5.ブログ『うさぎのおしろ』
それにしても、うさぎを飼っている人間がこんなにいるとは思わなかった。ブログの成長日記だけ見ても目を通しきれないほどたくさん存在する。
しかし幾ら多くの飼い主の日記に目にしても、動物を飼った事の無い俺にとっては眺めていてもピンと来ない記述が多くて知りたい核心にはなかなか触れられない。
まず頻出する『ネザー』『ロップ』『ミックス』と言う単語からして、聞き覚えの無さに戸惑ってしまう。けどこれは何となくうさぎの種類だろうって想像が付く。しかし『チモシー』だの『ソアホック』だの『オーツヘイ』だのその他にも当たり前に出て来る横文字単語が多くて、調べながら読み下すのに手間取ってしまう。だから餌の事はQ&Aを中心に検索したが……よくよく調べるとサイトによって微妙に違う事が書いてあって、少し理解が進んだら進んだなりに、今度は判断に迷う。
その膨大なうさぎブログの中に、最近都会からこの辺りにうさぎを伴って引っ越して来たと言う飼い主の記事を発見した。何故そのブログが目についたかと言うと―――ほとんどうさぎの写真が無かったからだ。ひたすら布を被せたケージが掲載されている。飼っているうさぎの記録を行う目的で投稿された筈のブログなのに。気になって最初から目を通している内に、その記事の投稿者が仙台に越して来た事が判明したのだ。
『新居に引っ越しました!』
『うータン、お籠り中!早く出て来て欲しいなぁ(涙)』
『まだまだ天岩戸に籠りっぱなし!寂しいなぁ…(-_-;)』
『本日も姫はお出ましになりません( ;∀;)』
『なかなか馴染めないご様子…あの手触りが恋しいデス(´Д⊂ヽ』
そして最新ページに、漸く、と言った感じで白いうさぎの写真が添付されていた。と言ってもブログ初心者とプロフィールにある通り、投稿方法に慣れていないのか、鼻先をこちらに向けたうさぎの顔の微妙なドアップ写真が一枚添付されているだけだ。
『ようやくお出ましになりました~!(*´▽`*)』
ブログ投稿に手間取り、更にうさぎに四苦八苦対応している様子が見て取れた。だからなのか何となく微笑ましく感じて投稿者に親近感を覚えてしまう。うさぎと仲良く暮らしている甘ったるい幸せアピールが鼻に付くページが多い中、自分ばかりがうさぎに理不尽に振り回されているような気がしていたが……道端で顔を合わせるかもしれない、そんな同じ地域に暮らし始めた人が同じようにうさぎに対して苦労しているのだと思うと、ホッと肩の力が抜けたのだ。
そしてもう一つ、そのブログを読む事で違う収穫があった。
ブログ記事の中で耳寄りな情報を見つけたのだ。何と仙台市内にはうさぎの専門店が存在するらしい。そしてその支店の一つは、俺の住む賃貸アパートからそれほど離れていない場所にあるようだ。
ネットの情報は膨大過ぎる。さっき見つけた餌の処理についても、正確なところ俺みたいな素人、初心者には本当にそれが正解なのかどうかも判断できない。そう、餅は餅屋だ。迷ったら先ず、詳しい人に聞くなりその現場に行くなりしてみる事だ。独りで悶々と考えたって分かるわきゃーない!
せっかくの休みだが、みのりもいないし予定はない。俺は情報を求め、そのうさぎ専門店に足を向けるべく出掛ける仕度に取り掛かったのだった。