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#007 ギルドに入ろう ~①魔術師ギルド『エレクトロブレイブ』』


「さぞ高名な魔術師の方と見受けられますっ! 目にした事もない漆黒の剣っ! 魔力の通った魔導の軽装っ! 全ての装備にただならぬ不思議な魔力を感じますっ! そちらにいる女の子は……可愛ぃぃぃっですっ! 何でしょうかっ!? 肌が美白ですっ! わぁっ! 眼の色が左右で違いますっ! 神秘的ですっ!」


 魔術師ギルドの受付嬢ルルリラはソウル達を見て子供のようにはしゃいでいた。必死にまくし立てるルルリラを見て冷静なマインも若干引いていた。


 (悪い人間では無さそうではあるが、無意識に周囲の注目を集めるのはやめてほしいもんだ……歳は見た感じ18~19くらいか。ボブショートの赤い髪がよく似合ってはいるが可愛らしい顔立ちと落ち着きのなさのせいでマインの方が大人びて見えるな……)


 冷静に観察を済ませたソウルは、【ルルリラ】と名乗った受付嬢に告げた。

 

「いや、期待させてすまないが俺達はただ身分紋章が欲しくて寄っただけだ。登録と判定を頼みたい」


 すると我に帰った様子でルルリラは落ち着きを取り戻した。


「はっ! す、すみません……うちのギルドに登録してくれる人が久しぶりで……浮かれてしまいました……」


 町の周囲には狩り場がある好立地のギルドなのにここに登録する奴は早々いないようだった。

 するとそれを聞いたマインがソウルに小声で耳打ちする。


「(ソウル様、どういう事でしょうか? 登録するギルドによって差異などがあるのでしょうか?)」

「(ああ、ギルドにもランクっていうものがあって【F~EX】という記号で格付けされてる。それによって国から任されるクエストの質や量が決められて……待遇すらも変わってくる。『白銀の羽根』は最上級のEXランクだったけどそこにいた時はどんな国に行っても騎士や高官なんかと変わらない待遇を受けていた)」

「(……なるほど……では今のルルリラさんの反応から察するに、このギルドは恐らく……)」

「(……あぁ、たぶん高ランクのギルドではないんだろうな……)」


 ただ身分紋章を付与してもらうだけの為に寄っただけだから気にしてなかったソウルだったが改めて建物内を見渡すと、確かにギルドにしては質素な造りで所々壊れたままの箇所もいくつか見受けられた。


「ではっ! 改めまして魔術師ギルド『エレクトロ・ブレイブ』へようこそっ! 新規御登録ということで身分紋章を付与するために鑑定させて頂きますっ! まずはこちらの用紙にお名前の記入をお願いしますっ!」


 ルルリラは二枚の紙と羽根ペンをソウル達に差し出した。

 正直このギルドにどんな事情があろうがどうでも良かったソウルはギルドの現状なんかを聞く事なく、さっさと記入して終わらせるため走り書きで名前を記入した。マインもそれに(なら)い素早く記入してルルリラに紙を返す。


「マイン様に……『ライン・ハコザキ』様ですねっ!! 確かに承りましたっ! では少々お待ち下さいっ」


 ソウルはハコザキの名で申請の記入をした。

 かつてこの世界を創世したと言われる別次元の悪魔【ラインクザク】……ソウルはこれからこの名で生きていく事を前々から決めていた。


(【ソウル・サンド】の名は復讐が全て終わるまで封印だ)

 

 マインとは事前に打ち合わせをしていた事もあって彼女は決して驚いていない様子ではあったが……なにやら偽名に関しては不服そうな複雑な顔をしていた。

 他所には聞こえないような小声でマインはソウルへ告げた。


「(ソウル様がお決めになられた事ならばマインは従いますが……二人きりの時はソウル様とお呼びする事をお許し下さい、きちんと使い分けできるよう致しますので)」


 偽名でソウルを呼ぶのは抵抗があったらしい彼女の気持ちを(はか)れはできないソウルではあったが……なんとなく切実な想いを感じて了承した。


 ルルリラは忙しなく受付奥の扉に入っていった。

 手持ちぶさたになったソウル達は入口横の長椅子に二人で腰かける。


「ソ……ラインさん、鑑定というのは何をするのですか?」

「ギルド内でのランク付けのためにステータスを測る。魔術師ギルドだから正確には【マナの総量(MP)】と【魔想導力(魔力)】のみの測定だ。この二つが魔術師にとって重要なステータスになるからな」


 体内に流れるマナが多ければ多いほど、莫大なマナを扱う上級魔法を使用できる。その総量は殆どが天性のもので産まれつきで決まる。

 修練などで上限を増やす事もできるが、それには途方もないほどの時間を費やさなければならない。

 

 ただ、それだけでは魔法は扱えない。

 【魔想導力】と言われる魔法の術式を理解し脳内で鮮明な魔法陣を創りあげ、体に導くイメージの事の略称である──略称【魔力】がなければいくら総量があったところで意味を成さない。

 体にマナを伝える伝導率と魔法の(ことわり)を理解するのが重要だとソウルは以前に習っていた。



「おう、姉ちゃん。お前も魔術師か? そんな綺麗な顔してんのに勿体ねえなぁ」


 話していると宴会をしていた何人かの男達がゾロゾロとソウル達の座る長椅子の周りを取り囲んでいた。

 男達はニヤニヤと笑みを浮かべ、舐めるような目付きでソウルの存在を無視するようにマインに声をかけてきた。


 確かにマインは人目を引くほどに綺麗ではあるが、いい歳した大の男達が揃って少女に好奇の目を向けるなよ──とソウルは辟易(へきえき)し……たとえ大人びていようと男達に取り囲まれるなど恐怖を感じるだろう、と立ち上がろうとした。


「なるほど、ソ……ラインさんは以前も魔術師ギルドの方へ出向かれたことがおありなのですか?」


 しかし、マインは周囲の事など目に入っていないかのようにソウルとの会話を続けた。

 

「あ……あぁ、魔術を覚えたくて一時期入っていた事がある」

「流石です、その(たゆ)まぬ努力の才もソ……ラインさんの持つ技術ですね。マインも見習わなければなりませんね」


 屈託のない笑みでマインはソウルに向かって微笑んだ。

 この状況下でその対応は連中達を余計に刺激しかねないものではあったが、それでも彼はマインの胆力に感心した。


(余計な心配だったか……強い女の子だ)


「無視たぁいい度胸してんじゃねぇか魔術師風情が!! 俺達ぁ帝都にあるAランクギルドの戦士だぜ!? その細っこい身体にわからせてやろうかぁ!?」 

 

 しかし、予想通り……その態度に業を煮やした男達は声を荒げて丸太のような腕をマインへと伸ばした。

 さすがにマインもそれには一瞬怯んで身をすくめる。


「ーーっ!?」


 だが、男の腕は彼女に触れる直前で止まった。

 その首──喉元に漆黒の剣が突き付けられたから。


 ソウルは座りながら素早く黒耀の剣を抜き、男の首に当てて言った。


「なはは、情けなくて涙が出る。いい歳した男が少女に相手されなかったからって力に物言わせる……自分が惨めすぎると思わないか? これ以上恥の上塗りしたくないなら引き下がった方がいいぜ? マインにそれ以上近付いたらその腕を斬り落とす」


 あくまで諭すように、だが、冗談ではない事をわかりやすく表現するために──笑いながらも殺意を宿した冷たい眼で男を見た。


「──っ!?」

 

 男にはそれが伝わったようで……しかし、少し(ひる)みながら、このままでは引き下がれないといった表情をして男達は食い下がった。

 それが何を意味するか──どちらも引く気がないのであれば争い事は避けられない──その事実だった。


「てめぇっ!! やろうってのか!!」

「なはは、先に仕掛けたのはお前らだろーが」


 男達はそれぞれ武器を抜いて構える。

 問題を起こしたくはなかったが仕方ない、くだらない事で喧嘩を吹っ掛けてくるような調子づいた奴等は黙らせなければならない──とソウルも構える。



「そこまでだ」

 

 瞬間、受付奥の扉が開き凛々しくも静かに……透き通るようで重く感じるような女性の声がフロアに響いた。

 ルルリラの声ではない、もっと大人びた声だ。


 その声の主はそれを体現するかのように、静かに、それでいて決して存在を見失わせないような足取りで争いの渦中に近付きながら第二声を発した。


「客人、益体のない騒動に巻き込んでしまって申し訳ない。私はこのギルドのマスターでハイエルフの【イリュリョナー】と言う者だ。宜しく頼む」


 現れたのは美人で聡明そうな金髪のエルフだった。



 

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