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異世界屋台 ~精霊軒繁盛記~  作者: 舳江爽快
第一章 開業 編
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1-24 謎の男

 俺とレゾナが、"新世界"の店の脇に有る路地で待っていると、やがてフェアとサニーが質素な服に着替えて出てきた。

 とは言え、サニーは如何にも町娘と言った格好だけど、フェアは何処かのお嬢様風だ。

 先ほどまでの、身体の線がハッキリと判るドレス姿も良かったけど、このお嬢様風の姿も良いな。

 それでも、胸の膨らみが隠せる様な服では無いので、この格好でも乳攻撃は出来るだろうから、注意しないと又、攻撃されちまう。


「お待たせしました、キー様」

「いや、ちょっと夜風に当たるのも、酔い覚ましになるんで構わねぇさ。じゃあ、行こうか」

「はい、お供いたします」


 フェアは、そう言って頭を下げる。

 後ろに居たサニーも、ちょこんと頭を下げた。

 レゾナを先頭に、俺とフェア、サニーの順で歩き始める。

 此処から馬車を駐めてある駐車場までは、10分位だろうか。

 途中のレストランから此処までの距離を逆算すると、そんなもんだろうな。


 フェアは、ガウンの様な外套を羽織っているけど、サニーは薄手の上着を着込んでいるだけだ。

 俺は、完全防寒のダウンジャケットなので全く寒くはねぇけど、薄手の上着だけじゃ寒かろうに。


「サニー、そんな薄手の上着だけで寒くねぇのか?」

「はい、私は北方の出身なので、この位の寒さには慣れています」

「へぇ、北の方は、やっぱり今の時期じゃ雪が積もっていたりすんのかい?」

「そうなんです。雪の無い冬は、わたしには少し物足りないのです」

「だろうなあ、王都にゃ雪は降らねぇのか、フェア?」

「滅多に雪は降りません。今年は、特に暖かい冬ですので一度も降っておりませんわ」

「ふーん。俺の居た国じゃ、やっぱり北は雪景色だけど、俺の住んで居た街じゃ、年に一度か二度、降るだけだったから、似たような気候なのかもな」

「アズマ国でも、北方は寒いのですわね。南の方はどうなのでしょう?」

「ああ、南は雪なんて降らねぇよ。下手すりゃ、冬でも泳げる気温さ」

「そうなのですか……。キー様のお料理は、北と南、どちらのお料理なのでしょうか?」

「色々と地域で味が変わるけど、基本的には何処でも食えるな。それぞれの地域の特色があるんだよ。俺も全部食った訳じゃねぇけどな」

「そうですか。そんなお料理を頂けるとは、今夜は良き出会いを女神様がお導きして下さった事に感謝しなければ」

「……まあ、俺も神様には、感謝はしているけどな。もう少し気前の良い神様だったら、もっと感謝したのによ……」

「何か、有ったのございましょうか?」

「いいや、何でもねぇ。おっと、駐車場が見えてきたな。さて、レイとポチットは寝てねぇだろうな」

「馬車で何方か、待たれていたのでしょうか?」

「ああ、俺の商売の相棒と、ひょんな事で今日から面倒見る事になった奴隷だ」

「キー様の、従者の方々でしたか」

「そうだよ。ちょっと待っていてくれ。レゾナの旦那、バイソンも馬車の中かな?」

「いいえ、御者台に乗って待っていると思いますが」

「そんじゃ、悪りぃけど呼んで来て貰えるかい?」

「はい、畏まりました。少し、此処でお待ち下さい」


 レゾナに馬車で待機中のレイとポチットを呼びに行ってもらう。

 正直、俺にはどの馬車も同じ様に見えちまって、レゾナの馬車がどれなのか全く判らねぇんだ。

 しかも、もう暗くなっていて余計にどの馬車だかも判らねぇ。

 辛うじて、駐車場の入り口付近だけは篝火(かがりび)が焚かれているけど、駐車場の中には灯りもねぇしな。

 そんな状況で、駐車場の入り口に焚かれている篝火の方を見ると、大きな身体をした男が此方を(うかが)っていた。

 何だよ、暗がりを窺う男なんて、ろくな野郎じゃねぇぞ。

 俺は、駐車場入り口の方を注意しながらレゾナの戻って来るのを待った。


「お待たせしましたな。キー様」

「ご主人様、どうなさったのでしょうか?」

「ご、ご主人さま、お帰りなさいませ」

「悪りぃな。急に屋台でラーメンの試食会をやる事になったんだ」

「今から試食会ですか……。ご主人様、美人さんに頼まれて断り切れなかったのでしょうか?」

「バカ言え。この人は、大事な客なんだ。べ、別に美人だからじゃねぇぞ」

「美人さんという点は、否定しないのですね」

「……レイ。お前、一言余計だ。さっさと、屋台を収納から出してくれ」

「はい。此処で宜しいでしょうか?」

「フェア、屋台を出して調理する場所は、此処で大丈夫かな?」

「はい、もう少し端の方が宜しいかと存じます。此処だと、馬車の出入りのお邪魔になってしまいますわ」

「そうだな。そんじゃ、レイ、あっちの端っこの方へ行ってから出そう」

「はい。美人さんは、フェアさんと言うのですね」

「そうだ……。青い髪の方がフェアで、金髪の方がサニーだ」

「短時間で、二人も美人を捕まえてくるとは、ご主人様も手が早いのですね」

「ち、違うって。本当に、お前は余計な口をたたくな。少し黙ってろよ」

「はい……」

「おほほほほ……。面白い従者さんですね。レイさんと言われましたか。私はフェアと申します。以後、よしなに願います」

「はい、フェア様。コータ様と一緒に中華そば屋台を商っております、レイと申します。宜しくお願いします。一緒に居るのはポチットです」

「フェ、フェア様。キー様の奴隷でポチットと言います。よ、宜しくです」

「あたしは、サニーと言います。レイさん、ポチットさん宜しくね」


 駐車場の脇へ歩いて行きながら、レイとポチット、そしてフェアとサニーが自己紹介をしている。

 更に少し遅れて、バイソンも無言で後を付いてくるが、相変わらず無口だな。

 そして、駐車場の端まで来たのでレイが収納から、ラーメン屋台を呼び出す。

 何度見ても、不思議な収納機能だけど、フェアを初めとする全員は、驚きもしねぇ。

 いや、ポチットだけは少しだけ驚いているな。

 田舎には、収納鞄を持っている住人が居なかったのかもしれねぇからか。


 俺は早速、移動形態のラーメン屋台を、商売形態へと手動で変形させて行く。

 そして、メイン・スイッチをオンにして蛍光灯型LEDを灯すと、今度はフェアやサニーも驚きの表情をした。

 ふはははは……。うんと驚くが良い、これが文明の光だぞ。

 中華そばと書かれた赤い提灯のLEDも灯し、用意は万全だ。


「その長椅子に掛けてくれ。これから湯を沸かすんで、少し待ってくれよ。そうだ、フェア、レゾナ、米の酒、飲んでみるかい?」

「是非、頂きますわ。温めたお酒でしたかしら?」

「ああ、温めてもいけるけど、まだ湯が沸いてねぇから、取り敢えず冷酒で飲んでくれ」

「はい。いただきますわ」

「私めも、お願いします。いや、楽しみですな」

「はいよ、そんじゃ、用意するわ」


 俺は、屋台の中にある一升瓶を取り出し、プラスチック製のコップへ注ぐ。

 安酒だけど、辛口で結構、俺の好きな日本酒の銘柄だ。

 酒の肴には、焼き豚とメンマを皿に盛りつけて、二人へ差し出す。

 そして、スープと水を満たしたズンドー鍋のコンロに点火した。


「さあ、飲んでみてくれ。小皿のは、酒の(さかな)だけど、これはラーメンの具なんだよ」

「この具は、美味しかったですな。いや、また食せるとは、しかも米の酒とは、興味津々ですな」

「では、私も頂きますわ。先ずは、お酒から頂きましょう……。お、美味しいですわ!」

「ごくっ。おおぉ、本当に円やかで辛口、しかもさっぱりとした喉越し、これは美味い酒ですな!」

「だろう。これが米だけで醸造した酒でな。日本酒って言うんだ」

「ニホン酒ですか。本当に美味しいお酒ですわ。此方の小皿のお料理も頂きますわ。……美味しいお肉ですわ。こんなに柔らかいのに、お味がしっかりしていて……。何のお肉でしょうか?」

「豚だよ。焼き豚って言う料理なんだけど、焼いたんじゃ無くて、煮た豚だけどな」

「焼き豚ですか。初めて頂く豚のお料理ですわ。そして、こちらの歯応えの良い野菜は、何なのでしょうか?」

「そっちは、メンマって言って、食える竹を調理したもんだよ」

「竹ですか……驚かされるお料理ばかりですわ……」


 なんだか、焼き豚とメンマを出す度に、同じ解説をしなきゃならねぇみてぇだけど、スープが温まり、湯が沸くまでの間繋ぎにゃ丁度良いか。

 俺は、"新世界"でテイクアウト用に包んでもらった料理と、果物を折り畳みテーブルへ出して、レイとポチットへ食べる様に言う。

 二人は、「美味しい料理と果物です」と言いながら、本当に美味そうに食い始めた。

 俺は、再び駐車場入り口の篝火の方を見ると、大柄な男は、まだ此方を窺っている。

 まさか、俺達を襲うタイミングを待っているんじゃねぇだろうな。








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