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異世界屋台 ~精霊軒繁盛記~  作者: 舳江爽快
第二章 営業 編
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2-16 天才

「俺の名前は、キー。コータ・キーだ。あんたの名前は?」

「ぼ、僕の名前はオースターといいます……」

「オースターさん、あんたの料理の技は凄いな。一人で再現したんだろう? 俺のラーメン(・・・・・・)を」

「……す、すみませんでした。キーさんの料理を真似しました!」

「別に謝る必要は無いぜ。オースターさんの技量有っての、このランメンだからな」

「怒らないのですか?」

「怒る? まさか。あんたみたいな天才が羨ましいだけさ……」

「許していただけるのですか?」

「許すも許さないもねぇよ。このランメンは、オースターさん、あんたが独自に作った料理だからな。ただ……」

「ただ?」

「名前だけはラーメンじゃなくてランメンと名乗ってくれ。実際に、俺の国には、あんたの作った、このランメンと同じ麺料理もあるんでな」

「は、はい! ランメンと呼ばせてもらいます」

「ギョーザは同じで構わねぇ……。作っているのは、みんな兄弟姉妹かい?」

「はい。全員が僕の弟や妹達です」

「へえ、そうかい。みんな小さいのに偉いな」


 俺とオースターの会話を、弟や妹達はじっと見つめている。

 もちろん、レイやポチット、そしてレゾナの旦那も同じだ。

 それにしても、このオースターという男、低姿勢なうえに俺からラーメンの作り方を盗んだと簡単に認めてしまうとは。

 料理の世界は、レシピなんて真似されてしまえばそれまでだ。

 ましてや、似て非なる料理は独自開発料理と言っても良い。

 見て、食って、味を確かめて再現したのだから。


 俺にもオースターみたいな天才的な味覚と技量があればと羨ましい。

 俺の師匠は、幸いにも自分の技術をちゃんと手解きしてくれた。

 しかし、店によっては師匠の技や味は、弟子に盗んで覚えろと言う店も多く存在する。

 恐らく天才肌ならば、そう言った修行でもちゃんと短時間で学べるのだろうけど俺には無理だ。

 しかし、目の前のオースターならば、そんな店でもいとも簡単に師匠の味を再現しちまう事だろう。

 本当に、羨ましい限りだぜ。


「この屋台は、何時までやっているんだい?」

「日が暮れる少し前には店仕舞いします」

「ふーん、そんじゃ店仕舞いしてからで構わねぇから、歓楽街の俺の屋台まで来れるかい?」

「え、えっ? キーさんの屋台までですか?」

「ああ、そうだ。おっと、別に文句を言うためじゃねぇから安心してくれ。色々と教えたい事とかあるんでな。」

「教えたい事とは、料理についてでしょうか?」

「そうだよ。特に餃子の焼き方とかな。これじゃ、折角の餃子が台無しだぜ」

「行きます! 弟達も連れて行って宜しいでしょうか?」

「もちろんだとも。あんたの妹弟なら一度見れば、ちゃんと覚えるだろう?」

「大丈夫です。多分……」

「兄ちゃん! だ、大丈夫さ!」

「おう、その意気だ。じゃあ、今晩、待ってるぜ。ああ、腹減らして来いよな」

「あ、有り難うございます。必ずお伺いします!」

「ああ、そんじゃな。待ってるよ……。さて、俺達は帰ろうぜ」


 俺の言葉にレゾナの旦那が反応した。


「キー様、良いのですか?」

「もちろんさ。そんじゃ帰ろう、俺達も仕込み作業しなきゃな」

「……判りました。キー様が良いと仰るなら」

「まだ腹が満腹じゃ無ければ、他にも食ってから帰るか?」

「わたしは大丈夫ですよ、ご主人さま」

「あ、あたしも大丈夫……です。ご主人さま」

「本当か? ポチット?」

「す、すみません。ホントはもう少した、食べたいです」

「はははは、よしよし、肉の串焼きでも買って来い」

「は、はい、有り難うございます!」

「馬車で待っているバイソンも空腹だろうから、奴の分も買ってきてやれ」

「は、はい。ご主人さま」

「そうでした。バイソンの分の代金は、私めがお支払いします」

「別に気にするなよ。肉の串焼きくらいは、奢るよ」

「いやいや、そうは参りません」


 レゾナの旦那は、ポチットへ銀貨を一枚渡す。

 ポチットは銀貨を受け取ると俺の方を振り返って見る。

 俺は首を縦に振って頷きポチットへ微笑んだ。

 するとポチットは、破顔して肉の串焼きを売っている屋台へと走って行く。

 本当にポチットは判りやすいな。


 少し待っているとポチットが肉の串焼きを大量に抱えて戻ってくる。

 それを持って、馬車まで戻りバイソンにも肉の串焼きを渡す。

 バイソンは礼を述べると同時に肉を食い始める。

 既にポチットは馬車へ来る間に何本かの串焼きを食い終わっていた。

 しかし、まだ大量の串焼きが残っている。

 バイソン一人では食い尽くせねぇだろう。


 俺は苦笑いしながら、バイソンが残すだろう串焼きの数を予想する。

 そして予想よりも少なかったのだが残った串焼きをポチットへ食べるか尋ねると、ポチットは嬉しそうに応えた。


「よ、宜しいのですか? ご主人さま?」

「ああ、残しても勿体無いからな。残さず食ってくれ」

「は、はい! 頂きます」


 ポチットは嬉しそうに残った肉の串焼きを、あっと言う間に平らげた。

 そうして腹の膨れた御者のバイソンが操る馬車で歓楽街まで送ってもらう。

 レゾナの旦那には、後で顛末を話に行く事を約束して、今日の所は帰ってもらう事にする。

 馬車の中では、料理のレシピを盗んで真似る事は、やはり日常茶飯事らしいとレゾナの旦那に教えて貰う。

 師匠と弟子の間であれば、それは問題になることは無いのだが、今回のように赤の他人が真似する事も多々あり、その場合には解決策として金銭のやりとりが多いそうだ。


 俺としては、この世界の常識じゃなくて、元居た日本の常識で事を治めたい。

 特に、あのオースターと言う若い男の持つ天才的な技量と味覚。

 友達になっておいた方が得策だと思うんだよ。

 まあ、持ちつ持たれつの関係をウィン・ウィンとか言うらしいけど、英語は良く判らねぇ。

 お互いの利害関係が一致した上で仲間になってくれれば、それで良いんじゃねぇかな。

 そもそも、歓楽街と市場では距離がかなり離れているので、お互いの商売の邪魔には成らねぇんだし。


 自宅へ帰ってから、今夜の屋台の仕込みを行う。

 仕込みは主にベジタリアンのエルフの姫様向けだ。

 肉を使わないスープを作ったり、生麺を蒸して焼きそば用にしたりの作業だ。

 餃子屋台の方は既に仕込みを昼から始めている。

 もちろん、三人組のパオ、ビイ、ワンが仕込み作業を行っている。

 パオがエルフ姫のローレル専用肉抜き餃子を作っているが、最近はベジタリアン以外にも好評のようで多めに作っているらしい。

 歓楽街のお姉さん達も噂のネットワークを持っているらしく、直ぐに評判は広まるみたいだ。


 もっとも、その噂の信憑性には疑問符が付いてしまう。

 なにせ、エルフのローレル姫が若く美しいのは肉を食さないからだという噂が広まっており、それを実践する歓楽街のお姉さん達が増えちまったのだ。

 そんな噂のお陰で、やたらと肉抜き湯麺も好評だ。

 もっともローレル姫以外には、普通のラーメンスープで野菜を煮込んでいるので、完全なベジタリアン向けじゃねぇけど、似非ベジタリアンには問題なしだ。


 仕込み作業も終わり俺達は早めの夕食を済ます。

 夕暮れ時でまだ日は完全に沈んではいないが、そろそろポテトフライ屋台が店仕舞いをする頃だ。

 夕食を終えて、俺達は屋台を引いて歓楽街の高級宿の前庭へと向かう。

 俺達が到着すると、既に店仕舞いを終えたポテト屋台から、大量の排骨(パーコー)を受け取る。

 更に余ったポテトフライとポテトチップなども受け取り、ラーメン屋台へと仕舞い込む。

 ラーメン屋台や餃子屋台では酒も提供するので、その(さかな)としてポテトフライを出したりしているのだ。


 俺達に排骨やポテトを引き渡すと、ポテト屋台は孤児院へと引き上げていく。

 そろそろ薄暗くなってきているが明るい内に帰宅させる。

 年長組とは言え、まだ未成年のガキ共だからな。

 その辺りはフェアとも相談して決めているんだけど、ガキ共は夜も働きたいと言っていた。

 まあ、もう少しすれば嫌でも夜の屋台をやってもらうけどな。


 そう言えば、パオ達の仲間の冒険者も、屋台をやりたいとか言っているらしい。

 やっぱり孤児院の卒業生らしく、フェアも知っていた。

 冒険者稼業で怪我をしてしまったらしく、冒険者を廃業するしかないんだとか。

 しかし、冒険者って危ねぇ仕事らしいな。

 魔物やら盗賊の対応とか、命が幾つあっても足らねぇ商売だぜ。

 そんな相談も受けているんで、新しい屋台のメニューも考えなきゃいけねぇ。


 俺達がラーメン屋台を営業モードに設定してガスコンロに着火した頃、約束どおりにオースターが弟と妹を連れてやってきた。


「昼間はどうも……お約束どおり、参りました」

「おお、良く来てくれたな。先ずは、俺のスープを味わってくれ。そっちの餃子を焼いてた弟、お前は餃子屋台へ行って焼き方を良く見な!」

「は、はい……」


 オースターは、そう返事をすると弟へ餃子屋台へ行くように指示をする。

 オースターの弟は、俺に頭を下げると無言で餃子屋台へと行く。

 そして俺は先ず、タレを入れていないスープをオースターへ飲ませる。


「それが俺のスープだ。そんでもって、これが肉を使ってない野菜だけのスープだ」

「はい……」

「そして、これが醤油ベースのタレだ。舐めてみな……」

「……こ、これは?」

「そう、ただの醤油じゃねぇって事さ」


 こうして、俺の天才へのラーメン作りレクチャーが始まった。

 相手が味覚の天才なので、先ずは味を確かめさせる。

 それだけで、この天才はちゃんと理解してくれる筈だ。

 隣の餃子屋台では、実際に餃子を焼く、いや、実際には蒸している工程を弟へ見せている。

 オースターの弟も兄に負けず聡明なようで、餃子の調理工程を確実にマスターしていく事だろう。

 既に客が屋台に行列を作っている。

 そしてレイとポチットが手際よく、客達から注文を取り俺に伝えてくる。

 そんな連携動作を、オースターの妹はしっかりと学んでいるようだ。

 そして客が去ったあとの片付けや簡易テーブルの清掃なども、しっかりと覚えて貰うのだった。







申し訳ありませんが個人的な事情により1ヶ月程、更新が滞ります。

更新再開までお待ち下さいますよう、お願いをいたしま。


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