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異世界屋台 ~精霊軒繁盛記~  作者: 舳江爽快
第二章 営業 編
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2-9 焼きそば

 翌日、孤児院のガキ達へ料理を教えつつ野菜の仕込みを教える。

 特に、この世界でもガキ共に不人気な野菜の代表格は、やっぱり人参だ。

 確かに俺も人参は余り好きでは無い。

 炒め物には千切りにした人参を使う程度だし、ラーメンには具材としては使わないからな。

 しかし、俺の中華スープの出汁を取るには人参が不可欠なんだけど。

 人参をサラダで食うのが常識だとかポチットが言ってたけど、生人参かよ……。


 そこで、人参を甘く煮込むグラッセを教えた。

 砂糖で甘く煮込むだけなので、これなら簡単だ。

 もっとも、砂糖は高価なので毎回グラッセとは行かない。

 だが、人参も甘くて美味しいとガキ共に思い込ませる事が重要なんだよ。

 嫌いな野菜も調理次第で美味く食べられる事を学んでくれればな。

 予想どおり、ガキ共には人参によるグラッセが大好評だった。


 肉料理の付け合わせが、グラッセの基本なのだけど今回は無し。

 今度はハンバーグでも作ってやる事にしよう。

 残った人参は今夜の屋台の料理に使わせて貰う。

 今夜の屋台の料理と言えば、既にキャベツ代わりの緑玉菜はあるので後は玉葱を用意した。

 玉葱も俺の中華スープの大事な出汁を取る材料だ。

 中華料理でも良く玉葱は使う。


 この異世界にも玉葱は流通している。

 もちろん、タマネギとは呼ばれていないみたいだが、何故か俺が"タマネギ"と言うと通じてしまうし、ポチットが言う野菜の名前も"タマネギ"に聞こえて来る。

 自動翻訳されているんだろうな……。

 どうやら、全く同一では無い野菜は緑玉菜とか、この世界の野菜の名前がそのまま聞こえてきて、同一の場合には翻訳されてくるみたいだ。

 ただ玉葱なんだけど、やたら大きい。

 まあ、味は大味では無いので良いんだけど、切った際の刺激も多いのがタマネギ……、いやタマにキズだった。


 玉葱もサラダで食されるのがメインで、後はスープの具材らしい。

 オニオン・スライスも塩を振りかけて食うと美味いよな。

 それにオニオン・スープも俺は好きだ。

 だが、やっぱり一番好きなのは野菜炒めかな。

 取り敢えず、これに萌やしを加えて炒めてやれば野菜炒めが出来上がる。

 そして、エルフ美女へ食わせてやる料理も大丈夫だ。


 俺としては、同時に豚バラ肉も一緒に炒めたいところだが、それはベジタリアンのエルフ美女に嫌われてしまう。

 いや、別に好きになって欲しいからじゃないぞ。

 レイがニヤニヤしているけど無視だ、無視。

 どうせならば、あの無表情なエルフ美女に笑顔を見せて欲しいだけだよ。

 正直、あの高級宿の美味いパンだって、牛乳とバターが小麦粉に練り込んで有り、それを焼いているからベジタリアンには食えないだろう。

 むしろ、市場で売られている硬い黒パンの方が良いのかもしれないな。


 具材の野菜は揃ったので、予め下ごしらえをしておく。

 一応、5食分くらいを目安に用意したけど、残りは仲間内での試食用だな。

 もちろん、仲間内での試食では豚バラ肉も一緒に調理する。

 最初に美女エルフ用に調理した後、肉を入れた身内用のを調理すれば、肉の匂いも移らないしな。

 特に、ポチットには肉を多めに入れてやろう。


 この料理、大量に屋台の鉄板焼きで作るのに向いているんだけど、肉の量にバラツキが出ちまうんだよ。

 まあ、豚バラ肉だからバラツキが出るのも仕方ねぇか。

 俺がガキの頃、地元の祭りで買った時に肉が全く入って無くて酷く悲しかった。

 だから、そんな思いをさせないためにもポチットには肉を沢山入れてやる。

 ……でも、レイには肉少なめにしやろう。

 ニヤニヤして俺を見透かしたお仕置きだ。

 むっ、俺って案外、器の小せぇ男だったか?


 そうこうしている内、餃子屋台組が商いに出かけて行った。

 彼奴らにも、肉抜きの具にした特別ベジタリアン向け餃子を作らせてある。

 ただし、茹でる場合には最初に茹でろとも言っておく。

 他の肉入り通常餃子を茹でた後に茹でると、肉の旨みや匂いが染みこんでしまうからな。

 いつもは餃子の煮汁を回収してきて、孤児院のスープにしていたりする位だ。

 焼き餃子の場合には、フライパンを洗浄してやれば問題は無いだろう。


 さて、俺の方はと言えば、中華麺の下ごしらえに掛かる。

 今回の料理に使う麺は茹でないで調理するんだ。

 地域によっては茹でた麺を使う所もあるらしいが、俺が師匠に習ったのは最も一般的な蒸した中華麺を使う。

 蒸し料理には、蒸し器と言うか蒸籠が本当は必要だ。

 だが蒸籠は、流石に屋台にも積んでねぇし、作ったりもしてねぇ。

 何時かは中華饅頭や点心もやって見たいので、蒸籠も準備しておきたい所だけどな。

 さて、どうしようか……。


 取り敢えずは有る物で調理するしかねぇ。

 先ずは寸胴鍋に水を入れて煮立てる。

 水の量は何時もの半分以下と大分少な目。

 普通は屋台を引いて移動する際に使う寸胴鍋の上蓋だが、水が沸騰するまではしっかりと蓋をする。

 十分に水が沸騰した所で、大量の湯気が発生しているのを確認。


 ここで麺を茹でる際に使用するステンレス製の網を用意。

 5食分なので5個の手持ち網を用意して、それぞれに中華生麺を投入する。

 そして沸騰する湯が煮えたぎる寸胴鍋の縁に手持ちの根本にあるフックを引っかけて寸胴鍋の内部に置く。

 普段は煮え立つお湯に麺が沈み込む状態だが、今回は麺は湯の中には入らない状態だ。

 沸騰する湯から発生する湯気は、網の中に入った中華麺を包み込む。

 この状態で再び寸胴鍋の蓋をする。


 寸胴鍋の中は沸騰する湯から発生する蒸気で充満し、中華麺を蒸し上げるという寸法だ。

 鍋蓋には、蒸気抜きの穴があるので、そこから勢いよく蒸気も噴き出している。

 問題は蒸す時間だが、この辺りは蒸籠を使っての蒸し料理からの経験が頼りだ。

 まあ、ゆで麺と違い蒸す場合には多少、蒸し過ぎでも大丈夫だろう。

 頃合いを見計らって、手持ち笊を引き上げて蒸し具合を指で確認。

 うん、良い具合だけどもう少し蒸した方が良さそうだ。

 やっぱり、専用の蒸し器じゃ無いから加減が難しい。


 その後、程よく蒸された中華麺に、サラダ油を少量塗す。

 これで蒸された麺がくっつき合って玉状になってしまうのを防ぐんだ。

 そして、このサラダ油は炒める際の油にもなるんで一石二鳥となる。

 ただし蒸した直後の熱い中華麺なので、慣れないと手を火傷するぜ。

 だから、手伝おうとしたポチットにも見ているだけにしろと止めたよ。

 料理人の手の皮は、多少の熱さには耐性があるからな。

 それこそ、修行のたまものと言う訳さ。


 ふふふ、俺に触ると火傷するぜ……一度は言ってみたいものだ。

 ニヤニヤする俺を見てレイが呟く。


「ご主人さま、何が可笑しいのでしょうか? 一人笑いは気持ち悪いですよ」

「くっ。いや、ちょっと思いだし笑いだ。気にするな……」

「……どうせ、美人エルフさんの笑顔でも想像してたんでしょう……ふ~っ」

(くそ! 図星じゃねぇけど、遠からずの指摘だ}

「ち、違うぞ! レイ、そんなんじゃねぇ」

「そうでしたか、それは失礼しました。それで、中華麺の準備は出来たのですね。蒸した中華麺って、こんな風になるのですね」

「そ、そうだ。まあ、このままでも食えるけど、更に調理するんだ。お前達にも食わせてやるから、楽しみにしておけ」

「はい。中華麺の料理ならきっと美味しいに決まっています」

「ああ、美味いぞ。ポチットもな」

「は、はい。ご主人さまのお作りになる料理は、あたし全て大好きです!」


 うん、やっぱりポチットは素直で可愛い。

 尻尾がブンブンと左右に激しく振られている。

 嬉しさを尻尾でも表現するって可愛いよ。

 いくらポーカーフェースをしても、尻尾で感情が判っちまうからな。


 そうこうしている内、営業開始時間が近づいて来た。

 今夜のエルフ向け特別料理の具材だけを籠に入れ、いつもの営業場所へと向かう。

 籠はポチットが軽々と肩に乗せて運んでくれている。

 本当に獣人族って体力的に優れているんだけど、ポチットはそれにも増して働き者だ。

 歓楽街の賑わう道から高級宿の入り口へ向かう公園のような広場。

 既にポテト屋台と餃子屋台が営業中で客も多い。


 ポテト屋台チームは、俺達と入れ替わりに店じまいだ。

 おや、餃子屋台の前に設置してある簡易テーブルと椅子に、あの美人エルフさんが既に居るではないか。

 どうやら餃子屋台で、肉に抜き餃子を注文して食べているようだ。

 水餃子ではなく、焼き餃子を注文したみたいだな。

 更に、ポテト・フライもテーブルの上に置いてある。

 あのスレンダーな身体で凄い食欲だよ。


「こんばんは、肉抜き餃子はどうだい?」

「うむ、店主がわたしのために肉を抜いてくれたと聞く。感謝だ。そして……」

「そして?」

「美味い。このギョーザと言い、芋の揚げた料理も美味い」

「そりゃ良かった。で、昨晩約束した麺料理だけど食うか?」

「無論だ。そのために待っていたのだ。今日は昼食も食べる事が出来ず、腹が空いているので早く頼む」

「昼飯抜きかよ、そりゃ腹も減るな。あいよ、直ぐ作るから、ちょと待ってくれ」

「大丈夫だ。このギョーザが、想像以上に美味いからな。追加を頼んだところだ」

「追加を……。そ、そうかい。で、麺料理も食うのか? エルフって大食いなのかい?」

「そうかもしれんな。特に人族の街では食する物が制限されるから」

「ああ、成る程。ほんじゃ、直ぐ作るよ」


 大食漢のエルフ美女。

 あれだけ食ってもスレンダーで太らないなんて、元の世界の女ども聞かせたら、どんな顔するやら。

 そんな事を考えながら、ちゃっちゃと準備をする。

 湯沸かしやスープを温める必要も無いので、コンロに火を入れ中華鍋を温め始めた。

 十分に中華鍋が熱くなったらサラダ油を少し垂らして野菜を炒め始める。

 使う野菜は仕込んで来たキャベツもどきの緑玉菜のざく切り、玉葱のざく切り、人参の千切り、そして萌やしだ。

 十分に火が通ったら、塩と胡椒で味付けをする。


 本来なら、ここで豚バラ肉も炒めるのだが今回は抜きだ。

 蒸して油を塗した中華麺を解しながら投入し、炒めた野菜と一緒に炒める。

 そして最後にウースター・ソースを加えて十分に中華麺と絡むまで炒め続ける。

 この時、野菜に味付けした塩と胡椒が中華麺にも絡む。

 十分に具材の野菜と中華麺にソースが絡んだら出来上がりだ。


「へい、お待ち! ソース焼きそばだ。食ってみてくれ」

「確かに昨晩のソースの匂いだ。それにしても香ばしい香りだな」

「おお、熱いから気をつけてな。辛いのが好みなら、これを好きなだけ振りかけてくれ」

「こ、これは……胡椒か?」

「ああ、そうだ。既に焼きそばにも使ってあるが、好みでな」

「……そ、そうか。ではいただく。……これは……美味い! 美味いぞ、店主!」

「気に入って貰えて、良かったよ、エルフさん」

「このソースの香ばしさ、野菜の美味さ、そしてソースの絡んだ麺。こんな麺料理は生まれてから今まで食べた事が無い!」

「そこまで言ってもらえるとは、有り難うよ。もう一食分作ってあるけど、お代わりいるか?」

「無論だ、店主。ちょうど追加のギョーザも来た。直ぐにソース・ヤキソバも追加をくれ!」

「あいよ! 二人前作って良かったよ。そうかい、生まれてから一番美味いとはな。……エルフさん、あんた幾つになるんだい?」

「わたしか? まだ若輩者で、やっと成人したばかりの200歳だが」

「に、二百歳だと?」

「そうだ。われらエルフは部族によっても違うが、わたしの部族は1000歳まで生きるのが当たり前だ」

「せ、千歳……鶴かよ!」


 くっ……。

 レイが笑いを堪えて苦しそうな顔をしてやがる。

 ポチットは、かわいらしく首を傾けて俺を見てた。

 二百歳のエルフ美女は満腹になり、明日の晩も来ると言い残して高級宿へ引き上げていく。

 俺は少しだけ沈んだ気持ちで、残ったソース焼きそばの食材に加えて豚バラ肉を使い夕食のソース焼きそばを作り始める。

 畜生……レイには肉一欠片にしてやるぜ。

 例え器が小せぇ奴だと言われてもな。

 ポチットにはレイの分も加えて肉たっぷりのソース焼きそばだ。






本年は拙作をお読みいただき有り難うございました。

来年も宜しくお願いします。

読者の皆さん、良いお年を!

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