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34.朝食風景

少し短めです。

 スーツに着替えて髪型を整え、鞄を手にして出掛けようとして、それに気が付いた。


 ヨツバがぐっと体を丸めて自分の股をペロペロ舐めている。


「ヨツバ?」


 声を掛けるとヨツバはハッとしたように顔を上げ、それからピュッとケージの中へ隠れてしまった。何か見てはいけないものを見てしまったのだろうか?柵に近付きヨツバが立ち去った辺りに目を向けると、ポロリと黒いつやつやした物体が落ちていた。






 外回り中は集中出来たのだが、机に戻って事務作業をするとなると気が散ってしまう。デスクトップを見るともうすぐ昼休みだ。俺は首を振って溜息を吐いた。


 ヨツバとの生活が順調に滑り出し始めたと思っていた。男同士、一緒に暮らす連帯感すら感じていたのに―――ヨツバが何故か自分のフンを食べていたのだ。

 やはり慣れない人間の世話じゃ駄目だと言う事だろうか?伊都さんから貰った初心者向けのリーフレットに沿って世話をしたらすんなり色んな問題が一遍に解決した。なんだうさぎの世話もコツさえ掴めば問題ない、やっぱ俺って要領いいかもな。……なんて粉々になりつつあった自信が少し回復仕掛けた所だったのに。


 ヨツバはストレスからあんな行動に走ったのか?

 若しくは何かの病気に掛かっているとか?!


「戸次」


 その時背中から低い声が掛かった。

 威圧感満載の聞き覚えのあるこの声は―――




「亀田部長」

「話がある。昼……いいか?」

「えっ……あ、はい」




 ザワッと周囲がざわめいたような気がした。当然だろう、下っ端の俺と亀田部長に仕事上、直接の接点はない。昼ご飯に一人だけ誘われるような理由がある筈がない。

 あるとすれば―――休日のあの出来事に関する事だろう。

 課長から胡乱な視線を投げ掛けられた。本来なら課長を差し置いて部長の誘いを受けるなんて、睨まれるような真似を受け入れるのは避けただろう。だけど俺も切羽詰まっている、ヨツバの様子が気になったのだ。何か致命的なミスを犯していたとしたら……そう考えると恐ろしい。時に世慣れたオッサンみたいに見えるヨツバだが、実際はか弱い小動物なのだ。些細な出来事が原因で、儚くなってしまうかもしれない。そんな時に受けた亀田部長の誘い、渡りに船とはこの事だ。


「遠藤さん、戸次をちょっと借ります」

「あ、はぁ……分かりました」


部長が課長に淡々と告げると、課長は戸惑いながらも頷いた。すると俺をチラリと一瞥して亀田部長が歩き出した。俺は慌てて財布とスマホを手にして立ち上がる。


そうして大きな背中を追いかけて、職場を離れたのだった。

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