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魔人さんは動かない  作者: 色川玉彩
第4章
19/36

根が深い

よければ評価もらえると嬉しいです。

ツイッター➡︎飯倉九郎@E_cla_ss


「寝ないんですか?」

「こんな(はずかし)めを受けて寝られるわけないわ」


 夜。 

 寝泊りする屋敷に戻った七海とファラ。

 ファラはその両手両足を、天蓋付きベッドの四隅の柱に鎖で縛りつけられている。


「パンツは見えないように毛布被せたでしょ」

「そういう問題じゃない」

「着替えますか? 下着ならそこのタンスに替えがありますよ」

「他人の部屋を(あさ)ったの? 最低ね」

「あーでも、この部屋の女性のだとちょっと胸が大きすぎるかも」

「最低ね!」

「やいやい言うなら、さっさと寝てくださいよ。明日は朝一で魔人さんに謝りに行きますからね」

「……」


 苦虫を噛みしめるような顔。

 少し勝った気分に浸る。


「それ、なに?」


 椅子に座る七海が持つ紙を見て、ファラが尋ねた。

 その古びた紙は何枚もあった。


「絵ですよ。この家の子供が描いたんですかね」


 七海が掲げて見せた紙には、子供が描いたようなイラスト。


「家中探してみたら、たくさんあったんですよ。絵を描くのが好きだったんですね。多分この家の住人は母娘の二人家族で、娘さんは十歳くらいのまだ小さい子だったんじゃないですかね」

「この部屋の?」

「いや、多分この部屋はお母さんの方かと。でもよく遊びに出入りしてたんじゃないかな。反対側にあったのが子供部屋です……この絵見てください。その枕の下に隠してあったんです」


 七海が見せたのは、その子供らしきそばかすの少女と一緒に紫の髪をした女性が描かれている。

 ギザギザの歯を持つその女性は、知る限り一人しかいない。


「……あの魔人かしら?」

「そうです。めちゃくちゃ楽しそうでしょ」

「……」

「町中探してみたら、魔人さんと住民が仲良かったんだなーって伝わってくる物がたくさん出てくるんです。これも、見て下さい」


 それは同じ少女が描いたであろう、魔人のイラストだ。

 絵の中の彼女は、あの玉座に座り険しい顔をしている。


「後ろにね、『あの椅子に座ってる時だけ王様はちょっと怖い』って書いてあるんです。魔人さんなりに王としての顔と、それ以外とを使い分けていたのかもしれません。この絵以外はどれも笑っているので」

「私を(さと)そうとしないで。何を言われても私は魔人を許さない。あれはいずれ人を滅ぼすわ。そんな絵が何よ。その結果この国は滅んだんじゃない。誰も、生き残らなかったじゃない」


 そう言って、ファラは目を閉じた。

 これ以上の対話は拒絶する、と言わんばかりに。


「根が深いなぁ」


 七海は一人、そうぼやいた。


         ○


 夢を見た。

 それは修学旅行の朝。家を出る時の記憶だ。

 七海はいつものようにリビングに行くと、整然と並べられた朝食を食べていた。

 確か白米と納豆にソーセージと目玉焼きという和洋入り混じったものだったと思う。

 七海の下ろした旅行カバンを見て、母は「どこ行くの?」と尋ねてきた。


「修学旅行だよ」


 そう当たり前のように言うと、母は今思い出したかのように慌てて弁当の準備をし始めた。


「ごめんなさいね。今日は美空(みく)ちゃんのオープンキャンパスがあるから、そっちばっか気にしてて……ごめんね」


 本当に申し訳なさそうに謝る母。


「どこの高校受けるんだっけ?」

清女(せいじょ)よ。塾の先生がね、美空ちゃんなら絶対受かるって」

「すごいね」

「そうなのよ。ほんと、私から生まれたのが嘘みたいなくらい」


 母は鼻歌を唄った。

 するとそこに父が現れる。


「あれ、父さん。どうしているの?」

「美空のオープンキャンパスだからな。お父さんも見に行こうと思って……七海、どうしたそのカバン?」

「修学旅行だよ」

「ああ、言ってたな。楽しんで来いよ」

「うん」

「母さん、このネクタイ、おかしくないかな?」


 そう言いながら父はキッチンへと歩いて行った。

 七海は朝食を片付け、立ち上がる。


「お母さんお母さん!」


 同時、ドタドタと妹の美空がリビングに入ってくる。

 その時七海と目が合ったが、美空は一瞥(いちべつ)して両親の下へと駆けて行った。


「え、ちょっとお父さんまで来るの? 嫌だよ」

「なんでだ。娘の将来が掛かってるんだぞ。行くに決まってるだろう」

「えー。ただの見学じゃんやめてよ」

「お前はうちの希望なんだ。お父さんは後悔したくない」

「ちょーキモイ。ねぇお母さん」

「待って。まずは朝ご飯食べない?」

「母さん」


 楽しそうな朝の団欒(だんらん)に、七海が割って入る。

だがそれに誰も目を向けない。


「お弁当」

「あ、ごめんなさい。お金渡すから、今日はどこかで買ってくれる?」

「あ、うん」


 五百円玉が手のひらに乗せられる。


「お土産、何がいいかな?」


 その声が小さかったのだろうか。

 三人は聞こえていなかったようで、先ほどの会話に戻ってしまっていた。

 七海は小さく息を吐き、反転して旅行鞄を持ち上げる。


「行ってきます」


 誰も聞いていない。

 七海はそっと家を後にした。

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