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魔人さんは動かない  作者: 色川玉彩
第4章
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魔人さん恋のアプローチ大作戦

異性のおとし方なんてないと思う。そういう言葉が失礼。あ、男はセクシー路線で攻めれば余裕でおちます。

ツイッター➡︎飯倉九郎@E_cla_ss


「魔人さん。悩みを聞かせてください」


 翌朝、朝食を済ませた七海は、深呼吸をして玉座へと赴いた。

 昨日のことなどまるでなかったかのように明るく振る舞う。


「失せろ。殺すぞ」


 だが案の定、イヴィドギからの視線は冷たいものだった。

 開口一番の「殺す」には現実味のある気迫がある。


「まぁそう言わずに。あ、前、座りますね」

「なんだその奇妙な明るさは……気色悪い」

「お口が悪いぞ。あ、そうだ。イヴィって呼んでいいですか? ありがとう」

「やめろ。その呼び方は親しい相手にしか許しておらん」

「そういえばイヴィ、最近どうなんです? やることやってんですか?」

「やめろ。本当に殺すぞ」

「ていうかそろそろ桜の季節ですね。よかったら今度花見にでも――」

「うざい!」


 上空が白く光り輝いた。同時に、降り注ぐフォトンの雨。

 その一つ一つが致命傷になりそうなほどの威力で地面へと降り注ぐ。

 七海は一切振り返らずその場を逃げ出した。


          ○


「おかしいわね」


 牢屋。鎖に繋がれたファラは、()頓狂(とんきょう)な声でそう言った。


「その手の女性は嫌がっててもぐいぐい来られることを望んでいるはずなのに……」

「ぜんっぜん望まれてなかったですよ。見てくださいこの顔。ぼっこぼこですよ」


 降り注いだフォトンの雨を、避けていたようでその実いくつかは七海の身体に直撃していた。

 おかげで顔がパンパンに()れた。


「でも私の国では、基本的にそういう女性が多い気がするから。魔人は違うのかもしれないわね」

「それどこ情報ですか」

「コミックよ。最近流行(はや)りのやつでそんな展開があって、なんだったかしら。たしかツンデレって言う……」

「古いな異世界」

「待って。それじゃあ他の方法も思いついたわ」

「思いついた?」

「いえ、言葉のあやよ。確かな情報だから安心して」

「……僕の頼りは貴方だけなんですから、頼みますよ」


          ○


 二度目の挑戦。

 再び玉座の間に現れた七海は、その手に石ころを持っている。


「魔人さん。僕が今から床に点を打っていくんで、好きなタイミングでストップって言ってください」

「床に落書きをするな」

「さあ行きますよ」


 イヴィドギの忠告を無視して地面に白い石で点を打ち始める七海。

 ぽつぽつぽつと、床に白点が記されていく。


「やめろ。落書きをするな」

「はい、ここですね。じゃあ次はもう一度同じことをやりますんで、ストップで止めてください」

「ストップだ」

「じゃあ始めますよ」

「ストップだと言っている」

「点は一個ですね。えっと、最初の点が偶数で、二つ目が奇数。この数を足して、二で割り、その後同じ数を再度足してと……」


 七海はぶつぶつ言いながら地面に何かを書き足していく。

 忠告も無視で、床にはわけのわからない落書きがたくさん書かれていく。


「おっ。魔人さんと僕の相性は最高ですね。前世でもパートナーだった可能性まで出てますよ。天がこう告げているんですから、受け入れるしかないですね」


 にっこりと笑って見せると同時、視界が真っ白に光り輝いた。


          ○


 また戻って牢屋。


「おかしいわね」


 またそう言ったのはファラだ。


「占いが嫌いな女性はいないはずなのに……天のお告げに運命を感じるはず……」

「途中で無理あるなって思ったんですよね。ていうかこの占いなんですか」

「ジオマンシーよ。石や砂などを使って占う、東国から伝来した、最近ソーラスで流行っている占いなんだけど」

「根拠が薄っぺらいんですよさっきから。ソーラスで流行ってるとか知らないですし。なんかもっとこう、経験に基づいた理論的なアドバイスないんですか」

「そう言われても……経験がないから……」

「ボンコツですか」

「ポ……! 侮辱(ぶじょく)するの!?」

「逆切れしないでくださいよ。未体験」

「未体験って言わないで! そっちだって未体験でしょう!?」

「じゃあ未経験」

「おんなじじゃない!?」

「未使用?」

「最低ね!?」

「未熟者でどうだ」

「未熟……まあまだその方がマシかしら」

「いてて……」


 すりすりと、フォトンで殴られた腹部をさする。

 イヴィドギに蹴られたことといい、あばらの二、三本折れているのではないか。

 腹を見てみると、あちこちに青く(あざ)ができている。


「待って。女性を落とす完璧な理論……あったわ」

「絶対(ろく)なアドバイスじゃないでしょ」

「そう決めつけないで一度実践してみて。私は交換条件のために必死なの。ふざけている余裕なんてないわ」

「はぁ……」

「なんとしてもその短剣の秘密を国に持ち帰る。そしてソーラスを……世界を救うのよ」


          ○


「魔人さん。人と人が出会う確率って知ってますか?」

「私がここから全力で石を投げて、貴様に突き刺さる確率を知りたいか?」


          ○


「一瞬で逃げてきましたよ。何が必死ですか。笑わせないでくださいこの未使用」


 取り付く島もなかった。


「そんな……完璧な理論を基に導き出された運命の出会いの確率の話……奇跡のような出会いに運命を感じない人なんているの……?」

「迫真の驚きを見せてもらっているところ申し訳ないんですけど、理論って確率論のことじゃないですからね」

「もうお手上げだわ」

「一つも(ろく)なアドバイスもらってないんですけど」

「あとは……そうね。無理矢理押し倒すとか?」

「最低ですか。ていうか押し倒せるなら倒しとるわ」

「でもとりあえず(はら)ましてしまえば」

「そのクソみたいな思想はどこで(はぐく)まれたんですか。ソーラスの道徳教育は原始時代ですか」

「それもコミックよ」

「やばい。異世界なのにサブカルに毒されてる……! まさかさっきの獣姦(じゅうかん)もそれで覚えたんですね」

「なんの話かしら」

「好きなんですか。獣姦もの」

「わけのわからない話はやめてくれる? 異世界の話はわからないわ」

「どの世界にも薄い本は需要があるとわかりました。今度池袋に連れていきますよ」

「薄い本?」

「知らなくていいです。とにかく! あなたに相談した僕が馬鹿でしたよ」

「待って! 確かに恋愛では役には立てなかったかもしれない。でもソーラスの平和のために、貴方の持つその短剣の情報が欲しいの! 教えて!」

「この状況でよくもまあそのテンションで言えますね。どの口が頼むんですか。わざとかってくらい逆効果だったじゃないですか」

「魔人の心なんてわかるわけないでしょ! あんなケダモノ!」

「隙あらば差別!」


 息巻いていたファラだったが、押し問答に無意味さを感じ取ったのか、力が抜けたように顔を下げた。


「お願い……私たちには希望が必要なの……避けられない死に対する希望が。別の世界から来た貴方には伝わらないでしょうけど、この世界の人たちはいつも魔種の脅威に怯えてる。魔人が現れたと聞いて、ソーラスから離れる人が後を断たないわ。大陸を大きく離れての、大移動が起こってる。民は自分の生活を捨ててでも魔人の災厄から逃れようとしてる。それでもソーラスに残ってくれている人たちは、本当に国を愛してくれている人たち。善意でそう言ってくれているけど、本心では怖くて仕方がないはず。私たちには心安らぐ時なんてないの……私は、そんな民のために安寧(あんねい)を持ち帰りたい」


 訥々(とつとつ)と、ファラは絞り出すような声で呟く。

 そこには初めてみた時のような気迫はなく、彼女がいかに豪傑(ごうけつ)であろうとも、ただの十代の女の子にしか見えなかった。


「くしゅん」


 と、静まり返った場を、小さく可愛らしいくしゃみが木霊(こだま)した。

 見るとファラが頬をほんのり赤く染めている。


「風邪ですか?」

「大丈夫よ」

「確かに、ここは上と違って寒いですね……気づきませんでした。すみません」

「なに? じゃあ温かい布団にでも移してくれるのかしら?」

「あ、じゃあそうします?」

「え」


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