先に謝っておきます
ひとまずここまで。
これから、を楽しみにしてる人が一人でもいれば嬉しい。
ツイッター▶︎飯倉九郎@E_cla_ss
「バス、とはなんだ?」
七海から漏れ出たセリフに、イヴィドギが訪ね返す。
「僕の世界の乗り物なんですけど、40人くらいが乗れて移動できるもので、窮屈なんですけど好きな人との距離も縮まったりするかもしれないもので……」
「これが、か?」
そう疑問符が付く。
それも致し方がない。なぜならそのバスだったはずのものは、既に黒く錆びついていて、加えて後ろ半分は千切れたかのように失われていた。七海もかろうじてヘッドライトの部分に見覚えがあって気がついたくらいだ。
「かなり傷んでいて、半分くらいは欠け落ちてますけど……これ、確かにバスです」
「ソーラスでも科学班が調べてくれたけれど、一部この世界でもまだ使われていない塗料などが確認されたわ。異世界かどうかは別として、これはあきらかに非現実的なものであるのは確かね」
言い終えるか否か、七海はどさりと地面に尻もちをついた。
「どうした?」
イヴィドギが少し驚いた顔で尋ねる。
「いえ、なんていうか……本当だったんだーって」
「異世界がか?」
「はい。僕の記憶、間違ってなかった。それに死んで天国に来たわけでもなかった」
「貴様、私達を死人だとでも思っていたのか」
「思っていたというか……現実的にそれか、植物状態で夢を見ているかのどっちかかと」
「ふんっ。安心しろ。現実だ」
と七海の肩あたりをちょんと蹴る。
「中に、人は?」
七海がファラを見遣ると、ファラは黙って首を横に振った。
「中と言っても、このバスの中まで大樹の幹が入り込んでるからちゃんとは確認できてない。けど、今の所人の遺体らしきは発見できていないわ」
「そう、ですか……」
「しかしわかったことがあるだろう」イヴィドギが言葉を加える。「ナナミは個人でこちらの世界に移動してきたわけではなく、そのバスごと、つまり40名の仲間たちもこちらの世界に移動してきているということだ」
「そうね。これで以前、各地で確認された光の柱の説明もつく」
「ほっとしたか?」
じっとバスを見上げる七海に、イヴィドギが尋ねた。
「ほっとした、って感じではないですね」
「どうして? 仲間が生きていたのにか?」
「ええ。ほっとというより、ぞっとしています」
「? 何故だ?」
イヴィドギは訳が分からないと眉根を寄せた。
イヴィドギの問いに、七海は口を少し開いたまま固まってしまう。
「決まってるじゃない」
すると代わりにファラが返答を返す。
「異世界人が皆、七海と同じ光の騎士である可能性が高いのよ」
「だからなんだと言う? 元は友達じゃろう。同じ学び舎で学んだ家族のようなものではないか」
「そうでもないんですよね」
今度は七海が答えた。
「学校って、家族でも仲間でもないんです。少しはそう思ってる人もいるけど、大半はどうでもよくて、そして一部ではそんな関係に苛立ちを覚えている人もいる」
「そんな人間が、誰も寄せ付けない力を手に入れたら、どうすると思う?」
ファラに答えを促され、イヴィドギは不快そうにそれを無視した。
しかしファラはそれを気にせず、言葉を続ける。
「異世界人同士の喧嘩は、世界中を巻き込んだ戦争と成りうるってことよ」
「大袈裟な」
「大袈裟じゃないわよ。貴女もナナミの持つ力を見たでしょう? あんなのが40人よ? 場合によっては40人の魔人と同等の脅威が増えるってこと! どれだけ由々しき事態かわからない?」
「しかしだな……」
「僕も、そう思います」
七海はゆっくりと立ち上がった。そしてお尻に付いた土を払う。
その手には碧色の短剣。
「しかも、異世界人だけじゃない。この世界の人間と、亜人種と、そして魔種。全部を巻き込んだ、血で血を洗う戦争が始まります。この世界の覇権を賭けた」
七海らしからぬ言葉に、イヴィドギも何も返せずに立ち尽くした。
そんなイヴィドギに、七海はこれまたらしくない鋭い視線を向ける。
そして、おもむろに口を開いた。
「先に謝っておきます。ごめんなさい。僕らはきっとこの世界を――」
――滅ぼします。
異世界ハラキリヒーローズ 序章 <吉良七海編~魔人さんは動かない~> ―完―




