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異世界屋台 ~精霊軒繁盛記~  作者: 舳江爽快
第二章 営業 編
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2-5 市場にて

 生碼麺(サンマーめん)が裏メニューに加わってから、数日間で仕入れすぎた白菜は無事に在庫が消化出来た。

 日本と違って、この世界では野菜に旬がある。

 つまり季節によって取れる野菜が異なるのだ。

 まぁ、昔は日本もそうだったんだけど、温室栽培が普及したので、年がら年中同じ野菜が手に入るようになった。

 しかし、この世界では残念ながら自然栽培だけなんで、そうは行かねぇ。

 夏場になれば白菜は入手出来なくなっちまう。

 そうなると、餃子に使う別の野菜を探さなきゃ、折角軌道にのった餃子屋台が営業できなくなる。


 その前に、市場の野菜を調べて代替えの野菜を探す必要がある訳だ。

 そんな訳で、今日は市場へ餃子屋台のガキ共を連れて、白菜の代わりになりそうな野菜を探している。


「師匠、この緑菜玉は春から夏の前まで出回ります」

「ふーん、パオは食った事があるか?」

「有りますが、生で食べるのが一般的です」

「そうか、ポチットは知っているか?」

「は、はい、ご主人さま。食感は白菜よりも硬いのですが、甘みはこの緑菜玉の方が濃いと思います」

「そうか、キャベツに姿は似ては居るけど、こんなに青いとなぁ……。まぁ、試してみるか」

「ご、ご主人さま。青では無く緑だと思うのですが?」

「ああ、わりぃ、わりぃ。俺の国では野菜の緑を青って表現するんで、緑色の葉の野菜を青菜て言うんだよ」

「そ、そうなのですか。白菜は、確かに白い部分が多かったですけど、薄緑の部分もありますね」

「そうだな。で、この緑菜玉だけど、白菜より小さいな」

「夏になると、もっと大きく成ります」

「へぇ、大きくなるのは良いな。孤児院でも栽培しているんか?」

「してます。春先から夏場にかけては、これがサラダの主役です」

「パオは好きか?」

「……あまり好きでは有りません……白菜も好きでは有りませんでしたが、師匠のギョーザやサンマー麺を食べてから好きになりました」

「野菜は生で食うと癖があるからな。ちゃんと料理してやれば美味いんだ」

「はい。それでは、この緑菜玉を試してみましょうか?」

「そうだな、適当な数量買って試してみるか。価格も安いしな」

「判りました、師匠。ビーとワン、大きさの違う緑菜玉を適当に選んで買ってちょうだい」

「「はいよ、パオ姉」」


 白菜の代替えになりそうな野菜を数種類選んで、試してみる事にする。

 それと、何時も使う野菜類を大量に買い付けだ。

 まだ白菜は出回っているので、それを大量に買う。

 既に市場の野菜売り場でも、俺達の顔を覚えてくれたようで、野菜売りのおばさんや親父さんが、笑顔で迎えてくれるようになった。

 ラーメン屋台を改造した荷車のリヤカーの荷台へ買った野菜を積み込んで行く。

 もちろん、電動アシストは残してある。


 屋台の改造というよりも、調理台を外して屋根付きのリヤカーに戻しただけだけどな。

 麻の袋に入った萌やしも数袋を買い付ける。

 この世界でも萌やしは年中取れる野菜だ。

 なにせ、豆と水さえあれば、何処でも発芽するし天候に左右されない。

 この世界では、主に船の中で育てる航海用の野菜として普及したようだ。

 そう言えば、元の世界でも潜水艦の中で栽培できる野菜として、乗員がビタミン不足にならないように萌やしを活用したって話を聞いた事があるな。


「ご主人さま、お肉はどうしましょうか?」

「肉も補充が必要だな。焼き豚用のも買っていこうか、レイは好き嫌いが多いけど、ポチット、豚以外に食いたい肉はあるか?」

「あ、あたしは、お肉なら何でも大丈夫です」

「わたしは、牛肉も好きですよ、ご主人さま」

「牛肉か……。牛肉麺は、確かに美味いな。昔、台湾フェアで食ったのが美味かったな」

「それ、わたしも食べてみたいです。作れますか、ご主人さま?」

「う~ん、レシピが判らねぇんだよ。一度しか食った事ねぇんだ……作ってみるか」

「何事も挑戦ですよ、ご主人さま。その牛肉麺とやら、食べてみたいですよ、わたし」

「そうか、レイの好き嫌いが直るかもしれねぇから、挑戦してみるか……」

「やった! わたしのために牛肉麺、作ってください!」

「判った。ほんじゃ、牛肉も買っていこう。後は確実なので、豚の骨付き肋肉でパーコー麺ってのもあるぞ」

「ほ、骨付きのお肉ですか……。お、美味しそうです」

「ほお、ポチットは骨付きの肉が好きか?」

「は、はい、ご主人さま。骨付き肉は最高のご馳走です。肉を食べ終わった後の骨を囓るのです」

「さ、流石に犬人族だな。よし、ポチットには、パーコー麺を作ってやる。それならレシピも判っているからな」

「あ、有り難うございます! ご主人さま。ほ、本当にご主人さまは、お優しいです……」


 レイはへらへらとにやけて笑っている。

 それに対して、ポチットは涙を流して喜んだ。

 まあ、二人とも良く働いてくれているから、ご褒美だな。

 市場の野菜売り区画から、精肉を販売している区画へ移動し、肉類を調達する。

 スープの出汁を取るのに、鶏ガラなども購入しておく。

 もっとも、ラーメン用のスープは補充する必要は無いのだけど、餃子の屋台でもスープを出そうと思っているので、基本となる鶏ガラ・スープだけは作り方をガキ共に教えてやりたいんだ。


 市場での買い物が済み、俺達は歓楽街へと戻る。

 荷車屋台は、ポチットが引いて、その両脇をビーとワンが押して、後方からパオが押す。

 電動アシストが有るとは言え、やはり四人だと負担も少ない。

 相変わらず、レイは手伝わないが腕力という点では仕方ないな。

 最もそれは、俺にも言える事なんだが……。

 歓楽街の方へ向かって進んで行くと、途中にある商業ギルドの前で懐かしい顔が見えた。


「おお! キー様、良いところで会えました!」

「よお、暫くだなレゾナの旦那。元気そうでなによりだ」

「いやいや、実は先ほどキー様のお宅へ伺いしたのですが、市場へ行かれていると孤児院の子供達が言うので、此処で待っておったのです」

「何だ、俺んちへ来たのか。で、何の用事だい?」

「実は、珍しい調味料が手に入りまして、それをキー様にお尋ねしたくてお伺いしました」

「珍しい調味料? 何だ、それは?」

「はい、私も初めて見る調味料でして、どんな使い方をするのか全く判りませんので……。南の港湾都市イサドイベからの商人が持ち込んだ調味料でして、原産地は何とアズマ国だと言うのです!」

「へぇ、アズマ国の調味料か。それ、今あるのか?」

「はい、珍しいので、有無を言わせず購入しましてしまいました。おい、バイソン、お持ちしてキー様にお見せしろ」

「はい、レゾナ様」


 レゾナの旦那に命じられた従者のバイソンは、商業ギルドの建物へと入って行く。

 少しだけ待っていると、バイソンが商業ギルドの扉から出てくる。

 その手には、小さな焼き物製の壺を持っており、その壺を大事そうに抱えて此方へやって来た。

 そして、その壺をレゾナの旦那に渡す。

 レゾナの旦那は壺を受け取ると、壺に被せてある蓋代わりの布を外し、中身を俺に見せる。

 壺からは、懐かしい芳醇な香りが漂って来た。


 それは、俺の良く知る調味料の香りだ。

 しかも十分に熟成しており、俺の食欲は一気に高まる。

 壺の中身を覗いてみると、俺の良く知る調味料に見えた。


「……レゾナの旦那よ、味見して良いか?」

「もちろんでございますとも、キー様」


 俺は壺の中身へ指を入れ、そしてそれを躊躇する事なく口へ運ぶ。

 くっ!

 俺は懐かしさに思わず眼を閉じてから、指をもう一度しゃぶり直す。

 これは間違い無い。

 この味は、間違いなく俺の良く知る調味料。

 この調味料は、間違いなく日本の味噌だったのだ。







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