2-17 友人
長期間の休載申し訳ありませんでした。
短めですが連載再開です。
俺や仲間達の屋台の運営方法や接客を、オースターの弟や妹たちは真剣に学ぶ。
そして、俺の作ったラーメンや他の料理を、少し余計に作って味見をさせる。
天才的な味覚を持っているオースターだから、肉抜きの湯麺と豚の細切れを炒め、スープにも豚骨や鶏ガラを使っているスープの違いを説明するまでもなく指摘してきた。
改めて凄い味覚の持ち主だ。
出汁に何が使われてるのかを殆ど瞬時に言い当ててくる。
オースターが戸惑うシーンは、胡椒などの香辛料を使っている場合だ。
胡椒は既に学んでいるので、直ぐに言い当ててくる。
しかし、初めて味わう調味料に関しては、やはり戸惑うのだ。
屋台に積んである色々な調味料や香辛料を教えて行く。
一度味わった調味料や香辛料であれば、二度目はしっかり言い当ててくる。
これが天才の味覚能力なのだろうな。
まったくもって羨ましい限りだよ。
オースターの弟は、餃子の屋台で自らも焼き餃子を焼き始めた。
兄弟そろって物覚えが良い。
そして水餃子も茹で方なども教わっている。
餃子の種の作り方までは、屋台では教えられない。
これは後日、孤児院へ来てもらうしかないか。
妹や弟は未だ小さいのであまり遠くからだと来るのが大変そうだな。
「なあ、オースター。あんた達は何処に住んでいるんだい? ここからは遠い所か?」
「はい、ここからは遠い北地区に住んでいます……。北地区は家賃が安いので……」
「ふーん、それじゃ余り遅くなると帰るのが大変だな。そろそろ帰った方が良いんじゃねぇの?」
「あっ、大丈夫です。何時も夜まで働いているので」
「いや、あんたはそうだろうけど、弟や妹はそうじゃねぇだろう?」
「いえ、二人とも一緒に働いてます。宿屋の食堂で夜だけ手伝わせてもらってます。今日は幸いにも休みの日だったのです」
「ふーん、昼から夕方は屋台で夜は宿屋の食堂か。屋台の仕込みは帰ってからするんだろ?」
「そうですが、家にいる妹たちがやっていてくれますから……」
「何人兄弟なんだい?」
「僕とここにいる弟と妹、家には二人の妹がいます。あっ、それと母がおります」
「へえ、お袋さんもいるのかい。そりゃ小さい妹を家に残していても安心だな」
「いえ、母は身体が弱くて殆ど寝たきりなので……妹たちが面倒を見てます」
「……そりゃ大変だな……。親父さんは?」
「出稼ぎに出て行き、そのまま帰ってきません……音信不通なのです……」
オースターの言葉を黙って聞いていたオースターの妹が、そこで泣き崩れてしまった。
すかさず、餃子の屋台にいたオースターの弟が近づいてきて妹を抱き支える。
話をしていたオースター自身も言葉に詰まり、それ以上は語らなくなってしまう。
病魔に苦しむ母親。
そして行方不明の父親。
残された兄弟姉妹は力を合わせて健気に働く。
そんな可哀想な家族の話を聞いて、涙を見せないなんて人間じゃねぇ。
俺は貰い泣きをしながら、クーラー・ボックスの中を探して茶色の小瓶を数本取り出す。
「オースター、悲しい話をさせてしまって済まねぇな。これ、帰ったらお袋さんに飲ませてやれ。一日一本だけだぞ」
「こ、これは?」
「お袋さんは身体が弱いんだろ。これは栄養を補給して疲れを吹き飛ばしてくれる薬だ。ただ薬なんだが、甘くて美味いぞ。だけどお前が飲んじゃ駄目だぜ。まあ、お袋さんが飲み干した後を舐める位でも味はわかるからよ」
「栄養が付く薬……。もしかして、それは伝説のポーション? いや、エリクサーでしょうか?」
「なんだ、そりゃ? 昔ゲームで聞いた事があるような名前だな。これは俺の国では普通に飲まれている疲労回復剤だ。そんな大層な名前の伝説の薬じゃねぇよ」
「あ、ありがとうございます! 帰ったら直ぐに母に飲んで貰います!」
「ああ、そうしな。冷えていると美味いけど、まあ冷えて無くてもそれなりに飲める。でも温めちゃ駄目だぞ」
「はい、判りました。その魔法の箱は、冷えたまま保存出来るのですか?」
「ああ、一日……いや半日くらいだけどな。単に中に氷が入っているだけで、魔法でもなんでもねぇよ。魔法使いに氷を作ってもらえば誰でも使える普通の箱だよ」
「なるほど。氷魔法を使える魔術師に頼むのですね。それは良いことを教えて貰いました」
「そういう事だ。肉なんかも持つようになるから屋台の商売には便利だぞ」
「はい、勉強になります」
「それじゃ、今夜はここまでにしておこうか。また時間が有る時にでも来てくれ。そうだ、仕込みを教えるから、歓楽街の裏手にある孤児院を知っているか?」
「はい、個人経営の孤児院ですよね。知っています」
「そうだ、俺の知り合いが経営しているんだけど、そこで仕込み作業をしているから、来てくれよ。俺の家も隣にあるしな」
「はい、是非教えて下さい。でも……」
「でも?」
「何故、僕に……僕たちに親切にしてくれるのですか?」
「言っただろう、あんたの味覚が羨ましいって。俺には無い味覚を持ってる。出来れば俺に……俺達にあんたの力を貸してくれないか? オースターさんよ」
「ぼ、僕でキーさんの力になれるのなら、なんでも協力させて貰います!」
「おう、有りがてぇな。そうかい、それじゃ今日から俺とオースターは友達だ。良いよな?」
「友達……。はい! 是非、僕の友達になって下さい! キーさん」
俺とオースターは、がっしりと硬い握手を交わす。
オースターの妹は泣きやみ、笑顔になっていた。
その妹を支えている、オースターの弟も笑顔で喜んでいる。
もちろん、レイやポチットも笑顔だ。
また一人、この異世界で友達が出来た。
いや、オースターには弟妹が居るので一人じゃねぇけどな。
オースターと弟、妹の三人は屋台から離れて歓楽街の、今だ賑やかな通りの人混みへ姿を消した。
俺達は、まだまだ途切れない客の行列を相手に仕事に励む。
この所、客の行列が明らかに増えているのだ。
そして、その理由も良く判っている。
早く来ないと麺が品切れになってしまう事が広く知られてきたのだ。
なので、品切れになる前に早めに来て行列を作る。
元居た世界の賑わう行列の出来るラーメン屋と全く同じなのだ。
それは喜ばしい事なのだが、如何せん50食限定の制限はきつくなってきた。
本当に早めに、かん水を見つけて麺を打たなければ打開する事は出来ない。
麺さえ大量に打つ事ができれば、オースターにも麺を提供してやる事も出来る。
そして何れはラーメン屋台を王都で広める事も出来るだろう。
全てはかん水の入手が鍵を握っているのだ。
まあ、焦っても仕方がない。
ぼちぼちと、やって行こう。
そう思った時、俺の目に飛び込んで来たのは不思議な緑色の光。
その光はレイの腰に差してあった、エルフ姫から貰った短剣から発せられていた。
長期間の休載は、作者の入院、手術、退院、自宅療養、通院、そしてリハビリ。
加えて、拙作の処女作『目指せ!一騎当千 ~ぼっち自衛官の異世界奮戦記~』が、なんと書籍化されることになったため、その書籍化作業も重なりました。
長期間の休載、申し訳ございませんでした。
連載を再開させていただきますので、引き続き宜しくお願いを致します。
また、作者の書籍化作品『目指せ!一騎当千 ~ぼっち自衛官の異世界奮戦記~』が9月10日に発売されますので、こちらも宜しければ是非お手にとって頂ければ幸いです。
舳江 爽快




