無駄な抗い
無敵になってみたい。傲慢になるのだろうか。
ツイッター➡︎飯倉九郎@E_cla_ss
心地いい。
これまでにない程、心が高揚していて、今なら何でもできてしまいそうだ。
既にここは戦場で、七海はその最中にいる。
だが不思議と恐怖はない。
先程までうるさかった騒音が静かになり、ミァンにまた静けさが戻ってきた。
「ここは、こうでなくっちゃ」
七海は兜の奥でそう呟く。
改めて自分の変わり果てた姿を見下ろす。
それは碧色の鎧だ。全身を覆っているが、重さは感じないし、動きにぎこちなさも感じない。端的に言えば、何かを着ている感触が全くない。
まるでそれは、自分の身体のように動かせる。
「なんなのだ、それは」
声に振り替えると、イヴィドギが驚きの表情でこちらを見据えていた。
「あ、やっほー」
「やっほーではない。その鎧はなんなのだと聞いている」
「短剣で腹を切ったら変身したんです」
「ちょっと何言ってるかよくわからんな」
「ですよね」
そんなことを言われても、事実そうだったのだから他に説明しようがない。
「以前、同じように右肩に短剣を突き立てられた時も、右腕が同じように鎧を纏っていたな……あの短剣が原因か」
「明らかに、キーアイテムっぽいですもんね。ようやく異世界感出てきました」
「しかし何を思って腹に突き立てた? ともすれば死んでいたぞ」
「ジャパニーズスーサイドなので、なんとなく」
「一事が万事適当な男だ。それと、先ほど相手の剣戟を受け損ねていたな」
「うっ」
「ダサかったぞ」
「言わないでください。こんなスーパーな力を手に入れて、ようやく異世界に飛ばされた主人公らしくなってきても、経験値は喧嘩一つしたことない青少年なんですから。戦い方なんて知りません」
「なるほど。道理で所作一つとってもダサいわけだ」
「レベル1なんでコマンドが殴る蹴るしかないんですよ……魔人さんこそ、大丈夫ですか? 怪我してるみたいですけど」
「……明らかな痛み、というのは初めて感じたが……嬉しいものだな」
「何笑ってるんですか。Mですか? やめてください、キャラが被ります」
「違うわボケ。さらっと性癖抜かすな」
「お口が悪い」
「自分が、貴様らと変わらぬ生き物なのだと……そう確信できた……この身が有限なのだと……感じることができたのだ」
真っ赤に焼けた拳をぎゅっと握りしめる。
激しい痛みを感じているだろうに、しかしイヴィドギはそれを噛み締めるように瞳を閉じた。
「正体を現したわね……ナナミ」
静まり返った町の中から、声が届く。
顔を向けると、一人の女性が歩み寄ってきていた。
地面に届いてしまいそうな程、黒く長い髪が潮風に揺れる。
「いえ、魔人と呼んで構わないかしら」
その表情は怒気に満ち満ちていた。
「ファラさん。いたんですね……やっほー」
ふざけた態度で場を和まそうとするが、しかしファラは一切の笑みを見せず、七海を仇敵のように睨み付けて近づいてくるだけだ。
「やめましょう、ファラさん。喧嘩したくない」
「何を今さら……私たちの仲間をここまで殺めておいて」
「すみません。力がまだうまく使えなくて……これ以上やったら、ファラさんも傷つけてしまう」
「なにそれ……馬鹿にしているの? それとも優越感? 生意気なことを言うようになったじゃない。やってみなさい」
ファラは、そう言って背から大剣を引き抜いた。
だがそれは以前見た、鉄を押し固めたような武骨な剣ではない。
それには刀身がなかった。すっぽりと抜け落ちてしまったかのようになにもない。あるのは魔滅砲ルーのように白く滑らかな装甲をした、剣の柄部分だけ。そしてその中央にはガラス玉のようなものがはめ込まれている。
「対魔人兵器フラガラッハ。お母様が私のために作ってくれた、世界に灯りを照らす希望の剣よ」
「それ。そういうネーミングセンスが僕も欲しい」
「どこまでもふざけて」
ファラがフラガラッハを顔の前に掲げる。すると呼応するかのように柄のガラス玉が白く光を放ち、光が飛び出てきてそれが刀身を形作る。
「うわっ、それ欲しい」
七海の戯れ言を無視し、ファラはその光の剣を地面に擦り付けるように下から上へと振り上げた。すると光の衝撃波が地面を削りながら飛び、七海へと襲いかかる。
七海は反射的に両手で身体を守ったが、その身は呆気なく後ろへと飛ぶ。身軽なその身を一回転させ着地した。
「本当に、やるんですか」
「魔人と会話など、必要はない!」
今度は横凪ぎに振るう。
光の衝撃波を不細工にしゃがんで避ける。だが避けた衝撃波が、七海の宿泊していた屋敷に直撃し、崩壊する。
「ああッ!?」
「よそ見を、するな!」
隙を作らず寄せるファラ。
このまま避け続けていても、ただでさえぼろぼろの町がさらに破壊されていくだけだ。
ここには、もう一度国を築かなければならない。
七海は呼吸を整え、その動きを注視する。剣を持つファラの手を狙い、その手を弾く。フラガラッハはファラの手を離れた。
だがすぐに、ファラはもう一方の手でフラガラッハを宙で取り、七海に振るう。
七海の身体が数十メートル転がった。
「確かにその鎧は驚異的だけれど、戦闘スキルは皆無ね」
「う~。だから喧嘩したくないって言ったのに……痛くないけど……頭が回る……おえっ」
「いつまで飄々としていられるかしら」
地面に転がる七海に向かって、ファラは何度も何度もフラガラッハを振り下ろした。
その一撃一撃が破壊的な威力を持って七海を襲う。
だが次第にその勢いを弱めていくファラ。
彼女の目には、余裕な様子で横たわる碧色の騎士。
「そんな……全く効いてないの?」
「すみません」
「馬鹿に、して……!! あああああああああああああああああああ!!」
激昂したファラが、フラガラッハを持つ手に力を込める。
するとそれに呼応して、フラガラッハから放たれる光の剣が強大になる。
ファラはそれを渾身の力を込めて振り下ろした。
轟音と共に、地面が吹き飛ぶ。
「はぁ……はぁ……そんな」
しかし碧色の騎士はそこにいた。
何事も無かったかのように、ただ寝転がっていた。




