魔人さんは動かない
歳をとって身体に不調をきたすと大病を想像してしまう。あるある。
ツイッター➡︎飯倉九郎@E_cla_ss
「じゃじゃーん」
七海が玉座の前に持ち出したのは、木で組み立てた不細工な何か。
小さい歪な車輪が二つ付いており、前方車輪から上へとまっすぐに伸びた先にハンドルが付いている。
イヴィドギはそれを冷めた視線で睨みつけていた。
「作っちゃいました。ローラースルーGOGOGO!」
それはいわゆるキックスケーターである。
木製の、粗末なできではあったが。
「良く考えたら一日中走る体力もないので、移動手段を少しでも効率よくしようと思いまして、僕の世界の移動手段を再現してみました。自転車はさすがに無理なんで、比較的作れそうなキックスケーターにしてみました」
さて、と七海は自作のキックスケーター『ローラースルーGOGOGO!』に片足を載せる。
そしてもう片方の足で思い切り地面を蹴り、駆けだした。
「お、おお、おー!」
いささか心配していたが、車輪は見事に回り始め、身体が流れるように動き出す。
「お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛お゛」
だが車輪が歪で凸凹なため、激しく振動し七海の身体を揺らす。
するとその衝撃に耐えられなかったのか、『ローラースルーGOGOGO!』の車輪が外れて崩れ、七海は地面へと転がった。
七海はそのまま冷めた視線を向け続けるイヴィドギを見つめ返した。
「また僕、なんかやっちゃいました?」
「……」
「ちょっと楽しそうだって思ったでしょ」
「うざい。殺されたいのか」
「殺す気なんてないくせに」
「今は気が立っている。本当に殺すぞ」
「じゃあ殺してみてくださいよ」
平然とそう言われ、イヴィドギはつまらなさそうに舌打ちをした。
玉座から動く気のないイヴィドギにとって、数メートルも離れた七海には触れることもかなわない。
それを知っている七海は高を括ってそう言ってのけたのだ。
「ちぇ」
「どうして貴様が舌打ちをする」
「これでも動いてくれないかと思いまして」
「どうして私を動かしたがる?」
「魔人さんが動いてくれないと、僕はここで飢え死にするだけなんですよ。一緒にご飯作りましょう。さすがに血みどろの野菜は飽きました。力も入らないですし」
「……貴様は、怖くはないのか?」
「何がです?」
「魔人がだ。昨日のあれでわかっただろう。私は人に恨まれている。何もしなくても、存在そのものを疎れている……奴らの言うとおり、その気になれば目の前のすべてを無に帰すこともできるぞ」
「椅子から動けないクソザコニートを誰が恐れるんですか」
「意味は分からないが、馬鹿にされているのはわかるぞ」
「じゃあ僕もその気になれば魔人を殺せます」
「やるか?」
「いちいち言わずに掛かって来てくださいよ」
睨みあう。
が、
「ふんっ。その手には乗らん」
そう吐いてイヴィドギは身体を椅子へと預け直した。
「しまった。挑発作戦失敗か」
「私はここから動かん。何があってもだ」
「どうしてそこまで玉座に座り続けることにこだわるんですか」
「貴様には関係のない話だ」
「椅子に座って餓死したいなら、僕を安全なところまで連れて行ってからでもいいでしょう。このままだと僕が先に飢え死にますよ。僕の勝ちです」
「勝手に死に晒せ」
「言って良いことと悪いことがあるでしょう」
「死に晒せ」
「死んでも化けて出ますけどね」
「死んでも迷惑なやつだ」
「頭きた」
七海は身体を起こし、お尻に付いた土を払う。
「魔人さんを玉座から動かす作戦」
わきわき、と七海はその指を器用に動かした。




