抜けた床の先
ジャンプって意外と跳べない。
ツイッター➡︎飯倉九郎@E_cla_ss
ベッドに横たわる七海の視線の先には、碧色の短剣。
「どう考えても、重要アイテムなんだよなあ」
見た目だけで言えば、刃渡り20センチほどのナイフである。
チンピラ同士の喧嘩では有用だが、ヒーローの持ち物とはいえない。
しかし確かに、七海はこの碧色の短剣の類稀なる能力に、何度か命を救われている。
七海は短剣を手に取り、それを上に掲げてみた。
しかし何も起こらない。
今度はそれを無線機のように持ち、口元に寄せる。
「あーこちら吉良七海。応答せよ。応答せよ。あー、オーバー?」
もちろん声など返ってこない。
「むん!」
と地面に突き立ててみる。
しかし床板というのは思いの外硬く、それは突き刺さらずに弾かれる。
手が痛いだけだった。
「んーーー! まあいいか。なるようになるさ」
そう諦めて、短剣をベッドの上に投げ捨てる。
七海は寝室をあとにした。
七海が向かうのは、反対側にあるもう一つの部屋だ。
部屋と部屋の間には、自画像が掛かっていて、それがこの家の主である美しい女性であると伺える。
そしてその横に、赤子が抱かれている。
この子供が、七海が見つけたイラストの描き主だろうか。
その絵を横目に通り過ぎ、反対の床が抜けた先の部屋を見つめる。
「はてさて。この床が抜けた廊下をどう渡るか……ヒーローって言うより、トレジャーハンターだな」
そう独り言をしながら、周囲を見渡す。
「お」
思いつけた、と七海は先程の大きな自画像へと駆けて行き、それをおもむろに壁から外した。
七海の身長ほどはありそうなその長方形の絵画を抜けた床へと持って行く。そしてなんとそれを、足場にするように抜けた床へと橋を架ける。
「お……お、行ける行ける」
罰当たりを気にもせず、七海は絵画を、しかもあろうことか上から踏みつけて廊下を渡る。
そしてようやく反対の部屋へとたどり着く。
中は想像した通り、子供部屋だった。
小さなベッドと、木で出来たいくつかの人形。そして壁一面には、色とりどりのイラストが飾られている。
「この部屋、綺麗だな。全然荒らされてない」
むしろこっちに住もうかと思ったが、しかし床が抜けていると言うのは不安でしょうがない。
「やっぱり」
壁に貼られた絵を見ていた七海が呟く。
「あのそばかすの女の子……ここの子供だ」
描かれたイラストには常に中心に女の子がいて、その頰はそばかすが付いている。
しかも服装も記憶に残る範囲では、同じに見える。
七海は一枚の絵を壁から外した。
それは唯一、少女が描かれていない絵で、中央に一人、藤紫の髪を持った女性が大きな椅子に偉そうに座っている。
その表情は唯一笑っておらず。
それは七海がよく知るあの魔人と同じ顔をしていた。
「笑った方がいいのに」
他の絵の様に。
目一杯の笑顔を。
「よし」
なにかを決意したように、七海は部屋を後にした。




