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異世界屋台 ~精霊軒繁盛記~  作者: 舳江爽快
第二章 営業 編
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2-10 タンメン

 高級宿に宿泊している二百歳のエルフ美女は、毎晩俺達の屋台へ夕食を食べにやって来るようになった。

 最初はソース焼きそばと肉抜き餃子やポテト・フライだけだったが、汁と共に麺も食べたいとの事で面倒だったが肉や骨の出汁を使わないスープも作ってやり、ベジタリアンでも食べられるようにする。

 野菜出汁だけだと、やはり出汁に旨みが欠けてしまう。

 そこで、市場で入手してきた乾燥昆布と椎茸に似た乾燥茸も加えてスープを作る。

 少々薄味だけど、植物油を加えてやればそれなりに美味い。


 塩味ベースなのだけれど、塩ラーメンでは無い。

 具材は、たっぷりの野菜を炒めて、そこへ作った野菜を加えて塩胡椒で味付け。

 これを何時もラーメンのスープを使って作れば、俺も個人的に好きな湯麺(タンメン)に近いかもしれない。

 野菜はソース焼きそばでも使った、キャベツに似た緑玉菜と玉葱、そして萌やしと細切りにした人参だ。

 タンメンにするなら、これに豚肉のバラ肉を加えて炒めるのだが、エルフ美女――ただし二百歳だが――には野菜だけだ。


「どうだい? 肉無しタンメンは?」

「店主、これは美味いぞ! ソース焼きそばに勝るとも劣らぬ味だ!」

「そりゃ良かった。動物系は一切使ってねぇから安心してくれ」

「無論だ。ほんの少しでも入っていれば直ぐに判る。この麺料理やスープには、一切肉系は混じっていない。見事だぞ、店主!」

「そうかい。野菜と海草、それと茸で作ったスープだけど、出汁が良く出てるからな」

「海草とな? それは、どんな食材なのだ?」

「ああ、乾燥した昆布だ。市場で売ってたぞ」

「昆布……ああ、あの黒くて長い葉か。エルフの里は海が無い故、食した事が無かったな」

「ふーん。エルフの里って、やっぱり森の中なのかい?」

「そうだ。我らエルフ族は、殆どが森に住む。それも神木のある森に限られるのだ」

「神木? それって、世界樹って奴か?」

「世界樹? 店主の国では、そう呼ぶのか? わたしには判らぬが、女神様の加護を頂いた樹齢一万年を超す巨木だ」

「い、一万年か……。俺の国にも千年以上の樹齢の木は有るけどな。縄文杉って呼ばれてる三千年以上も生きている木も有るけど、それは世界樹では無く長生きなだけみたいだけどな」

「三千年程度の木ならば沢山生えているぞ。それより長く生きているエルフも居る。長老ともなればな」

「そ、そうかい。そうだよな。千年生きるんだっけ、あんた達エルフは……」

「うむ。長老は千二百歳だと聞くが、本当はもっと生きていると思う」

「……凄いな」

「店主。もう一杯くれぬか?」

「あいよ、直ぐに作るよ。ちょっと待ってくれ」


 エルフ美女とそんな話をしながら、二杯目の肉無しタンメンを作り始める。

 高級宿で出される普通のパンには、バターとミルクが使われているのだが、エルフ専用にそれらを抜いた特性パンが毎朝、焼かれている。

 その余ったエルフ用のパンが、孤児院にも流れてくるのだが……。

 当然ながらガキ共には不評だ。

 俺も食ってみたが、やはり味が落ちる。


 普通に庶民用に焼かれている黒くて硬いパンほどではないが、バターやミルクが入ってないだけで味が落ちるんだよな。

 孤児院のガキ共は、そう言う意味では恵まれていると言える。

 一般的の住人は、硬くミルクやバターの入っていない黒パンしか食ってないんだからな。

 不味いパンだと、塩さえ入っていない。

 味の薄いパンをスープに漬けて柔らかくして食べるのが一般的なんだとか。


 エルフ美女に言わせると、塩味だけのパンが一番美味いのだと言うが、俺はやっぱりジャムを塗ったパンが好きだ。

 本当はマーガリンがあればエルフ美女にも塗って食わせてやりたいが、残念ながらマーガリンは持っていない。

 バターは乳製品だから駄目だろうけど、マーガリンなら植物性100%の製品もあるから大丈夫なんだけどな。

 俺がガキの頃はバターが高価だからマーガリンばっかりだったけど。

 特に俺の大好物はマーガリンと小倉餡子を塗った焼かない食パンだった。


 200歳の美女エルフが食事を終わり高級宿へ帰って行く。

 すると、待ちかねたように客が俺に注文して来る。


「店主よ、エルフが食していた麺料理、儂にも作ってくれるか?」

「ああ、良いけど……あんたも肉が食えないのか?」

「いや、肉は食えるが野菜がたっぷりで美味そうだっからな」

「そうかい。それじゃ肉入り……って言うか、本当は肉も入っているんだよ。それで良いか?」

「良いとも。頼む」

「あいよ。それじゃ、ちょっと待ってくれ」


 よし、本物のタンメンを作ってやるぜ。

 今日は野菜もたっぷりあるからな。

 先ずは中華鍋で豚バラ肉を炒める。

 細切りの人参を投入。

 直ぐにざく切りにしたキャベツもどきの緑玉菜を放り込む。

 しんなりとした頃合いで、玉葱の入れて直ぐに萌やしを入れる。


 野菜に火が通った頃合いで、ラーメンスープを投入してやる。

 ここで、ちょっと味見をしてから塩加減を調整。

 胡椒を振りかけて少し煮込む。

 茹で上がった麺の湯をしっかりと切りラーメンどんぶりに移す。

 そして中華鍋からスープと野菜をその上から注ぎ込み、野菜たっぷりのタンメンの出来上がりだ。


「へい、お待ち。タンメンだ」

「山盛りの野菜が美味そうだ。どれ……美味い! これは美味いぞ店主! 何時ものスープと違い白いのだな」

「ああ、野菜の旨みがたっぷりのスープだからな。それでも肉の旨みもしっかりしてるだろ?」

「ずずずず……美味い! このスープ、いつもの黒いスープに劣らず味が濃い。麺にしっかりと絡むし、後味も良い。何時ものがラーメンと言うのだよな。これはタンメンと言うのか?」

「そうだ。タンメンだ。野菜嫌いでも野菜が美味く食べられる麺料理だ」

「店主、俺にもタンメンをくれ」

「私にもタンメンを頂戴!」

「あいよ、他にはタンメンの注文は無いかい?」

「お、俺は何時もラーメンで……野菜は好きじゃ無いんだ」

「野菜嫌いでも、このタンメンなら大丈夫だぞ」

「そ、そうか……なら騙されたと思って食ってみるよ」

「あいよ、タンメン三つな」


 俺は三人分のタンメンを作るべく、中華鍋に三人分の豚バラ肉を放り込み炒め始める。

 タンメンの具材を調理する時は、一度に複数分を調理した方がガスの節約になるからな。

 それに肉や野菜の量は多い方がスープのコクが濃くなるんだよ。

 だからタンメンを作る時は、複数客分を作るのが美味いタンメンを作るコツだ。

 修行中はインスタントの塩ラーメンを使って、タンメンを良く食ったもんだ。

 男の一人暮らしだと、どうしても野菜を食う機会が減るからな。

 かと言って生野菜のサラダだと沢山食えない。

 だがタンメンなら温野菜で消化にも良く沢山食える。


 複数の客がタンメンを美味そうに食っていると、それを見た常連客も我先にとタンメンを注文して来る。

 先ほどの野菜があまり好きじゃねぇと言っていた客も絶賛しているよ。


「美味い! 野菜がこれほど美味いとは……。俺は緑玉菜が正直、嫌いだったんだが、このタンメンなら幾らでも食える」

「だろう。騙されたと思って食って良かったろう?」

「ああ、食って良かった。野菜がこんなに美味いとは……。しかも食感が何とも言えぬ位に心地良いよ」

「そうだろ、そうだろ。生野菜じゃ、こうは美味くねぇもんな」

「何より、替え玉を頼まなくても腹が一杯になるな、このタンメンは」

「はははは、そりゃ良かった」

「兄さん、あたし達にもそのタンメン、お願い~」

「あいよ、お姉さん達もみんなタンメンで良いか?」

「「「肉を少し多めにしてくれると嬉しいかなあ」」」

「あいよ、美人にはサービスしちゃうよ」


 仕事上がりの色っぽいお姉さん達に頼まれちゃ、駄目だなんて口が裂けて言えねぇ。

 俺は少しにやけながら、中華鍋を勢いよく振り続ける。

 いやあ、タンメンの人気がこれほどとはな。

 特に男客よりもお姉さん達に大人気だ。

 こりゃ、タンメンも通常メニューに追加だな。

 そんな俺の姿を見ていたレイが一言。


「本当にご主人さまは、美人さんに弱いんですねぇ……」


 くっ、うるせえよレイ。

 ポチットを見習って黙って仕事しろよ……。






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