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魔人さんは動かない  作者: 色川玉彩
第1章
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誰もいない

まぁ、漁るよね。

ツイッター➡︎飯倉九郎@E_cla_ss

 歩けども歩けども、人の姿は見当たらなかった。

 確かに多くの人、百人近い人たちがこの街で暮らしていたであろうことがうかがえる。だがその生活の跡は見えるのに、肝心なその人間がいない。

 建物だけなら、同じような白い石作りの民家の他に、家畜を飼っていたであろう柵や、鍛冶を行っていたであろう工場。あとは小さな酒場などが散見された。城へと続く中央の道には小さなマーケットの跡も見つかった。

 そのどれもが壊れてしまっていたが。


「お邪魔します」


 意味がないとはわかっていても、つい挨拶をしてしまう。

 民家の中でも城の近くにあった一際大きな家屋へと入ってみる。建物の建築様式がわからなくとも、この世界の標準を知らなくとも、相対的な見方をすれば自ずとこの民家がお金持ちの家であることは明白だった。


「酷いな」


 中に入ると、先の城ほどではないが、荒しに荒らされ一部壁などが吹き飛んでいるほどだ。金目のものが多いからこそ、争いの標的にされたのだろうか。正面の階段から玄関にかけて、引きずられたような血の跡が何本か見える。この家の住人は殺された後外へと連れ出されたのだろうか。はたまた致命傷を負った状態で外へ助けを求めにいったのだろうか。想像に絶えない。

 視線をあげると、天井付近の壁に四足の魚のような生き物を象った紋章が描かれた石版が見えた。一瞬、この世界に来たばかりに遭遇した巨大なサメを思い起こし、今更ながらに股間が縮み上がる。よく生きていたものだ。

 邪念を振り払い民家の中を捜索する。入った時に予想していた通り、目ぼしいものは何も残っていないようだった。食料も水も、すべて奪われた後のようだ。


「大丈夫。だいたいホラーゲーだと1つくらいは貴重なものがあるはず。もしくはクリアのヒントなんかが……」


 よくわからない自信を持ち、二階へと上がる。

 右への廊下は崩れ落ちていて進めない。残された左の道へ折れた先にあった部屋へと顔を覗かせると、誰かの個室だったのだろう、壊れた天涯つきベッドが置いてあった。周囲の壁には他と同じく血や刃物傷などがあったが、その他にも小さな細かい擦れ傷が目についた。


「なんだ、これ」


 近づいて見て、七海は瞬時にそのことを後悔した。

 それはおそらく爪による擦り傷だろう。大小縦横無尽に引かれたそれらの傷跡は、この部屋の住人が激しく抵抗したのであろうことをうかがわせる。

 再度部屋の中を見渡す。よく見れば、どこでどう切られ、どう抵抗してどういう移動をしたのか、そのすべてが部屋に刻まれているではないか。顔も知らぬ人間の最後を想像してしまい、気味の悪い感情に苛まれる。


「ダメだ。テンションだだ下がりだ」


 そう一人ごちながら部屋に置いてあったタンスへと手をかけた。比較的きれいな状態で残っていたそれに一縷(いちる)の望みを掛けて引き出しを開けると、その中身を見た七海は一瞬固まったように目をぱちくりとさせ、そっとタンスを閉じた。

 そして一つ大きな呼吸をして、


「あかん。いくら異世界で無人で法律なんてものがなかったとしてもだ。これはダメだ」


 言って背を向けるも、そこでしばらく考えるように立ち止まった後、再びタンスへと向き直る。


「異世界に連れてきた人が悪い」


 タンスを開け、中をまじまじと見る。

 それはいわゆる下着入れだった。色鮮やかな下着がところ狭しと並んでいる。


「人の家に忍び込んで下着を物色してるみたいでよりいっそう興奮するな。いや、みたいじゃなくて、まさにそうなのか」


 はじめは興奮したものの、時間がたつと悪いことをしている気持ちもなくなり、さらに既にこの部屋の住人が惨殺されたことを想像すると冷静になり、


「何やってんだろ」


 急に冷めた。


「あーだめだ! 疲れた!」


 さすがに歩き疲れたと、ベッドへと倒れこんだ。多少の血痕もあったが致し方がない。もう慣れた。

 ひび割れた窓の外には大海原が臨んでおり、その向こうにはオレンジ色の太陽が見える。


「説明書がないのは反則でしょ」


 この世界も地球と同じように太陽が沈んで夜を迎え、また同じように朝がやってくるのだろうか。

 それともここが異世界だと思い込んでいるだけで、本当はただ海に流されてヨーロッパの辺境まで流れ着いただけなのだろうか。

 この後ツアーガイドさんがこの町を通るかもしれない。


「んなわけないよなぁ」


 淡い希望を自ら打ち砕く。

 と、枕の下から紙の擦れる音がした。

 取り出してみるとそこには四つ折りにされた紙切れがあった。開いてみると、子供が描いたような絵が描かれている。

 描かれていたのは人物が3人。一人は背の高い大人の女性と、その横には可愛らしいドレスを着た少女。その頰にはソバカスが描いてある。

 そしてもう一人は、青い衣装を(まと)った藤紫の髪をした女性。


「あ、これあの魔人さんじゃん」


 こんな珍妙な人物は他にはいないだろう。子供の落書きでもわかる鋭い目つきはあの壊れた玉座に鎮座する、魔人を名乗るイヴィドギだ。

 しかしイラストのイヴィドギは先ほど見た怖い顔つきではなく、この絵を描いたであろう少女と共に、にこやかに笑っている。

 とても、楽しそうに。


「……この国、何があったんだ?」


 この国が滅んだのは間違いがない。しかもここ最近の話だ。

 大勢の国民がいて、女王イヴィドギは子供にまで愛されていた。

 そんな平和な国に、なにがあったのだろうか。


「異世界とかほんと勘弁してよ……」


 胃が痛む。七海は冒険心など皆無の人間で、平穏無事を好むのだ。

 誰もこんな波乱万丈、望んじゃいない。

 異世界を救うヒーローになど、なりたくもない。

 その時、部屋中に大きなお腹の音が響き渡り、七海の思考は全てそちらに奪われる。


「お腹すいた」

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