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45.昼休みの喫茶店で

PCでの入力が間に合わなかったため、データをタブレットから追加しました。

いつもと手順が違うので不具合があるかもしれませんが、ご容赦いただけると嬉しいです(;^_^A

昼休み、風間を誘って外へ出た。そこは佐渡も含めて三人で立ち寄ることも多かった珈琲の美味い喫茶店だが、今日佐渡は外回りで不在だった。

むっつりと口数の少ない風間だが、流石に昨日の暴言を悔やんでいるのか俺の誘いを断ることはせずに付いて来る。あの嵐のような不機嫌も、少しは落ち着いたということだろうか。


「あのさ」


チキンマサラカレーをペロリと平らげて、俺は口火を切る。風間も定番のキーマカレーを胃に収めた所で、珈琲をすすっていた。勿論その間ずっと気まずい沈黙が続いている。


「誤解だから。花井さんと俺には何も無いし。つーかあるワケ無い」

「……懐かれて満更でも無い顔してただろ」

「まー、実際『可愛い』からね」

「けっ」


風間が視線を逸らして吐き出すように唸った。

ガラが悪いぞー?仮にも営業がそんな態度で良いのかね?何処で誰が見ているとも限らないんだから。


「そこはそれとしてさ、昨日の何だよ」

「は?」

「『相手を切り捨てた』って何のことだよ」


そう、卯月さんと伊都さんが週末ヨツバに会いに来ることになって、みのりへの連絡をどうしようかと迷っていた。そこに意味深な風間の台詞が引っ掛かったのだ。風間は知っているのではないか?―――何処まで知っているかは分からないが俺とみのりの間に今距離があるって事を。だからこそ『みのりと俺の結婚なんかナイ』『次の女に乗り換える』なんて台詞が出て来たんじゃないかって。


風間はゆっくりと視線を戻し俺を睨みつけた。正直元ラグビー部でガタイの良い風間が睨むと、殺気がこもっているのかってぐらい迫力がある。背はそれほど変わらないのに首や胸の厚さ、二の腕が俺より一回り大きいから、たぶん実際やり合ったら勝ち目はないだろう。しかしこの文明社会では、腕力だけがモノを言う訳じゃない。俺は怯んでいる事を悟られぬよう、なるべく表情を崩さずに真っすぐ風間を見返した。


数秒沈黙が続いた後、目の前の男は肩の力をフッと抜いた。スッと視線を再び逸らした風間は、古い型のソファにドサリと背を預けて観念したように口を開いた。


「俺ね、みのりさんに言ったんだ」

「……何を?」

「花井さんのこと」

「え?なっ……はぁあ?!」


『花井さんのこと』って何だ?俺と花井さんの間には何もない。いや、厳密に言うと俺にはないが、花井さんの側にはそのつもり(・・・)があったらしい……それは昨日判明したのだけれども。しかしまさか俺を素通しで風間がみのりと連絡を取っているなんて思わなかった。


「『花井さんの』って、何を言ったんだ?と言うかナニ?お前、みのりと二人で会ってたの?」

「別に事実を言っただけだ。『最近派遣女子に妙に懐かれていて、鼻の下伸ばしてる』って」

「いや、それは……確かに佐渡とかお前に揶揄われた時はそう言ったけど……正直結構面倒だったんだぜ?まあ可愛いから何とか耐えられるってだけで、愚痴とかどうでも良い世間話とか……。でも若い子が頼って来てるのに、それを俺がお前らに愚痴るのもカッコわりぃと思って……あー、こういう言い訳すること自体、カッコわりーから言いたくなかったんだけど」


種明かしなんかしたくない。いつも余裕な男で居たいし、言い訳なんかしたくない。男ならそう言うの分かるだろーがっ!と湧き上がる羞恥心を抑え込んだ。


しかしまぁ、コイツ真面目で頑固な性質だからなぁ。


こうなって改めて気が付いた。風間は俺の言動と行動の、裏も表も一緒くたにしてしまったのだろう。佐渡なら、裏や表も察しつつ更には腹立ち紛れに陰で揶揄しつつ適当に俺の言葉を聞き流して来ただろう。だけど風間はそういうのが苦手なのだ、きっと。


そう言えば『コイツ、ノリが悪いなぁ』と感じる場面がよくあった。特に『悪ノリ』ってヤツに眉を顰めるタイプで―――まさに猪突猛進。正直で誠実って言えばそうなんだけど、それが大半の女子にとっては暑苦しく感じられるのだろう。それが風間好みの女の子……つまり『みのり』から敬遠されてしまう理由でもあったのだ。


悪い奴じゃねーんだけどな、男にとっては。自分の発言全てに全力で対応する余裕のナイ男を……苦手とする女の子は多いんだ。つまり風間はモテない。空気を読んで意見を腹に飲み込むような俺と違って。きっとそれも風間にとっては腹立たしいこと、この上ないのだろう。でも思っていることを全部口にしないって―――結構な重労働なんだけどな。




「けど、結局―――みのりさん、出て行ったんだろ?」




そこで風間が手榴弾を投入して来た。

その短い言葉は俺の僅かな優越感と余裕を破壊するのに十分な威力を持っていた。


ソファにドカッと背を預けたまま、風間は俺に視線を向けて投げやりにそう呟いたのだった。

暫くPC前に留まれないため、次話は一週間ほど後になる予定です。


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