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魔人さんは動かない  作者: 色川玉彩
第4章
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恥辱の王女

なかなかブクマとかって増えない。厳しい世界だ。

ツイッター➡︎飯倉九郎@E_cla_ss

 ソーラス帝国第四隊隊長のファラ・ソーラスの両手は後ろ手に縛られ、そしてその首には厚い皮でできた首輪が巻かれていた。

 そしてそこから武骨な鎖が後ろへと延び、その先端を七海が掴んでいる。


「さ、ゆけ」

「屈辱よ!」


 数メートル離れた位置からの七海の指示に、ファラは顔を赤くして叫んだ。

 それはまるで飼い犬の散歩だ。


「こんな首輪、どこで手に入れたのよ」

「僕が仮住まいしている屋敷の部屋から出てきました」

「その部屋の住人は絶対に変態じゃない。こんな(はずかし)めを受けたのは初めてよ」

「だってこうでもしないと、隙あらば僕を殺そうとするでしょ」

「私誰でも彼でも殺したい殺人鬼じゃないんだけど。殺すのはソーラスに敵対するものと、魔種だけ。そう決めてる」

「じゃあ僕を刺したのは?」

「殺すつもりなら心臓に刺してる。ただ貴方が侮辱するから、脅しにと思って刃先を返したら、全然抵抗もなくてびっくりしたわ」

「非力で悪かったですね。やっぱり不慮の事故で殺されないようにこうするしかないですね」


 渋々と、ファラは歩く。

 歩きながらも、ボロボロになった町を(いぶか)しむように眺める。


「民は無念だったでしょうね。安寧を求めてこんな僻地(へきち)まで来たのに……魔人なんかを信じるからこうなってしまう」

「魔人魔人って、しつこいですね。この国の人は、自分たちで殺したあったんでしょ? 魔人さん関係ないじゃないですか」

「ないわけがないでしょ。魔人がこんなところに国を作らなければ、こんなことにはならなかった」

「人が集まるところには争いがある。ソーラスは戦争したことないんですか? 国民同士が喧嘩もしないんですか?」

「……」


 返す言葉もないのか、ファラは黙った。


「……?」


 ファラを後ろから見ていた七海が、彼女が首を左右へと向けるのに気がついた。

 何やら訝しげに視線を崩壊した家々に向けている。


「どうかしましたか?」

「いえ……少し、変だなと思って……」

「変?」

「民同士が争って滅んだはずなのに……砲弾で破壊されたような跡がたくさんある」

「そりゃ貴方達が何発も撃ちこんでたじゃないですか」

「私たちは計画的にあの魔人だけを狙った。それ以外の町に着弾させたことはないわ。万が一、1、2発それていたとしても、ここまで街を破壊できない」

「民同士でも砲弾くらい使ったんじゃ?」

「そんなことがあるのかしら?」

「あ、そこ右手に曲がってもらったら一際大きい家があるんで、そこに入ってください」


 話を切られたファラは、鎖を引っ張るようにして角を曲がった。

 その先に、いつも七海が寝泊りしている大きな屋敷が見える。


「この家……? さっきの地下牢と変わらないじゃない」

「失敬な。僕が毎日寝泊りしているスイートルームですよ。ほら、ぐちぐち言わず中に入る」

「絶対仕返ししてやる」


 ファラが扉を開けて中に入る。すると中に入ったところで、彼女が立ち止まった。


「これは……」

「酷いでしょ。多分、争いに乗じてお金持ちの家から金品を盗もうとした(やから)がいたんじゃないですかね」

「それにしては……酷い」


 あちこちに飛び散った血や傷痕に目を配り、ファラは顔をしかめさせる。

 七海も始めに見た時は、同じような表情をしていたのだろうなと、ふと思う。


「でもこの家だけが唯一崩壊せずに残ってたので、まだ被害は小さい方なのかもしれません。家の造りからして頑丈なんですかね」

「よくこんなところに住めるわね」

「住めば都です。お化け信じない性質なので」

「そういう問題? 貴方普通じゃないと思ってたけど、やっぱり普通じゃないわね。変人よ」

「変態に言われたくありませんね。それに、それ元の世界でのトラウマなんでやめてください」

「……この家の住人の遺体は?」


 ファラは正面の壁に掛かっていた、貴婦人の肖像画を見上げている。なぜか顔の部分には足跡が付いている。


「なかったです。ていうか、死体が一つもなかったですねこの街には」

「え? おかしくない?」

「おかしい……ですね」


 人が住んでいた形跡はある。そしてまだ色あせていない血の跡がある。

 なのに、七海はまだ一度も死体を見たことが無い。


「ふ、ふふふっ」


 唐突に、ファラが笑いだす。


「頭おかしくなったんですか?」

「いきなりその結論に飛ぶのってすごいわね」

「じゃあどうして笑うんですか?」

「見たでしょ? 外の惨状を。砲弾のようなもので破壊しつくされた街。なのに死体すらない。何よりこの屋敷の中を見たらわかる。血や剣跡の他にも、鈍器で叩きまわったような跡がある」

「鈍器……本当だ。でもそれが?」

「フォトン。貴方も魔人が使うのを見たでしょ? 魔人はあれを装置無しで自由自在に扱う」


 そう言われて、七海を襲ったイヴィドギのフォトンの攻撃を思い返す。

 確かにハンマーで殴られたような衝撃があり、その攻撃を受けた床や壁は、同じような形で(へこ)んでいた。


「民の争いなんて真っ赤な嘘。魔人は自らこの国の人たちを殺して、そして食べたのよ」

「……は?」

「知らないの? 魔種は人肉を好む。腹を満たす為ではなく、愉悦(ゆえつ)のために食らうの」

「漫画の読みすぎでしょ。馬鹿馬鹿しい」

「本当にそう言い切れるの? 貴方が魔人の何を知っているの?」

「何も、知らないですけど……」

「じゃあこの床の遺体を引きずった跡が、どこに行くと思う?」


 視線を落とす。この家に入れば嫌でも目に入る、遺体を引きずった赤い跡。

 それは二階の七海が寝泊りする部屋から、階段を通って玄関の外まで続いている。

 それを追ったことは無かった。そこら中血だらけだし、気にしたこともなかった。

 なにより、無意識に()()()を想像することを恐れていた。


「この先に、その答えがあるってことですか?」

「そう思うわ」

「もし、間違っていたら?」

「え?」

「人にあらぬ疑いをかけるんです。間違っていた時の責任は取れるんですね?」

「……私に、どうしろと?」

「魔人さんに謝ってください」

「嫌よ」

「あなたはリスクを冒さず、他人を遠くから(けな)すことに喜びを覚える人間なんですね。王家の血筋の人間が、聞いて呆れますね」

「私を、侮辱しないで」

「自分がされて嫌なことを、他人にするなよ」


 下がらない。珍しく七海はその強い眼差しでファラを(にら)みつけた。

 ファラはそれを受け止めた後、


「いいわ。貴方に魔人の現実を教えてあげる」


 そう言って階段を下り始め、血を引きずった跡を追いかけ始める。

 血の跡は、玄関から外へと続いている。外に出て目を凝らせば、それは途切れながらも真っ直ぐに城へと向かっていた。

 ほらね、と言わんばかりにファラが目配せする。

 一歩ずつ、真相へと近づいて行く。

 だが軽快に進んでいたファラの足がピタリと止まった。城の入り口の手前で、血の跡が曲がっている。草に隠れて見えづらいが、何とかそれらしい跡を見極め進んでいく。

 その先にあったのは――


「なに……これ?」


 七海はそっと笑みをこぼした。

 それはファラとの賭けに勝ったからではない。

 城の背後。大海原を臨む断崖絶壁のその場所に、無数の木の棒が立っていた。棒が突き刺さる地面は、こんもりと盛り上がり、何かが埋まっているのが伺える。そしてそこには一面花が添えられていた。

 それは墓場なのだろう。七海の良く見知った墓石や十字架などは建てられていないが、そうだと伺える。

 そしてその下に埋まっているのは、想像するまでもない。


「全ての血の跡がここに続いてます」

「まだ、わからないわ」

「地面を掘り起こします?」

「それは……」


 異世界であっても、死者に対する想いは同じらしい。

 墓を(あば)くなんて人間のやることではない。その理性がファラの中にも働いたようだ。


「戻りましょうか」


 沈黙を続けるファラに告げる。

 しばし墓を見つめていたファラだったが、七海の首輪に引かれるように(きびす)を返した。

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