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20.ばったり3

「あの……もしかしてお知り合いでしたか?」


 小柄な店員が、俺と華奢な若い女性を交互に見た。女性は優し気な目元を寄せて首を振る。


「初めてお会いしたと……思いますけど。でも今確か『うータン』って」


 当たっていたのだと、その台詞で確信を持った。ヨツバの扱いに疑問を持ってネットの海を彷徨っていた時見つけたブログ『うさぎのおしろ』。そのブログに登場するうさぎが『うータン』だったのだ。

 飼い主が仙台在住らしいって事と、うさぎのブログと銘打ちながらもほぼケージしか登場しないと言う不思議さが目について思わずブックマークをしていたのだ。ここ最近はその『うータン』もケージから出てうろつくようになり、飼い主自身もブログの投稿方法に慣れたらしく、ブログもちゃんと『うさぎの成長記録』の態を為して来た。

 このうさぎ専門店の情報源は、何を隠そうそのブログなのだ。だから当の飼い主とばったり顔を合わせてもおかしくなかったのだけれども。……と言っても、まさか『うータン』そのものに遭遇するとは予想してはいなかった。


「あの、ブログを何度か拝見していたので」

「えっ……!」


 華奢な驚いたように女性は目を丸くしていた。隣で小柄な店員が彼女を興味深げに振り向く。


「え?卯月(うづき)さん、ブログやってるんですか?」

「あっうぅ……その、はい」

「見たいです!アドレス教えてください!あ、あとウチのサイトとリンク張りませんか?」


 すると『うづき』と呼ばれた女性は苦り切った表情で呻いた。

 しかしこの店員、やけに前のめりだ。本当にうさぎの事に関してだけは積極的だな……俺相手には滅茶苦茶挙動不審だったくせに。


「まだ練習中で……お見せできるような、更にリンクを張れるようなシロモノじゃないんですよ。全然ホントに!引っ越したばかりでする事なくてつい間が差して。まさか誰かが観てるなんて思いもしなくて。いや、確かにすこーしは立ち寄ってくれる方はいますけど、ランキングも低くって」


 ブンブンと手を振って恥ずかしそうに頬を染める。


 その様子を見て何だか可愛いな、と思ってしまった。


 ヨツバの扱いやみのりの突然の不在で弱り切っている時に、同じようにうさぎの事で悩んでいたらしい彼女に俺は親しみを抱いていたのだ。だから多少のリップサービスも込めてフォローの言葉を掛けた。


「そんな事ないですよ。面白かったです。等身大の飼い主の悩みって感じで……俺も悩んでいたんで共感しました」

「そ、そうですか?有難うございます……」


 恥ずかしそうに俯く彼女に、小柄な店員はニコリと笑い掛けた。


「ぜひ私にも教えてください。私もうータンの日常生活を覗きたいです!」

「うーん、リンク張らなくて良いなら……」

「はい、それはご希望が無ければ勿論張りません」


 フフフと笑い合う女性達の周りの空気がほんわかと柔らかい。

 足元を見ると柵で守られた人工芝の運動場でうさぎが数匹、のんびりと寛いでいる。


 ボンヤリと丸くなる茶色いうさぎがいた。そこへ耳の先がほのかにオレンジ色の『うータン』が、パタッパタッと近づいて行き脈絡も無くグッと黒いうさぎのお腹に鼻づらを押し込んだ。


 お腹に鼻づらを突っ込まれたうさぎは何事も無かったようにその瞬間はジッとしていたが、まるで突然その事実に気が付いた、とでも感じたかのようにパッと立ち上がりその場からピョンピョンと逃げて、十分に離れた壁際でピタリと再び腰を下ろした。


「アハハ、うータンったら」

「固まってますね!」


 小声で笑い合う彼女達の視線の先を追うと、うータンが先ほど鼻づらを同胞のお腹に差し込んだ姿勢で、頭を低くしたまま固まっている。まるで茶色いうさぎが去ってしまった事実に気が付いていないかのように……。


「プッ」


 思わず噴き出していた。


「ハハッ……まるで逃げられたのに気付いてないみたいだ」

「本当ですよね!」

「普段あれだけ素早いのに何で?って思っちゃう」


 三人で一頻り笑い合って。それから、ふと思った。

 あれ?俺……声を上げて笑ったのって、何時振りだろうかって。

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