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魔人さんは動かない  作者: 色川玉彩
第1章
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魔人イヴィドギ

おこがましいけど。

少年ジ○ンプ新連載でも腹切ってた。

よし、便乗しよう。

ツイッター➡︎飯倉九郎@E_cla_ss


「イセカイ? 聞いた事がないな」


 藤紫の髪の少女が、玉座に座りながらそう威厳たっぷりに言う。

 頬にできた傷を全く気にしないあたり、こういったことに慣れているのだろうか。


「僕も初めて言いました。ていうか素でこんなこと言う日が来るだなんて夢にも思っていませんでした。恥ずかしい」


 七海は噛みつかれた手を見つめた。どれだけ躊躇(ためら)いがなかったのか、その噛み(あと)を見れば一目瞭然だ。噛みちぎるつもりだったのだろう。


「恥ずかしい? (いや)しい出か?」

「卑しくはないです。ごく普通の一般家庭です。ただ子供の妄想というか。とにかく僕はこの世界の住人じゃないです。多分」

「要領を得んな……だがどうでもいい。ここにはもう盗る物など何もない、出ていくがいい」

「出ていくって言っても……どこに行けばいいかわからなくて」

「何を言っている。記憶喪失か?」

「あ、それ。それにしときます」

「しときます? 変な奴だ。人がいる一番近いところなら、ソーラスだな。そこに行けばいい」

「ソーラス……それってここからどれくらいの距離なんですか?」

「馬を走らせれば半日で着く」

「……初期アイテムに馬が無かった場合、つまるところ歩いたら?」

「森や山があるから、2日ほどだろう」

「途中休憩所は?」

「ない」

「じゃあ給水所は?」

「そんなものあるわけなかろう。途中森を1つ越えなければならず、そこは蛮族(ばんぞく)住処(すみか)だ気をつけろ」

「蛮族……って」

「森を抜けるものすべてを獲物とし、容赦なくすべてを奪う者たちだ」

「大丈夫かな。盗られるものはないですし」

「命もか?」

「あー。……命奪っちゃう系かぁ……」


 七海はわかりやすく頭を抱えた。

 前途多難すぎて、手の痛みもどこへやらだ。


「駄目元で聞きますけど、安全に向かう方法はないですかね?」

「裏に海がある。沖に出てそこから一日ほど潮で流されればソーラスの近くの沖に出る。ただここら一帯はフカの住処だ気を付けろ」

「フカ……あーサメですよね確か。もう一回殺されかけました。というか、一日ほど流された時点で死にますよね」

「では強ければいい。森を抜けられる」

「めっちゃ弱いです。妹に負けます」

「では強い者を雇えばいい」

「それですね。紹介所はどこですか?」

「……ない……いや、なくなった」


 一瞬、何事にも動じぬ顔を作っていた少女の顔が、悲哀に染まった――気がした。

 それは気のせいとも言える、ほんの一瞬。


「あの」

「……なんだ」

「いろいろ気を遣って尋かないようにしようとは思っていたんですけど、率直にうかがっていいですか?」

「勝手にしろ」

「この国滅んでますよね?」


 そう率直にたずねた七海の視線を、しかし少女は何も答えずじっと見つめ返してきた。


「滅んではいない」


 遅れてそう否定する。


「いや、絶対滅んでますよね。人いないし、血だらけだし」

「まだ、滅んではいない」

「まだ? その心は?」

「私がいるから」

「……あなたは、誰なんですか?」

「私は……」


 少女は一瞬、躊躇(ためら)った。だがすぐにその先の言葉を続けた。


「私はこの希望都市ミァンの建国の祖であり、女王でもあるイヴィドギだ」

「イヴィ、ドギ……ファミリーネームは?」

「ない。魔人にはファミリーネームはない」

「マジン……またやっかいな設定が出てきたな」


 そう言われてみると、確かに目の前の女王は人の姿をしているが、歯がギザギザで人のそれではないことがうかがえる。

 それはまるで、猛獣のような。

 七海は地面に落とした短剣を拾い上げた。既にそれは刃が(つか)の部分に収納されており、手のひらサイズの柄のみの状態へと戻っていた。


「して、少年」

「はい」

「その短剣は、どこで手に入れた?」

「これですか? 初期アイテムです」

「さっきからそのショキアイテムとはなんだ」

「僕がこの世界で目覚めた時に、既に持っていたものです。手に入れた経緯はわかりません」

「なるほど……」

「なにか? これ、欲しいんですか?」

「いらんわボケ」

「お口が悪い」

「人を切りつけておいて何を言う」

「ごもっとも」


 しかも他人の家に勝手に上がり込んでるのは七海なのだから、なにかを言えた立場ではない。

「ではこの短剣と交換で、宿を貸してはもらえませんか? 夕朝食付きで、できれば一通りアメニティが揃ってると喜びます」

「……勝手にしろ。どうせ死ぬほど空き部屋がある」

「空き部屋って……」


 イヴィドギはくいっと(あご)で、七海の後方、城の外を指した。

 そこには町があったが、それらは遠目から見てもぼろぼろに破壊されていた。

 この城と同じく、町もまた滅ぼされているに違いない。


「あの、ぼろぼろの?」

「雨風は(しの)げる」

「どこでもいいんですか?」

「もはや誰もおらん。勝手に使え」

「ご飯は?」

「ない。勝手に自分で用意しろ」

「……ありがとうございます。助かります」


 これ以上問うても期待した答えなど帰ってこないだろう。七海はそれらを好意と受け取って納得することにした。

 少なくとも、何もない広大な大地に放り出されはしない。

 訳のわからぬ土地に飛ばされて、右も左もわからない七海にとっては落ち着く場所が与えられるだけでもありがたい。

 七海は約束にと、そっと碧色(へきしょく)の短剣を床に置いて身体を一歩下げた。


「それで魔人さん。最後にもう一つだけ、いいですか?」

「なんだ鬱陶(うっとう)しい」

「ベッドがある家はどこですか? あ、綺麗でふかふかの」

「案外図々しいな貴様」

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