その後
なんとなく続けてみようかと。
やはり会話劇は楽しいです。
「魔人さん」
「なんだ」
「僕、よく考えたんですけど」
「うむ。どうした」
「これは、建築家……いりますね」
「いるな。建築家」
新生ミァンのただッ広い荒れ地に立つ吉良七海とイヴィドギ。
その正面には、大小様々な木々が縦横無尽に倒れ込んでいた。
いや、違う。
それは遊園地だ。
遊園地、を目指して作ったもの、と言った方が正しい。
ジェットコースターやメリーゴーランド、さらには観覧車などがある。
しかしそれは見るも無残な。ただ木々をしばり合わせただけのもの。
嵐の後の森にしか見えない。
ガタン、と入り口(に見えなくもない)鳥居のようなものが、揺れて傾いた。
「しかしこの入口は何なのだ? 門に見えなくもないが、変な形をしている」
「鳥居です。僕のいた国では、標準的な門です。ここをくぐれば夢の国なんです」
「ふむ。ではあのウネウネ蛇のように長い遊具は?」
「あれはジェットコースターですね。トロッコみたいなもので、上下左右に激しく揺れることで遠心力や急速落下の怖さをエンジョイするんです」
「随分と鬼畜な遊び方を好むんだな貴様の国は。ドMの集まりか」
「間違ってはないですね。今わの際まで動かないですし、社畜多いらしいんで」
「して、あの馬は?」
「メリーゴーランドです。小さな子どもたちのための遊具で、馬の背に乗ってぐるぐる回転するんです」
「楽しいのかそれは」
「甚だ疑問ですね」
「ならなぜ作った」
「自分の感性は疑ってかかっているからです」
「その考えは悪くはないと思うが……で、あのでかい車輪は?」
「観覧車ですよ。一番下からゴンドラに乗って、ぐるーっと一周回るんです。一番高いところから見下ろす街は綺麗で素敵なんですよ」
「見渡す街がないぞ」
「それは盲点でした」
「それにどうあがいても十メートルくらいしかないぞ。たいした景色じゃない。まだ城の方が高かった」
「……育つんです。真ん中の軸になってる木が育っていくことで、とても高くなるんです」
「根こそぎもぎ取ってきたのに、まだ成長するのか?」
「はい。生命とはとても強いものです」
「しかし成長したとして、車輪全体も持ち上げられるから、下から乗れなくなるのではないか?」
「……全体的に育つんです。すべての木々が一緒に長くなるので、もう、なんていうか、比率をそのまま上げる感じですね。Shift+Altですね」
「枝を削いで幹を真横にぶった切ったのに、まだ成長するのか? 生命とはそこまで強いものか?」
「まあ切れても生えてくるのは鉄板ですね。僕の世界の漫画では」
「なんと……異世界はなんとも奇妙な場所なのだな」
全然違う。
しかし七海は否定するつもりもなかった。
どうせ確認できるものでもないし。
「しかしせっかく作ったのだ。あれは面白そうだと思うぞ。観覧車。このユウエンチのシンボルにしよう。他にセールスポイントはないのか」
「そうですね、カップルが二人だけの時間を作るのに最適です。良いデートスポットになるかも」
「おお。それは良いな」
「でも乗ると別れるともっぱらの噂です」
「ダメではないか……ではあの中にベッドを置こう」
「ベッドですか? どうして」
「子作りさせるのだ。あの中で種付けをしてもらい、子孫繁栄を促す。そうすればこの国の民も増えていくではないか」
「すっごい眩しい顔してますけど、びっくりするくらいえげつないこと言ってますからね。魔人さん、えげつないですからね」
「む、ダメか?」
「ただのラブホじゃないですかそれ。回転するラブホ。斬新か。観覧車じゃなくて托卵車ってか。やかましわ」
一人ツッコミ。
イヴィドギは未だ自分のアイディアが間違っていることを理解できていないように眉をハの字にしている。
「こう、あれだ。『一周一発!』と言った売り文句はどうだ?」
「早漏か。今の大きさだと一周ものの1分もかかんないですよ。一人でしてももっとかかります」
「そうなのか?」
「なんでそこだけ食い気味で聞き返すんですか」
「いやそんなものなのかと興味本位でな」
「魔人も性欲あるんですか?」
「ないから知りたいのだ。どれくらいかかるんだ? その、フィニッシュまで」
「フィニッシュって言わないでください」
「じゃあゴール」
「むしろ始まりですね。次の試合の。詩的かな」
「で何分くらいなのだ?」
「しつこい! ものによりますよ!」
キレる七海。
そう真面目に聞かれても恥ずかしいものだ。
これ以上、下の話をしていたくない。
「そうか。ものによるのか……何なら早くて何なら遅いのだ?」
「エロけりゃ早くてブスけりゃ遅いです!」
「おお……体は正直だな」
「嘘はつきませんよ、男の体は特に」
「何の話してるのよあなた達」
割って入る声は、まるで生徒会長のように棘のある。
声に振り返ると、そこにはぶっすりと不満爆発の顔をしたファラが立っていた。
「ああ、フェラさん」
「いきなりぶっこまないで!! 間違え方に品がないわ! それだけはやらないと思っていたのに!!」
「なんじゃ、フェラ。戻ってきたのか」
「続けるな!」
ファラの猛抗議に、イヴィドギはふんっと乾いた笑いをみせた。
「2日ぶりに戻ってきたと思ったら、なにこれ……」
ファラは2日前にはなかった遊園地(廃墟)を見上げて言った。
誰がどう見ても、大参事でしかない。
「国としての基礎機能を無視してきゃっきゃうふふとユウエンチを作ると勇んだ結果がこれ? これで国を繁栄させるとか、ふざけてるでしょ」
「結局週一でソーラスまで帰ってるこどおじ娘には言われたくないですよ」
「じゃな。一人で世界を見てくるとカッコイイ言葉を吐いても、結局親の庇護の下から離れられないハナタレめが」
「いろいろ引っ越しするのに必要なものを回数に分けて運んでるだけでしょ! そこまで言わなくてもいいじゃない!」
「ハイ」
「あ、ありがとう」
横から現れたゾウの亜人が、サンドイッチを手渡す。
ファラは嬉しそうにそのサンドイッチを受け取った。
「わあ! また新作ね? ゾウさんったらいつも私を楽しませてくれるわね!」
「ハイ」
「貴様がここでしているのは余計な口出しとサンドイッチを喰うくらいだな。ぶくぶく太りおって」
「太ってないわよ。ちゃんと摂取した分は動いてる」
「確かに。先週海で泳いでましたよね」
「なっ、なんで知ってるの!?」
「いや、たまたま後を着けたら急に服を脱ぎだしたの――ブッ」
グーパン。
「なにがたまたまよ! 覗く気満々じゃない!」
そう憤慨しながら、貰ったサンドイッチを頬張る。
ファラはすぐに満面の笑みを浮かべた。
「おいしいっ! 今回は何のお肉を使ってるの?」
「サメですよ」
「え、サメ? って、フカでしょ? ナナミ、貴方のペットのようなものじゃない……?」
「そうそう。こないだ街の片づけにと、短剣の力を使って変身したんですよ。その時に海に入ったら、嬉しそうにサメたちが寄って来てくれて」
「でしょ? それを食べたの?」
「まあ、いっぱいいたし大丈夫でしょ? 一匹くらい」
「知れば知るほど貴方が怖くなるわ」
「サイコパスじゃからな」
イヴィドギがファラに珍しく同意を見せる。
種族が違い価値観が違っても、七海が普通でないことは共通の認識となっていた。
「そんなことよりナナミ、貴方に伝えなきゃいけないことがあったのよ」
「ごめんなさい。貴女を好きにはなれません」
「告白してないわよ! 馬鹿なの!?」
「じゃあなんですか。僕が陰が薄くて友達がいないぼっち野郎なのは気づいてますよ。これ以上僕にどんな現実を突きつけると言うんですか?」
「どれだけ卑屈に育ったのよ貴方。全然そういうことじゃない。異世界についての話よ」




