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異世界屋台 ~精霊軒繁盛記~  作者: 舳江爽快
第二章 営業 編
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2-6 味噌ラーメン

「味噌だな」

「おお、キー様。やはりご存じでしたか。港湾都市の商人もミソと申して居りましたぞ」

「もちろん知っているさ。この調味料は日本人……いやアズマ国の基本調味料だからな。しかも、この味噌は熟成もしっかりしていて美味くて上等な品だ」

「そうですか、そうですか。いや、やはりキー様にお尋ねして正解でした。……実は、王都の料理人達にも見せたり味見をさせたのですが、どうも評判が良くなくて売れなかったと港湾都市の商人が申しておりました」

「そうかい。まあ見た目が良くねぇってのも有るだろうけどな」

「はい、その見た目は、私めも初めて見た際は、顔をしかめてしまいました」

「だろうな。俺の国では糞味噌と言う言葉も有るくらいだからな」

「やはり……。いや、しかし、私めも味見したのですが、みためとは違い芳醇な味がしたので、料理さえ知っていればと思った次第です」

「ああ、そのとおりだ。しかも、この味噌は栄養価も高くて、最高の調味料なんだよ。レゾナの旦那、これ売れ先が決まってなければ、俺に売ってくれないか?」

「えっ、キー様がお買い下さるのですか?」

「ああ、売ってくれよ。そろそろ恋しくなってきてたんだ、味噌汁がな」

「もちろん構いません。その壺のミソは、見本ですので無料で差し上げます。実は港湾都市の商人は、大きな樽で売りに来たので、それを私めが買い付けました」

「へえ、樽で有るのか。良し! 樽であるなら樽ごと買うよ。幾らだ?」

「他ならぬキー様がお買い上げ下さるならば……。私めが港湾都市の商人から買い付けた価格で……」

「いや、ちゃんとレゾナの旦那も儲けろよ。それが商人だろう?」

「有り難いお言葉、傷み入ります。買い付けた価格は、金貨3枚でございましたから、金貨4枚で如何でしょうか?」

「ああ、それで構わねぇよ。そんじゃ、今支払おうか?」

「いえいえ、樽をキー様のご自宅まで運んだ際で結構でございます。おい、バイソン、後でキー様のご自宅まで届けて差し上げろ」

「はい、レゾナ様。では、直ちに手配いたします」

「悪いな、バイソン。そんじゃ、後で届けてくれ。この壺のは早速使わせて貰うな」

「はい、どんな料理が出来るのか、私めも楽しみでございます」

「そうだよな。そんじゃ、試食してみるか?」

「よ、良いのでございますか?」

「ああ、こんな見た目の調味料が、凄く美味いのを知ってくれ。出来れば定期的に買い付けしたいんだが、出来るかい?」

「もちろんでございます。港湾都市の商人は、まだ王都に滞在中でございますので、そのように伝えましょう。きっと大喜びでしょうな」

「それは助かるな。……味噌が有るって事は醤油もあるのかな? その商人は他の調味料の話はしてなかったか?」

「ショーユ、それは全て売れてしまったそうです。ひょっとすると、そのショーユと言うのは……」

「流石レゾナの旦那、気がついたか。そうざ、俺のラーメンのスープに使っている調味料だよ」

「やはりそうでしたか。残念ながらショーユは、全て他の商人や料理人に売れてしまった模様です」

「そうか、そりゃ残念。次回は、俺にも売ってくれるように頼んでくれよ」

「畏まりました。実は、胡椒の話も出たのですが、その商人は知らなかったので落胆してしまったのでございますよ」

「胡椒か……。そろそろ、次の胡椒が必要か?」

「えっ! 売っていただけるのですか?」

「ああ、いいよ。味噌を売ってくれた礼だ。一缶で良ければ、売るぞ」

「ぜ、是非、お願いいたします!」

「よし、そんじゃ物々交換って事にしねぇか? 胡椒を一缶やるから、代金に見合う分の味噌と、次回からの味噌と醤油の代金をチャラにしてくれねぇか?」

「それは願っても無い事、本当に宜しいのでしょうか?」

「ああ、お互いにその方が都合が良いなら、そうしよう。そんじゃ、味噌樽を届けてけてくれた時に胡椒を一缶渡すな」

「あ、有り難うございます、キー様!」


 思わぬルートで味噌が手に入った。

 しかも、樽で手に入れる事が出来たので、商売にも安定して使える。

 胡椒との物々交換にしたので、懐も全く痛まねぇ。

 何たって胡椒は、大量に備蓄してあるからな。

 家の地下室には、これまでの屋台に積んであった胡椒や他の調味料を貯えてあるんだ。

 本当は、胡椒をもっとレゾナに渡しても良いのだが、価値が下がっちまうから、そんな事は出来ねぇ。


 地下室に貯えてある調味料は、俺とレイ、ポチットだけの秘密だ。

 そもそも、あの家に地下室があったのも、住み始めた当初は気がつかなかったんだけど、ポチットが家の掃除をしていた時に見つけ。

 地下室への扉も、隠し扉のようになっていて、どうも前の住人が秘密の部屋として使っていたらしい。

 あまり風通しが良くねぇ部屋だけど、缶入りの胡椒やビン入りの酒、それに缶ビールなんかを仕舞い込んで置くには最適な地下室だ。


 ラーメン屋台から外した蛍光灯型LEDとバッテリーを設置したので、照明も不要だ。

 本当は、ソーラーパネルから充電もしたいんだけど、そんなに長い電線が手に入らねぇ。

 銅線は手に入るんだけど、絶縁用の被覆がねぇからショートしたらヤバイ。

 まあ、換えのバッテリーは大量にあるから、バッテリーが切れたら交換すれば済むしな。

 大量の胡椒が貯えて有るのを見つかったら、それこそ命に関わりそうなので、この地下室は有り難い。

 ポチットの大手柄だよな。


 レゾナとバイソンとは、商業ギルドの前で別れて俺達は家路を急ぐ。

 夕食は、パーコー麺と牛肉麺作ってみようと思っていたが、味噌が手に入ったので別メニューだ。

 帰路の道すがら、レイとポチットには牛肉麺とパーコー麺は明日にすると話すと、二人とも快く承諾してくれる。


「ご主人さま、味噌が手に入ったとなると、やっぱり味噌を使った麺でしょうか?」

「ああ、そうだとも、レイは、味噌味は嫌いだったのか?」

「いいえ、味噌は知っていますけど、実は食べた事が無いのです」

「そうなんか……。まあ、そうだろうなあ、夢の中じゃ食えねぇもんな」

「……それを言っては、お終いです」

「おっと、悪かった。まあ味噌もいいぞ、萌やしもあるしな」

「楽しみです。醤油も良いですけど、味噌も食べてみたいです」

「ポチットは、もちろん初めてだよな?」

「は、はい、ご主人さま。その壺の中から、とっても良い匂いがします」

「そうだろ、そうだろ。この匂いが味噌の匂いだ。良く覚えておいてくれ。若い味噌だと、これほど良い匂いはしねぇんだ」

「そ、そうなのですか?」

「そうだぞ。熟成するには月日が必要なんだよ。まあ、長けりゃ良いって話でもねぇんだけどな」

「は、はい、あたしも楽しみです。この良い匂いのミソでしたか、不味いはずがありません」

「そうだぞ。絶対に好きになるさ」


 以前飼って居た犬は、良く味噌汁をご飯に混ぜて食べさせていたけど、これは犬には良くないって知ったのは、ずっと後の事だ。

 何でも塩分を取りすぎてしまうのだとか。

 それでも、好きだったよな、ポチは……味噌汁をぶっ掛けた飯が。

 まあ、犬と犬人族は違うから、塩分過多なんてのは無い……のだろう、多分。

 兎に角これで毎朝、朝飯に味噌汁が飲める。

 やっと日本人らしい朝食が食えるようになるんだ。


 家に着いた頃には、既に日が沈みかけている。

 そろそろ、ポテト屋台組が屋台を仕舞う時間だ。

 俺達も夕飯を食って、屋台を開く時間だな。

 俺達よりも早く屋台を出す餃子組は、夕飯もそこそこに屋台を引いて営業に出かける。

 ガキ共にも味噌味を食わせてやりたかったが、商売優先だ。

 彼奴らもその辺は良く判っていて「師匠、行ってきます!」と言って笑顔で出かけて行った。


 ラーメン屋台を家の前でレイに収納から出して貰う。

 直ぐに営業形態へ変形させて、寸胴鍋のコンロに火を入れて準備だ

 そうこうしていると、レゾナとバイソンが家にやってくる。

 バイソンは、大きな味噌樽を手押し車に乗せて来た。

 味噌の入った樽は、王都で良く見かける西洋風の樽ではなく正真正銘の日本風味噌樽だ。

 ようし準備完了。

 俺は洗った大量の萌やしと豚挽肉を、中華鍋で炒め始めた。


 味噌(・・)ラーメンの作り方には、大きく分けると二種類ある。

 一つは、予め味噌とスープを混ぜておき、そこへ茹でた麺と炒めた萌やし類をトッピングする方法。

 もう一つは、茹でた麺だけを丼へ入れておき、そこへ炒めた萌やしや肉をスープと味噌で少し煮込み、それを丼へ移す。

 俺が作っているのは、後者の味噌ラーメンだ。

 北海道の札幌で中華屋の親父さんが作るのを見て覚えた。

 本当は、味噌も合わせ味噌にしたり、他の出汁を入れたりするんだが、今回は試作なので味噌はそのまま使う。


 熟成した味噌ならば、俺のスープだけでも十分に味が出るはずだ。

 茹で上がった麺の湯切りをして丼に移す。

 そして炒めて少し煮込んだ萌やしと挽肉を、その麺に上に注ぐ。

 味噌と俺のスープが混ざり合って、これでもかと言う食欲をそそる匂いが堪らねぇ。

 最後に薬味の葱をいつもよりも大きく切って、多めに乗せて完成だ。


「あいよ、お待ち。味噌ラーメンだ、みんな熱いうちに食ってくれ」

「何時もと違った香りですな。では頂きます……。こ、これは! こんな濃厚な味とは……美味いですぞ! キー様」

「そりゃ、良かった。どうだ、レイ? 味噌ラーメンの味は?」

「美味しいです、ご主人さま。萌やしと味噌味がこんなに合うなんて……」

「おう、味噌ラーメンの萌やしは最高だよな。ポチット、美味いか?」

「は、はい、ご主人さま。とっても味が濃くて美味しいです。もう少し、お肉が多いともっと嬉しいかも……」

「そ、そうだったな。肉好きには、ちょっと肉が少なかったな。よし、肉はもっと多めにしよう」

「も、申し訳ありませんでした。そ、そんな意味では……」

「いや、いいんだ、正直に言ってもらった方が助かる。バイソンは、どうだ?」

「美味いです、キー様。私も、もう少し肉が多い方が……」

「そうだよな、判った。本当は、バターがあればそれを乗せると、もっと美味くなるんだけどな」

「バターなら、手前共で扱っておりますぞ。今度お持ちしましょう」

「おお、そりゃ、有り難てぇ。頼むよ、レゾナの旦那」


 俺も自分の分の味噌ラーメンを食ってみる。

 うん、この味噌は本物だ。

 俺のスープとも全く喧嘩してねぇ。

 よし、たっぷりと味噌や萌やしもある事だし、さっそく今夜の営業から味噌ラーメンをメニューに加えてやろう。

 バターのトッピングはオプションにしてやる。

 こうして、俺達のラーメン屋台に新たなメニューとして、味噌ラーメンが加わったのだった。







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