プロローグ
龍之介達三人は今、大型のバス乗っている。このバスは龍之介達がこの世界にいる間だけ暮らすこととなる学園に向かって走っている。
バスの車内はというと、若者の軽快な笑い声や、話し声もなくただバスの走行音だけが静かに虚しく車内に響いていた。それもそうだ、このバスには、真壁龍之介と、親友の桐島隼太と美澄葵と運転手のおじさんの四人だけが乗っている。
できれば学園などに行かずに、さっさと奴を見つけ出し殺して、元の世界に帰りたいのだが、そう簡単にはいかない。なぜなら龍之介達と奴との間には間に見えるほど大きな実力差がある。その差を埋めるためと、奴に殺されそうな人を守るためだ。
奴が殺す者はニ種類いる。一つは魔力が平均的な人間や悪魔や魔物より、高い者を狙う、もう一つは他のや悪魔や魔物より、特殊な能力を持っている者だ。
奴は殺した相手の能力を奪う能力がある。その為奴がこれまで殺してきた数はとてもじゃないが数えきれない。
龍之介達がこの世界に来た事で、本当は死ぬはずのない人が死んでしまってはたまったもんじゃない。だから、龍之介達三人はこの世界にいる間は、この世界にいる人は誰一人死なせはしないと約束をした。
「間もなく青葉戦翔学園前、青葉戦翔学園前。戦士の方は次でお降りください」
そんなことを思っていると、もうすぐで学園に着くらしい。龍之介は自分の小さなカバンを手に持ち降りる準備をする。右隣にいる隼太は、バスに預けたスーツケースしか持っていなかったから、もう準備はできていた。一方龍之介の目の前にいる葵はというと、幸せそうな笑顔を浮かべて眠っている。
「お母さんのそのパフェ私にも少しちょうだい...」
しかもお母さんと楽しそうにパフェを食べているらしい。今はまだ会えないお母さんとの楽しい夢から覚ましてあげるのは少し心痛むが、夢から覚ませてあげないと、葵だけが学園に行けなくなったら葵も困るし、奴と戦うときに魔力操作のうまい葵がいなければこっちも困るし、もう起きないと大変なので俺は優しく葵の肩を叩いて起こしてあげる事にした。
「葵起きて。もうすぐで学園つくらしいから、降りる準備して。」
「えぇ...まだもうちょっと...寝ていたい...」
はぁ...こいつは実力をつけたくないのか...
「このまま起きなかったら置いていくからな」
「いいよ...別に...後で追いつくから」
どうやら相当眠たいらしい。どうしたらいいのか悩んでいると、葵の隣にある荷物がぱんぱんに入った大きなリュックが目に入った。(そういえば朝からこの大きなリュックを大事そうに抱えていたな...そうだ!)
「じゃあ葵だけこのバスに置いて、その大きなリュックだけを持って、隼太と二人で学園に行くからな」
「それだけはダメ!!!!!」
葵は大きな声で叫び、リュックを両手で大事そうに抑えている。その声はそれまで静かだった車内に大きく響き渡った。龍之介達はその声に驚いて反射的に両耳思いっきり手で塞いだ。
「車内では静かにお願いします」
「すいません」
「葵声でかすぎ、耳壊れるよ思った。」
「それな、てかそんなに大声出すほどのことかよ。その中に入ってる物って何だよ、朝からずっと気になってんだけど」
「二人には絶対に見せられない!」
「わかったから、もうそのリュックの中身は聞かないから。それよりもうすぐで学園に着くから、降りる準備して」
「わかった」
葵は隣にあったリュックを重たそうに持ち上げて隣の通路に勢いよく置いた。置いた瞬間 ドスンッ という重たい音がした。
そんなに重い物を朝から一人で持っていたのかと少し驚いた。
龍之介がそんなことを思っているとドアの開く音がした。どうやら学園に着いたらしい。
龍之介達は各々自分の荷物を持ってバスの出口のドアに向かう。龍之介達が出口に向かおうと少し前に運転手のおじさんはバスを降りて俺らのスーツケースを出してくれていた。龍之介と隼太は自分たちのスーツケースを受け取ると。
「さっきは急に大きい声を出してすみませんでした」
葵が運転手のおじさんに謝っていた。
「はい、これから車内では大きな声は出さにように。それじゃあ三人共頑張ってね」
なんと運転手のおじさんは怒らずに注意だけをし、しかも龍之介達三人に「頑張ってね」と応援の声をかけてくれた。なんて心が広い人なんだろうと思った。
龍之介達は運転手のおじさんにお礼を言ってバスを後にして、学園に向かった。学園の門までの道には満開に花を咲かせた桜の木が道の端から端まで植えられていた。桜の木達は俺達がこの学園に入るのを歓迎しているかのように優しく揺れていた。
「綺麗」
葵は桜を見た途端に言葉を溢していた。本当に綺麗だ。桜の木は優しく揺れるごとに花弁を少しずつ溢していく。しかも今まで強い風が吹かなかったのだろうか、道にはとても大きな桜の花弁の絨毯ができていた。こんな壮大で美しい景色は元の世界でもめったに見ることは出来ない。
龍之介はカバンからカメラを取り出し、右膝を桜の絨毯に着かせ、この美しい景色を撮影する。この景色を撮影した理由は、自分が撮りたかったというのもあるが、他にも、違う世界の風景や建物の写真を、現大魔王であるガルディア様に報告する為でもある。
龍之介がカメラのシャッターを切ろうとした時、とても強い突風が龍之介達の周りに吹いた。 カシャッ 龍之介はその瞬間シャッターを切った。
「あーあ、せっかく桜の絨毯が出来てたのに。あの突風でぐちゃぐちゃになっちゃったよ。そうだ龍之介さっきシャッターを切る音がしたんだけど、ちゃんと写真は撮れたの?」
葵が龍之介に聞いてきた。
「あぁ、綺麗に撮れたよ」
「どれどれ」
葵は龍之介のカメラに写っている写真を覗き込みこう言った。
「この写真、さっき風が吹いた瞬間に撮ったの!?めっちゃ綺麗!」
「どうした葵?龍之介が撮った写真そんなに良かったのか」
「めっちゃ綺麗だよ!ほら隼太も見てみてよ!」
葵に呼ばれて龍之介達の少し後ろにいた隼太が、龍之介の撮った写真を見に近くまで来て写真を覗き込んだ。
「何これ。プロの写真家が撮ったみたいじゃん!めっちゃ綺麗!」
二人がものすごく褒める写真には、優しく巻き上げられた桜の花弁が画面に点滴と配置されていて、その先には何百本もの桜の木が道の奥まで続いていて、とても幻想的な風景になっていた。自分でもびっくりするくらいとても綺麗に撮れていた。
「でもめっちゃ強い風が吹いたよねさっき。どうやってこんな綺麗な写真が撮れたの?隼太も気になるよね」
「あぁ、どうやったんだ」
「突風が吹いた瞬間にシャッターを切ったんだよ」
「「へー、本当にプロみたいだ」」
「褒めてくれてありがとう」
龍之介は少し恥ずかしくなったから話題を変える事にした。
「隼太。今何時か分かる?もしかしたらもう理事長室に行かないといけないかも」
「今は7時30分だ。大丈夫だよ龍之介、約束の8時にはまだなっていない、充分時間はある。あれ、確か遅れるといけないから早めに出ようって言ってたのは龍之介じゃん。あれれwもしかして褒められて恥ずかしくなったのかw」
『こいつ俺が恥ずかしいのを隠そうと思ってるのを分かっててからかってきてる』
「うるさいな分かってるくせに、早めに行くに越したことはないんだから行くぞ!」
龍之介はカメラのレンズしまって、カバンの中に入れ学園に向かう。
「おい待てって龍之介」
「待ってよー」
後ろから二人は少し先に行った龍之介を追いかける。その様子を桜の木々達は優しく見守っていた。