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黒の瞳の覚醒者  作者: 一条光
一章~気が付けば異世界~
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これからの事

「それじゃあこれ、どうぞ」

 今度こそパンと干し肉を渡してくれる。

「ありがとう、それからいただきます!」

 まず干し肉にかぶりついた。味は塩味が程よくて美味しい、でも硬さが思っていたのよりかなり硬くて、噛み切るのにかなり苦労した。噛み切ったあともしばらく口の中でもごもご。ふと視線を感じてそちらを向くと、リオがじーっとこちらを見つめていた。


「っ!?」

 もごもごしてたのが喉に詰まる。

「ごほっごほっごほっ」

「あの、これを」

 水筒みたいなのを渡されてそれを一気に呷る。液体で喉に詰まっていた物が押し流されていく。びっくりしたぁ……。ん? この飲み物、知ってる味……。りんごジュース?

「これってりんごジュース?」

「はい、そうですよ。口に合いませんでしたか?」

「いや、美味しいけど、こっちにもりんごってあるんだ?」

「元々は異世界の果物ですよ。異界者がこちらに来るときに木と一緒に来たみたいで、それが広まったんです。今では色んな国にありますよ」

 木と一緒に来た? そういえば俺も寝てた布団とその周りにあった物と一緒に来てたな。世界を移動する時って周りを巻き込むのか? なんつう迷惑な……。


「他にもそういう、異世界のものってあるの?」

「ありますけどこの国にはあまり広まってないんです」

「それって異界者が奴隷扱いされてるのと関係ある?」

「……はい。異世界は奴隷の世界だからって、異世界の物や文化が入ってくるのを嫌う人が多いんです」

 嫌な国に来させられたもんだな。別の国なら楽しい異世界暮らしになったかもしれないのに、運が悪い……。他の国に行ければ保護してもらえるとか日本に帰るとか出来るんだろうか?


「他の国に行く方法とかある?」

「大きな港町なら他国と交流がありますけど、たぶん船に乗るのに許可証が必要になると思います」

 船で許可証か……。なんとかしてこの国を出たいな。

「陸路で行く方法とかはない?」

「この大陸はすべてアドラ帝国が支配してますので、船以外で他国に行くことは出来ません。ごめんなさい……」

「リオが謝らなくても……」

 にしても、他の国に行く方法はなしか……。だとしたらずっとこの国で逃げ隠れして暮らさないといけないのか? 死ぬまで? 勘弁してくれ……。たった七日でこの様なのにどうしろってんだよ。

「ちなみに別の世界に行く方法とかってのはない、よね?」

「……ごめんなさい、私にはわからないです」

「あぁ! 謝らなくていいってリオのせいじゃないんだから!」

 物凄く申し訳なさそうな顔をされた。申し訳ないのは恩人にそんな顔をさせた俺の方なのに。なんか別の話題、別の話題、別の話題……。なんでこんなに必死になってるんだか。


「あー、なんでリオはこんな場所に居たの? ここって人がよく来たりする場所なの?」

「この森の近くに町があって、私はそこに住んでるんです。それでこの森には――ああー! ごめんなさい! 私薬草を採りに来てたんでした。早く集めて戻らないと……また明日食べ物持ってきますから! それじゃ!」


 言うだけ言って走り去ってしまった……。結局人がよく来る場所なのかは分からず終いだし。パンをぱくつきながらどうしたものかと考える。明日また来るって言ってたしここを離れない方がいいのかな。このパンも結構美味いなぁ、もっと硬いかと思ってたけどそんなことなかった。また明日も食べられる…………人嫌いのくせに信じてるのか、ちょろいなぁ俺、餌付けされてる気分だ。


 はぁ、どうしよう? 町が近いなら他の人間が来る可能性もあるよな。移動した方がいい、んだろうけど……そう思いながらもその場に寝転がる。疲れた、これからの事とか色々考えるべきなのに思考が鈍る。瞼が重い……身体は怠い、気持ちも移動しなければという思いが薄れていく、もう、寝ちゃってもいいか。……もし捕まって奴隷にされたらリオが買ってくれないかなぁ。馬鹿馬鹿しいことを考えているうちに眠りに落ちた。




「ウィル、さっさと殺せよそんな奴! 同じ空気を吸ってるってだけで気分が悪くなる!」

「ああ、少し待ってろよ。すぐに殺したらつまんないだろうが!」

「そうだ! もっと痛めつけてやれ!」

「四肢を一つずつ切り落としてやれ!」

 なんなんだ? あの町からは逃げ出せたはずなのに、なんであの兵士がここに居る? なんでまたこんな目に遭ってる? もういい加減にしてくれ! 俺がお前らに何をした? 俺がお前らに危害を加えたか? こんな世界うんざりだ!

「やめろ! 同じ人間だろうが!」

「同じぃ? 馬鹿言うな! 同じなわけないだろこの奴隷人種が! お前ら異界者は俺たちヴァーンシアの人間に扱き使われるか、娯楽として殺されるために存在してるんだよ!」

 容赦なく槍で突き殺そうと繰り出される攻撃が身体を掠めていく。周りの奴らは蔑むような目で薄ら笑いを浮かべながら俺が殺されるのを待っている。なんでこんな扱いをされなきゃいけない? 俺だって好きでここへ来たわけじゃない……。

 何かに躓いて仰向けに倒れてしまう。兵士が本当に楽しそうな笑みを浮かべて槍を構えている。

「やめてくれ!」

「じゃあな!」




 槍が胸に突き刺さったのを見てから、ようやく目が覚めた。嫌な夢だった……。やっぱりこんな国に居るのは嫌だ。なんとか別の国に行く方法を模索しないと、本当に夢の様なことになりかねない。リオが来たらこの世界の事をもっと聞いてみよう。

 にしても身体が痛い、早く治ってくれないとまともに活動するのも難しい。多少は我慢するとしても、全身痛いというのは話にならない。


 とりあえず起きよう、そして洗濯だ。昨日投げっぱなしにしていた服を拾い上げる……。臭い、最悪だ、さっさと洗わないと……。洗濯するといっても洗濯機があるわけじゃない。

「手洗いか……」

 腕だって動かせば痛い、そう思うと洗濯するのが億劫になる。あー、とりあえず水に浸けおこう、痛みが引いたら改めて洗うということで……。水に浸けて流れていかないように手頃な石を重石にする。染み込んだ汗くらい抜けるといいなぁ。


 リオはいつ頃来るんだろう? というか今何時なんだ? 時計がないと不便でしょうがない。ぼーっとしていたら近くに見慣れない物を見つけた。これ、鞄? リオのか? 持ち上げると紙が一枚はらりと落ちた。これなんて書いてあるんだ? 漢字でもないしひらがなでもない、アルファベットにも似てない、当然か異世界なんだしそう思って鞄の中を確認するとパン二つと干し肉が幾つか入っていた。これ昨日言ってた食べ物だろうか? ならさっきのは置手紙なんだろうけど……。

 読めない……。リオって意外と抜けてるのかな? それとも他の異界者は読めて俺が異常なのか? 考えてもわからないのでパンを一つと干し肉を少しもらうことにした。置いていってるんだし怒られることはない、はず。

 怒られたらどうしよう? 引きこもりの弊害で何事にも小心者で情けなくなる。はぁ、怒られたらグミで弁償とかで許してもらえないだろうか。何せ持ち物が着替えと大量のグミだけだし。金もない立場も悪い、こんな状況で生きていけるのか? 気分が塞ぐ、これからどうなるんだろ。


 日が暮れる……。

「リオ来なかったな……」

 まぁ、一回来たみたいだけど、俺が寝てたから起こさなかったんだろう。それにリオにはリオの生活があるんだしここにずっといるわけにはいかないだろう、当たり前のことだ。そう当たり前のことなんだ…………。みんな働いて暮らしている。引きこもって暇人だった俺が異常だったんだ。今更気づいてもどうにもならないけどな、もう寝てしまおう、夕暮れの森ですることも出来ることもない。少しでも早く身体を回復させないと動く度に痛みが走るのは鬱陶しい。


 明日もリオは来てくれるだろうか? 俺にとって情報源はリオだけだ、船に乗れるか乗れないかは別にしても、せめて港町の方角くらい知っておきたい、上手く船に潜り込めればこの国にサヨナラできるし。

 この時間に寝れば明日は早起き出来るだろ。明日こそリオに色々聞かないと。

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