これから
ひとまず完結です。最後までありがとうございました。
ヒーローズなので、他の異世界漂流者視点の物語も考えてるのですが、いかんせん作業の時間がなく。。。
でもいずれ続きは書きたいです。
よろしくお願いします!
ツイッター➡︎飯倉九郎@E_cla_ss
馬車の荷台の中から響いた声にそちらに視線を向けると、そこから降りてきたのは足元に着いてしまいそうな程に長い黒髪を有した女だった。
「あ、名前を言い間違えてはいけないあの人」
「なんて紹介の仕方よ!」
「じゃあファラさん」
「じゃあって……久しぶりね」
「久しぶりって、3日ぶりくらいでしょ」
「あんなことしでかしといて、なんて挨拶すればいいのかわからなかったのよ……」
「なんじゃ。性懲りもなくまた殺しに来たのか」
「それは一旦諦めたわ。お母様も腰を痛めてしばらくは寝たきりだし、兵たちも戦う気力を失ってる」
「じゃあ、サンドイッチ盗み食いしてたら気づいたらここに?」
「そんな馬鹿みたいなミスしないわよ。この亜人がミァンに行くと言うから、乗せてもらったの。この人、元々ここに来る途中でソーラスのお祭りに寄っただけらしいわ。ミァンはどんな種族も受け入れてくれる国だと聞いて、遥か東から遠路はるばるここに移住してきたの。理想郷だって」
象の亜人はこくりとうなずいた。
「来てもらって悪いが、ここは悪名高い魔人の治める国だ。以前まで住んでいた民はみな殺されている。それでも、ここに住みたいというのか?」
言われて象は、周囲を見渡す。
そして近くの空きスペースまで行って、そこで以前のように看板を置いて店支度を済ませた。
まるで、そこは今日から自分の場所で、決して動かないと言わんばかりに。
七海とイヴィドギは顔を見合わせた。
イヴィドギは呆れたように眉根を寄せ、
「しかし、客などおらぬぞ」
「私がいるわ」
そう言って前に出たのは、ファラ。
「私もここに住んでみることにしたわ」
「「え〜」」
「揃ってそんな嫌な顔しないでよ!」
「嫌ですけど、どんな気の迷いが?」
「嫌じゃないですけど、でしょ。本音ダダ漏れじゃない。私は正常よ。ただ私なりに、この目でこの国を、魔人のことを見極めたいと思ったの」
「監視じゃな」
「監視ですね」
「やめてよ。そういうんじゃないわ。お母様の指示でもない。私は、自分で人生を選択したいの。だから、まずはやってみることにした」
「反抗期じゃな」
「反抗期ですね」
「だからやめてよそういうの! ……それに、ちょっとトラブルもあってね」
「トラブル?」
「そう。身に覚えのない請求が山のように私宛に来て……お母様に知られたらただじゃ済まないわ。だから少しこっちでほとぼりが冷めるのを待とうと思って」
「本音は絶対それじゃろう」
「ち、違うわよ!」
「どうする、ナナミ?」
イヴィドギが確認を促すと、七海は冷や汗を垂らしながら、硬直した状態で声を裏返し、
「いや、いいんじゃないですかね。ほとぼり、冷めるまで。ね?」
「え、ええ。ありがと」
イヴィドギが怪しげに睨み付ける。
それを目の端で気付いていた七海は、その目を見ないようにじっと正面を見据えていた。
「ま、お主がそういうなら異論はないが」
「これで四人ですね! 小一時間で倍ですよ倍! この調子で増やして行きましょう!」
「魔人と人間と亜人……それに異世界人か。実に多様だな。こんな国、どこにもない」
「異世界人……ああ、そういえば」
ファラは言って七海に向き直る。
「貴方に異世界に関する情報があるわ」
「え」
「お母様はああは言ったけど、私は約束は守りたい。だから情報が入り次第随時教える。異世界人の目撃情報が二つ程手に入ったわ」
「本当ですか?」
「ええ。目撃、というより、貴方の時と同じように、光の柱が世界のあちこちで上がっているらしいわ。一つは遥か東に、白と黒の柱が。もう一つは、南方で赤い光の柱が上がったそうよ」
「まるで、伝説に聞く、黒夜のようだな」
「黒夜?」
「ああ。時代の終わりには、必ず世界が黒夜になる――つまり常闇に包まれるそうだ。朝は来ず、凍えるような寒さの日が続き、誰もが生命の終わりを悟る……が、その時、その闇に光を照らすように、幾本もの光の柱が天より降り注ぐ。色とりどりの光の柱からは、その光の鎧を纏った光の騎士が現れ、常闇を振り払ったという」
「ああ、聞きました。それが光の騎士ですよね」
「そういうこと。あくまで神話だけどね。ソーラスではその常闇を魔人のことだと解釈している。隠喩というやつね」
「言いがかりだがな」
「だから一般的な解釈は、よ」
「どうだかな」
イヴィドギが七海を見ると、七海はなにかを考え込むかのように視線を下げていた。
そしてその先には、あの碧色の短剣が握られている。
「僕たちがこの世界に呼ばれたのには、なにか理由があるんですかね」
「理由が無いと考える方が無茶ではあるな」
「ですよね……のらりくらりと異世界生活……とはいかないかぁ。みんな、無事だといいな」
「それは難しいわね。こんな世界だもの。世界のあちこちで争い事が起こっていて、毎日どこかで誰かが殺しあってる……しかも貴方たち異世界人は紛れもなく戦いを引き寄せる」
「……帰る方法は、手掛かりありませんか?」
ファラは黙って首を横に振るった。
「そうですか」
「……」
「? 魔人さん、どうかしましたか?」
「いや、なんでもない」
七海を見つめていたイヴィドギは、ぷいっとそっぽを向く。
「とりあえず、帰る前に約束だけは守って行け。この国を復興させなければ、貴様は帰ってはならぬ」
「もちろんですよ! 帰れようが帰れまいが僕には関係ないですよ!」
「なら良い」
「さっそく復興作業に取りかかりましょうか!」
「じゃあ私的な意見だけど」
「なんですかファラ参謀長官」
「ひとまず、城壁を設けるべきね。敵の侵攻を防ぐ手だてがないと、どんな国を作ったってひとたまりもないわ」
「なるほど。じゃあそれで」
「城壁は設けん」
即座にイヴィドギが否定し切り捨てる。
「どうしてですか?」
「我々が誰に対しても敵対の意思がないことを伝えたい。この国は誰をも拒まず、どんな存在であっても受け入れる。それが私の王としての矜持だ」
「そんな! それじゃあその民が危険に晒される!」
「それをわかってくれる者たちだけでよい」
「めちゃくちゃよ。国王としての責務を果たせてない」
「貴様、民のくせに国王に歯向かうのか?」
「独裁じゃない!?」
「貴様限定でな」
「どうどうどう。喧嘩しないでください二人とも。ここは間をとってやっぱり遊園地から作りましょう」
「貴様の間はどこにある」
「今から僕がこの国の復興大臣です。僕の指示に従ってください。ファラさんは僕と一緒にまずはこの国の片付けを。ゾウさんは食事担当で」
「私は何をすればいい?」
「魔人さんは……そうですね。王様らしく、玉座でふんぞり返っといてください。あとは下々がやりますので」
「誰が下々よ」
イヴィドギは小さく笑い、七海の作った木の玉座へと向かって座り込んだ。
木の音がキィと小さく響く。
「ではよろしく頼む。ひとまず夕食までの数時間、作業に励むがよい。私はそれまで、ここから動かんのでな」
「あいあいさー!」
またここから国が作られる。
今度こそ、優しさに満ちた平和な国になるだろう。
七海は元気良く歩き出した。ファラも渋々それに続く。
魔人イヴィドギは玉座からそれを嬉しそうに見つめていた。




