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2.ファースト・コンタクト

うさぎが出ます。

 ピピピッピピピッ……


 繰り返す目覚まし音が頭に響いて苦しい。布団の中から手を伸ばしたが、手ごたえがまるで無い。


「う……みのりぃ、目覚まし消してくれぇー」


 と呻き声を上げてから、返事の無い事に気が付いた。のそりと掛け布団から這い出し目覚まし時計を探す。休日だから朝早く起きる必要は無かったのにと独りごち、目覚まし時計をセットしたまま出て行った人物を思い浮かべる。


 『今時、目覚まし時計って。スマホの目覚まし機能があるだろ』と呆れた俺に真面目な顔でみのりは言ったものだ。『スマホの電磁波ってスゴイのよ。それを寝ている間頭の横に置いておくなんて、病気の種を増やすようなモノよ』と。『そんな細かい事ばかり気にしていた方が病気になるよ!』と返すと、今度は滔々と自説を語り俺をやり込めるのだ。生半可に反論すると必ず三倍くらいになって返って来る。以来みのりの指導により、寝る前にスマホはリビングの定位置に置く事に決まったのだった。

 付き合い始めの頃は融通の利かない所も微笑ましく思えたものだが、疲れている時に同じテンションで来られると鬱陶しくなる時もある。大抵正論だからこっちは口を噤むしか無いのだけれど。


 目覚まし時計を止めてリビングへ行くと、俺はスマホを手に取った。一言も告げず勝手に出て行ったみのりに反旗を翻すような気持ちで目覚まし機能を登録する。


「今日から寝る時もスマホを近くに持ち込んでやる!」


 聞いている相手もいないのに意趣返しか、と一瞬虚しさが胸を掠めたが首を振って落ち込む気持ちを振り払った。意趣返しをしたいと思ったのは苛立ちからだ。事故か事件か……と蒼くなって心配したのに、蓋を開けると自主的な家出だった。心配した分腹が立ったのだ。昨日はあの後混乱した気持ちを納めるために、ビールを三缶ほど開けてそのまま眠ってしまった。飲み会の後だから流石に胃が重たい。


 ガリガリガリガリ……ガサッガサッ


 そこでリビングの隅から変な音が響いて来るのに気が付いた。音がするのは布が掛けられたケージの中からだ。近づいてそっと布を持ち上げると、パタッと動きを止めたらしいヌイグルミのようなウサギが居た。何の音だったのだろうか?動きが無いので溜息を吐いて背を向けようとすると、そのベージュのうさぎ『ヨツバ』がケージの柵をガジガジと噛り始めた。


 ガリガリガリガリ……


「……『ヨツバ』」


 声を掛けるが反応は無い。ヨツバをみのりが連れて来たのは一月(ひとつき)ほど前だったように思う。仕事で余裕の無かった俺は今まで自分でヨツバに声を掛けた事が無かったのだ。ただみのりが『ヨツバが……』『ヨツバの……』と何かに付け話題に上げるので名前を憶えていると言う程度だった。

 直接世話をした事は無かったが、会社から帰った後や通勤前、休みの日にこんな風にケージを齧り続ける様子を見た事が無かった。


「もしかしてご主人がいないって事が分かるのか?結構うさぎも賢いんだな」


 俺はしゃがみ込み、ケージの中を覗き込んだ。すると俺の影がケージに落ちたタイミングでヨツバが再びピタリと動きを止めた。


「お、大人しくなったな?」


 耳がダランと垂れていて、毛皮はベージュ色で耳の端だけが少し濃い茶色になっている。最初みのりに見せられた時はうさぎだと告げられるまで、何の動物だか分からなかった。うさぎってもっとこう……耳がピン!と立っているもんじゃねえか?と訝しむと、みのりは笑って言ったっけ『うさぎにも色んな種類があるのよ』って。


「まあ、可愛いもんだな?」


 フワフワの毛糸玉のような如何にも柔らかそうな毛並みを見ていると、飼い主が可愛がる気持ちも分からないでもない。本当にヌイグルミそのものだな。感心して暫くジロジロと上から眺めてしまう。

 何となく『ヨツバ』はみのりの、だと思っていた。だから俺はあまり関わらない方が良いのかもしれない、と。無意識に、下手な事を言ってみのりに正しく責められるのは避けたい、と考えていたのかもしれない。仕事で責められ、家でも責められるのが嫌だったのだろう。


 しかし……さっきまで五月蠅くケージを齧っていたくせに、ピクリとも動かなくなってしまった。これじゃ本当にヌイグルミそのものじゃねーか?鼻先は僅かにピクピクするものの、本当に息をしているのか不安になった俺は首を傾げてヨツバの鼻先をケージ越しにつついてみた。




「いてぇっ!」




 その瞬間ガリっと噛みつかれて、俺は悲鳴を上げたのだった!


メイン・ヒーロー(?)の登場でした。

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