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異世界屋台 ~精霊軒繁盛記~  作者: 舳江爽快
第二章 営業 編
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2-2 餃子で乾杯

 屋台3号の餃子は、珍しさも手伝って盛況だった。

 同じ小麦の皮で具を包み込んだ饅頭のような料理は、この世界にも有る。

 しかし、それはパン生地で包み込んだ料理なので、食感が全く違う。

 ラビオリのような料理があるか探したのだが、幸か不幸か無かったのだ。

 餃子のバリエーションは点心に幾らでもあるのだが、蒸し料理は器具を作らなければ成らないので、もう少し先の話になってしまうだろうな。


 そして案の定、仕込んだ餃子が瞬く間に無くなって行く。

 そろそろ、増援部隊がやって来る頃だ。

 実は、先に孤児院へ返したポテト屋台のガキ共に、孤児院の年長組が餃子の追加を作っているので、それを持って来るように言いつけておいた。


「師匠、持ってきました」

「おお、ご苦労さん。丁度、無くなりそうだったんだ。おい、追加の餃子が届いたぞ」

「ありがとうございます、師匠。そっちの屋台は、店仕舞いだったのに悪いな」

「兄貴達の初めてのギョーザ屋台ですからね。お手伝いしますよ」

「助かるよ。まさかこんなに、お客さんが来てくれるなんて思ってもいなかった」

「嬉しい悲鳴ってやつですね、兄貴」

「ああ、本当に嬉しいよ……。へい、お待ちどうさま。焼き餃子です!」


 どうやら、想像以上に客が来てくれて、感激しているようだな。

 ふふふ……、俺はちゃんとこの盛況を予想していたよ。

 だから、孤児院の年長組に予め追加の餃子を仕込むように言ってあったんだ。

 もっとも、今日は初日なので、大盛りサービスをしている事もあって、具材の消費速度が速い事も手伝っているんだけどな。

 追加の餃子が無くなりそうになるまで、ラーメン屋台は出すのを止めておこう。

 初日は完売御礼をガキ共に経験させてやらないとな。


 俺とレイは、ガキ共の餃子屋台を少し離れた場所から見ている。

 ポチットは、「て、手伝ってきます」と言って、餃子屋台を手伝いに行ってしまった。

 本当にポチットは良く働く娘だよ。

 レイはと言うと、「中華そば屋台も早く始めましょう」と言っている。

 まあ、流石に中華そば屋台の精霊だ。

 餃子屋台には無関心のようだ。

 ガキ共が愛情込めて熱心に餃子屋台を運用すれば、ひょっとすると餃子屋台の精霊が生まれるかもな。


 そんな、恐ろしくも馬鹿な事を考えていると、二人の女騎士が近づいて来た。

 もちろん、グロリアとシルビアの危ねぇ女騎士コンビだ。


「よう、今日の仕事は終わりかい?」

「うむ、遅番だったからな。これから夕食を取ってから帰宅するのだ」

「コータ、昨日言っていた新料理とは。この屋台か?」

「ああ、シルビア、そうだとも。食って行けよ、美味いぞ」

「無論だ。そのつもりで此処へ来たのだ。グロリアも良いな」

「当たり前だ。それでコータ、二種類有るようだが?」

「ああ、同じ具材なんだけど、調理方法が違うんだ。両方食っていけよ」

「うむ、ではそうしよう。一皿で腹一杯になるか?」

「今日は初日の大盛りサービスだから二人でそれぞれ一皿づつで大丈夫だと思うけど・・・・・・。足らねぇ時は、俺が何か食わせてやるから心配するな」

「うむ、コータが居れば安心だな」

「それでは、一皿づつ頼むぞ」

「あいよ。おい、二人の騎士様に茹で餃子と焼き餃子を一皿づつだ。もちろん、大盛りでな!」

「はい、師匠。少々お待ち下さい」


 餃子屋台で茹で餃子と焼き餃子を二人で手分けして調理しているのだが、注文が多くて大忙しだ。

 やはり、思ったとおりで焼き餃子の注文が値段の為か少ない。

 これは、調理時間を考えると値段を上げて正解だったようだ。

 茹で餃子の方は、小皿に入れたラー油酢醤油につけて食べる客よりも、小皿からラー油酢醤油を餃子へかけて食べる客の方が圧倒的に多い。

 これは、焼き餃子でも全く同じだ。

 木製のフォークで食べるとなると、これが合理的な食べ方なのかもしれねぇな。


「お、お待たせしました。シルビアさま、グロリアさま」

「おお、ポチット、済まぬな」

「うむ、美味そうな香ばしい匂いだ。早速に頂こうか」


 ポチットが両手に皿を乗せて運んできた茹で餃子と焼き餃子。

 グロリアとシルビアは折り畳み式テーブルに皿が乗せられると同時に、既に手に握った()でタレの皿へ運び、そして口へと運ぶ。

 そうなのだ。

 この1ヶ月の間で、グロリアとシルビアはすっかり箸の使い方をマスターしていた。

 グロリアやシルビアだけではなく、ポチットも問題なく割り箸を上手に使えるようになり、常連客も割り箸愛用者が増えているのだ。


「うむむ、熱! しかし、これは確かに美味いな」

「そうだな、熱々のもっちりとした食感が不思議だ」

「いや、この焼いてある方は、カリとした食感だぞ。いや、反対側はもっちりとしている」

「中の肉の旨みも良いし、野菜のシャキシャキとした歯触りも良い」

「コータ、これは美味いな。何という料理なのだ?」

「気に入ってくれたか、シルビア。餃子と言うんだ。調理の仕方によって茹でたのとか、焼いたのが有る」

「ギョーザか。うーむ、何と言うか、酒が飲みたくなるな、この料理は……」

「はははは……やっぱりか。飲むかい?」

「そうだな、仕事も終わったし、一杯飲んで帰るとするか。グロリアも付き合え」

「良いぞ。あのコータの国の酒……、米で作った酒か?」

「あの米の酒も美味いからな」

「二人とも、飲むなら餃子にピッタリの酒をご馳走するよ」

「なんだと、ギョーザに合う酒があるのか?」

「そうとも、待っててくれ、直ぐに持ってくるからよ」


 俺はガキ共が一心不乱に餃子を茹でたり焼いたりしている屋台の裏へ回る。

 そして、二人のガキ共の間へ潜り込んで、屋台の積んであるクーラー・ボックスの蓋を開けた。

 中には、これまで貯えていた缶ビールがぎっしりと入っている。

 この季節、既に氷は無いが冷たい井戸水で冷やしてある。

 夏場ならもっと冷えていた方が旨いが、今の季節なら井戸水で冷やしただけでも十分だ。

 今日は未だ酒の注文は入っていないが俺達が飲めば、それが呼び水になるだろうな。


「はいよ、お待ちどうさん。ビールだ」

「……この金属の筒の中に酒が入っているのか?」

「そうだ、こうやって開けるんだ」


 プシューと音がして、白い泡が開けたプルトップから噴出した。


「なんと、北方酒か?! いやそれにしては泡の勢いが凄過ぎるな……」

「ああ、北方酒よりも炭酸が強いからな。さあ、飲んでくれ二人とも」

「いただこう。ゴクゴク……。うーむ、旨い。何という喉越しだ」

「ゴクゴク……プハー! やっぱり餃子にはビールだぜ。最高だな」

「私も頂こう。ゴクゴク。旨いな、この刺激は北方酒とは比較にならぬな。プハー!」

「だろう、同じ麦から造られた酒だけど、ビールの方が絶対にうめぇさ。プハー!」

「グロリアもコータも、飲んだ後の吐く息が凄いな。どれ、私も……ゴクゴク……。プハー!」

「そうだ、豪快に飲むのがビールの醍醐味だ。そんでもって、餃子を食うんだ。一個、もらうぞ。うん、やっぱり餃子はビールに限るな!」

「そうなのか、どれ……。むむむ、確かにギョーザとビールは相性抜群だ」

「好みだと思うが、焼いたギョーザの方が合うような気がする」

「いや、シルビア。私は茹でたギョーザの方がビールとの相性は良いと思うぞ」

「どっちも餃子だから、好きずきだ。もっと飲むか?」

「うむ、もう一本頂こう」

「私も欲しい」

「良し判った。おーい、ポチット。騎士様お二人にビールを二本追加してくれ」

「か、畏まりました。直ぐにお持ちします!」


 思った通り、俺と危ねぇ女騎士二人によるビールと餃子による宴会が呼び水となり、客達の殆どがビールを注文し始める。

 あっと言う間にクーラー・ボックスで用意していた缶ビールは無くなり、売り切れとなったのは言うまでもない。

 餃子とビール、何処の世界でも強力タッグなのは間違い無いと言ったところだな。

 二人の危ねぇ女騎士は、しばらくしてから満足した顔で家路へと向かった。

 さあ、俺も缶ビールを一本飲んじまったが、これから営業開始だ。


「レイ、ラーメン屋台を収納から出してくれ」

「はい、ご主人さま、やっとわたし達の出番ですね」

「そうだ、そろそろ餃子も品切れになる頃だからな。ポチット、屋台の支度を始めるぞ」

「は、はい。ご主人さま!」


 ポチットが慣れた手つきで営業形態へと変形させたラーメン屋台のLED照明を点灯させる。

 赤い"中華そば"と黒文字で書かれた提灯にもLED照明が灯った。

 折り畳み式テーブルと椅子も、餃子屋台のと合わせて追加で設置だ。

 今夜からは時間限定で、ラーメン餃子が食えるんだぞ。

 寸胴鍋に入ったスープを温め始め、もう一個の寸胴鍋に水を入れて沸騰するのを待つ。

 既に、となりの餃子屋台から、突然出現したラーメン屋台に移動してきた客の行列もでき始める。


 よーし、お湯もそろそろ湧いたから、営業開始と行こうじゃねぇか。

 俺は屋台に装備されているMP3プレーヤーのスイッチを入れBGMを流した。


「チャララ~ララ♪ ララ~ラララララ~♪」


 さあ、今夜も中華そば屋台、精霊軒の開店だよ。







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