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魔人さんは動かない  作者: 色川玉彩
第6章
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無駄な抗い

無敵になってみたい。傲慢になるのだろうか。

ツイッター➡︎飯倉九郎@E_cla_ss


 心地いい。

 これまでにない程、心が高揚していて、今なら何でもできてしまいそうだ。

 既にここは戦場で、七海はその最中にいる。

 だが不思議と恐怖はない。

 先程までうるさかった騒音が静かになり、ミァンにまた静けさが戻ってきた。


「ここは、こうでなくっちゃ」


 七海は(かぶと)の奥でそう呟く。

 改めて自分の変わり果てた姿を見下ろす。

 それは碧色(へきしょく)の鎧だ。全身を覆っているが、重さは感じないし、動きにぎこちなさも感じない。端的に言えば、何かを着ている感触が全くない。

 まるでそれは、自分の身体のように動かせる。


「なんなのだ、それは」


 声に振り替えると、イヴィドギが驚きの表情でこちらを見据えていた。


「あ、やっほー」

「やっほーではない。その鎧はなんなのだと聞いている」

「短剣で腹を切ったら変身したんです」

「ちょっと何言ってるかよくわからんな」

「ですよね」


 そんなことを言われても、事実そうだったのだから他に説明しようがない。


「以前、同じように右肩に短剣を突き立てられた時も、右腕が同じように鎧を(まと)っていたな……あの短剣が原因か」

「明らかに、キーアイテムっぽいですもんね。ようやく異世界感出てきました」

「しかし何を思って腹に突き立てた? ともすれば死んでいたぞ」

「ジャパニーズスーサイドなので、なんとなく」

「一事が万事適当な男だ。それと、先ほど相手の剣戟(けんげき)を受け損ねていたな」

「うっ」

「ダサかったぞ」

「言わないでください。こんなスーパーな力を手に入れて、ようやく異世界に飛ばされた主人公らしくなってきても、経験値は喧嘩一つしたことない青少年なんですから。戦い方なんて知りません」

「なるほど。道理で所作一つとってもダサいわけだ」

「レベル1なんでコマンドが殴る蹴るしかないんですよ……魔人さんこそ、大丈夫ですか? 怪我してるみたいですけど」

「……明らかな痛み、というのは初めて感じたが……嬉しいものだな」

「何笑ってるんですか。Mですか? やめてください、キャラが被ります」

「違うわボケ。さらっと性癖抜かすな」

「お口が悪い」

「自分が、貴様らと変わらぬ生き物なのだと……そう確信できた……この身が有限なのだと……感じることができたのだ」


 真っ赤に焼けた拳をぎゅっと握りしめる。

 激しい痛みを感じているだろうに、しかしイヴィドギはそれを噛み締めるように瞳を閉じた。


「正体を現したわね……ナナミ」


 静まり返った町の中から、声が届く。

 顔を向けると、一人の女性が歩み寄ってきていた。

 地面に届いてしまいそうな程、黒く長い髪が潮風に揺れる。


「いえ、魔人と呼んで構わないかしら」


 その表情は怒気に満ち満ちていた。


「ファラさん。いたんですね……やっほー」


 ふざけた態度で場を(なご)まそうとするが、しかしファラは一切の笑みを見せず、七海を仇敵(きゅうてき)のように(にら)み付けて近づいてくるだけだ。


「やめましょう、ファラさん。喧嘩したくない」

「何を今さら……私たちの仲間をここまで殺めておいて」

「すみません。力がまだうまく使えなくて……これ以上やったら、ファラさんも傷つけてしまう」

「なにそれ……馬鹿にしているの? それとも優越感? 生意気なことを言うようになったじゃない。やってみなさい」


 ファラは、そう言って背から大剣を引き抜いた。

 だがそれは以前見た、鉄を押し固めたような武骨な剣ではない。

 それには刀身がなかった。すっぽりと抜け落ちてしまったかのようになにもない。あるのは()(めつ)(ほう)ルーのように白く滑らかな装甲をした、剣の柄部分だけ。そしてその中央にはガラス玉のようなものがはめ込まれている。


「対魔人兵器フラガラッハ。お母様が私のために作ってくれた、世界に(あか)りを照らす希望の剣よ」

「それ。そういうネーミングセンスが僕も欲しい」

「どこまでもふざけて」


 ファラがフラガラッハを顔の前に掲げる。すると呼応するかのように柄のガラス玉が白く光を放ち、光が飛び出てきてそれが刀身を形作る。


「うわっ、それ欲しい」


 七海の()れ言を無視し、ファラはその光の剣を地面に(こす)り付けるように下から上へと振り上げた。すると光の衝撃波が地面を削りながら飛び、七海へと襲いかかる。

 七海は反射的に両手で身体を守ったが、その身は呆気なく後ろへと飛ぶ。身軽なその身を一回転させ着地した。


「本当に、やるんですか」

「魔人と会話など、必要はない!」


 今度は横凪(よこな)ぎに振るう。

 光の衝撃波を不細工にしゃがんで避ける。だが避けた衝撃波が、七海の宿泊していた屋敷に直撃し、崩壊する。


「ああッ!?」

「よそ見を、するな!」


 隙を作らず寄せるファラ。

 このまま避け続けていても、ただでさえぼろぼろの町がさらに破壊されていくだけだ。

 ここには、もう一度国を築かなければならない。

 七海は呼吸を整え、その動きを注視する。剣を持つファラの手を狙い、その手を弾く。フラガラッハはファラの手を離れた。

 だがすぐに、ファラはもう一方の手でフラガラッハを宙で取り、七海に振るう。

 七海の身体が数十メートル転がった。


「確かにその鎧は驚異的だけれど、戦闘スキルは皆無ね」

「う~。だから喧嘩したくないって言ったのに……痛くないけど……頭が回る……おえっ」

「いつまで飄々(ひょうひょう)としていられるかしら」


 地面に転がる七海に向かって、ファラは何度も何度もフラガラッハを振り下ろした。

 その一撃一撃が破壊的な威力を持って七海を襲う。

 だが次第にその勢いを弱めていくファラ。

 彼女の目には、余裕な様子で横たわる碧色の騎士。


「そんな……全く効いてないの?」

「すみません」

「馬鹿に、して……!! あああああああああああああああああああ!!」


 激昂したファラが、フラガラッハを持つ手に力を込める。

 するとそれに呼応して、フラガラッハから放たれる光の剣が強大になる。

 ファラはそれを渾身の力を込めて振り下ろした。


 轟音と共に、地面が吹き飛ぶ。


「はぁ……はぁ……そんな」


 しかし碧色の騎士はそこにいた。

 何事も無かったかのように、ただ寝転がっていた。

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