。

 年の功としてエルフ言語を修得していたソウルはマインにコツを教えた。

 

(そういえば多言語学はネザーであまり教えてやれなかったな……これから必要になるだろうから教えてやらないと)


「あぁ、無理もない。まだ少女である内には発音し辛い言葉だろう、【イルナ】と呼んでくれて構わない」


 【イルナ】は少女であるマインを見たからか微笑みながら優しく丁寧に、しかし凛とした姿勢を崩さずにソウル達に対応する。

 どんな経緯があってハイエルフがこんな場所のギルドを経営しているのかは知らないが悪い奴ではなさそうだ──と第一印象からソウルはそう感じた。


「君達は身分紋章の付与でここへ訪れたと聞いた、詳しい経緯(いきさつ)を話して欲しい。可憐な少女と壮年を迎えそうな年の男性の組み合わせにあまり真っ当な印象を受けないのでな。家族というわけでもないのだろう? ここへ来たという事は主従(どれい)関係というわけではなさそうだが……」


 イルナははっきりとソウル達にそう言った。マインが少しムッとした表情に変わる。


(ハイエルフが経営するギルドか……エルフという種族は格式を重んじる種族でもある、身分の知れない者をそう易々と受け入れない──と、いう事は)


 既に査定の対象とされている可能性を感じたソウルは何かを言わんとしているマインを(さえぎ)るように説明口調で応対する。

 

「最もな意見だ。これからこのギルドの身分紋章付与してもらえばギルドの一員となる、尋問調査をするのはギルドの長として当然の事なんだろう……だが、こんな状況下で思い出話を語らせるってのはちょっと無粋が過ぎないと思わないか?」

「……ふふ、私とした事が……興味を惹かれる人物であるものだから浮かれていたのかもしれない。そちらにいる輩どもの存在をつい忘れていたようだ。まずは問題を片付けねば、な」

 

 イルナはそう言うと険しい顔つきに変わり、絡んできた酔っ払いどもに向き直った。ソウルは酔っ払い達の首に突きつけていた剣を降ろす。


「貴様らがここを酒場として利用するのは構わない、開放しているのは他でもない私だ。私にも責任の一端はあるだろう……だが、悪酔いして実力差を弁えずに喧嘩を吹っ掛けるのを見過ごすわけにはいかないな」

「うるせぇ!! 横からエルフ如きが口出ししてんじゃねえ!! 俺達ぁ今このガキ共に話してんだよ!! 俺達戦士がいなきゃ何もできねぇ後衛職がでけぇツラしてんじゃねえぞ!」

「ふむ、魔術師とそれを志す者達に何か恨みでもあるようだな。ならばこの二人の『階級審査(ランクづけ)』を見てから判断したらどうだ? 貴様らの馬鹿にする魔術師がどのような力を産み出すかその眼に焼き付けるといい」


 何を勝手な事を……と、ソウルはイルナの言葉に驚嘆する。


 ギルドにはメンバーの実力に応じた仕事の割り振りをするために階級(ランク)をつけるという決まりがある。それにより悪戯に起こり得る依頼の失敗や死亡事故を未然に防ぐ制度だ。


 その測定は──【EX遺物(レジェンダリ)】と呼ばれる様々な文明の遺産を使用して行われる。

 【EX遺物(レジェンダリ)】とは何かを記述すると膨大な歴史を語らなければならないのでここでは割愛するが……人類が普段使用する様々な道具や素材にもその価値や希少さによりランク付けがされている。

 その中でもレジェンダリというランクのアイテムはほとんどが値がつけられないような古代遺産で占められている。

 国宝であり、その名の通りに大体が国の所有物であるためギルドはそれを国から貸与されている、それにより適正なギルド員の配置ができるわけだ。


(何を考えているんだこのハイエルフは……なんで無関係のこいつらにステータスを見せつけなきゃならないんだ。大体……(たと)えどんな魔力の数値を見せつけようが魔術師自体を見下しているこいつらにとっては無意味だろうに……)


「その点については心配いらない、うちのギルドが所有するレジェンダリは全てのステータスを計測できる代物だ」


 イルナはまるで彼の心を読んだかのように、ソウルを見てそう言った。


(……やっぱりか、風魔の魔術師の中には風の魔法で大体の人の感情や潜在値を読めるやつがいると聞いた事があったが……)


 続けて酔っ払い達に向かいイルナは言う。

 腕を組み指を口元に添え、微笑みながら余裕綽々に。

 まるで嘲笑していることをわざと見せつけるように。


「──貴様らも激情をもて余しているならば計測してやろう。啖呵を切ったからには魔術師よりも優れた体力や腕力の数値を出せるのだろう? 魔術師よりも力が弱い戦士など聞いた事がない、これでライン達よりも数値が低いような事があったら帝国ギルドの名折れどころでは済まないな。まぁ恥を晒すのを恐れるなら二人に謝罪して引き下がればいい」

「…………」


 その言葉を聞いた酔っ払い達は激昂するかと思いきや、それを通り越したかのように全員が顔を見合わせて少し間を置いたのち──ギルド中どころか町中に響くような大声で一斉に笑い始めた。


「はっはっはっはっはっ!!! こんなヒョロい野郎に俺達が力で劣るだって!? ハイエルフの眼っていうのは節穴らしい! いいだろう! その代わりに俺達のステータス以下であればハイエルフとそこに隠れている受付嬢、そしてそこの白金髪の女は一晩娼婦として俺達に奉仕してもらうぞ!!」

「えぇっ!? わ……私もですかぁっ!?」


 受付のカウンターにしゃがんで隠れていたルルリラが思わず声だけで反応する。酔っ払いの発言に、それでもイルナは一切動揺せずに余裕で受け答えた。


「提案者である私はそれでも構わない、だが他人の身体を賭け事に使う権限は私にはない。ルルリラ、こう言っているが」

「………わっ私はイルナ様に従いますっ!」

 

 イルナが聞く前にルルリラは提案に同意する。

 

「おい、何勝手に話を進めて……」

「ソ……ラインさん、私は構いません。だってラインさんが負けることなんてないと信じていますから。……それにラインさんを侮辱したこのゴミ達をもう許す事はできません、イルナさん私なら平気です」


 マインも早口気味にそう言ってイルナに同意した。

 島では見た事がなかった──怒りを滲ませながら話す姿のマインを初めて見た事にソウルは親心さながらに感極(かんきわ)まる。


 ──無論、彼にとっての現況はそんな場合ではないのだが。

 


 


 

 

 

 


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