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異世界屋台 ~精霊軒繁盛記~  作者: 舳江爽快
第二章 営業 編
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2-7 排骨麺

 新たにメニューへ加わった味噌ラーメンは大好評だ。

 特にまだ寒い夜が続いているので、身体が暖まる味噌味は受けたのかもしれない。

 それより何より、味噌味と言う王都の住人が知らない調味料が使われているため、新鮮だったのだろう。

 そして、醤油味と似た風味の味噌味だからかも知れない。

 何れ塩味を追加すれば、ラーメンのバリエーションは完成するが、まだ塩味は追加するのは先の事だ。

 と言うのは、俺自身が塩ラーメンは満足する味にはほど遠いからと言う、個人的な事項なのだが……。


 この世界で手に入る塩は殆どが岩塩で、海から取れる塩は流通が少ない。

 しかも市場で手に入る海塩は高価だ。

 岩塩でも良いのだが、やはり塩ラーメンは味が淡泊なので塩に拘りたい。

 肉料理には岩塩の方が適していると言う話も聞くけど、正直なところ俺には良く判らないんだよ。

 塩ラーメンを試作してみたけど、どうもしっくり来ないから、まだ研究が足りない状況だ。

 ポチットは試作の塩ラーメンも「お、美味しいです。ご主人さま」と言うが、レイの評価は芳しくなかった。


 この異世界では塩味が濃い方が高評価なので、なんとも微妙だ。

 スープなども塩味がベースなので、俺にしてみるとしょっぱ過ぎる位の味が美味しいと言う評価に繋がる。

 なので、醤油ベースのラーメンも元の世界の味付けよりも濃いめにして提供している始末だ。

 当然ながら味噌ラーメンも、味が濃いめにアレンジしている。

 かと言って、塩だけのスープは評判が悪く、野菜や肉の出汁がしっかりとしてないと評価は低いけどな。

 まあ、味付けの微妙な(さじ)加減が、料理人の技なんだけど。


「キー様、このミソ味のスープは、とても美味しいスープですわね」

「そうかい。フェアも味噌が気に入ってくれたなら良かったよ」

「はい、なんと言ってよいのでしょうか? 安心する味と言うのでしょうか……」

「ああ、俺の居た国じゃ、この味噌汁で朝が始まるし、夕食もこの一杯で家に帰ってきたって感じるんだよ」

「何となく判ります。そしてお野菜にも良く合いますわ。美味しいです」

「まあ、パンよりも白米に合うんだけど、パンでもそれなりだな」

「お米ですが、出入りの商人にキー様が市場に選んで頂いたお米が間もなく入荷しますわ」

「そりゃ良かった。子供達にも白いご飯と味噌汁の朝飯を食わせられるな」

「はい。お米にも、色々な調理法が有るとは存じませんでしたので、宿の料理人達も驚いておりましたわ。特に、あのオカユというお米の濃いスープは、トウモロコシのスープに匹敵すると評判でした」

「うん、コーンスープも美味いけど、お粥も良いな。俺の生まれた国だとお粥は病人食ってイメージなんだけどさ。隣の国ではお粥が朝飯の定番だったんだ」

「病人食? 確かに栄養が有りそうですし、飲むだけなので食しやすいですわね」

「そうだよ。塩でも美味いけど、味噌と合わせて良いし、醤油でも行ける。なにしろ消化が良いから、胃袋にも優しいんだぜ」

「子供達も喜んでおります。パンよりも好きな子が多い位でしわ」

「そりゃ、何よりだ。飼ってる鳥……ありゃ、(にわとり)じゃ無さそうだけど、あの鳥の生み立ての卵をお粥にそのまま落として、醤油を少し垂らして食うと最高に美味いんだよ。今度やってみな」

「生で卵を食べるのですか? ……冗談では無くてですか?」

「ああ、マジだよ。但し、生み立ての卵じゃねぇと駄目だ。お粥じゃなくて、普通に炊いた飯でも美味いぜ。この間、ガキ共が持って来てくれたんだけど、最高に美味かったな」

「キー様がそう仰るなら、大丈夫なのでしょうが……。試すには勇気がいりますわ」

「生で食う習慣がねぇと、そうなんだろうな。ポチット、あの卵掛けご飯は、どうだった?」

「は、はい。ご主人さまに言われたので無ければ、絶対に食べませんでした。で、でも頂いてみたらとっても美味しくて、また食べたいです」

「そうか、そうか。と言う訳だよ、フェア。騙されたと思って食ってみろよ」

「はい。今度頂いてみますわ。なんだか、楽しみになってしまいます。本当にキー様は不思議な料理の知識をお持ちですわね」

「ははははは、まあ国が違えば食文化も違うってだけさ」


 我が家の朝飯は遅い。

 当然ながら深夜までラーメン屋台を営んでいるので、朝は遅いんだ。

 そんな遅い朝飯時にフェアが訪れたので、我が家の朝飯を一緒に食っていると言う訳だ。

 味噌が樽で手に入ったので、朝は味噌汁だ。

 出汁は、市場で手に入れた乾燥昆布と乾燥海老などで取っている。

 市場のおばさんによると、この乾燥海老は海では無くて来たにある湖で取れる淡水海老だそうだ。

 でも、出汁はしっかりと出るので、良い塩梅な感じだな。


 今朝は飯が無かったので、パンだけど野菜たっぷりの味噌汁には、パンでも行ける。

 フェアは朝飯は済ませて来たと言うので味噌汁だけを飲んでいるって状況だ。

 飯が余っていれば、卵かけご飯も試せたんだけど、それが出来なくて残念だった。

 そして今日の昼飯は、朝飯と一緒に仕込みが終わったので、フェアも誘ってみる。

 フェアは心底、嬉しそうな表情で笑い「是非、頂きますわ」と承諾した。

 そして、素材の仕込みは、ガキ共も一緒にやらせた。

 この料理が、ガキ共の新たな屋台の売り物になるかもしれねぇからな。

 当然、料理の時もガキ共に同席させて調理を覚えさせる。


 今日の昼は、ポチットへ約束した骨付き肉の料理、排骨(パーコー)だ。

 使う肉は、豚の骨付き(あばら)肉で洒落た呼び名だとスペアリブ。

 この部位は、そのままステーキにしても美味いからリブステーキにする事も多い。

 特にバーベキューでは、骨付きのまま焼いて豪快にかぶりつくのが美味いよな。

 そして、この部位を中華風の唐揚げにしたのが排骨と呼ばれ、飯に乗せれば排骨飯となり、醤油味の中華そばに乗せてやれば排骨麺となるのだ。


 作り方は鶏の唐揚げと同じで、下味を付けてから小麦粉の衣を着けて揚げる。

 食べ易さから、骨を取り除いて調理する場合も多いが、今回はポチットの希望だから骨付きだ。

 下味は、塩、砂糖、酒で行うけど、本場中国では五香粉と言う香辛料も使うが、今回はカレー粉で代用だ。

 カレー粉は屋台に積んであった赤い小さな缶に入ったお馴染みの品。

 自分専用にカレー・ラーメンを食べる時に使っていた代物だ。


 それらの調味料をしっかりと豚肋肉に揉み込み馴染ませて、暫く漬け込んで置く。

 そして小麦粉の衣を付けるのだけど、それは溶き卵に肋肉を付けて衣がしっかりと付くようにする。

 そして衣となる小麦粉をまんべんなく付け、後は油で揚げるだけだ。

 本当ならばラードで揚げたいところだが、ここはポテト屋台で使っている植物油で揚げる。

 こんがりと衣が狐色に揚がれば排骨の出来上がりだ。

 油をしっかりと切ってから、同時進行で茹でていたラーメンを丼に入れ、その上に排骨をトッピング。

 これでパーコー麺の完成だ。


「さあ、出来上がったぞ。食え、食え」

「頂きますわ……美味しそうなお肉です」

「これが排骨麺と言うのですか……。中華そばと唐揚げ肉なのですね。頂きます」

「ご、ご主人さま。あたしのだけお肉が二つ乗ってますが……」

「おお、ポチットの希望だったからな、育ち盛りは沢山食え」

「あ、ありがとうございます。では、頂きます。あ、熱い……美味しい!」

「キー様、本当に美味しいお肉ですわ。これが安価な豚の肋肉とは信じられません」

「ご主人さま、焼き豚も美味しいですけど、この排骨も香ばしくて美味しいです。レイも大好きになりました」

「そうか、そうか。お前らはどうだ? パオ、ビー、ワン?」

「「「師匠、この骨付き肉は美味いです!」」」

「これなら、ポテトフライと一緒に売れば絶対に行列ですよ」

「そうか、それなら、試験的に売ってみるか」

「「「是非、そうしましょう、師匠!」」」

「今は揚げたてだったけど、作り置きしておいてラーメンに乗せれば排骨麺もメニューに入れられるしな」

「「「「はいっ!」」」」


 おや?

 ポチットの声が聞こえないと思ったら、バリバリと骨を骨を砕く音がポチットから聞こえてくる。

 凄げぇなポチット。

 マジで骨をバリバリと歯でかみ砕いて食っているぞ。

 本当に骨付き肉が大好物だったんだな。

 嬉しそうに、そして美味しそうに排骨を食べるポチット達を眺めながら、俺も久々の排骨麺を食い続けるのだった。






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