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7.店員さん

「ど、どうぞ、どうぞ」


 オドオドとした態度を崩さないまま、眼鏡を掛けた小柄な彼女は俺を小さな店舗へ(いざな)った。


「そ、それでどのようなものを……お探しでしょうかっ」

「……ええと」


 本当はうさぎの餌の世話について聞きたかったんだがな。何となく尋ねづらい。だからこれを買う!と前もって決めて来た訳じゃない。一旦帰ろうかと思っていたくらいなのだ。


 けれどもジッと俺を見上げる彼女の必死さに負けて、俺は仕方なくこう答えた。


「……特にこれ、と決めて来た訳じゃないんです。色々眺めても良いですか?」

「ど、どうぞ、どうぞ!存分にっご覧くださいっ!」


 とは言えコジンマリとしたスペースの真ん中のテーブルに所狭しと積まれた商品を眺めてみても、何に使う物なのかいまいちピンと来ない。これは……『パパイヤ』?もしかしてうさぎが食べるのか?……結構贅沢な物食ってんだなぁ。

 次に壁際のワイヤーシェルフに向き直る。うさぎの入ったケージがひいふうみぃ……四つだけ。ペットショップだよな?この頭数で儲けが出るのか?


 値段は……げっ五万四千?!たっか!


 このうさぎは耳がピンとしてまさに『うさぎ』って感じだな。下のうさぎは……あ。これだ。ヨツバと一緒で耳が垂れている。




「『ホーランドロップ』」




 ほっ四万八千六百円。上の『ネザーランドドワーフ』とか言う種類より安いな。ふーん『ホーランドロップ』って言うのか、ヨツバは。


 ……じゃなくて、やっぱ高いわっ!ヨツバ、あんな白っぽいぬいぐるみみたいなアイツが約五万円……ますます世話をするのが億劫になって来た。なんかあったらどうすりゃいいんだ。




「可愛いですよね……」




 ボソリと割とすぐ後ろでか細い声が聞こえて、思わず振り返る。それまで気配を感じなかったから、すっかり存在を忘れていたのだ。すると黒い髪の毛を一つに纏めた眼鏡の店員はビクリ!とあからさまに肩を震わせた。声を掛けられたから振り返っただけなのに。


 僅かに傷つく。俺、そんなに怖いか?むしろ親しみやすいって言われる事が多いんだが。女の子にこんな怯えた目で見られる経験はこれまでほとんど無かった事で、どう対応して良いか判断に迷う。

すると彼女は慌た様子で首を振った。


「あ、あのっスイマセン!どうぞ!ゆっくり眺めて下さい!」


 バッと頭を下げる店員に、俺は気になっている事を尋ねてみる事にした。


「これまでお店で売ったうさぎって……覚えているんですか」

「え!」


 吃驚したように顔を上げた彼女はキョロキョロと視線を彷徨わせた。まるで自分が質問されている、と言う事実に驚いているかのようだ。それから全く腹に力の入っていない弱々しい声で答えを返した。


「あ、あの……はい」

「本当に?」


 ヨツバやみのりの事を覚えているのか気になっていたのだ。

 覚えているようなら、ここでヨツバを買ったかもしれないと言う事には触れずに置こうと思った。適当にお茶を濁してから、さっさと別のペットショップへ直行しよう。


「あのっ実は私は店頭に出て一週間しか経ってないんですが……今お休みしている店長はちゃんと、送り出した子達をアルバムに記録しています。この子達を迎えてくれた方には、その子毎のIDカードを作って買い物記録も付けていますし……あ、いろいろご心配ですよね!提携先の動物病院もありますので、そちらご案内できますしサポート体制は万全ですっ!それに皆個性的ですけど、良い子なんですよ。素っ気ないように見えて慣れると意外と懐いてくれますし……」

「あの」


 掌を向けて長話を遮った。


 知りたい事は分かった。ここに勤めて一週間じゃ、みのりと顔を合わせている確率は低いだろう。だから今度はうさぎの餌やりについて遠慮なく尋ねてみようと思い話を話を遮ったのだが、彼女はそうは受け取らなかったようだ。顔を真っ青にして、またしても大仰にガバっと頭を下げたのだ。




「あああ!ゴメンなさいっ!聞かれもしないことを長々と……っ!スイマセン私、人と話すのが苦手でっ……こんなだから、尋ねて来たお客さんも皆呆れて帰っちゃってっ!店長の留守を守らなきゃならないのにっ……!」




 ……この子、面倒臭いな……




 他の客が出直すと決めた気持ちが、分かった気がした。

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